──まず、4年ぶり2枚目となるソロアルバム『OTOGIMASHOU』が完成した感想から聞かせてください。
「初めてのソロアルバム『れにちゃんWORLD』はテーマを設けずに、今まで積み重ねてきたありのままのれにちゃんを丸ごと楽しんでいただきたいアルバムでした。でも、『OTOGIMASHOU』は“御伽噺(おとぎばなし)”をテーマにした世界観のある作品になっています。“私が歩んできた今までの軌跡”や、“出会ってきたものへの自分自身の感情”、そして、“自分の中で存在するさまざまな自分との向き合い”を堅苦しく表現するのではなくて、みんなが通ってきた親しみやすい御伽噺に例えて、ファンタジーにポップに表現することで、もっともっと皆さんに楽しんでいただけるんじゃないかな?というテーマで制作をしました。そういう意味では、いろんな自分自身の思い出とともに、自分が遂げてきた成長も感じられる、素敵な作品になって仕上がっていると思います」
──どうしてテーマを“御伽噺”にしたんですか?
「私も小さい頃は、御伽噺を読んでいましたし、皆さんも御伽噺で育った方が多いと思うんです。御伽噺から学ぶことはたくさんあって。人とのコミュニケーションの仕方や思いやり、愛情、友情、家族愛とか。そういった感情を、今回のアルバムでも御伽噺のように感じてほしいという想いから、このテーマにしました」
──小さい頃に読んで心に残っている御伽噺はありますか?
「私は『サルカニ合戦』と『カチカチ山』が大好きです(笑)」
──どちらも割と武闘派の復讐劇ですよね?
「そうですね(笑)。正義と悪がはっきりと分かれて書かれているんですけど、大人になってから読むと、“これは本当はどっちかが悪かったのかな?”と思うところもあって。数年前にNHKで『昔話法廷』というドラマを見たんですけど、どの物語にも正義と悪はあるけど、決して悪の方が全部悪いわけじゃなくて。“その人にはその人なりの事情があるんだな“っていうのを感じた時に、”あ、昔話って深いんだ“と思ったんです。子供の頃はただただ読んでいただけでしたけど、実はそこに描かれるまでの物語もあったと思うんです。それぞれの捉え方ができて、それぞれの感性が広がるからこそ、子供の時に通ったわけで。大人になるにつれて、だんだん忘れてきている気もするので、そういうことも思い出してほしいという想いも込めています」

──では、最初に“自分の中で存在するさまざまな自分との向き合い”という言葉がありましたが、これまでの歩みの中で出会った“さまざまな自分”をテーマにお話をお伺いしたいと思います。まず、明るくてポップでファンタジックなリード曲「おとぎましょう」の歌詞はどう捉えましたか?
「“御伽噺”のように現実と非現実が混合された世界になっています。この曲だけでも一気にこの世界にみんなを引き込める楽曲になっていると思いました。歌詞は一見ちょっと不思議で、ファンタジー要素が満載で、“どういう意味なんだろう?”って思うところもあったりするんですけど、ちゃんと向き合うと、すごく深くて…。特におちサビの<おとぎばなしの夢の世界で/本当の自分は笑っていた>は私の好きなところです」
──ここは、ドキッとしました。
「この10年、ソロ活動をしてきた中で、いろいろと挫折や壁にもぶち当たったりして…その度に“本当の自分って何なんだろう?”って思っていました。でも、それが腑に落ちた時に、“あ、本当の自分は笑っていた。大丈夫なんだ。もう私は私のままで大丈夫”と思えたきっかけがあって。ここ最近のことなんですけど、本当に自分の感情とリンクしてすごく刺さる歌詞ですし、歌詞の最後の4行は勇気づけられました」
──その最近あった出来事というのは何ですか?
「やっぱり30代になったことが大きいです。インタビューでもよく、“自分らしさは何ですか?”って聞かれてきましたけど、その都度、“私らしいってなんだろう?”って迷ってしまっていて…。別に飛び抜けて得意なこともないですし、才能の塊なわけでもなくて。どちらかというと苦手なことだらけで、人より劣ってる部分も多いですし…」
──そんなことはないと思いますよ。
「でも、自分の中ではそういう悩みがありました。だけど、そんな私でも“好き”って言ってくれる人たちがいて、応援してくれる人たちがいて、支えてくれる人たちがいて。30を超えてから、一皮むけた自分がいて、逆に、“こんなにへこんでいる自分も人間らしくていいじゃん!”って思えるようになりました。そこからは、少し気楽に考えられるようになって、ポジティブに考えられるようになったことが、このアルバムにも反映されています」
──プロフィールには“《長所》ポジティブ“とありますが、みんなが知っているパブリックイメージのれにちゃんと本当の自分には差がありますか?
