鈴木みのりの5周年が始まった。2018124日にシングル曲「FEELING AROUND」でデビューした彼女は、5年間に7枚のシングルと3枚のアルバム、3曲の配信シングルを積み重ね、歌手として成長してきた。その成果を、今の鈴木みのりを、すべてぶつけるのが今回の『鈴木みのり 3rd LIVE TOUR 2023 fruitful spring~』である。振り返れば、『鈴木みのり 2nd LIVE TOUR 2020Now Is The Time!~』は新型コロナウィルスによって東京公演のみに。2021年にはリベンジとして『2nd LIVE TOUR 2021Make My Story!~』を行ったが、いまだコロナ禍ということで観客からの声出しは控えられた。今回は東名阪の3ヶ所をめぐるツアーだが、東京公演開催直前に国から規制緩和が発表されたことで、声出しが解禁となり、会場となったZepp DiverCityでは鈴木みのりと観客が、歌を媒介に深く結びつく一夜を形作った。

公演前にも、鈴木自身が影ナレで、観客に対して声出しが解禁されたことへの喜び(と諸注意)を伝える。その後、これから至福の時間が始まることを予感するような、キラキラしたイントロが会場に流れる。待ちわびたフロアからは徐々に、やがて大きな拍手が生まれていく。そして鈴木みのりが登場。アルバム『fruitful spring』のイメージで新調された、真っ白かつ蛍光のライトグリーンをあしらったドレス姿で。

バンドマスターでありギターを担当する北川勝利(ROUND TABLE)がいつものようにクラップで会場を煽り、ハイハットが刻まれ、1曲目の「はじめよう」が始まる。鈴木は直立したまま、髪に着けたコサージュを揺らして歌い始める。サビ前には拳を握り、始める決意と止まらない覚悟を込めた歌詞を、風が舞い上がるように流れ去るメロディの中で見事に歌いこなす。Cメロで両手をひらひらさせ、間奏でくるくる回り、「さよなら ありがとう 呟いた」の最後は後ろを向き、人差し指を天に向けた。するとそのまま2曲目「だってMy Life もっとMy Choice」へ。クラップで煽りながら中央から上手へと進んだ鈴木は、客席に手を振り、Bメロではお立ち台として用意されたボックスに立って歌唱。粋なホーンセクションが華やかな原曲の持ち味は、バンド色を強めたライブバージョンになっても健在で、サビに入るととにかく誰も彼もがワイプ! ドラムの山本真央樹もハイハットとスネアを右手で往復させながら、左手でワイプを見せて会場を盛り上げた。フロアがペンライトの色を緑に変えて応えると、鈴木はサビ終わりで「一緒に言いますよ!」の掛け声、見事なリードで「Oh Yeah!」を会場全体で叫んだ。「Bibbidi-Bobbidi-Boo」の箇所でも声を要求し、観客たちを笑顔の領域にガンガン引きずり込んでいく。

キュートなダンスからキュートなフィニッシュを決めた鈴木は、一転して青く薄暗いライトの中で、時計の針が刻む音と「tick tack tick tack」の歌詞に合わせて、時計の針のように手を動かす。3曲目は「リワインド」。この曲もサビにしっかり盛り上がりどころが用意されている。歌詞に合わせ、鈴木は手を頭の上にかざしたり、L字の形を作った右手を左右に振ったり、掲げたり。会場も鈴木の動きに追従。2番の「走って」で本当に走り出し、Cメロの「あの先まで」で天を指し、歌詞を身体全体で表現する得意のパフォーマンス。最後は大きなジャンプで曲を締めた。

