──スタジオジブリの名曲がたっぷりと収録されたトリビュートアルバム『ジブリをうたう』には、数々の有名アーティストが参加した、素敵なアルバムとなりました。今作はどのように生まれたのでしょうか?

「僕自身、ジブリの作品が大好きだからこそ、ジブリ映画のすばらしさ、さらにジブリ映画に使われている音楽のすばらしさに光を当てたものを作りたいと考えていたんです。そこでジブリの宮崎吾朗さんに“これまでの主題歌や挿入歌を今のアーティストがカバーするアルバムを作りたい”という企画を申し入れたら、プロデューサーの鈴木敏夫さんから“吾朗くんと武部さんのふたりでぜひやってみてください”と任せていただき、実現することが出来ました」

――すごく嬉しい事ですよね。

「嬉しかったですね。その時に、今までジブリ映画を見てこなかった人達が、このアルバムを聴くことによって、初めて曲を知ったり、映画を見てみようと思えるような“入口”となれば最高だと思ったんです。そこで、今、旬な歌声を持っている人や、僕が一緒にやってみたかった人、それから俳優さんやアイドルなど、いろんな側面を持っている方たちをピックアップさせていただきました。その時に、決して偏ったジャンルになるのではなく、バリエーションが豊富になるようになることだけは、気を付けました」

――たしかに、くるりの岸田繁さんや、幾田りらさん、玉井詩織(ももいろクローバーZ)さんなど本当に幅広いですね。なかでも“一緒にやってみたい”と思ったのはどなただったのでしょうか。

「今回初めてお仕事をご一緒したのが、岸田さんと、幾田りらさん、角野隼斗さんです。この3名は僕が熱望して声をかけさせていただきました。とくに岸田さんはジブリ愛をものすごく持っていらっしゃったので、企画の最初の段階で、SNSのDMで声をかけさせていただいたんです」

――DMですか!?

「はい(笑)。最近はDMでお願いすることが多いですね。そしたら、快諾してくれただけでなく、僕がアレンジしたものを歌いたいと言ってくださったんです。それは本当に光栄なことでしたね。そこでデータを何度もやり取りをして、最終的に一緒にレコーディングスタジオに入り、ディレクションをする形で完成していきました。このやりとりをする中で、かなり絆が深まったと思います」

――岸田さんが歌う「となりのトトロ」の選曲はどのように決まったのでしょうか?

「岸田さんがこの曲をリクエストしてくれたんです。実際に岸田さんの歌を聞いたときに、あまりにハマっていて、“これは1曲目だ!”と確信しました。こういったトリビュートアルバムは、曲順を決めることが本当に難しいんですが、この曲がガチッとハマったおかげで、その後の流れが作りやすくなりました」

――幾田りらさんとも初めてのお仕事だったんですね。

「はい。実際にあの歌声を聴いてみたかったですし、その声をディレクションすることがすごく楽しみでした。これは岸田さんのときもそうでしたが、もともとあるみなさんのチームで制作した曲を納品してくれるのではなく、“武部さんのディレクションで歌いたい”と言ってくれたことがすごくありがたかったですし、やりがいがありました。あの旬な歌声、勢いのある歌声は本当に素晴らしかったですね。それに、今回はYOASOBIでは聴くことが出来ない、どちらかというとシンガーソングライター、幾田りらとして、僕のピアノとストリングス、ハープと一緒にその場で歌ってもらうことをお願いしたんです」

――生の演奏の元で歌うと歌声も、楽器の音色も変わりそうですね。

「ものすごく変わりました。生で歌う良さとして、楽器のプレイヤーが歌の表情に寄り添うことができ、それに刺激されて歌も変化していくんです。ミュージシャンとボーカリストのコミュニケーション、化学反応を感じた曲になりました」

――幾田さんは『千と千尋の神隠し』から「いのちの名前」を選曲されていますね。

「とても思い入れのある曲のようで、気持ちよさそうにパフォーマンスをしてくれたことが嬉しかったです。新たな幾田りらの魅力が詰まっていますし、いまTikTokで彼女がこの曲を歌っている映像が流れてくると、そこにみなさんが注目してくれていることが嬉しいですね」

