──最初に1st Album『Dawn Light』が完成した感想から聞かせてください。
「メジャーデビューして今年で3年目になるんですけど、アルバムを作るのはずっと夢だったので、ようやく初めてのアルバムをリリースすることができてすごく嬉しいです」
──ご自身としては初のアルバムをどんな作品にしたいと考えてましたか?
「まず、“できるところはこだわりたい“と思っていたんですけど、テーマやコンセプトを先に考えていたわけではなくて…。ただ、制作を進めていく中で、“私は楽曲を通して光を求めているんだ”ということに気づきました。かなりネガティブなことも書いてはいるんですけど、自分の痛みや迷いと向き合いながらも、最終的には希望を求める曲が多かったので、そういう意味のアルバム・タイトルにしたいと思っていました」
──『Dawn Light』は日本語に訳すと“夜明けの光”になりますね。
「はい。夜のイメージが悲しくて寂しいだけではないんですけど、暗闇や絶望にも希望を持たせられるような歌を歌っていきたい、そんな曲を作っていきたいという想いがあって。あと、“これまでの集大成”という意味でも、ひと言で言うなら“夜明けの光”のようなアルバムであり、私はそんな“夜明けの光”をもっと届けていきたくて、このタイトルをつけました」

──では、<光>というフレーズが出てくる曲について詳しくお伺いしてもいいですか? まず、オープニングを飾る「EYERIS (Re:Mix)」では<この歌が光になるなら/僕の声よ届いて>と歌っています。
「私が初めてリリースする曲で、どう表現したらいいか…最初はなかなか言葉が出てこなかったんです。でも、とにかく自分の声を届けたくて。最初に<僕の声よ導いて>ってフレーズが頭に浮かびました。そこから、“歌は目には見えないものだけど、見つけてもらえるように、諦めずに歌い続けたい“という想いを書きました。自分の中でプロローグのような曲になっています」
──その“諦めない”という姿勢、信じ続ける強さはSERRAさんの歌声の根底に共通して流れているメッセージですよね?
「よく、“諦めるのは簡単だ”って聞きますけど、私はもう、執着に近いくらい、歌に対しての熱量があって。常に一緒に生きてきたものですし、根本的にはもう離れられないと思っています。ただ、数字だったり、実力だったりっていうところで結果が出せずに“やめてしまおうかな?”って瞬間もありました。それでもやっぱり…」
──そこで、“それでもやっぱり”と思えたのはどうしてですか? 「EYERIS」でも“歌いたい=生きたい”と叫んでいますよね。
「第一には、私が歌うことで喜んでくださるファンの方々の存在です。みんなの顔を思い出す瞬間があるのと同時に、結果が出せなかった悔しさがあって…。このまま終わった先の未来を想像した時に、絶対に後悔する。だから、ここでやめちゃ駄目だって思いましたし、私を表すには歌しかない。歌わないと表現できなかった自分だったから、です」
──聴き手をご自身の歌=“光”で照らしたい?
「そうですね。お花のアイリスの花言葉の中に“希望”があって、人の目の中にもアイリス(虹彩)があって。目に入る光の量を調整する機能なんですけど、光や希望を象徴するような曲が書きたかったんです。私の歌を聴いて喜んでくださる方がいるっていうのが、私にとっての希望で、嬉しいことですし、そんなみんなを希望の光に導けるような歌をこれからも歌っていきたくて」

──ラストナンバーのバラード「Mira」でも<あなたのこころを 照らすの>というフレーズがあります。
「実はかなり前からある曲で、ミラという星をテーマにして書いていたんです。変光星で、光量が時期によって違う星なんですけど、“見えなくてもそばにいるよ”という想いを歌っています。この『Dawn Light』に収録するにあたって、もともとあったデモとは歌詞をガラッと変えました。リリースしていなかった曲なので、ファンの方には分からないんですけど、改めて、自分の“光”という象徴のような歌詞にしたくて。あと、SNSでアカペラの投稿をたくさんやってきたんですけど、その際にランタンを持って歌っていたんです。それも“光”ですよね?」
──そうですね。この曲で<あなたの居場所に 明かりを灯すから>と歌っているのはあのランタンだったんですね。
「そうです。偶然というか、必然というか。やっぱり私は“光”という存在を見つめているんだと感じて。だから、ランタンのような温かさを歌詞に込めたかったですし、ランタンのように近くにいて照らしてくれる、優しい曲にしたかったんです。私はかなり繊細なタイプで、夜に急に寂しくなる瞬間があるんですけど、この曲を聴いてくださる人も、私と同じように孤独を感じた夜に「Mira」を聴いて、朝を迎えてくれるといいなぁと思って。このアルバムの中では一番リスナー、ファンの方に近い曲だと思います」
──先ほどアカペラ動画の話が出ましたが、この1年はアカペラ動画の投稿による拡散計画を実施して、今年6月にはオフィシャルYouTubeチャンネルの登録者が10万人を突破。「抜錨」のカバー動画が現在、300万回を突破しています。SNSを通して全世界から反響があることをどう感じていますか?
