日本武道館初ワンマンを控えるDEZERT
MUCCとの対バンでファイナルを迎えた、東名阪ツーマン・ツアー『【This Is The“FACT”】』
12月27日に初の日本武道館ワンマンを控えているDEZERTが、先輩バンド3組に挑む東名阪ツーマン・ツアー『【This Is The “FACT”】』。
名古屋でlynch.、大阪でSadieとの対バンを終え、11月15日(金)、所属事務所を同じくするMUCCを迎えたファイナルをZepp Shinjukuで開催した。
互いに1曲ずつゲストとしてヴォーカリストを迎えるものの、アンコール・セッションの予定は無し、という潔い構成。先攻はMUCCだった。
「ホムラウタ(short)」に乗せてステージに登場した逹瑯(Vo)、ミヤ(Gt)、YUKKE(Ba)、アレン(Dr)、吉田トオル(Key)。
逹瑯がふいにしゃがみ込むと、ミヤが不穏なギターリフを鳴らした瞬間、悲鳴のような歓声が沸く。
もはやMUCCの持ち曲という枠を超え、ヴィジュアル系の必修曲と呼びたい「蘭鋳」を投下。
全員を座らせて、「MUCCです。DEZERTの先輩だぞ! DEZERT がめちゃくちゃカッコいいライヴやるよう、うちらも頑張って思い切りカッコいいライヴやりますんで、よろしくお願いします。
皆で、カッコ良くなったDEZERTの武道館、遊びに行って様子見てやろうじゃねーか」と煽り、決め台詞の「全員、死刑!」の絶叫。アレンのカウントで、しゃがんでいた観客が一斉にジャンプする場面は壮観だ。
ステージとフロアが一体となって生まれるカオスを、千秋は2階席から見下ろしていた。
暗鬱なスリルに満ちたラウドナンバー「絶望」で闇の濃度を高め、サイレンが響き渡る中始まった、
まさしく「サイレン」のラストを<愛の唄を>に変え、「愛の唄」へと繋げた流れは鮮やかだった。
艶めかしい歌唱、粘液のように絡まり合うアンサンブルは、不道徳で淫靡でグラマラス。逹瑯の妖艶なパフォーマンスからも目が離せなかった。
11月5日から始まったMUCCのツアーで披露している複数の新曲のうち、この日は「新曲1」を披露。
ラウドなサウンドと物悲しいピアノの旋律、切ないメロディーが混然一体となったノリの良い曲で、力強いコーラスが一体感を生んでいく。
「皆行くの、武道館?」と観客に問い掛け、「DEZERTの武道館のライヴは、この先も何回もあるでしょう。けど、初武道館は今回しかないんだわ」と語った逹瑯の言葉に拍手が起きる。
「MUCCの初武道館は2006年6月6日、自分的には悔いの残るライヴになりました。逆に思い出深かったりとかして。
DEZERT の武道館、是非ここにいる全員で友だちを誘って、観に行ってもらえたらねと。なんならキズのライヴも行って(笑)。
キズのほうが良かったんじゃない?とか、DEZERTのほうが良かったね、みたいな話に花を咲かせてもらって、ヴィジュアル系全体が盛り上るのはめちゃくちゃいいこと」と語った。
すると、「スーパーヴォーカリストを呼びましょう、千秋」と逹瑯が呼び込んだ。
一緒に歌うのは千秋のリクエストに応えた曲で、「うちらの好きな曲、やりたい曲が1曲減った」とMUCCのセットリストに影響があったことを明かすと、千秋は「えっ?!」と驚いた。
ミヤが奏で始めた浮遊感溢れるアルペジオに乗せて、逹瑯は「ちょっと意外な曲だった」と選曲に対する感想を述べ、千秋は「そうですか?」と素のテンションで会話。
一瞬の静寂の後「流星」のイントロがスタートし、青く照らされた神秘的な光の世界で、まずは逹瑯が、続いて千秋が歌い始めた。千秋の歌唱に合わせ、逹瑯はその隣でマイクを通さずに口を動かし、ハンドモーションで醸し出す情感を上乗せした。
