12月5日、この日の恵比寿リキッドは、スカートのワンマンライブ「The Coastline Revisited Show」。澤部 渡いわく“出てもいないシングルのレコ発ライブ(笑)”だ。

澤部 渡といえば、呼吸するかのように曲を書いて、RECして、ライブして……そんなルーティーンのなかに生きるポップ職人である。

スカートとしては、インディーズ時代の音源を再録したアルバム『アナザー・ストーリー』からほぼ1年ぶりのリリースとなるが、そんなコロナ禍に纏わるしがらみを振り切って、ようやく有観客ライブ――それも札止めのスタンディング!――という日常の風景を取り戻したことを喜ばずにはいられない。

この日のオープナーは「沈黙」。冷静に、でもほどよい高揚感のなかで、ドラム、パーカッション、ベース、キーボード、そして澤部という5ピースが、お互いの音に耳を澄ませているようなアンサンブルを響かせる。

続けて「おれたちはしないよ」。どことなくブルージーなフレーズとよく伸びるハイトーンが心地よい。アンバーがかった照明が澤部の大きなからだを包む。

出だしのカウントに応えるように強い抑揚を効かせたイントロ。大きなストロークのギターにピアノが絡み合う「駆ける」、エレピの響きに80年代シティポップの香り漂う「静かなよるがいい」、ローを効かせた岩崎なおみのベースと、シマダボーイの煌めくトライアングルの対比が美しい「CALL」、スカートのシグネチャーたるあの口笛を優しく響かせた「ともす灯りやどす灯り」と続けたところでMCへ。

「いやー、ご無沙汰してます。スタンディングで、東京でライブをやるのは……フィロソフィーのダンスといっしょにやって以来だから、1年9ヵ月ぶりとかかな?またこうやってみなさんの前で演奏できることがとってもうれしい!」と喜びを露わにする澤部。

「コロナが憎いね(笑)。だって「駆ける」のMVも撮れなくなっちゃったし、『アナザー・ストーリー』出したのにライブもできなくなったし。でもさ、今日はそんな憎しみにシュガーコーティングしてね。まだ出てもいないシングルのレコ発なっちゃったけど、昔の曲も、いまの曲もまんべんなくやれたらいいなって思ってます」と、シニカルな笑いでフロアの空気を和ませてから「ストーリー」へ。歌い出しのスタッカート、跳ね上がるような高音のボーカル、カッティングの効いたギターとほんのワンフレーズの口笛にグッとくる。優しく揺れるオーディエンスの影を見ながら、楽曲の良さがライブハウスという空間に注ぎ込むグルーヴってこういうことだと気づかされる。

「セブンスター」のほどよいドライブ感と煌めきに気分が高揚する。聞けばスカートがリキッドルームのステージを踏むのは初めてだそうだが、澤部もバンドメンバーもホームグラウンドのマウンドに立つピッチャーのように居心地よさそうに見えた。

おもむろに「新しい曲を一曲!」と告げ、Paraviオリジナルストーリー「最愛のひと~The other side of 日本沈没~」イメージソングに起用された新曲「背を撃つ風」へ。ゆらゆらと心地よく揺らぐピッチで歌われる<足りないものも 失くしたものを>という詞にそこはかとない悲しみが宿る。

雨音のようなリズム、雨上がりに射す薄日のような暖かみを湛えた「ランプトン」、図らずもいまの澤部 渡の姿に重ね合わせてしまう<君がいるなら 僕はまた歩いてゆける>という言葉と、アウトロでかき鳴らすギターに心震わせられた「君がいるなら」。

「スカートとしては2019年に『トワイライト』というアルバムで、ようやくライブバンドになったなと思っていたのに、そこで積み上げたものがこの1年半で波にさらわれていってしまって。だけど、ここからもう一度積み上げていけたらいいなと思っています」という澤部の言葉に続けて「4月のばらの歌のこと」へ。口笛が悲しく、気高く響く。

一転、パーカスとドラム、ギターのフレーズがざわざわと波打つように呼応する「さかさまとガラクタ」、アップビートな「さよなら!さよなら!」でフロアのムードを引き戻してゆく。オーディエンスに向けられた大きくて丸い澤部の背中が楽しげに揺れている。カッティングとエレピが呼応するアウトロも秀逸。

「大変なことが起きましたよ……大きいサイズのブランドからお仕事がきました!」と、「大きなサイズの店フォーエル」とのコラボレーションCMについて語る澤部。「いや、楽しく太って生きていきたいんだけど、楽しく生きるために傷つかなきゃいけないのよ(笑)。市井の店ではサイズがないしさ、大きいサイズの店に行ってもオーバーオールかHIP HOPのツーウェイしかないわけよ。ね?そうじゃないスリーウェイめを探そうってことで「この夜に向け」って曲を書いたんだけど、完全にいつものスカートになっちゃって(笑)」というエピソードにリキッドが暖かな空気に包まれた。

