海岸通りに眩しい日差しが差し込む。9月9日(土)、声優・アーティスト山下大輝のバースデーイベント「Daiki Yamashita Birthday Event 2023 DAIKING Festa Vol.2」が、東京・豊洲PITにて昼・夜の部に渡り開催された。9月7日に34歳を迎えた山下。誕生日を祝福するかのように、前日の台風の影響を吹き飛ばして快晴に恵まれた。

思えば、6月17日に東京・LINE CUBE SHIBUYAで行われた初のワンマンライブ「1st LIVE 2023 “from here”」も梅雨の中で奇跡的な晴天だった。彼がファンの前で見せる晴れやかな笑顔は、まさに大きく輝く太陽のようである。

この日お祝いに駆けつけたのは、第1回目のバースデーイベントにもゲスト出演した盟友・蒼井翔太。昨年度からMEMBER’S CLUB名であり、山下の愛称である「DAIKING」を冠につけているため“Vol.2”というタイトルだが、バースデーイベント自体は今年で3回目となる。MCは昨年の「DAIKING Festa Vol.1」に続き、事務所の同期であり友人でもある浜田洋平が担当。

普段から仲のいい3人ならではの和気あいあいとしたトーク&バラエティパートの後にはアコースティックミニライブも。そして、イベント終了後には9月27日に新曲が配信リリースされることが告知された。笑顔が燦々と降り注ぐ中、ボリューム満点で届けられた「DAIKING Festa Vol.2」。本稿では昼公演を中心にレポートする。

扉を開けると、森のような装飾が施されたステージ、テントやキャンピングチェアなどのアウトドアグッズが目に飛び込んでくる。グランピングを印象づけるこの雰囲気からもわかる通り、コンセプトはキャンプ。事前に発表されていたイベントのグッズや愛猫・おこめくんが中央に据えられたロゴもそれを感じるものとなっている。

暗転すると山下による影ナレーションがはじまる。なにやら山下が誰かに電話を掛けようとしているようだ。「9日9日は僕のバースデーパーティってことでバースデーキャンプをしようと思うんだけど、誕生日にソロキャンプはちょっと寂しいんだよなあ……誰か一緒に来てくれないかな?」。モニターにはスマートフォンの画面が映し出される。電話の相手は「しょーたん」こと蒼井翔太だ。さらにもう1人に電話を。スマートフォンに映る相手の名前は「MCハマー」(笑)。MCの浜田洋平である。ふたりとも今から駆けつけてくれるという。

この演出でピンと来た人もいたかもしれないが、蒼井が出演した1回目のバースデーイベントでの演出を模したもの。当時も豊洲PITが会場だった。そのため蒼井が電話口で「なんか2年前も同じようなことがあったような……?」とつぶやくと、観客から笑いが起きた。

オープニングムービー後、山下が待つキャンプ会場にふたりが現れ「あ、ふたりとも! こっちこっち!」と手招き。「これだけの人がいる中でのキャンプは楽しいことになりそうだね!」とうれしそう。

ここで蒼井が山下の衣装について言及。モチーフに寄り添って、山下はキャンプやフェスにも似合いそうなアウトドア風の衣装。浜田も動きやすいラフな衣装をセレクトしていた。蒼井は「みんなキャンプする格好で来てるね。さっき電話がきたから、キャンプする格好じゃないんだよ」と笑った。

キャンピングチェアーに腰を掛け「ふぅ」とのんびり。「って、こんなにのんびりしていていいの? 今日は大ちゃんの大イベントだからさ!」と盛り上げるように蒼井。「いや、お祝いの空気感があると緊張してしまう。緊張しいだから(笑)」と、ちょうど良い空気感であることを伝えつつ、客席を見て「本当にたくさんの人にお祝いしてもらって嬉しいです、ありがとうございます!」と感謝の気持ちを述べた。また、ふたりとの関係性を改めて紹介し「今回も仲のいいメンバーとお送り出来るということで幸せです」とにっこり。

雑談をしながら浜田が持ってきたノンアルコールのシャンパンをアウトドア用のマグカップに注いで乾杯。ファンは飲み物の代わりにと、ペンライトを傾けると山下が「綺麗!」と感動の声を上げた。リラックスしたムードの中、34歳になった心境を浜田が尋ねると「あの頃思い描いていた34歳ってもっと大人だったと思う! いろいろなことを格好良くこなせて、いろいろな漢字も覚えられていて、嫌いだったものもちゃんと食べられるようになってて……だから思い描いていた34歳とは違って、そのまま34歳になったなって」と笑った。