歌いながら世界観に深く潜り込んでいくように、俯いて熱唱する千秋。腕をグルグルと回し、ジャンプダウンを合図に演奏を止め、最後はミヤとハグを交わして去っていった。
YUKKEが前へ出てベースソロで魅了する「大嫌い」、「前へ」では逹瑯のキレの良い激しいダンスを見せ、「いいか、MUCCお兄さんと約束だぞ? 全員武道館へ行くぞ!」と叫び、ダイバーが続出する盛り上がりとなった。
フレンドリーな顔を見せたかと思えば、ラストは真っ赤なライトの下、激情迸る「アカ」でフロアを立ち竦ませ、絶句させた。
曲の世界に没入した逹瑯の絶唱と、呼吸のピッタリと合った演奏は圧倒的。
曲の冒頭に立ち返っていくようなラスト、無限のループに自ら呑み込まれていくように。ミヤは円を描くようなストロークでギターを奏でた。
プツリと音が途絶えると、メンバーは無言でステージを去り、真っ赤な世界の中に観客を置き去りにした。圧巻の幕切れに、大拍手と歓声が鳴り響いた。
約30分の転換の後、ホストバンドであるDEZERTが登場した。「お前“たち”じゃなくて、お前に言ってんだ」と、あくまでも一対一で向き合う千秋の言葉が響く。
1曲目、新曲「心臓に吠える」を歌い終えると、「全然足りないんじゃない? MUCCの後輩だぞ!」と、逹瑯のMCに呼応した言葉選びでフロアに呼び掛けた。
『傑作音源集「絶対的オカルト週刊誌」』に新ミックスで収めた初期曲「「君の子宮を触る」」、リレコーディングした「Sister」を連打。
初武道館ワンマンを前にバンドの軌跡を辿りつつ、最新鋭の“今”のDEZERTの曲として磨き上げた曲たちが、フロアを沸かせ途轍もない猛威を振るっていく。
Sacchan(Ba)がピンスポットを浴びて繰り出すスラップが印象深い「匿名の神様」まで、曲と曲の間を繋いでいく千秋の言葉は熱く、リズムは詩的で、長い一連の曲を聴いているような感覚に包まれる。それはDEZERTのライヴならではの、魅惑的な音楽体験だと感じた。
「逢えてうれしいです、ありがとうございます。そしてMUCC先輩、ありがとうございます」(千秋)と挨拶すると、ピアノで始まるロマンティックなバラード「私の詩」を熱唱。
SORA(Dr)のドラミングは力強くも優しく、歌心に溢れている。「ミスターショットガンガール」が始まると、千秋が両手で手招きして逹瑯を迎え、2人は向き合った。
千秋が「逹瑯さんにもこれ、やってもらおうか?」といたずらっぽく笑い、ショットガンならぬハットガンの手の動きを提案。
わちゃわちゃと2人でツッコみ合った末、ショットガンを構えるポーズを2人で揃って見せた。
Oi Oi!というコールが響きフロアは盛り上がり、楽しそうなムードが広がっていく。
まずは千秋が歌い始め、逹瑯がその後に続き、やがて二人で声を揃えたり、また交互に歌ったりと起伏に富んだデュエットを披露した。
千秋は逹瑯の両脚の間に背後から潜り込み、逹瑯は千秋のこめかみを人差し指で突くなど、じゃれ合う場面も微笑ましい。
「最後まで狂って頂戴!」と逹瑯は叫び、ステージを去った。
「張りぼての大人になってくれ。コケた奴がいたら助けてやってくれ。でも全力で、心と心でぶつかろうな!」(千秋)とファンに呼び掛けると、観客が左右に分かれ、フロアの中央には海が割れたように道が空けられた。始まった曲は「「変態」」である。
3,2、1レッツゴー!を合図に、左右の観客が突進し、混ざり合ってフロアはカオスとなった。
