──前作のアルバム『銀河絶叫』がさまざまなアルバムランキングでキャリア最高順位を記録したそうですね。
下川リヲ「そうなんですか?」
──ご存じなかったですか?
下川「いや忘れてたのかな?(笑)嬉しいですね」
──お客さんの世代が還流してる手応えはあったりするのでしょうか?
下川「世代は少し入れ替わったりしていると思います。若い人も増えて年配の方も増えて。今、あまりロックバンドって少ないっていうか…10年ぐらい前はもっといたよね?」
声児「うん」
下川「“今、バンドやるってバカじゃん”みたいな時代を(笑)…そこまで行かないですけど、いろんなやり方がある中でバンドってお金もかかりますし、メンバーのスケジュールを合わたり、リハーサル場所も必要ですし、昔よりあまり選ばれない選択肢になったと思います。でも、そんな時代にもずっとバンドをやってきた結果、“やっぱりバンド好きっているんだ”って改めてステージに立っても感じるというか…。ずっとやってただけなんですけど、勝手にアンチテーゼっぽく(笑)、見られている可能性もあるかもしれませんね」

──今のサポートメンバーの2人(元爆弾ジョニーのキョウスケ:Gとタイチサンダー:Dr)にしても、ずっと続けてきたミュージシャンですし。
下川「そうですね。ライブは同期演奏なしでやっていて、自分以外メンバーみんなの演奏力が高いので、生で観る迫力を感じてくれていると思います」
──“演奏力が高い”っていうのは曲ありきですから。“曲を演奏する”っていうモチベーションがないと無理じゃないですか?
声児「ははは」
下川「確かにそれはそうですね」
──そのあたり、声児さんはリヲさんが作る曲をどう思っていますか?
声児「後から入ったら身(2020年加入)としては俺が入ってからの方がライブでバンドサウンドにこだわる自由度が増えたなって…ちょっとそっちに仕向けた気はあったんですけど。それによってのモチベーションはみんな保てるようになったというか、逆に言えば今、サポートを2人に頼んでいますけど、みんなに演奏の責任がどうしてもあって、でもその面白さとヒリつきのおかげで(笑)、“バンドサウンドにこだわってみる”ってモチベーションは前よりも高くなったんじゃないか?と思いますね」
──『銀河絶叫』の手応えがすごくあったのではないかと想像してまして。
下川「そうですね。売れ行きが良かったっていうのも普通にそういうことだと思うんですけど、狙いとしてグルーヴみたいなよく分からない概念があるじゃないですか(笑)。たぶんバンドやってる人も“グルーヴって一体なんだ?”と思いながらフワッとした概念をみんなで共有して演奏に生かしていると思うんですけど、そういうのを“いやらしくない形でやろう“というのはテーマとしてあって。でも、それが”セールスにつながる“とか”お客さんが喜ぶかどうか?“っていう確証はなかったんですけど、結果が出たっていうのは非常に良かったですし、これは自分たちに向いてると思うので、もう少し突き詰めてみようと思います」
──そのグルーヴが生かされたのが「わりきれないよ」ですよね? “大名曲、きた!”と思いました。
声児「おお、良かったです」
下川「ありがとうございます(笑)」
──この曲はどういう意識のもとに始まったんですか?