「ありました。自分が思う自分と傍から見られている自分のズレにずっと違和感を覚えていました。私は本当はこういう人間で、こういう考え方もするし、失敗もする…そういう歌を唄いたいと思ったときにできたのが「じゃないほう」なんです。「じゃないほう」をきっかけに、だんだんと自分を出せるようになりました。そこから自分の中に心境の変化もあって、“別にへこんでいてもいいし、落ち込んでいてもいい。元気がなくてもいいんだ。いつも元気でいる必要ってあるの?“っていうところから、「ポジティブ・アテンションプリーズ!」ができて…もともと自分はネガティブだと思っていたのが、実はポジティブなんだって。1周回って、”プロフィールに書いている通りじゃん!“ってなりました」
──あのプロフィールを書いたのはいつだったんですか?
「まだこういう活動をする前の中学生の時でした。何も経験をしていない、まっさらな状態の自分が書いていたプロフィールです。やっと最近になって、“自分がポジティブって書いていたのはこういうことだったんだ”ってわかりました。10代の頃の私とやっとつながったというか…」
──れにさんはいつお会いしても裏表がないですし、僕のようにたまにしか会わないライターにもフラットに接してくれるので、ちょっと意外に思いました。
「皆さんと同じように、私もすごくイライラしてしまう時もあるし、“なんて自分は性格悪いんだろう”って思う時もあるんですよ。でも、それもまた別の楽曲の「きみの世界をまもって!」ともリンクするんですけど、少し人間関係がうまくいかない時とか、“なんでこの人はこうなんだろう”って思う時って、あるじゃないですか。でも、とある日にメイクさんから“事情を抱えていない人なんていないんだよ”っていう言葉を聞いて、確かにそうだとと思って。そういう人も、その人なりの事情があるっていう。自分の考えだけをぶつけて、“なんでこの人はこうしてくれないんだろう?”と思っていたのが、その人なりの事情があるから、それは違うよね…そう思えたときに、認めてあげることや受け入れてあげることの大事さに気づきました。ちょっと怖くても、一歩踏み入れることで、お互いに理解し合えるきっかけが作れるんじゃないかな?って思ったことも、ここ最近であって。それが「きみの世界をまもって!」にリンクしていたので、皆さんにもそういう目線で聴いていただきたいです」
──お話を「おとぎましょう」に戻して、この<夢の世界>で笑っている<本当の自分>、最後の4行で描かれている<この星のどこか>で頑張っている<もうひとりの自分>とはどんな存在ですか?
「私は1人っ子なので、話し相手がいない時とか、小さい頃から自分の中の自分と会話していたんです」
──それはイマジナリーフレンド的な存在ですか?
「そうですね。それは、大人になってからもいて。あまり家には嫌なことを持ち込みたくないんですけど、どうしても忘れられない時もあって…寝る前に、もう1人の自分と“今日こんなことがあってさ。どう思う?”みたいな会話をたまにするんです。だから、この歌詞を見たときに、“あっ、もう1人の自分も頑張っているんだ”って思えて。私はパラレルワールドとか、そういう世界も大好きなので。もしかすると同じ世界線にももクロをやっていなかった自分がいて、どこかで過ごしているのかもしれない…もう1人の自分は自分なりに頑張っているのかな?って想像したら、なんだか1人じゃないなって思えて。それは御伽噺のようでもあるし、このアルバムの世界観にぴったりだと勝手に思っています」
──先ほどのお話の中で出てきた4曲についても、改めて1曲ずつ聞かせてください。
──「じゃないほう」はwacciの橋口くんの提供ですが、何かリクエストはしましたか?
「みんなは私のことをこういうふうに思っているけど、歌詞の通りにいい子じゃないし、素直じゃないし、すごくあまのじゃくだしっていう。普段は怖くて出せない、みんなには見せていない面を橋口さんに伝えて作っていただきました」
──「じゃないほう」というのは<もう一人の私>のことですよね?
「自分自身が言った言葉がそのまま反映されていたりもして、すごく刺さりました。“自分をさらけ出す”+“きっとみんなもこういうことを抱えてるよね”と思って。不器用な人ほどネガティブだったり自信がなかったりする人が多いと思うんです…それで、嫌われることの怖さを抱えていて。私もそういう感情を抱えていましたし、きっと皆さんも抱えているんじゃないかと思って。だけど、私だけはそれを聞いても嫌いにならないよって。ファンの方々や、この曲を聴いてくれる方々の心の支えになるといいなっていう想いで、この曲をリクエストしました。すごくぴったりな曲だと思いました」
──隠していた<もう一人の私>を“君”=ファンの人に紹介しているんですね?