「まさかこんなにたくさんの方に聴いてもらえるとは思っていなかったです。アカペラ動画を始めて、バズりかけてきた時に、たくさんの方から“「抜錨」を歌って”ってコメントをいただいて。私もボーカロイドが好きなんですけど、当時はまだ知らない曲だったんです。でも、リクエストがあまりにも多かったので、“そんなに言ってくれるのなら、歌ってみようかな?”と思って歌ったところ、“こんなに!”って驚くくらい世界中に羽ばたいて。その後、最初はサビのアカペラだけだったので、“フルのアカペラが欲しい”という声をいただくようになって。フルのアカペラはちょっと想像がつかなかったんですけど(笑)、前奏や間奏を抜いたアカペラをフルで投稿すると、それも喜んでいただいて。本当に私の声が届いている、好きになってもらえている瞬間を実感したというか…。それこそ、「EYERIS」の<僕の声よ導いて>という部分が実現しました。“アカペラが本当に導いてくれた”っていう瞬間でした」
──ありがとうございます。『Dawn Light』にはアルバム用の新曲がもう1曲収録されています。「現実逃避モード」はどんなところから作った曲ですか?
「今まであまりなかったデジタルポップのようなサウンドの曲を作りたいと思っていたのがきっかけです。テーマとしては、生きにくいと言われている時代の中で、“やっぱり息抜きも大事だよ“ってところで…」
──SERRAさんにとっての息抜きって何ですか?
「歌もそうなんですけど、普通の衣食住もそうです。食べるのも寝るのも息抜きになりますし、ゲームが好きなので画面を見つめている時間は多いかもしれません。<最幸速デジタルな海へとto DIVE!>って歌詞があるんですけど、そこに逃げ込むような形です。現実逃避は一見ネガティブな意味のように捉えられますけど、とても大事な息抜きだと思います 。きっと真面目な方が多いと思うので、心が疲れてしまう前に“逃げても大丈夫だからね”っていうことを伝えたいです」
──言葉数も多くて、メロディの上下も激しいアッパーチューンですが、メッセージソングでもあるんですね。また、シングルCDや配信でリリースした既発曲8曲も収録されています。何か転機になった曲はありますか?
「やっぱり、1stシングル「Always and Forever」ですね」
──TVアニメ『彼女が公爵邸に行った理由』のエンディングテーマでした。
「初めてタイアップをいただいた楽曲なので、すごく嬉しい気持ちと、“頑張らなきゃいけない”という覚悟が生まれて。原作を最後まで読み切った上で、自身と主人公を重ねながら書きました」
──ご自身の心情と重なったのは?
「“生き続ける”、“諦めない“って部分がすごく大きいと思います。主人公は”絶対に生き続ける“って想いがあって。そこに重なって私も”生き続ける、そして歌い続ける”っていう部分を描いていますし、原作を最後まで読み切った上での語りもあるんです。コーラスの部分は原作ファンの方に届いてほしい想いと私の想いも混ぜていて…」
──英語のフレーズですよね。
「<生まれ変わっても、あなたのそばで歌っているよ、永遠に>って。生まれ変わったらどうなっているかな?って想像した上で、“もし生まれ変わっても歌い続けたい”っていう想いを書いています」
──ここで歌っている<揺れた灯り>というのはどんなイメージですか?