すかさず蒼井が「じゃあ、(苦手な)お野菜も食べてみまちょうね? みんな心配するでしょ? だから持ってきましたよ」と自家製ピクルスをプレゼント。「ぴ、ピクルス!?」と声を震わせつつも「せっかく作ってきてくれたので、あとでチャレンジしたいなと思います」と、蒼井の愛情をしっかりと受け取った。

オープニングトークを終えるとバラエティーパートに。最初の「なるほど3択アウトドアクイズ」のコーナーでは、アウトドアにまつわる知識が2問出題される。ふたりとも「クイズのプロですから!」と自信満々の様子。1問目の問題「ハンモックはある職業の人たちが使用し始めて普及したと言われていますが、その職業はなんでしょう?」(選択肢:農家、漁師、船乗り)は蒼井が見事「船乗り」を当てる。2問目「夜、虫を集めずに明かりを灯すにはどれが良い?」(選択肢:電球、LEDライト、ロウソク)という問題には、山下が「LEDライト」と回答。理由は「消去法。田舎の自販機や電灯の光にはものすごく虫が集まってるから。アニメやゲームの表現で、ロウソクの近くに蛾が飛んでいるイメージがある」と、これまでの知識と知識を総動員して答えを導き出したことを明かす。一方の蒼井は「ロウソク」を選択。蒼井の着眼点に揺らいだ様子を見せたが、この問題は「LEDライト」が正解。「ためになった!」と、声を上げたふたり。浜田は「年々キャンプが人気になってきているので、大人になってからもできる趣味を探してみてはいかがでしょうか」と呼びかけ、事前にTwitterにて募集した、ファンの方たちの趣味を紹介した。

今回ピックアップしたファンの方の趣味は「お風呂カラオケ。響くのが楽しくて結構大きな声で歌ってます」、「ケーキやネイル、アクセサリーを作ったりお絵描き、裁縫など自分で何かを生み出す系が好き」というもの。

お風呂カラオケについては、山下も「よく歌っています。天然のエフェクトが掛かってるから、自分の声がいつもよりもうまく聴こえて、悦に浸れる感じになるよね。わかるな」と同意する。しかし、浜田から「意外と換気扇から声が漏れて外に聴こえてるらしいですよ」と言われると「えっ、ってことは『ライオン・キング』を聴かれてるってこと!? きっちぃ!?」と苦笑いし、客席から笑いが起きた。

また、蒼井が「大ちゃんは何か作ったり、描いたりすることはあるの?」と質問すると、「ない」とキッパリ。ただ、昔から好物のハンバーグをこねるのは好きだったと返答。「ハンバーグを好きになった理由はそこにあるのかもしれないね。今は作らなくても、歳を重ねていくことに大ちゃんも何か興味が生まれてくるかもしれない。大ちゃんが作るものに興味がある!」と声を弾ませた。浜田もうなずきながら「何をはじめるにも年齢は関係ありませんからね。34歳のデェちゃん(山下)にとって、実りの多い1年になりますように」と結んだ。

ところで、キャンプと言えばレクリエーション。ということで、次はレクリエーションコーナーへ。7⽉に「DAIKING」でも公開した「はぁって言うゲーム」に、今回はアウトドアのお題で挑戦する。「声優としてのスキルが問われるゲーム」と聞き一瞬怯んだものの「うちらはこのゲームに関しては世界レベルですから!」と今回も自信満々の様子。しかし、お題はなかなかの難問。アウトドアにまつわるさまざまなシチュエーションに苦戦しつつも、普段はなかなか垣間見られない表情と声に客席からは笑いが起きた。