――そのほかの曲はどのように決まっていったのでしょうか。

「玉井詩織さんは、ももいろクローバーZの音楽番組『しおこうじ玉井詩織×坂崎幸之助のももいろフォーク村NEXT』で、毎年1回、松本隆さんをゲストに呼んで、“松本隆縛り”というイベントをしているんです。それなら、松本さんが作詞をした「風の谷のナウシカ」の曲がいいのでは?ということでお願いしました。さらに、「テル―の唄」も、アカペラから始まる曲なので、Little Glee Monsterにお願いしました」

――リトグリは、新メンバーが入ってさらに良くなりましたよね。

「そうなんですよね。新メンバーをうまくフィーチャリングしたいと思い、Aメロが6回あるからこそ、6人がそれぞれ歌えるように譜面をアレンジさせていただきました」

――アレンジする際に大事にしたことはどんなことでしたか?

「今回アルバムを作るとなった時に、あらためてオリジナルの曲たちを聞いたら、“絶対に勝てない”と思ったんです。やっぱり、オリジナルが持っている力がすごいんですよね。そこに勝負しようと思っても無理だと思ったので、まずアーティストに寄り添った音作り、そのアーティストらしいサウンドにしようと考えました」

――家入レオさんや、Wakanaさんは古い付き合いだからこそ、制作しやすそうですね。

「そうですね。これまでレコーディングやライブを共にしたことがある人は声の性質を理解しているんです。Wakanaなら「もののけ姫」がいいだろうなって思ったし、こう歌ってくれるだろうという確信があったんです。なので、角野くんは自分でピアノを弾く方なので、アレンジをしていただきましたが、それ以外は全曲僕がアレンジを担当しました」

――それは想定外でしたか?

「想定外でしたね。でも、完成してみて、必然的にそうなったのかなと感じていて。でもなによりもみんながジブリを愛していることがわかったことがすごく嬉しかったです」

――武部さんは、ミュージシャンとのコミュニケーション能力が本当に高い方だと感じているのですが、どんなことを大事にされているのでしょうか?

「アーティストって、フロントに出て、いろんな風を受ける立場で仕事をしていますよね。僕はそれを支える立場として、その気持ちを理解したいと思っていて。ある人は手取り足取りやってほしい人もいれば、ある人は自分にすべて任せてほしいという人もいるんです。さらに、音楽を作る過程でナーバスになる人もいれば、いろんなタイプのアーティストがいるので、そこを理解して、サポートするのが僕の仕事だと思っています。なので、ものすごく盛り上げたり、何かが出てくるのを静かに待つということも。そこでは、アーティストファーストであることを何よりも大事にしています」

――ミュージシャンでありながら、マネジメントの側面もあるんですね。

「そうですね。音楽をクリエイトするだけじゃなくて、マネジメント的なことにものすごく興味があるんです。プロデューサーって、いろんな人がいて、音だけ作り、それがどう世の中に届くかはノータッチの人もいれば、僕のように、届くまで自分で把握したいし、お手伝いしたいと思うタイプがいるんですよ」

――様々なアーティストにインタビューをする際、武部さんがプロデュースされた方は、楽曲の説明をする際に武部さんの名前が必ず出てくるので、いつもどんな関わり方をしているのかすごく気になっていました。

「あはは。嬉しいですね。なによりもやっぱり、コミュニケーションが必要だと思っています。アーティストって、みんながどこか不安だったり、自分に自信がなかったりする部分があるんですよね。そこをうまくカバーしてあげたり、理解してあげたりしながら、一緒に作っていくのがプロデューサーだと思っています。それに、僕は、音楽って作っている人の想いが乗るものだと信じていて。それは演奏も歌もアレンジもそうなんですよね。作っている側の情熱が必ず音に乗ってリスナーに届くからこそ、そこを大事にしたいと思っています。なので、決して自己満足でいい音楽が出来たとか、そういった思考になることはないですね」

――常に届く先を考えているんですね。

「もちろんです。それに、音楽に、いいも悪いもないんですよ。それはすべて好みなので、なによりもそこに気持ちを込めることを大事にしています。たとえば、今回SUPERBEAVERの渋谷龍太くんの歌った「時には昔の話を」はとても素晴らしいんですが、その曲の背景にある反戦にも、想いを巡らせてくれたら嬉しいですね」

――ちなみに、武部さんが一番好きなジブリ作品はどれになりますか?