ゆらゆらとした抑揚のボーカル、口笛にローズピアノとパーカス……なるほど!間違いなくいつものスカートだ。<抱え込んだ不自由を ここで手放そうよ><いつか見た夢のその裏側から>という詩的なフレーズがタイトルに呼応する。そして「千のない」、イントロのカッティングとコンガが響きあう「返信」、「スウィッチ」と繋ぎ、最高にグルーヴィな流れを作ってから、音源よりもラウドでロックンロールな「わるふざけ」へ。アウトロの洒落たスキャットに万雷の拍手で応えるフロア。

「LIQUIDROOMでワンマンをやるっつーのはね、バンドとしては夢だったんだよね。それがここまで来れて、今日、無事完売札止めになりまして。これもひとえに皆さんのおかげです」とインディー期の思い出話とともに感謝の気持ちを伝えた。

悲しいのになぜか微笑んでしまいそうな詞とメロディ、スロウなテンポ、ウィスパーな声音が耳元に忍びこむ「遠い春」を挟んで、「ここを起点として――状況はまだ油断できないんだけれど――いつでも動き出せるように態勢を整えていくつもりです」という言葉に続けて、ラストはライブタイトルでもある「海岸線再訪」。海風のように軽快なカッティング、華やかなトラックの余韻と客席の拍手が消える間もなくアンコールのステージに立つスカート。

「今日はアルバムのレコ発と違ってシングルだから、やりたい曲をばんばん入れてったら、死ぬほど地味なセットリストになっちゃって(笑)。久しぶりのスタンディングなのにこりゃいかん!と思って派手な曲をあれも!これも!ってやったはずなのに漏れちゃった曲が1曲あって」と「視界良好」へ。なるほど、微かにアシッドの香りを効かせたトラックは「海岸線再訪」にも通じる華やかなテイストだ。

「今年はいいことがたくさんあって。「オッドタクシー」っていうアニメのオープニングテーマを書かせていただきまして。これもまだ人前でやっていないので、やってみようかな」と呟くと「ODD TAXI」のイントロのストロークを刻みつつ歌いだす澤部……と、「スペシャルゲスト、PUNPEE!」の呼び込みにPUNPEEがオンステージ。抜群のアンサンブル、サビメロのキャッチーさ、ダルでスロウなトラック、親密な空気感……J-POPとHIP HOPの幸せな邂逅に歓声と万雷の拍手。

「人前でちゃんとやるのは初めてだよね?」という澤部に「そうですね。あのー、同じ板橋区の出身で、同じ第4学区……って、わかる人しかわかんないか(笑)。今日、こうやっていっしょにやれて光栄です」とPUNPEE。そして「せっかくなのでもう1曲」というPUNPEEのリクエストに応えてアルバム『CALL』から「回想」をプレイ。とびきりグルーヴィな「回想」のトラックに、PUNPEEのレペゼン板橋なスムースなフロウが混ざりあう極上のエンディングだった。

しかし、鳴りやまぬ拍手……なし崩し的に(笑)、ダブルアンコールへとなだれ込むリキッド。ひとりステージに戻った澤部が「いや、本当に何も用意していないんですけど(笑)。アコースティックですけど、なんか聴きたい曲があったらやります!なにがいいですか?」と言うや、そこかしこからリクエストの声があがる。「え、「ガール」?人気あるなあ!でもアコースティックで「ガール」できるかな……」と逡巡する澤部。見かねたバンドメンバーが三度ステージへ!最高にインスタントでドライブ感あふれる「ガール」に揺れるフロア。「どうもありがとう!スカートでした」と、別れを告げる達成感に満ちた澤部 渡の大きなシルエットと、フロア中にあふれる笑顔を見てLIQUIDROOMを後にした。

スカートはライブタイトルにも引用された最新シングル「海岸線再訪」を12月15日にリリースする。本作には、タイトル曲でありJBL「Tour Pro+ TWS」ウェブCMソングの「海岸線再訪」、Paraviオリジナルストーリー「最愛のひと~The other side of 日本沈没~」イメージソングに起用された「背を撃つ風」、「大きなサイズの店 フォーエル」 CMソング「この夜に向け」の全曲タイアップ付きの3曲を収録。からだが火照るような親密な空気感を醸すライブと、最高にキャッチーなシングルリリースで2021年を締めくくったスカート。2022年も期待大だ。

(おわり)

取材・文/高橋 豊(encore)
写真/廣田達也

DISC INFOスカート「海岸線再訪」

2021年12月15日(水)発売
通常盤(CD)PCCA-06101/1,320円(税込)
初回限定盤(CD+DVD)PCCA-06100/2,970円(税込)
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