「そういえば、あっちに川があったから見に行ってみようよ」と場面転換。ステージにはマイクが立てられ、3人による朗読劇「常識のキャンプ」が始まる。

舞台は森の中。キャンプに来た山崎(山下)、青木(蒼井)、浜野(浜田)の3人は、テントの準備が一段落し、火を囲みながら浜野の失恋話を聞くことに。火が弱くなったことに気づいた山崎は、枝を取りに行くが……戻ってくるとなぜか血まみれ。「さっき死んじゃってさ! そしたら異世界に転生したんだけど、色々あって生き返ったんだ!」とあっさりと告白し、ふたりを驚かせた。何があったのかを青木が問い詰めると……枝が刺さって死んだものの、女神(蒼井)が二度目の人生を提案。チート武器を欲しがった山崎に、それは出来ないが「異世界の常識」を授けることはできるという。そこで「異世界の常識」を授けるために、まずは「元の世界の常識」を消去するステップに入ったものの……女神と異世界先の交渉が決裂。急遽元の世界で生き返らせることになった、らしい。突然の蒼井の女神の演技に客席が湧いた。

……「ってわけ! 生き返らせてくれたわけだからね! 傷も戻ってたし!」と嬉しそうな山崎。どうやら「元の世界の常識」を忘れてしまったらしく「そうかも! なんもわかんない!」とのんきな様子を見せる。転生先の常識も少しだけ入手したようで、魔法を16個使えるという。実際に魔法を見せつけて得意げだ。

慌てる青木に対して浜野は「俺と彼女がヨリを戻せる魔法はないのか!」と詰め寄る。それには「ない!」とあっさりと答え、肩を落とす浜野。しかし「でもさっき聞いてた感じだとさ、一回冷静に話せばよくない? それ(スマホ)で電話できるの? 貸して!」と半ば強引に、浜野の元彼女に連絡。山崎の“常識外れ”が功を奏して、話し合いの場を持てることになって大団円を迎えた。

しかし物語はここで終わらず……山崎は魔法を使いすぎたことから「ふたりともありがとう。今日は楽しかった……よ……」という言葉を残して死の淵へ。が、一瞬で目を覚ました。曰く、死の先で再び女神に会い(元の世界の)常識を返してもらったという。「良かった〜〜!」と安堵の声を上げ、客席から大きな拍手が起きた。

3人のさまざまな表情を引き出した、ファンタジックでユニークな物語。現場では言及されなかったが、今回の朗読劇の脚本を担当したのは“家の裏でマンボウが死んでるP”(タカハシ ヨウ)である。彼の描く世界観が好きで、山下がラブコールを送ったそうだ。

再び場面転換。山下の“最新のプロフィールを完成させる”動画と、先輩声優・前野智昭からのお祝い動画が流れる。前野は「キャリアが浅い頃からの知り合いなんですけど、当時から絶対に大きな役者さんになるなと思っていました。あれよあれよと、素晴らしい役者・アーティストに成長なされて、僕自身も誇らしい気持ちと同時に、寂しいやら、嬉しいやらと」と、山下への思いを明かし「これからも山下くんの活躍を楽しみにしています!」とエールを送った。

声優としての山下大輝を堪能できた時間を経て、今度はアーティスト・山下大輝の魅力を味わうライブパートに。前回のバースデーイベントではオケを使用していたが、今回はギタリスト・二木 元太郎と、キーボーディスト・半田彬倫が参加し、アコースティック編成でのお届け。山下からのサプライズである。

シルバーを基調とした衣装に身を包んだ山下がステージに登場すると、1stアルバム『from here』のリード曲でもある“暁”を。BLUE ENCOUNT・田邊駿一が手掛けた、「等身大の自分」が赤裸々に表現されたナンバーを赤いペンライトが光る中で情熱的に歌唱する。

2曲目はyama「春を告げる」のサウンドプロデューサーとしても知られる”くじら”が書き下ろした、シティーポップナンバー“キャンドル”。客席に温かな黄色の光が灯る中、イントロからリズムを刻みだす。後半は生音に身を委ねながら踊り、全身をバネのようにしながら歌を届けていった。

ここでMC。「今日はこのおふたりと一緒に、アコースティックで、ムーディーで、ほんわかしたライブにできたらと思います。ふたりと一緒に、存分に素敵な曲たちの世界に誘っていきたいなと。なによりも、みんなと一緒に楽しい空間で過ごせたらなって」と笑顔を咲かせる。

「この間のワンマンの時はフルバンドでやったんですが、アコースティックだと曲の印象がガラりと変わって、また素敵な部分が見つかるなって。例えば、“キャンドル”の難しさとか(笑)。めちゃくちゃ大好きで良い曲なんですけど、改めて難易度が高いなって。でもみんなが見守ってくれて、楽しんでいる表情を見ていると、“楽しい”の気持ちが上書きされていって。最後は踊りだしてしまうくらい、歌っていて気持ちよかったです」