次のMCで水分を補給するもまだまだ息は切れていない鈴木が、今回の舞台セットは5周年にちなんで5個のオブジェがポイントになっていることに触れ、次の曲は5年間の歌手活動の中でも特に挑戦となった楽曲、という言葉と共に「わだちの花」へ。曲に合わせて照明がピンクや青に点滅していく中、鈴木はフロアを高速のハイトーンボイスで切り裂いていく。難曲にも関わらず、危うさと儚さを付加した歌声と、バンドによって激しさを増したライブバージョンの演奏はすさまじい。うつむいて歌い終えた周囲をエコーのように声が響くのを観客は固唾を飲んで見守った。続いては、エスニックな情緒をまとった「リップ」。バンドの演奏でより細部が尖ったサウンドはかき鳴らすようなギターソロでピークを迎え、ラスサビへ突入する。ピンクのライトを上から白が、下から青が挟み込むように光る。そんな蠱惑感を増す空間で、鈴木も激しい情念を歌で表現、一気に歌い上げた。次は、鈴木がかすかな休符さえも活用し、表情を与えられた歌が心に染みる「サイハテ」。2番からは重厚なロックが顔を見せ始めるが、鈴木も一層悲痛で、一層決意の込められた表情で熱唱を繰り出す。それでありながら高音域でのファルセットの出し入れは鮮やか。そこに重なるギターソロと共に艶やかな時間を醸し出した。青いライトに包まれてラスサビを終えると、間髪入れずに耳に飛び込んできたのは「BROKEN IDENTITY」の強い、強い歌い出し。「わだちの花」からのパートはどれも、鈴木みのりのそれまでのイメージを覆した曲群。明るい歌で元気をくれる歌い手にとって、それぞれに挑戦の曲だった。特に「BROKEN IDENTITY」は自身でも語ったように、新たな鈴木を見せつけた楽曲。ライブでもこの夜初めて、フロアに用意されたセンターステージを使用し、集まった聴衆の間で、表現力が歌唱力を凌駕するかのごとく歌い上げた。一方、フロアのペンライトは情熱の赤一色。鈴木みのりならではのロック空間を共有していた。

ここで再度の給水タイム。久しぶりの「お水、美味しい?」の文化に接し、懐かしさすら感じる鈴木。MCではあらためてアルバム『fruitful spring』の話に。既存のタイアップソングと新曲を馴染ませてひとつの作品として届けるために試行錯誤したこと、だがそれも良き思い出だったことなどを伝えていく。

ここからは「心があたたかくなる」、そんなレパートリーを並べたパート。まずは、曲名に合わせて天井のライトが灯され、フロアは暗く落とされた中で「夜空」が歌われていく。バラードながら鈴木らしく、サビに入る直前のBメロラストで一気に歌声を駆け上がらせる。大きな広がりと少しの愛らしさを奏でる楽曲にフロアが酔いしれたあと、照明が紅葉色に変わる。鈴木が下手に立ち、「Crosswalk」をスタートさせ、まさにしっとりと聴かせたあとにつなげたのは「Wherever」。25歳という大人の顔で歌ってみせ、Cメロではそのコケティッシュな声質で強さを少し差し込んでみせる。アウトロになると鈴木は下手の舞台袖に姿を消し、残りの時間は信頼できるバンドメンバーに委ねる。ドラムは、鈴木みのり楽曲にしなやかなスティックワークで緩急をつけ、絶品のGrooveを生み出す。肩を並べ、寄り添うように、ギターやベースの弦隊とキーボードがフュージョン感のあるメロディを紡ぎ出す時間だった。

ステージ上の鈴木は、歌詞に合わせたしぐさや動作をよく見せる。特にこのバラードパートは、そのシンプルなしぐさから生まれるストーリーがとても効果的に舞台上を彩っていた。少し時間を巻き戻すと、「夜空」では歌詞に「遠く光る 空の彼方」とあれば空を見上げ、「歩き出せる」に合わせて歩む。「Crosswalk」に至っては、フロアに対して自身の片側だけを見せたまま歌い続けた。愛らしい表情から愛らしい声が愛らしいしぐさと共に生まれる中、客席は鈴木を見つめるが、彼女は一切目線を送ってこない。1番を終えた鈴木は下手から歩き出し、センターを過ぎ、2番を歌う頃に上手へ達した。歌が進むほどに歌詞の中の女の子の気持ちが高まると、鈴木の表情も変化していく。色づき、「君」を見つけたのだろうかと錯覚してしまう。楽曲の世界に引きずり込まれたかのような感覚は、声だけではなく身体全体で表現できるようになった進化のあらわれで、それは舞台や朗読劇という機会を得たことによる成長。落ちサビでフロアと目を合わせた鈴木は、伸びやかな気持ちで大ラス、転調のラスサビを歌い上げ、はにかんだ表情を見せた。ひと幕の恋する女の子を演じ終えたようだった。

この夜のライブに戻れば、「Wherever」のラストで鈴木が姿を消したステージでは北川がギターをエレアコに持ち替え、ドラム以外のメンバーがクラップ!するとピンクのドレスに包まれた鈴木みのりが帰ってきた。北川の「ワン、ツー」の合図で始まったのは「もういちどメロディ」だ。ゆったりとしたリズムに乗った、歌詞通り“忘れられないメロディ”は自然と会場からもクラップを引き出す。髪を束ねた鈴木は、「好きとか嫌いとか」の歌詞に合わせて×を腕で作り、感情豊かに動く。胸元のコサージュから垂れたリボン、袖口の紐、レースをあしらったスカート、そして後ろに回した長いリボンが歌声の海をたゆたい、会場全体が花めいていった。