下川「これはですね、「アルバム『銀河絶叫』発売後、長らく曲を書けなくて…。なんとかとりあえず手足動かして“一曲、書いてみよう“と思って。ただ、自分は1から100までアレンジできる人間ではないので、シンプルな形で完成形が見える曲を作ろうとして、できた曲です。やっぱり『銀河絶叫』の流れもあるのか、シンプルの良さのようなものをバンドとしても出せるようになってきたところはあって。ギターもバーン!一発ドカーン!みたいな曲が意外となかったので、そういう曲を作ってみたら意外とメンバーも”いいじゃん“と(笑)。でも逆にあのくらい楽曲がシンプルだとアレンジとか迷わない?」
声児「迷うけど、その迷いはどちらかというと今まで挫・人間って演奏が細かかったりするから、“果たしてシンプルにやっていいのか?”というところで。でも今回の「わりきれないよ」に関して言うと歌詞が良かったので、“だったらもうシンプルに歌詞を伝えるってテンションのほうがいい“というのはみんな一致していたので。あのシンプルさでもビビらずにアレンジできたっていうか(笑)、シンプルなことの良さを我々も突き詰められたと思います」
下川「いい意味なんですけど(笑)、お互いのフレーズに対して基本的に誰も意見を言わないよね? 2番のAメロでベースが画期的なフレーズを弾いていらっしゃるんですけど、それに対して“いいね!”と思いつつ、良くも悪くも誰も意見を言わないので。でも何も言われないと不安だったりしない?(笑)」
声児「僕もドキドキしながら“みんなどっちなんだろうな?”とか思いながら(笑)。でも“これ、いらない”とも言わないってことはまあいいかと」
下川「各々が餅は餅屋っていうか…本人がいいと思っているフレーズをバンドで出せる状態ができているのはいいことです」


──サポートメンバーのタイチサンダーさんとキョウスケさんには彼らのスタイルもあって、それが許容されているのが大人のバンドって感じもします。
下川「ああなりたくてもなれない2人と一緒にやれて嬉しいです。自分たちの才能を遺憾なく発揮してくれるところも付き合いの長さゆえの分かり合えている部分だと思いますし、それでうまくバランスをとって“お互いの素材の良さが出たらいいよね!“ってくらいの感じでやれています」
──2人ともルーツ的な音楽に対してリスペクトがあると思うので、それがいいアレンジになっている気がします。
下川「そうかもしれないです。照れないっていうか…“今、バンドをやるならそこを照れるともったいない“っていうのはみんな思っているので」
──だと思います。ちなみに声児さんが“この歌詞が良い”と思ったポイントはどこですか?
声児「すごく分かりやすい歌詞だったんですけど、その中でいつもの下川節がちゃんと効いていて。「わりきれないよ」ってタイトルにしても歌詞にしても他の人だと出てこないと思いますし、全体的にシンプルで伝わりやすいのにすごく挫・人間らしい言葉なので、“やっぱ、下川くんならではだな”と思っています」
下川「ありがとうございます(照笑)」
──下川さんの歌詞ってこういう素で飾っていないタイプとストーリーがしっかりあるタイプに分かれると思うんですが、これは書きたいことをそのまま書いた感じですか?
下川「“シンプルなことで誰にでもある程度意味が分かるものを複雑になりすぎずに書こう“っていう意識が「このままでいたい」や、前のアルバムからあって、その延長線上です。例えば“悲しい”っていうシンプルな気持ちをどれだけ複雑にならずに特別なモノとして書けて、かつ分かりづらく複雑にしないで書けるか。“シンプルでちょっとキャッチーで奥深く書こう“って気持ちで常にいるんですけど、それの一つというか…」
──それは下川さんの中にずっとある気持ちですか?