MC中に機材トラブルが見つかったらしく、楽器を調整する様子を見ながら「こういうのも生感があって良いよね」とこぼす。「生音って本当に生きてるって感じがする。僕らもアフレコでいろいろなキャラクターを演じて、そこに生を見出して演じているんですけど、曲も一緒だなって。1曲、1曲が、僕らにとってはキャラクターのような存在。その曲たちが、新しいメンバーと一緒に、新しい表情を見せてくれる。だからこうやって新たな挑戦ができることが嬉しいです」と、喜びをあらわに。

「次は一緒に歌ってくださいと」と、愛猫・おこめくんのことを描いたユニークな“ごはん”タイム。<ちゅっちゅる~ちゅる~るる~る〜>でファンとコミュニケーションを楽しみながら、おこめくんとの日常を柔らかに歌い紡いでいく。

ここでバックのライトが緑に移り変わり、聴き馴染みのある音が響いたかと思うと、彼が主人公・緑谷出久を演じる『僕のヒーローアカデミア』第1期 エンディングテーマ 「HEROES」(Brian the Sun )をサプライズでプレゼント。驚きの表情を浮かべるファンもいれば、感嘆のため息を漏らすファンも。その光景を見て「めちゃくちゃ楽しみにしていたサプライズ。喜んでくれて、驚いてくれてありがとうございます」と山下。なお夜の部では、菅田将暉が歌う「ロングホープ・フィリア」(映画『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE〜2人の英雄〜』主題歌)をカバーしている。

「僕にとっての思い出の作品の歌だったので、大切に歌わせていただきました。この作品に出会えて、そしてこのように歌わせてもらえて。出会いがつながっていっているんだなと思うと、温かい気持ちになります。最後はあの曲で、みんなと心をひとつにしたいなと」

ラストを飾ったのは、デビュー楽曲「Tail」(TVアニメ『セブンナイツ レボリューション -英雄の継承者-』ED主題歌)。「聴かせて!」と冒頭のシンガロングパートで一体感を生み出していく。温かでシンプルなアコースティックの音色だからこそ、七色の声がより際立つ。隅々にまで多幸感を巡らせていく中で<こんな自分でいいから呆れるほど生きていこう>と誓い、締めくくりの言葉<この思い 会いたい人に>を<みんなに!>に変えて叫んだ。

三者三様のナンバーで表現者としての豊かな感性を発揮したアコースティックライブパート。このライブパートではイヤモニは使用せずに実施。1stライブでもイヤモニを外してファンの声を聴く一幕があったが、みんなの声と音を直に感じたいという思いがあるそうだ。それだけに、より躍動感のあるライブとなっていたことも印象的。音楽を心から愛する山下大輝のこだわりと試みがここにあった。

ライブを終えて、拍手をしながら登場した蒼井と浜田も合流し最後に記念撮影。夜の部ではケーキが登場し、誕生日イベントに華を添えた。

感想を求められた蒼井は「大ちゃんの大好きが集まった1日。これまで大ちゃんが大好きだったもの、手に入れてきたもの、出会ってきた人たちをこれからも守りつつ、いろいろなチャレンジをしていくんだろうなって」としみじみ。その言葉を受けて「あなたも僕の大好きの一部ですからね」と伝え、客席から拍手が起きた。最後に山下からメッセージ。

「皆さんが笑ってくださったり、手やペンライトを振ってくださったりすることで盛り上がることができました。1年振りとは思えないくらい。あっという間に時って流れていくんだろうなとも思うんですが……みんなと一緒に、一つひとつ年を取れていったら非常に幸せだなって。これからもどうぞ一緒に、一つひとつ、一緒に歩んでもらえると嬉しいです」

「おめでとう」と「ありがとう」が飛び交ったサプライズ満載の1日。最後の最後に、もうひとつサプライズが待っていた。山下たちがステージを去ったあと、9月27日に新曲が配信リリースされることが解禁。その楽曲の一部が流れると客席から大きな拍手と歓声が沸き起こった。ファンタジーという新たな表現の方向性を示した「ヒトコキュウノ」に続くのはどのような世界なのか楽しみにしたい。

Text by 逆井マリ

Photo by 江藤はんな

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