ヴォーカリストのSouが、1013日に歌い手活動10周年を記念したワンマンライブ『Orbit』をZepp DiverCityで開催した。彼にとって約1年ぶりの単独公演となった同ライブは、“Orbit(=軌道・軌跡)をコンセプトに、Souのこれまでとこれからの思いが込められたプレミアムな一夜となった。

宇宙船のコックピットのようなセットが組まれたステージ。モニターに映し出された星空と青い光に包まれるなか、サポートバンドメンバーが配置につき、SFテイストのSEに乗せてステージ中央のゲートからSouが登場。警告音のようなギターが鳴り響き、ナユタン星人の『エイリアンエイリアン』でこの日の幕を開けた。回転する赤いライトに照らされながら小気味よく妖しげな空間を作り出すと、「今日はみんな来てくれてありがとう。最後まで楽しんでいってください!」と『ラヴィ』へなだれ込む。キュートとクールの二面性で観客を翻弄すると、序盤2曲から一気にキャッチー&ダークな世界観へと引き込んだ。

久しぶりに歓声を浴びてのワンマンライブに懐かしさを噛み締めるSouは、「懐かしい曲をたくさん持ってきました。次の曲はみんなが声を出しやすい曲だと思うので、よかったら一緒に声を出してください」と呼び掛け、『イノコリ先生』を歌い出す。曲中で「先生のこと好きですかー?」という歌詞になぞらえて「僕のこと好きですかー?」と呼び掛けるとフロアは大きなレスポンスで応えた。

『右に曲ガール』でさらにフロアと歌声を通わせると、続いて披露したのは『独りんぼエンヴィー』。彼が2013年、中学生の時に初めて投稿した歌ってみた動画の楽曲だ。どこか諦めたようで、だがふつふつとした熱を宿したボーカルが会場を魅了する。Souが若者の抱える不安や苛立ち、純粋さなどがないまぜになった複雑な心情を歌で表現することに長けていることを、あらためて印象づけるセクションだった。

Orbit』というライブタイトルとコンセプトに触れると、「毎回配信で宇宙の話をするくらい宇宙が好きなんです。今回は宇宙っぽい曲も選んできました」と夜空や宇宙をモチーフにしたブロックへ。メロウなミドルナンバー『UFO』では落ち着いたトーンの歌声が、曲に漂うピュアな憂いをきらめかせた。童話のような可愛らしさと奇妙さを併せ持った『異星にいこうね』やオートチューンのコーラスワークが浮遊感を生み出した『アンチグラビティーズ』で別世界のような、それでいて内省的な浮遊感を作り出すと、宇多田ヒカルの『One Last Kiss』では彼のソフトなウィスパーボイスが楽曲の奥行きを作り、よりディープな空間へと我々を導いていく。彼が宇宙について考えているときに感じる心地よさや取り留めのなさに少し触れられたような気がした。

活動10周年を迎えられた感謝をあらためて丁寧に伝えると、「僕にとってターニングポイントになった、世界にまで届いたあの曲をやりたいと思います。思い入れのある曲です」と告げ、自身の歌ってみた動画で1.1億回以上の再生数を誇る『ハレハレヤ』披露する。歌詞の一言一言に余韻を持たせる繊細な歌声は、自分の感情のものと錯覚するくらいの臨場感だ。その涙色に彩られた歌と音に、観客もじっくりと耳を傾ける。

するとワウギターに乗せて「ここからどんどん激しい曲をやっていくんで、盛り上がってください!」と呼び掛け、ドラムカウントから『Q』へ。エモーショナルなボーカルとスリリングな演奏が衝動的な爽快感と張り裂けそうな感傷性を生み、その後もアッパーかつユーモラスな『マーシャル・マキシマイザー』、艶やかさと陰を併せ持つポップナンバー『乙女解剖』、スタイリッシュな気だるさが小気味よい『シニカルナイトプラン』畳みかけ、Souの声の強みを生かしてカラフルなグラデーションを描いた。

ここまでカバー楽曲を立て続けに披露したSouは、「僕は自分に自信がないから、本当にみんな会場に来るのかな?と思ったりするんだけど、いざみんなを前にすると仲間だな……って感じます」と笑みを浮かべる。TVアニメ『デッドマウント・デスプレイ』OPテーマの『ネロ』をライブで初披露して再度会場を盛大にかき回すと、ジャズのアプローチが取り入れられた最新曲『ハイヒール』で洒落た空間を作り出し、「最後はみんなで一緒に歌おう!」と告げ、本編ラストはピアノロックナンバー『よさそう』。瑞々しい演奏と伸びやかなボーカル、観客のシンガロングが混ざり合い、会場はたちまち清涼感で満ちていった。

ライブグッズのマフラータオルを肩にかけて再度ステージに登場したSouは、『世界寿命と最後の一日』でアンコールの幕を開けると、ライブで話すことをたくさんメモをしていたが、何を話すべきなのか決められなかったと率直な気持ちを明かす。そして「次の曲は初披露です。みんな喜んでくれるんじゃないかなと思います」と言い、『星の王子サマ』を歌い出した。「旅」と「星」と「キミとボク」の世界が描かれた同曲は、10年間旅をしてきた彼とファンが迎えたこの日にお誂え向きだ。

ボカデュオ2023参加楽曲『バブル』で新しい季節に向かっていくような寂しさと希望が交錯した歌を響かせると、「最後は盛り上がって終わりたいです。本気で歌ってね!」と言い彼がこの日の最後に選んだのは『Fire◎Flower』。全身を振り絞るように情熱的な歌声を響かせ、最後に再び「Souだけにー!?」「爽快ー!」とコール&レスポンスをし、華々しく10周年記念ライブを締めくくった。

アーティスト人生を共に歩んできたボカロ曲らと、最新のオリジナル曲を投入したセットリスト。本人は「久しぶりすぎてカンが取り戻せてない」と語っていたが、20195月の初ワンマン以降、コロナ禍に見舞われたもののライブ力を高め続けていることがうかがえる、堂々たるパフォーマンスだった。夜空へと高く放たれていく花火をモチーフにした楽曲でラストを飾ったこともあり、その軌道はこれからも空高く続いていくように感じられた。10年という節目を迎えた彼が描くその続きを、この先も見届けたい。

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