──これまでTSUKEMENでのご活動が中心でしたが、今回はソロで、ということなのですね。どんな経緯だったのでしょうか?

TAIRIK2年前、オーケストラ・アンサンブル金沢さんとチャイコフスキーの《ヴァイオリン協奏曲》を共演したのがきっかけです。改めて自分ひとりで音楽を作り出していくことの難しさと喜びに出会った感覚がありました」

──とくに協奏曲はソリストがオーケストラを引っ張っていかなければいけないですから、そのプレッシャーはさらに大きいですよね。

TAIRIK「そうですね。また、学生時代にずっとクラシック音楽を勉強してきた自分の“原点”に立ち返った感覚がありました。表現力だけでなく、自分が音楽で何を伝えたいのかを問われたような気もして。もっとこういう時間が必要だなと感じたんです。TSUKEMENではアンサンブルの相乗効果によって新しいものが生まれますが、一人で何かを表現するためには自分に向き合って深掘りするしかありません。ただ、そのぶん自分の本当にやりたいことに気がついたり、新しい自分を見つけられる機会も得られます。瞑想のように自分と対話する時間でもありますね。こうしてソロを充実させることで、よりユニットの活動にも広がりがでると思いました」

──CD制作はある意味でその決意が形になったようなものですね。

TAIRIK「ソロの公演を少なくとも年に1回はやっていきたいと思ったとき、自分一人での表現を集めたCDも出そうと思いました」

──アルバムの核となるリード曲「Mother」、そしてアルバムタイトルの『Mother』はどのように決まったのですか?

TAIRIK「東日本大震災から15年、戦後80年という節目の中で、世界では戦争が絶えない状況です。そんな時代に音楽を発信するからには、聴いてくださる方に寄り添い、時には鼓舞するような作品にしたいと思いました。そのなかで浮かんだのが“母親”という存在でした。母親の子どもに対する愛情は見返りを求めないものであり、これこそ平和を願う気持ちの根源だと思ったんです。タイトルが決まったあとは「Mother」を作曲し、TSUKEMENのために書いた自分の過去の作品や、メンバーが自分に向けて作ってくれた曲も含めて、テーマに沿うものを選んでいきました」

──曲順はどのように決めていかれたのでしょうか? 聴いているとすごく自然に流れていきますし、物語のようなものを感じるのですが。

TAIRIK「割とすぐ決まりました。間の曲は何度か入れ替えましたが、1曲目の「風の記憶」は思い入れが深く、今回のテーマの一つである“寄り添う”というものに合っていたのでアルバムの入口に、そして出口を「Mother」に…という構成は早い段階で決まりました。そのなかで緩急もありつつ曲同士が自然につながるような曲順に、という流れを作っていきましたね」

──「JONGARA」や「KIYARI」といった“和”のテイストの楽曲も存在感がありますね。

TAIRIK「「JONGARA」は青森で弾いた津軽三味線の経験、「KIYARI」は、子どもの頃から触れてきた長野の御柱祭で歌われている木遣り唄からインスピレーションを得たものです。これらの体験が重なって自然と“和”が自分の音楽に入り込んできた感じがあります。和を取り入れようと意識したというより、気づいたら自分の中に根付いていたという感覚が近いかもしれません。そしてこの2曲はアルバムのもう一つのテーマである“鼓舞”にあたる楽曲にぴったりだと思いました」

──「KIYARI」に入っている掛け声が印象的なのですが、これはTAIRIKさんの声も?

TAIRIK「はい、自分の声も入っていますし、たまたまレコーディング現場にいた方々にもお願いして(笑)、入ってもらいました。原曲では最後だけ掛け声が入っていたんですが、ライブでは2箇所入れていて、今回は合計3箇所入れています。御柱祭りの木遣り唄には本来合いの手として掛け声が存在していて、物語の最初のシーンを描く上で欠かせない要素なんです。祭りの空気を感じてもらうためにも、どうしても入れたかった部分なんです」

──御柱祭りには実際に参加されたことがあるんですか?

TAIRIK「長野に住んでいたので、小学生の時に参加しました。御柱祭りは7年に1度しかないお祭りで、“木落とし”など危険な場面もあります。その前に山の神様に無事を祈る歌として木遣り唄が歌われるんです。子どもの頃に歌った記憶が強く残っていて、今回の作品にも自然とその感覚が反映されています」

──「JONGARA」は楽譜も出版されているんですよね。

TAIRIK「ありがたいことに、出版社から“和の曲を収録したい”というオファーをいただいて楽譜にしました。トリオ版とデュオ版がありますので、ぜひ皆さんにも弾いていただきたいです」

──今回のアルバムではヴァイオリンとヴィオラを使って演奏されていますね。以前から両方を巧みに使い分けていらっしゃいますが、どのようなきっかけで二つの楽器を使われるようになったのでしょうか。

TAIRIK「割合は悩みましたが、コンセプトに沿って両方使うことにしました。「旋律の彼方へ」は1曲の中で持ち替えています。ヴィオラは学生時代から弾いていましたが、東日本大震災の直後に書いた「天の階」でヴィオラしか出せない音を感じて本格的に使い始めました。ヴィオラは人の声に近いと言われていて、祈りや寄り添いのニュアンスを出すには最適な楽器だと感じたのです」