「命です。蝋燭がどんどん溶けていく…灯りが消えてしまったら、蝋燭には意味がなくなってしまう。そういったところで、揺れ動く感情だったり、いつ死んでもおかしくはない人生を重ねています。“生き続けたい”っていう部分と、“命がなくなってしまう前に誰かを愛せるように、そして、私自身も愛せるように“という想いです。そして、個人的には「テノヒラ」も転機になっています」
──そうなんですね。
「これまで、ポップで爽やかな曲を歌う機会があまりなかったので、「テノヒラ」は私の中では大切というか…等身大に書いた楽曲ではあります。さっき、“諦めたくない”って言ったこととも近いんですけど、やりたいことがあっても、つい、いろいろな言い訳をしてしまいがちだったんです。“私にはまだ無理だな”とか、自己否定をしてしまう癖があったんですけど、そういうネガティブな自分を叱咤激励するような曲です。昔の自分や、きっとこれからの自分もまた自己嫌悪に陥ることがあると思うんです。そういう自分に対してだったり、やりたいことや諦められないことがある人に向けて、私の想いをそのままを書きたいと思って書いた曲です。爽やかで驚いた方も多いと思うんですけど」
──シンプルでストレートなギターロックが意外でした。タイトルの「テノヒラ」というのは?
「誰かと手を重ねる…絆のようなイメージを持たれていたりするんですけど、これは自分の胸に手のひらを重ねたときの、自分の気持ちを確かめる「テノヒラ」なんです。自己の認識というか、想いを素直にして自身の世界を彩っていくような…そんな曲なんです」
──ここで歌っている<叶えたい夢>や<なりたい色や未来>というのは?
「幼いころから歌手を夢見てきたので、その中での葛藤を描いています。そして歌手になれた今は“Zeppのステージに立って、SALTY DOGのメンバーと復活する“という目標を掲げています。かつて私が所属していたバンド、SALTY DOGで私は結果を出せませんでした。そのラストライブで公言してから言い続けていることです。ZeppでSALTY DOGを復活させる。さらに、SERRAとして、東京ドームに立ちたいという夢もあって…。とても大きな夢ではあるんですけど、この声がある限り歌い続けます。楽曲でもライブでも、本当にそばにいるような…、レース1枚くらいだけの肌感で寄り添えるような歌を歌っていきたいです」
──そのレースで目を隠してる理由を教えてください。
「えっと…恥ずかしいから」
──そうなんですか?
「恥ずかしいからっていうのがあるんですけど、歌っている時に気持ち的に楽というか、落ち着くんですよ。恥ずかしさや人目を気にせず歌に集中できるので」
──目を見せないことと光を歌っていることは何か繋がっていますか?
「かなり視界が悪いんですけど、隙間からは見えています。でも、光がないと何も見えないんです。だから、この隙間から入ってくる光と、楽曲の中で切り取っている、深い闇を超えた先に差し込む微かな光は通じていると感じていて。これからも“光”ってワードだったり、希望や夜明けを感じる部分を歌っていくと思います」
──アルバム『Dawn Light』として10曲がまとまって、“SERRAらしさ”は見つかりましたか?