歌唱後、ステージ上にもたらされた、花と葉が飾られたマイクスタンド。となると鈴木みのりライブに慣れ親しんだ者ならば勘づく。はやる気持ちの観客を抑えるように、鈴木はMCで早着替えした衣装について言及する。ピンクのドレスは「ミュージカル」のジャケットをイメージしたものだが、久しぶりにバンドメンバーと飲みに行く機会ができた際、鈴木やキーボードの末永華子を中心にバイスサワーが流行し、「バイス!」がメンバー間の流行語となり、「このドレスもバイスカラー」となったそうだ。鈴木のライブでMCといえば、ごはん話。思わず本人も、大阪と名古屋はではどんな話になるんでしょうね、と語っていた。(大阪では551の豚まんと焼売、名古屋では中華料理店ピカイチの話に)

そしてファンが待ちかねた「まいっちゃう」へ。マイクスタンドを使用しての、鈴木いわく「盛り上がりTIME」のスタートだ。鈴木はとにかく、空いた両手でクラップ! クラップ! 小気味いいステップも付け加え、楽しそうに体を揺らし、ポップでキュートなサウンドを次々と拾っていく。そんな鈴木につられ、フロアのテンションも加速度的に舞い上がっていく。サビの「まいっちゃう」で鈴木は左手で、右手で、頭をペチッとしてみせるが、愛らしい振付に会場が笑顔で満ちるのも恒例だ。曲間にはバンドメンバー紹介も行われたが、短めのソロのみで、次々とバトンが渡されていく。すでにライブ中に歌と楽器で饒舌な自己紹介を行っているからこそ、ライブを止めない音楽魂を感じた。ラスサビで最高に可愛い「まいっちゃう」をおかわりで披露、終わると今度は「おセンチなメンタル」に。こちらも楽しくキュートな曲調だが、歌詞はどこか切ないポップス。見どころは、鈴木が頭の上で両手で大きく○を作る瞬間や、キーボードの末永と鈴木が歌声で掛け合う箇所だろうか。間奏では、上手下手のボックスへ鈴木は行ったり来たり駆けめぐりながら、曲に合わせてストップ! 苦しい体勢でよろけるところもあったがそれはもちろんご愛敬だ。最後にセンターステージでストップ! してからステージでフィニッシュすると間髪入れずに「季節のカルテット」へ。アルバム『fruitful spring』と同時発売のシングル『ミュージカル』のカップリング曲だが、その曲名から感じ取れるように、アルバムとは対を成しており、今の鈴木みのりを表現する重要な1曲になっている。曲は、聴けば体が動かずにいられない、誰もが好きになるキャッチーさにあふれ、クラップで盛り上がれるAメロもだが、サビの跳ね感が素晴らしい。鈴木があらたに始めたTikTokで踊ってみた動画をアップしていたこともあり、会場も覚えた振付をステージ上の鈴木と答え合わせしながら楽しく踊る。2番では「365日」のあとの「24h」、「例えるならそう君は」のあとの「UFO」の声出し箇所も用意されているハッピーな楽曲だ。観客からのレスポンスに笑顔の鈴木は、高音のBメロも笑って乗り越え、サビでも巧みにリズムをとってみせる。間奏では、カメラをセットした自撮り棒を手にし、笑顔でステージを駆け回り、この盛りだくさんな楽曲を最後はVサインで締めた。