「どれも本当に素晴らしいですし、奥が深すぎてなかなか選べないのですが、やはり関わらせていただいたという意味で、『コクリコ坂から』は思い入れが強いですね。そこで学んだことは、今の僕の仕事にすごく活きているんです」

――どんなことでしょうか?

「大きく2つのことを学びました。ひとつは、“一番いい瞬間を切り取らなくちゃダメ”ということ。実は、宮﨑駿監督が、『コクリコ坂から』のポスターを書いているときに、鈴木さんが途中で止めて、“これ以上書かなくていいから”と言って、鉛筆の線が残っていて、色が完全に塗られていない状態のものを採用したんです。手嶌葵さんの主題歌も、スタジオでレコーディングした歌声よりも、デモの歌声を採用したんですよね。そういった、その瞬間のきらめきをしっかりとキャッチすることが大事だと教えていただいたんです」

――それは大きなターニングポイントとなりましたね。

「そうですね。あと、もう一つは、10人中9人が反対しても、1人がいいというものを貫き、作ることを学びました。ジブリって、あれだけ大きなプロジェクトですし、世界的な作品を作っていますが、決断しているのは鈴木さんと宮崎さんの2人だけなんですよね。それに、いろんな人の意見を取り入れた末に、よくわからなくなることって、意外と多いんです。だからこそ、“アーティストファースト”であることの大切さを、教えてもらいました」

――そんな素敵な楽曲が収録されたジャケットにも、大きなこだわりを感じました。

「実は、タイトルの打ち合わせのためにスタジオジブリに行った時に、僕は違う案を考えていたんです。でも、吾朗さんに話したときに、“もっとわかりやすい方がいいのでは?”ということで、『ジブリをうたう』のロゴを書いてくれたんです。それがあまりにも良くて、即座にこのタイトルに決定しました。さらに、イラストを描いてくださることになり、“音楽が聞こえてくるようなものがいい”とリクエストをしたところ、このジャケットに仕上がりました。すごくいいですよね?」

――はい。本当に素敵です。たしかに、歌が聴こえてきますね!

「このジャケットを手に取って、なじみのある曲を、いろんなアーティストが歌っている。そこから新たな発見がたくさんあれば最高ですね」

――この作品に参加したアーティストたちも参加するライブが開催されるんですよね?

「そうなんです。スケジュールの都合で参加できない方もいますが、かなり素敵なライブになるのではと思っています。ぜひ、ジブリを愛するアーティストが集まる、夢の競演をお楽しみください!」

(おわり)

取材・文/吉田可奈

RELEASE INFORMATION

スタジオジブリ トリビュートアルバム『ジブリをうたう』

2023年111日(水)発売
通常盤/VICL-658943,400円(税込)
2024年1月10日発売
アナログ盤/VIJL-60311〜VIJL-60312/5,500円(税込)
ビクター

配信情報
主要ストリーミングサービス・ダウンロードサービズにて11/1()より配信スタート。
※音楽ストリーミングサービス:Apple Music、Spotify、YouTube Music、LINE MUSIC、Amazon Music、Deezer、AWA、Rakuten Music、KKBOX、TOWER RECORDS MUSIC

11月1日(水)より配信スタート

スタジオジブリ トリビュートアルバム『ジブリをうたう』

2023年111日(水)発売
ジブリ関連ショップ限定盤/NCS-102843,400円(税込)
 どんぐり共和国などジブリの関連ショップのみでのお取り扱いとなります
 収録楽曲は通常盤と同じとなります

LIVE INFORMATION

武部聡志プロデュース 『ジブリをうたう』 コンサート

日時:2024年3月27日(水) 18:00開場/19:00開演(予定)
会場:東京国際フォーラム ホールA

武部聡志プロデュース 『ジブリをうたう』 コンサート

スタジオジブリ トリビュートアルバム『ジブリをうたう』 関連リンク

一覧へ戻る