「やっぱり激しい楽曲が合うなと再認識しました。自分で言うのもなんですが、“感情の歌姫”と名乗れる歌声だと思っていて。その中でも「偽済世 (Re:Mix)」は激情的に激しく、心の奥底の思いを吐露するように歌っています」
──スピーチというか、語りみたいな部分もありますね。
「ただの間奏ではなくて、歌だけじゃ伝わりきらない何か…モノローグのような語りを入れたいと思って。“自己否定している自分を客観的に見つめている“というか、自分自身を見て、”こんな姿だったんだ“って向き合う瞬間を語りで入れています。そして、最終的には<どうかあいして>になってるんですけど」
──<ねぇどうして>という自問自答の末に<どうかあいして>に辿り着きます。
「この曲は社会や他人への疑問や不満に対しての「ねぇどうして」から、自己否定してしまう自分への「ねぇどうして」になって、最後には「どうかあいして」に行き着くんです。 愛の形って人それぞれだと思うんですけど、悪気なく“あなたの為だよ”と押し付けられることもありますし、誰かの愛を信じて生きていても救われないと感じることがあって。気づいたら自分の痛みなんて分からなくなってしまうような、そういう“愛”が“哀”へと歪んでいく悲しみや嘆きを歌っています。これもきっと見方次第なんですよね。結局、自分を愛せるのは自分しかいないのかなって。そうやって嘆いてしまうのは“自分自身を愛せていないから”かもしれない…だからこそ、この曲には自分を認めてあげたい、愛してほしいという想いを曲に込めました」
──最後を<どうかあいして>と平仮名にしたのはどうしてなんですか?
「そこが気になってくださったんですね! ありがとうございます。“哀しい”の“哀”も“あい”と呼びますよね。中には哀しみの“哀”に救われる人もいると思って。 “あい”は人それぞれですし、最後は押し付けたくなかったんです。“哀”はいらないとは歌っていますが、心地いい人もいるよねっていうところで、ここはあえて<愛>と書かずに<あい>にしました」
──<ねぇ いないの あたたかいもの/きょうもないて ないて>も平仮名になっています。
「ここは、愛したかった本当の自分です。なんというか、自己否定をして泣いている幼い自分…素直になれたはずの自分を表現したくて。心の中の根底にある正体というか、そこからの想いを平仮名にしています」

──アルバム全体を通して、“生きること”と“愛すること”は共通のテーマのようになっていますね。
「そうですね。本当に“自分自身を愛するとは何だろう?”って思う瞬間があって。今までは自身を見つめて、向き合う時間があまりなかったんですけど、“深く向き合って曲を書こう“と思って出来上がったアルバムになりました」
──1st Albumを心待ちにしていたリスナーにはどう届いてほしいですか?
「お仕事だったり、学校だったり、日々の生活で、息苦しい瞬間や悲しい出来事ってたくさんあると思うんです。そういったときに寄り添えるアルバムだと思います。リラックスできるかはわからないですけど(笑)、自分の吐き出せない感情を代弁してあげられる存在になれたらいいですね」
──ヘヴィでラウドな曲がメインですが、感情が解放されるという意味でのリラックスはあると思います。そして、9月には1st Album『Dawn Light』Release Partyとしてのワンマンライブも決定していますね。どんなライブになりそうですか?
「私にとって人生で初めてのアルバムで、本当に大切な宝物が生まれたという感覚があるんです。その宝物を持ってライブをする。改めて、アルバムが完成して届けられた上でのライブというのは、本当に嬉しいことですし、世に放たれた楽曲たちの本物の歌をライブで見ていただきたいです」
──1st Albumのリリースとワンマンライブを経て、その後はどう考えていますか? 最後に今後の目標を聞かせてください。
「アルバムをリリースした後も、もっとたくさんのオリジナル楽曲をリリースして、Zeppへの道を目指していきたいです。そのZeppへの道を“Road to Zepp”という形でRelease Partyとは別のストーリーを作っています。2023年から"CЯEATION -クレアシオン-"シリーズと題したライブをやっているんですけど、そのストーリーが現在は3rd LIVEで終わっているので、次の4thに向けて準備していきたいと思います」

(おわり)
取材・文/永堀アツオ
写真/野﨑 慧嗣
RELEASE INFORMATION
LIVE INFORMATION

SERRA ワンマンライブ1st Album『Dawn Light』Release Party
2025年9月7日(日) 東京 渋谷clubasia ※バンドセット
SERRA ワンマンライブ – 1st Album 『Dawn Light』 Release Tour
2025年9月28日(日) 愛知 今池3STAR ※バンドセット
2025年12月12日(金) 大阪 梅田BANGBOO ※バンドセット
iCO × SERRA presents 「RETRIEVAL - リトリーヴァル」
2025年11月2日(日) 東京 Shibuya eggman
出演 iCO/SERRA ※バンドセット