短めのMCを挟んだあと、かき鳴らされるギターイントロ、始まったのは「ダメハダメ」。スタートから、会場全体が元気に、大きく頭上で手をワイプさせながら「ナーナーナーナーナナ、ナー」を合唱。そのパワーをもらい、下手のボックスに足をワイルドにかけたり、「道しるべは幸せ運ぶハットのハト」ではハトではなく不死鳥のポーズを決めたり、おちゃめモードの鈴木を堪能させていく。極めつけは、「でたらめ・寝溜め すべてノーダメです」で曲が一瞬止まったあと。鈴木は小道具としてタクトを握りしめ、右へ左へ振ると、それに合わせてキラキラとした効果音が流れ、会場の照明を操っていく。観客も、鈴木に踊らされるように、右へ左へ腕や体を流す。こだまする鈴木の「イリュージョ~ン♪」の声。鈴木とファンの共同作業という意味では、ある意味、このライブで一番のハイライトだったかもしれない。続いて鈴木の指揮で、バンドメンバーはベートーヴェンの「運命」の最も有名なフレーズ部分を奏でる、というか鳴らす。「ハッ!」の掛け声でようやく曲に戻っても狂騒はまだまだ続く。「ダメ」を連呼したのち、最後には全員での「いいよ」で曲を終えた。それでもまだ鈴木は休まないし、休ませない。素早くタオルを手にし、ハードなロック曲の「Shout!!!」へ。イントロからセンターステージでジャンプ! さらにサビの「ああ叫べ!もう叫べ!」では観客も一緒にジャンプ! 鈴木に導かれるようにフロアも肺活量の限界に挑戦する。さらにさらに続いてタオルから持ち替えたのはネギ! となったらファンの間ではおなじみ「FEELING AROUND」。エレクトロな軽妙さと歌謡曲風なダンサブルさが小気味いい楽曲だが、鈴木はまたボックスに乗ったり飛び降りたり、と弾けてみせる。デビューシングル曲とあって、それを迎え入れる観客のレスも完璧である。この曲の間奏では、鈴木による「(ラーメンを食べるときの擬音)ちゅる」が恒例で、今回もラーメン屋に扮装したスタッフが岡持ちを持って登場し、お題の書かれた紙が入ったラーメンどんぶりを中から出……さない! 代わりに今回は抱えるほど大きなクラッカーが用意されており、センターステージで鈴木は観客と一斉に「ちゅる!」。5周年を祝う大型クラッカーを会場に向かって発射した。その後、馴染んだネギでワイプしたりバトントワリングしたり、観客と一緒に楽しんだあと、最後は「感謝の想いを込めてジャンプをしたいと思いますよ。せーの!」で狂騒の時間を歌い終えた。直後、鈴木も「かなり盛り上がった」と手ごたえを話し、あまりにも楽しい時間ではあったが、「ダメハダメ」や「FEELING AROUND」がややもすればお祭り曲、盛り上がるライブアンセムに陥りがちなところ、支えているのはやはり鈴木みのりだ、という確信も持った。歌詞のコミカルさとは別個に存在する、きめ細やかに作曲・編曲された楽曲面の完成度も彼女の歌唱力と表現力によって高められている。

ここでのMCでは、コロナ禍の間に「いろいろな挑戦をさせてもらった」ことで「もっといろいろなところでいろいろな人に歌を聴いてもらいたい気持ちが芽生えた」、という自身の体験を伝えていく。ソロライブに関しては2年というブランクを強いられたものの、「表現の奥深さを感じる」日々の果て、出会い、成長した。その証を刻み込んだ楽曲のひとつが、続く「ミュージカル」だ。

軽やかに上手のボックスに座って歌ったかと思えば、1番のBメロではキーボードの横に佇み、「見つけてゆくことが 僕らの旅」で希望にあふれた歌声を響かせる鈴木。2番で下手に移れば、ボックスに肘をつき、サビではMVで見せたステップを軽やかに披露する。この舞台映えする楽曲は、曲の随所で音がよく伸びる。よく通る鈴木の声が際立つ楽曲だが、その伸ばされた音符の中に鈴木の想いがどれほどに詰まっているのか、わずかに引き伸ばされた時間の中に多彩な感情を残していく。人生はミュージカルだ、というテーマを持つ曲が、人生の希望と雄大さを持って耳に届くのは、やはり鈴木の歌の力だ。

連続して歌うのは、作詞を憧れの存在だったやなぎなぎ、作・編曲を言わずと知れたkzが手がけ、想いと想い出のつまった曲「エフェメラをあつめて」。2ndツアーファイナルであった名古屋で披露した際には涙ぐんだが、今回はステージの幅を使いながらゆったりと、目の前の空間の隅々まで、しっかりと気持ちを乗せた声を届けていく。エモーショナルなギターソロを伴いながら、落ちサビからラスサビへの盛り上がり、音域のダイナミックさ、それを裏付けている歌声の強弱、ライブだからこそ聴ける鈴木みのりのボーカルが聴く者の耳を魅了していった。

ここで、鈴木は再び言葉で伝える時間も設ける。まず、やなぎなぎとの接点が増えた1年を振り返り、「憧れのアーティスト像ってなぎさんなんだな」という実感を得たことを告げ、そして「お察しのとおり、次が最後の曲になります」の言葉。この夜に訪れた人々に対して、最後に時間をとって鈴木が伝えたのは、2年前に開催した2ndライブツアーのファイナル、そしてツアーの合間にゲスト出演したTVアニメ『ポケットモンスター』が非常に大きな出来事だったという告白。活動していく中で「もっとこうしたい」という想いが強くなり過ぎ、自己評価が低くなり、自信を失いかけた時期であったが、自分の歌や芝居がこんなにも喜んでもらえるなら、自信を持たないと喜んでくれている人たちに失礼だと感じたとのこと。以降、歌も芝居も日常もまた輝いて見えるようになった、と話した。しかも、その出来事たちが「こうして歌を楽しく、のびのびと表現できる自分」につながり、『ポケットモンスター』の新シリーズで主人公リコ役に選ばれたことに続いている。心から、「ダメだったことも自分の糧になると思って過ごす今日この頃」「私の人生で良かった」と、前向きになれた今の気持ちを観客に聞かせた。再スタートの年になるという予感を抱いている2023年。それでも、「いいことしか待ってない、と自分に嘘でも言えるようになってきた」鈴木は今、自分の“ばね”を信じ、もっともっと高く飛べるように、歌と芝居という大好きな表現の道を究める、と決意をあらわにした。

