2023 年 5 月 28 日(日)、TV アニメ『新世紀エヴァンゲリオン』の主題歌歌唱で知られる高橋洋子が、Zepp Shinjuku(TOKYO)
で、ライブコンサート「YOKO TAKAHASHI EVANGELION ultimate Live『月十夜』」を開催した。これは 4 月 14 日に開業した「東急歌舞伎町タワー」で展開している「EVANGELION KABUKICHO IMPACT」の一環で、彼女にとって『エヴァンゲリオン』シリーズをテーマとした初の単独公演だ。ゲストには YouTube 総再生回数が 7 億回を超えるピアニストのまらしぃをはじめ、バイオリニストの鹿嶋静、サックス奏者・松下洋ら世界的に活躍するパフォーマーたちがステージに登場し、高橋はアンコールを含む全 14 曲を熱唱した。

会場が暗転するとスクリーンには宇宙を思わせる映像が映し出され、やがて「エヴァ」のモチーフである月へとフォーカス。そこからライブタイトル「月十夜」のロゴが現れると Zepp Shinjuku(TOKYO)を埋め尽くしたオーディエンスから、最初の大きな拍手が湧く。その人々は実に多様性に富んでいて、「エヴァ」という作品と高橋の歌声が想像を遥かに超えるところまで届いていることを実感させた。

拍手が収まるやいなや、「暫し空に祈りて 愛を断て」と、高橋の歌声が響き渡る。「エヴァ」楽曲は、「残酷な天使のテーゼ」をはじめとして、イントロなしの歌始まりがほとんどで、そこでのインパクトや掴みがポイントとなる。この「暫し空に祈りて」も、その例に漏れず力強く心をキャッチする。それは視線においてもそうだ。「エヴァ」一色に染めるこの日、衣装もそれに合わせてオートクチュール。1 着目はエヴァ初号機をイメージし、蛍光グリーンに紫のパンツ、黒を基調にしたドレスで、肩には機体パーツを想起させる飾りが付いている。

ステージには高橋との共演も長いダンサーの、長谷川 敬タと岩熊俊介が登場し機敏のある動きを見せる。ダンサブルに低音が響くこの曲に、フロアからは早くもクラップが巻き起こり、高橋の歌声は情感豊かに凛と張り、リズムの SE と鍔迫り合いを繰り広げる。楽曲が一旦ブレイクしたタイミグで白いパーカーを被った 6 人のダンサーが新たに加わり、現代芸術的な踊りを見せる。高橋は壇上で見守るような視線を送り、パワフルに歌い終えると、改めて大きな拍手と歓声が湧いた。

つづいて、壇上に現れたのは世界的に活躍するサックスプレイヤーの松下洋で、クラブらしいソロを吹き、「心よ原始に戻れ 2020」へと入っていく。観客のクラップを誘う4ツ打ちのリズムに、端正な高橋の歌声が乗り、その裏でのサックスのプレイがグルーヴを生んでいた。

つづいては最新曲で先日公開された「シン・ジャパン・ヒーローズ・ユニバース」のプロモーションビデオでも使用された「罪と罰 祈らざる者よ」。原点回帰を意識したこの楽曲、やはり歌始まりで高らかなロングトーンで幕を開け、リズミカルなテンポに優しさのある表現、そしてクリアな発声が会場を包み込んだ。

つづいては TV アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」のサウンドトラック「NEON GENESIS EVANGELION III」に収録されたナンバー「幸せは罪の匂い」のアレンジバージョン。ゴリゴリのベースから始まったグルーヴィーなリズムに乗り、作品メッセージの高い歌詞を歌い、中盤で再び松下が登場しソロを響かせると、フロアはクラブのような雰囲気で歓声が飛ぶ。2コーラス後にはサックスソロの時間が用意され、ステージ背後に松下の大きな影が投影され、まるでブルーノートレーベルのジャケットのような光景の中でたっぷりと速弾きをして、湧いた拍手に乗せてメロウな音色でしっとりと締めくくった。

ジャジーな雰囲気のまま、続いてはスタンダードナンバーにして TV アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」のエンディングテーマの「Fly me to the moon」。スクリーンに大きな三日月が映し出されると、待ってましたとばかりに大きな拍手が広がる。高橋は丁寧に綺麗な発音で跳ねるような声で切なさを表現していく。しっとりと歌った後は4人のダンサーとともに揃って踊り、最後に上下幅の大きなハミングから超ハイトーンを歌い上げると歓声が鳴り、歌の後に大きな拍手で送り出された。

ステージ前方に大きな幕が降ろされ、使徒迎撃のテーマで知られるティンパニの音が鳴らされる緊張感ある雰囲気の中、2人の巨人シルエットがスクリーンの後ろに映し出され、コンテンポラリーダンスを踊り続ける。そこに現れたのはヴァイオリニストの鹿嶋で、この場を救うかのように美しいメロディを弾くと観客は拍手で迎える。ダンサーの2人が腕を直角に曲げるタッティングやポッピングといった特徴的なダンスで盛り上げ、高橋は真っ白なセットアップに着替えて登場。先の BGM を採り入れて作られた楽曲「TENSIONS」を歌う。

緊張感のある英詞から高らかなオペラティックな歌唱、そこからダンサンブルなサウンドに乗せていく、組曲のような構成だ。高橋は普段から「正しく歌う」ことを意識しているという。そうした背骨が1本通っているとはいえ、ライブで次々と展開していくなかで多彩なジャンルに対応できることに驚く他はない。観客も圧倒されたように、拍手をし始めるタイミングを迷っていたほどだ。