──ヴァイオリンはもちろんですが、TAIRIKさんの奏でるヴィオラの音色はとても温かく、ピアノとの音色の溶け合いがとても魅力的ですね。

TAIRIK「そう言っていただけるのは本当に嬉しいです。アンサンブルで音を重ねる経験が多いので、和声の広がりや奥行きを自然に感じ取れるのかもしれません。昔からヴィオラを弾くと褒められることが多くて、向いているのかなと思うこともありました。ユニットでの活動でも、バランスの面でヴァイオリン2本とピアノよりは、ヴァイオリン・ヴィオラ・ピアノの方がバランスいいんですよね」

──TAIRIKさんの演奏を聴いていると、旋律楽器であるヴァイオリンやヴィオラから、旋律の裏にあるハーモニーを感じます。作曲もされるからなのでしょうか。

TAIRIK「本当ですか!? それは個人的にめちゃめちゃうれしいお言葉です。どうしてもヴァイオリンやヴィオラは単旋律楽器なので、メロディや細かい音の動きに目がいきがちなんですよね。だから弾く前にかならず全体のスコアを見るように心がけています。あと全体を俯瞰するというのは演奏するうえでもすごく大切なんですよ」

──何かそういうのを実感する機会はありましたか?

TAIRIK「昔、古澤巌さんとバロック・アンサンブルの人たちとガット弦で、ヴィヴァルディの「四季」とピアソラの「ブエノスアイレスの四季」をどちらもバロック・ボウとガット弦を使って演奏したことがありました。そのとき“ヴィオラでソロも弾いて”と言われたのと、ピアソラのバンドのニュアンスを“完コピ”したいといわれたんです。ただそれだと楽譜がないので全部耳コピして楽譜に起こさないといけなくて…。やるしかないので、ホテルの部屋にこもって1日10時間くらいずっと作業していました」

──えぇっ! それじゃ練習する時間なんてないですよね?

TAIRIK「そうなんですよ。リハーサルまで音を出す時間なんて全くなくて。どうなるだろうと思ってたのですが、いざ弾いてみたらすごくよく弾けたんですよ(笑)。これで構造を理解することの大切さを知りました。その時から、自分のパートだけ見ててはダメだなと思うようになりました。なので、今回自分の演奏からハーモニーを感じていただけたというのはとてもうれしい言葉でした」

──今回ピアノを弾かれているのはクラシックの分野で大活躍中のピアニスト、佐藤卓史さんですね。

TAIRIK「数年前にヴィオラのリサイタルでご一緒して以来の共演です。同年代で最も“ツワモノ”のピアニストで、当時ご一緒できたのはものすごくうれしかったです。佐藤さんはアンテナの感度がものすごくて、楽譜から読み取る力が圧倒的なんです。そしてこちらの出すちょっとしたニュアンスや変化をすぐに汲み取ってくれる。“合わせている”という感じがなく、自然に音楽が流れていくんです」

──クラシックでは膨大なレパートリーをお持ちの佐藤さんですが、今回のようにクロスオーバーな楽曲を演奏されているイメージがないので正直意外な共演でした。でも素晴らしいアンサンブルでしたね!

TAIRIK「そうなんです。オリジナル曲にも柔軟に対応してくださって、とくに「ROCK VIOLA」はかなりクラシックとは違うタイプの楽曲なのですが、すごくノリノリで弾いてくださって。佐藤さんのすごさを改めて感じました。しかも「Mother」は完成がギリギリで、リハーサルの時点ではまだできていなかったんです。でも佐藤さんは“大丈夫ですよ”と受け止めてくれて、レコーディング前日にお渡しした楽譜をすぐに弾きこなしてくださったんです。佐藤さんじゃなかったら今回のアルバムは成立していなかったんじゃないかなと思いますね」

──定期的にソロ活動もされていくということでしたが、今後の計画はありますか?

TAIRIK「毎年、1曲はクラシックの大曲に向き合いたいと思っています。今年はフランクのヴァイオリンソナタを佐藤さんと演奏します。自分の音楽の姿勢を磨き、TSUKEMENの活動にも還元できるようにしたいです」

──最後に、encoreの読者の皆さんにメッセージをお願いします。

TAIRIK「歌詞のない音楽は聴いてくださる方それぞれのイメージが広がり、自分自身と会話する時間にもなると思います。落ち込んだ時、元気がない時、励ましてほしい時…そっと寄り添える音楽になれたら嬉しいです。生活のお供にぜひ聴いていただき、気に入ったらリクエストもしてみてください」

取材・文/長井進之介

RELEASE INFORMATION

TAIRIK『Mother』

2026年7月29日(水)発売
KICC-1656/3,300円(税込)

配信はこちら >>>

TAIRIK『Mother』

LIVE INFORMATION

TAIRIK ヴァイオリン&ヴィオラ 二刀流リサイタル

8月1日(土) 長野市芸術館 昼夜2公演
https://tiget.net/events/472290

8月3日(月) 浜離宮朝日ホール 昼夜2公演
https://tiget.net/events/481214

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