そして、「そんな未来と夢に向かって頑張っていきたい気持ちを込められる楽曲を、大好きな大好きな方に提供していただいて、新しい場所に向かって歩いていきたいと思います。今日はありがとうございました」と結び、「夏のばね」へ。敬愛する尾崎雄貴(Galileo GalileiBBHF)から贈られた曲を、鈴木は目をつぶり、歌に集中し、最高のおすそ分けとして聴かせてくれた。感情の爆発を歌声というカプセルに凝縮させ、これ以上はないほどに絞り出した表現力で鈴木の想いを形にしてくれた。ラスト近く、「何度でも」で、今度は抑えていた感情を爆発させるように両手を広げて歌唱する鈴木。「高く飛ぶ」を繰り返し、繰り返し歌い上げていく。力を出し切った鈴木は晴れやかな顔で、膝を軽く曲げてお辞儀するカーテシーで別れを告げ、下手へと力強く歩き去っていった。

この夜最大の、歌による圧倒。だが、立ち直ったフロアは拍手と声でアンコールを呼びかけると、キラキラとしたイントロが流れ始め、上はツアーTシャツ、下は膝上の巻きスカートの鈴木が再登場。最後のMCで語った思い、「ぜんぶ無駄じゃないと わかる日が来る」が歌詞に表現されている「My Own Story」。直接想いを伝えたわけではないにもかかわらず坂本真綾が歌詞に封じ込めた、これも鈴木にとって人生の伴侶となるであろう曲を、鈴木はやはりステージ中央で歌い切っていく。2番ではシャボン玉が会場に広がり、ライトの光を受けたシャボン玉は虹色を見せ、鈴木みのりのこれからが鮮やかに彩られるだろうことを示してみせた。

最後のMCでは、岡持ちに入れられたグッズを紹介後、次の曲では写真撮影OKが鈴木から伝えられ、続いて「今日をあらためて最高の1日に」という偽らざる本心が口からこぼれる。鍵盤が奏でるイントロ、鈴木のアカペラで始まると開始早々、「いっせーのーでっ!」「Yeah!」の歌に合わせて、鈴木が「ハイポーズ」でシャッターチャンスを提供、フロアでは声を出しながらスマホを掲げてシャッターを切る観客。そう、ラストソングは「いっせーのーでっ!」。鈴木みのりが歌うとあらわれるキラキラ感、ワクワク感を、彼女を長く見つめてきた北川が曲に込め、観客からのコールも盛り込んだライブ曲。2年ぶりのライブ、声出しOKの喜びを表現するのに最高の一曲を味わうと、鈴木は「みなさんありがとうございました。緊張していたんですけど、本当に今の自分の気持ちをさらけだすことができました」というファンにとっては嬉しすぎる言葉をかけた。最後に、「カメラ持ちながらでも高く」とあおられ、ステージの上と下で一斉にジャンプ! 最後の最後の「もう1回!」のジャンプで長く濃厚なライブに幕が引かれた。

刻んだ歳月の意味というのは人それぞれであるが、鈴木みのりにとって5周年が大きな意味を持っている、それが伝わる夜だった。木々の葉が色づくように、自らの歌声に対する自信が少しずつ高まってきた今、歌を聴きに来てくれる人への感謝を軸に、鈴木の歌には「歌を聴いてもらおう」という想いがあふれていた。鈴木みのりを想う人々が彼女が生きる楽曲を生み、彼女と共に楽曲を作り上げ、ファンはその想いを受け取って楽曲を分かち合う。そんな環境を得て、鈴木みのりは歌手として一気に芽吹こうとしている。東京・大阪・愛知の3ヶ所それぞれで期待しか感じさせないライブツアーであった。2023年というメモリアルイヤーを経た末に、彼女がどのような成長を見せるのか、歌手としてどこまで成熟するのか、どんなみのりを見せてくれるのか、そう、鈴木みのりの5周年はまだ始まったばかりだ。

Text by  清水耕司(セブンデイズウォー)

Photo by KOBA(Sketch

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