♪変態、変態とリフレインした後、千秋にマイクを向けられたMiyako(Gt)も歌唱。千秋がお立ち台に乗り。
童謡のような優しい歌唱パートを聴かせたのも束の間、曲は急展開を見せ、破壊的な絶唱へ。
フロアは拳を突き上げ、千秋もポニーテールを振り乱しながらヘッドバンギングした。
続いて千秋はSORAにマイクを向け♪変態と歌わせ、自身はデスボイスで咆哮。SORAは怒涛のドラムソロの後、椅子の上に仁王立ちになった。
「君の脊髄が踊る頃に」「再教育」を狂おしく畳み掛けた後、千秋は、これまで対バンを重ねて来たMUCCとの関係性について語り始めた。
「反骨心マックスになっていた」と振り返った2016年。「この9年間で、人は攻撃するだけでは物足りなくてさ。人の役に立ちたい、なんて思うようになって」と、Miyakoのギターに乗せて、心境の変化を切々と語っていく。
MUCCが「DEZERTの武道館に行って」と呼び掛けてくれたことに対し、「シンプルに“ありがとうございました”って思いました」と感謝を述べた。
「“俺って弱いんだな”と気付かされた」「“DEZERTがいるから頑張ろう”と思ってもらえるバンドになりたい。
そのためなら武道館でやろうか、と去年決めて、ありがたいことに、既に最高動員です。下手したら3倍」と、現時点での状況を報告すると、温かな拍手が起きた。
「今日ここで出逢ったあなたに、幸せになってほしい。ちょっとでいいから。そうしたらお墓に行く時、“生きててよかった。音楽やって良かったな”って思える」と語り、とめどなく溢れ出す想いそのままに「TODAY」を届けた。
何年前だろうか、初めてライヴで聴いた時、「この名曲があればDEZERTというバンドはどんな遠くへも行けるだろう」と確信したことを覚えている。
武道館のステージで鳴り響く情景をイメージできる熱唱であり、演奏だった。
最後に、「7年前に約束して、やっとレコーディングを一昨日終えました」と千秋は語り、赤いギターを掻き毟りながら「オーディナリー」を届けた。
ラストはMUCCを呼び込んで記念撮影。時間がオーバーしていたことを逹瑯に「時間を守んなさいよ!」と叱られ、焦った様子の千秋は「全部俺が悪いです」などと謝りつつ、「皆楽しかったな! さあ、早急に帰るぞ!」と号令。
MUCCとDEZERTのメンバーが混ざり合って小走りでステージを去り、最後に残ったSORAが「帰るぞ! ありがとう!」とMiyakoのマイクで叫び、約2時間20分のツーマンは終了した。
武道館ワンマンに向かうDEZERT の熱き真剣さ、先輩MUCCへのリスペクト、ツアー真っ只中のMUCCの最新の“今”の姿、後輩DEZERT への愛情と応援。
そういった様々な想いを感じ取ることができ、両バンドの歴史に想いを馳せると同時に、ヴィジュアル系シーンを立体的に体感できるツーマンライヴだった。
ライター:大前多恵 をお願いします。
カメラマン:冨田味我
DEZERT Presents 【This Is The “FACT”】 TOUR 2024 VS MUCC
2024年11月15日(金)Zepp Shinjuku
SETLIST
<MUCC>
1.蘭鋳
2.絶望
3.サイレン
4.愛の唄
5.新曲1
6.流星 with千秋(DEZERT)
7.大嫌い
8.前へ
9.アカ
<DEZERT>
1.心臓に吠える
2.「君の子宮を触る」
3.Sister
4.匿名の神様
5.私の詩
6.ミスターショットガンガール with 逹瑯(MUCC)
7.「変態」
8.君の脊髄が踊る頃に
9.再教育
10.TODAY
11.オーディナリー