次の曲は「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生」主題歌として広く知られた「魂のルフラン」だ。スクリーンには劇中で流れたときと同じく、量産型エヴァが空中を舞うシーンが映し出される。この日のライブ会場はかつて新宿ミラノ座があった場所で、そこでは 26 年前に「シト新生」が上映されていた。それと同じ光景が今また繰り広げられるという、まさに「エヴァ」にしかできないスペシャルな瞬間だった。

高橋は朗々とイントロを歌い、そこから A メロに入ると楽曲のリズムに乗せて TV シリーズや「シト新生」の映像が高速で展開し、観客は一気に引き込まれる。速いテンポに乗せて赤や白のコートを纏ったダンサーたちも激しい振り付けで盛り上げていく。さらに間奏ではロンギヌスの槍を儀式のように高橋に渡し、右手に持って立てたまま2コーラス目を歌い、観客は拍手と熱のこもったクラップで一体化していく。前半戦でのハイライトになる時間だった。

全員が一旦掃けて SE の流れる時間にクールダウンをしてから、まらしぃが登場し、メロディを軽く弾いてから徐々に展開する即興を演奏し、やがてクラップを求めるエンターテイナーぶりを見せる。そこに高橋は月の女神をイメージした淡い水色のドレスで登場。

白い衣装の女性ダンサーがバレエのような振り付けで踊る中、「無限抱擁」をゆったりと叙情的に歌い、スケールの大きな声で包み込むドラマティックな時間が提供された。つづけてピアノが速弾きをしてから徐々にテンポを落としてイントロ役を担うと、高橋が歌い出したのは「残酷な天使のテーゼ」。

冒頭を歌った後にフロアから一糸乱れぬクラップが沸き起こる。最もよく知られたこの楽曲の歌詞を手繰るようにしっかりと伝えていく真っ直ぐな歌声。ライブでしか味わえないピアノ伴奏のみのバージョンだからこそ染み入る部分があったのかもしれない。観客もそれをじっくりと味わっていたようすだ。間奏部分ではまらしぃの横に高橋が座り、連弾をするという贅沢な演出があり、きっぱりと歌い終えた瞬間、万雷の拍手が巻き起こった。

また少し間を取ってから、短いピアノのイントロが流れて、英語歌詞で迫力たっぷりに歌われたのは「Teardrops of hope」。スクリーンには大きな月が映し出され、デジロックに雄大なストリングスの音色がドラマティックに響き渡る。4人でのダンスに対しても主役のように大きな見せ場を作るなど、総合力でステージを彩っていった。

壮大なオーケストラサウンドに乗せて高橋が発した「次の曲で最後です」に客席はざわめく。高橋は感謝の辞を述べてから曲名をコールする。その「what if?」は『シン・エヴァンゲリオン劇場版』劇中の印象的なシーンで流れる楽曲を高橋のソロヴォーカル曲に仕立てた楽曲だ。彼女はすべてを包み込むように優しく、ゆっくりとリズムに乗って英詞を紡いでいく。会場にはミラーボールが輝き、終盤に差し掛かるとハスキーな声から一気に賛美歌のようにこれまでで最高のハイトーンを響かせ、魅了した。

鳴り止まぬアンコールの声に高橋は 2021 年の「第 72 回 NHK 紅白歌合戦」に出演した際のドレスをカスタマイズした衣装をまとって登場した。初号機カラーのラメが煌めく華やかなデザインだ。冒頭のロングトーンでキメると熱量の高いクラップに乗せて祝祭のような雰囲気の中、「Final Call」を歌う。「エヴァ」のシリーズ完結をイメージして作ったこの曲。歌詞にも味わいの深さがあり、ダンスナンバーらしい盛り上げがあり、凝った SE もあるためとてもライブに映える楽曲だ。満ち足りた表情で歌い終えた高橋は、この日初の MC を展開する。

「やっとお喋りができる(笑)」と一言話した後、観客に感謝を述べると温かな拍手に包み込まれる。この日のライブタイトル「月十夜」に込めた思いについて、「私達は大いに月に影響を受けて生きています」と語り、「月」から「(幸運の)ツキ」のラッキーを共有して持って帰れるようなコンサートにしたかったと説明する。

そして次の曲に向けて、長谷川敬タ・岩熊俊介がダンスレクチャーを行なってから「赤き月」をドロップ。こうした観客参加の要素もあるが、ダンスナンバーとして踊り応えのある楽曲で、ステージには 10人ものダンサーたちが集結し、それぞれの動きを見せつつ、さらにゲストとして HUMAN BEATBOXER のHIRONA が登場し、見事なパフォーマンスで会場を湧かせた。最後は先ほどレクチャーされた一体になってダンスのゾーンで、高橋は先陣を切って声を張り上げて盛り上げ、会場を高揚感でいっぱいにした。

そして、高橋が改めてオリジナルの「残酷な天使のテーゼ」を歌い出すと、観客の拍手はこの日一番の盛り上がりを見せる。壇上には先ほどを上回る全ダンサーが登場しフィナーレを彩る。スクリーンにはまたも膨大な数の TV「新世紀エヴァンゲリオン」シリーズのカットが再編集・再調整されたMV が映し出され、ボルテージが最高潮のまま歌い切った瞬間、銀テープが発射されてゴールに辿り着いた。

最後のあいさつで高橋は全ゲストとダンサーを紹介し、「応援してくださる皆さまがいなければ、私は今日ここに立つことができませんでした。またお会いしましょう!」と叫び、ステージを後にした。

最後に 30 秒ほど、「エヴァ」予告編のテーマ曲に乗せてこれまでの活動のオフショット写真を見せ、葛城ミサト役の三石琴乃ナレーションを被せるなど、最後まで「エヴァ」づくしの演出で統一された一日だった。

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