下川「この「わりきれないよ」に限った話で言うと、まず効率化が推奨されるというか、“それは情弱だよ”とか非効率的なことが悪とされる風潮がどんどん強まってきている中で、“じゃあ、ここはすっぱりと割り切りましょう”って場面がおそらくすごくあると思うんです。でもそれを頭で理解できても感情的に理解できない状態があって、自分個人の気持ちとしてはできるだけそれを肯定したかったので。“割り切れないキミは偉い!”とかではなく、“僕は個人として割り切りきれないよ”っていう自分のスタンスを示すことで同じように肯定された気分になる人もいるでしょうし。正直、誰かを救いたいと思っているわけではなくて、自分自身、“こういう歌があったらいいな“という感じです」
──割り切らなきゃいけないことも分かってきた年齢の人が歌うからいいんですよね。
下川「そうですね。やっぱり理屈と感情を天秤にかけ続けて、まだ感情に重きを置いてしまう、何回も天秤にかけたギシギシの天秤じゃないとあまり説得力がない可能性がありますよね」
──SNSを見ていても割り切れなさばかり感じますし。
下川「困惑の中にいて自分の感情を決定付けられるほど活きがが良くないというか…。SNSでは弾圧を受けている人を見る機会が多いですけど、割り切らされている人のこともよく見るんですよ。そういうの全部ひっくるめて、やっぱり音楽では自分が美しいと思うものを書きたいので。バズる/バズらないで言うと、割り切れない方はバズらないことだと思いますけど(笑)、だからと言って必ずしもそこに美しさが存在しないとは全く思わないですし、割り切れないで困惑の中でもがいてる人のほうが自分は好きだっていうのと、“みんなそうだったらいいな”っていう(笑)気持ちが曲になりましたね」
──割り切れなさを抱えたまま耐性を付けていくしかないですしね。
下川「“挫・人間って名前を変えればもっと人気出るのに“って、よく言われて(笑)。でも、割り切って爽やかなバンド名にせずに挫・人間としてやってきたのもそのうちの一つなのかな?…この名前だったから繋がれたものもすごくたくさんあるので、”悪くないな“とも思います」
──そしてカップリング曲の「はじけるべき人生」は先行配信されています。これは“挫・人間のディスコ幕の内!”ですね。
下川「(笑)。ディスコ幕の内っていいですね」
声児「この曲こそ挫・人間らしいと思って僕はお気に入りです(笑)」
下川「どっちも今の自分らしいけど、こっちが極北って感じです(笑)」
──怒っているようで実は前向きな歌詞では?
下川「“前向きではいたい”っていうのはあります。明らかに後ろ向きっぽいバンドなので。あまり悲しみとか怒りを煽るだけで終わりたくなくて…だからと言って“We are the champion!!”になるのは普通に不条理だとは思うんですけど(笑)、怒りを煽って“うわーっ!”てなりたい人をそれだけで終始させたくない気持ちもあります」
声児「下川くんの歌詞は全体的に怒っているし悲しんでいるんですけど、確実に前を向くためにもがいているんですよね。それがやっぱり魅力的で、結果として、もがき悩んで“We are the champion!!”になっちゃったんですけど(笑)」
──(笑)。もがき方が特異なんですよね。
下川「感情って複雑ですから。悲しみの中に一滴、面白さが入ったりするだけで…その一滴を無視したくないんですよ。だから鬱々しい曲を愛聴している人に対して、“悲しんでいるだけだと始まらないじゃん”とか言っても、“いや始まってほしくないし”って言われると思うんです。でも、そういう人に対して自分は意外とずっとそういう言葉をかけているのかな?とも思うので、鬱々しい曲を聴いてる人に聴いてほしいですし脳内を爆発させることができたら届いた感じがすると思います」

──そしてもう1曲、「マリ」は王道のロックンロールでもあるますが、ギターが特徴的ですね。キョウスケさん、面白いです。
声児「面白いですよね。自分でアレンジしてきて“弾けねえ!”って怒っていました(笑)」
──ちょっとメタルとかエクストリームな音楽に近いですね。
声児「ああいう速い曲での挫・人間の曲のイメージで、たぶんキョウスケなりに出してきてくれたんだと思うんです」
──ライブが怖いですね。
声児「そうなんですよ(笑)。この「マリ」に関してはみんながどんどん面白いことやって行きたくなっちゃって、結果、みんなの演奏が難しくなっちゃったので“ライブがどうなるかな?“っていう…楽しみです」
──非常に象徴的なシングルですが、リリースツアーはどうなるんでしょう?
下川「前のアルバムツアーでもそうだったんですけど、どんどん演奏がうまくなっていったので、今回、さらにこのツアーでもう一段、バンドのステージが上がる感じがしています。もちろん他では得られないものがあるので、その得体の知れない感情を自分の中で掴んで帰ってもらいたいです」

(おわり)
取材・文/石角友香
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挫・人間 TOUR 2025 “We are the champion!!〜君の街にも僕が来るんだ〜”
2025年10月1日(水) 東京 新宿red cloth
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