「はい。もう、わりと伸び伸びと紹介しちゃっています(笑)」
──そう言えるようになったのは、やっぱり30歳を超えて自分と向き合ったからなんでしょうか?
「29、30の時ってなんだか自分を見失っていたんです。ももクロも周年で忙しくて…。だからこそ、“わたしってももクロにいていいのかな?”とか、“自分のポジションって何なんだろう?”って、すごく考え込んでしまった時期でした。だけど、悩みに悩んで、吹っ切れました」
──どうやって吹っ切れたんですか?
「明石家さんまさんの“生きてるだけで丸儲け”っという言葉を心に刻みました。失敗することのデメリットは必ず生じるじゃないですか? それは極力避けたいですけど、失敗を恐れずに、自分のできることは精一杯やりたいです。そこで、失敗してしまっても“仕方ないか”って思えるようになったというか…。最悪、ここで何か失敗したからって死ぬわけではないですし、“生きていれば丸儲けだから、いいか“って思えるようになったんです」
──この「じゃないほう」にいる私はどんな私ですか?
「みんながイメージしているアイドル=高城れにじゃない私です…ネガティブな自分。ネガな自分も肯定はしているんですけど、“ネガティブな自分を初めて受け入れよう”とか、“じゃあ、これを表に出そう”ってなる強さもあわさって、そんな私がいると思います」
──ネガティヴな自分を受け入れた先に「ポジティブ・アテンションプリーズ!」があって…。
「いろんな自分の壁にぶち当たったあと、“もうここまで来たらポジティブで行くしかないよね”って。“だって、怖いものないんだもん”って思えるようになったんです。そうしたら、周りの方々から“れにちゃん、それ、ポジティブが過ぎるよ”って言われて。例えば、“可愛いね”って言われた時も、今までは“いやいや”みたいに否定していたんですけど、“ありがとう。知ってる”って言うようになりました。仕事は別ですけど、プライベートなことで褒められた時は、もうそのまま素直に受け入れちゃおうって。“じゃあ、ポジティブの境地のような楽曲を作るか”ってことで作っていただきました」
──ファンの方が<あなたのままでいてほしい>と言っていますよね。ポジティブな世界でお互いを押し合って、<今とっても幸せです>と歌っています。
「はい! 幸せです!」
──そして、「きみの世界をまもって!」ですね。
「自分自身を受け入れることも大事ですけど、誰かを受け入れてあげることの大事さもあるっていう。少しパーソナルな部分になるんですけど、そこを分かり合える…怖さがありつつも、そこを乗り越えることで生まれる絆を描いた曲になっています。私もそういう人間でいたいです」
──異世界アニメの主題歌みたいですね。
「ありがとうございます。この曲には<ドラゴン>っていうワードも出てくるので、ファンタジーの中にも優しさがあって、メッセージ性が強い楽曲になっていると思います」
──また、「Lovely Monster」にも、<私のようで私じゃない>や<どの姿も私だわ>というフレーズがありますよね。
「この曲も“自分らしさとは何だろう?”と問いかけています。<ふたり>という表現をしていますけど、自分ともう1人の自分っていうことで<ふたり>というイメージです。私も、鏡ではないんですけど、生活をしていて、自分なんだけど自分じゃない、他の誰かが乗り移ってるんじゃないかな?という感覚になることがあって。だから、すごく共感できます。あと、これは悪い意味で…ですけど、“モンスター”って言われることもあるんです」
──どんな場面でですか?
「騒がしくしている時とか、突拍子もないこと言ったりするときとかに、“本当にモンスターみたいだね”って言われるので、わりと“モンスター”というワードは聞きなじみがあって、自分にぴったりだと思います」
──(笑)そうなんですね。ちなみに「シオン」にも<ほんものの私だ!>というフレーズがあります。さらに<御伽噺が現実へ進んだ>ともあるので、「おとぎましょう」とも繋がっていますよね。
「「シオン」は本当の自分らしさを見つけた曲です。1曲目の「おとぎましょう」から自分の感情を歌った楽曲がバーッと続いて、本当の自分を見つけた瞬間に、“御伽噺の世界から抜け出していくよ!”というメッセージが込められています。やっぱり、特別じゃなくてもいいんだよっていうことかな?…普段、生活をしていると、私の周りにはすごい方がたくさんいて。それこそ“自分の強みって何だろう?”って考えちゃいます。私は何かが特別できるわけじゃないですし、才能があるわけでもないし…っていう中で、“自分自身って何なんだろう?”と思ってしまったこともあったけど、“別に特化しなくてもいいんじゃない?“っていう答えです。私は私なりの生き方で生きていけばいいし、どんな自分も自分だしっていうことをこの曲で表現できていると思います」
──でも、誰もが知っている国民的グループの一員として長らく愛されていますよね?
「そうなんです。でも、グループにいるだけで、じゃあ、何か目立ったことをしているか?といったら、そうじゃない気がしていて。だけど、“私のままでいいんだ“って。ももクロの活動をしていても、ソロ活動をしていても思ったんです。それって、やっぱり周りのスタッフさんやファンの人が気付かせてくれたことなんです。だから、感謝の気持ちでいっぱいですし、「シオン」を聴いてくれている方々にも、そういう気持ちになってほしいです。最後の3行は、1曲目から皆さんをいろんな御伽噺の世界に誘ってきたストーリーテラーでもある私からのメッセージとして受け取っていただきたいです」
──<ありがとうを ずっと>と歌っていますが、ご自身が作詞した「message」でもファンの方々に向けた感謝を伝えていますし、家族や生まれ育った街への感謝の曲もアルバム『OTOGIMASHOU』には収録されています。
「なに1つ欠けても、今の私はなかったと思うので。それこそ、私の一皮むけるポイントとなった“30”というのは節目の年でもありますし、ソロライブ『30祭』をぴあアリーナMMでやらせていただいて。すごく豪華にステージを作っていただきましたし、そもそも、生まれていないとできないですし。両親にまず感謝をしたいという想いで作っていただいた楽曲が「M&S〜ママパパへ〜」です」
──ちなみに「M&S〜ママパパへ〜」は<パパママ>の順ではなく、最初から<ママパパ>でしたか?
「最初は<パパママ>でした。それを<ママパパ>にしました」
──男性を代表して言わせてもらいますが……なんでよ!
「あははは。これはあまり言っていないかもしれないです。『30祭』では演出家さんがちゃんといたんですけど、それまではいなかったんです。全部を自分でやっていたので、今までのソロコンサートのセットリストや演出はお母さんと決めていたんです。この楽曲ができた時も、“新曲の題名さ、「パパママ」なんだけどどう?”ってお母さんに聞いたら、“え? ママを先にしてよ”って(笑)。で、“わかった”って言ってこうなりました」
──娘はそうなりますよね…。

──今回、ストーリーミニブックレットで『まえがみ姫』の作画も担当されていますね。
「“せっかくなら誰もやっていなさそうなことをやりたいよね”となって、最初は本みたいなCDにしたかったんですけど、それは不可能なので、絵本をつけると、大人の方もお子さんも楽しめるんじゃないかな?って。事前にSNSで楽曲と一緒に途中まで公開していたんです。その物語がどうなったかっていう結末は、このアルバムを買わないとわからないので、そこも楽しんでいただけると思います。イラストも私が書かせていただいたので、それも込みで楽しんでいただきたいです!」
──これもママから先に叫んでましたね。
「まぁ、それは“ママー”ですよね。この物語、ほんとうにくだらなすぎて元気が出ると思います。“なんやねん、結局?”って(笑)」
──そして、ソロツアー『高城れに「OTOGIMASHOW」Solo Concert Tour 2025』も決まっていますが、どんなツアーになりそうですか?
「今回はアルバム『OTOGIMASHOU』の御伽噺の世界観を大事にしつつ、皆さんが楽しめるようなストレートライブに絡ませてお届けしたいと考えています。ド派手なことをするっていうよりも、1曲1曲が素敵な楽曲ですし、この楽曲たちを楽しんでいただけるライブにしたいと思います」
──昨年にソロ10周年を迎えて、コンセプチュアルな新作をリリースし、今後はどう考えていますか?
「求めてくださる方が1人でもいるなら続けていきたいです。私はかなり全国を飛び回っているので、私たちを知っているファンの方はもちろん、そうじゃない、その地域の方々ともソロ活動を通じて交流したいです。それをグループにも還元できるとよりいいなと思っています。あと、音楽を聴くことが好きなので、カバーもしてみたいですし、毎回言っているんですけど、パペットスンスンっていうキャラクターとコラボしたいです!」
──紫のパペットがいてもいいですよね?
「作って欲しいです! 今、白い友達のノンノンとグレーのおじいちゃんのゾンゾンと、緑のツクツクがいるんです。新しいキャラクターを作るなら、ぜひ紫でお願いしたいです。そして、その声をやりたいです!」
(おわり)
取材・文/永堀アツオ
RELEASE INFORMATION
LIVE INFORMATION

高城れに「OTOGIMASHOW」Solo Concert Tour 2025
2025年10月2日(木) 愛知 Zepp Nagoya
2025年10月4日(土) 大阪 Zepp Osaka Bayside
2025年10月20日(月) 神奈川 KT Zepp Yokohama