──三阪さんは昨年4月の誕生日で20歳になって約一年が経ちますが、何か変化したことなどありますか?

「20歳になって自分のライフスタイルが変わったり、聴く音楽だったり、触れるものも結構変わったなという印象があります。なるべくいろんなものに触れるようにしていて、最近は結構好きなものが増えました。私生活の方ではサッカーが好きだったり、編み物にはまっていたり、パンを作ったりと結構充実しているんですけど、音楽もそれと一緒で、今まで以上にいろんな方のMVを見るようになったり、聴く音楽も今までJ-POPが多かったんですけど、最近はHIP HOPも聴くようになったりとか、幅も増えてきたんじゃないかなって思っています」

──そこでご自身の音楽性についても振り返ることがありましたか?

「そうですね。小学4年生ぐらいからライブ活動を始めたので、実質音楽をやり始めて10年くらい経つんですけど、長くやっているとやりたいとか楽しいっていう感情よりも、やらなくちゃとか楽しませるためには?みたいな、そういう思考になっていった時期があって。今は自分がやっている音楽とは別のジャンルを聴いたり、音楽とは別の世界のものに触れてみたりすることで、そういうワクワクした気持ちがまた生まれてきたんです。それが自分にとってすごくポジティブな感情で、音楽に対してもまたちょっと新しい気持ちで、ゼロからではないんですけど、考え方を変えて音楽に触れられている気がします」

──今回の「tamerai」や、2023年にリリースした三作「恋の計画」「2」「冬だより」は、歌ものポップソングになっていますが、それ以前に発表されていたR&Bやクールなダンスミュージックで培った発声やグルーヴがその中にしっかりと反映されていて、三阪さんのカラーとして身につけてこられたのだなと感じました。

「ありがとうございます。もともとカバーを歌っていた時から、いろんなジャンルの歌を歌うことが好きだったんです。聴いている方からすると、方向性が定まってないなというふうに聴こえている方もいらっしゃるかもしれないですけど、やりたいことは何でもやりたい。インディーズの頃からR&Bをやったり、ロックっぽいものをやったり、EDMっぽいものをやったり、いろんなジャンルをやってきた中で、「恋の計画」からの4曲はかなりやりたいことが定まっていると思います。“三阪咲のスタイルってこうだよね”っていうものをみなさんに届けたいなと思って作ってきた曲たちだったので、そういう意味では今までやってきたことを活かせている部分かな?と思います」

──ただ今回の「tamerai」は昭和歌謡テイストの曲で、昨年リリースした三作とはまたちょっと違いますよね。

「この「tamerai」も、デモ自体は前二作と同時期に選定した曲で、その中で「tamerai」は実はいちばん最初にリリースしたいと思っていたんです。だけど「Singing for the night sky」(202211月リリース)から一年空いてすぐのリリースがこの「tamerai」だと、かなり変化球なのでビックリさせてしまうかな?というのがあって(笑)。“これからの三阪咲はこうだ!”みたいなものを作っていくにあたって「tamerai」は最後に出そうということになりました。それと、この曲は自分で歌詞を書きたいというのもあったので、時間をかけて納得したものをしっかりと打ち出していきたいという思いもありました。たくさんの人に聴いてもらえる曲になったんじゃないかなと思っていたので、じっくり温めたかったんです」

──歌謡曲っぽいものを、というのは三阪さんのリクエストだったのですか?

「そうなんです。この曲の選定は去年の8月末〜9月ぐらいにやったんですけど、ちょうどその時期に私が昭和の曲だったり、歌謡曲にはまっていて。それこそ杏里さんや中森明菜さん、松田聖子さんとかの音楽を聴いていたんです。今のこの時代に結構刺さるものがあるんじゃないかな?と思っていて、そういう話をしていたので、この曲があがってきた時に、“これだ!”とビビッとくるものがありました」

──こういう歌謡曲テイストの曲に、昭和時代の言葉をあえてはめるという手法で作られた楽曲も最近よく耳にしますが、「tamerai」の面白いところは三阪さんの今の感性のままの言葉が、うまく楽曲にはまっているところだなと思いました。作詞をするうえで意識されたことはどんなことですか?

「最近の曲って難しい言葉とか、試行錯誤して計算された感じの歌詞が結構多いんですけど、昔の曲ってすごく表現の仕方がストレートで素敵なんですよね。だからこの曲を書くにあたっては、“いなたさ”みたいなものが自分の中でのポイントでした。ファッションにしてもそうなんですけど、どこかしら“いなたさ”をもたせることが、最近の私の中の流行りなんです。“ためらい”っていうワードも私の中では“いなたい”言葉で、昭和チックにも見えるけど、自分の中のそのポイントを意識して書きました」

──<お揃いのマフラーに 頬が誘われたら>って表現、いいですよね。

「ありがとうございます!私も好きな部分で、お気に入りです」

──メールではなく、手紙で思いを伝えようとしている部分は、ちょっとレトロなところを意識されたのかなと思ったり。

「人と会ったり話すことのハードルって、今は結構低いじゃないですか。いつでも会えるし、すぐに連絡も取れるし。だけど昭和の時代はそうじゃなかったと思うので、その切なさみたいなのがすごい素敵だなと思って、あえて手紙にしてみました」

──三阪さんは手紙を書いたりしますか?

「私、結構手紙を書くんですよ。ワンマンライヴの前にバンドメンバーさんにお手紙を書いて渡したりしています」

──そうなんですか!?素敵ですね。あと<黄色のマフラー>が出てくるんですけど、どうして黄色なんですか?

「私の一番好きな色が黄色だから(笑)。それで黄色のマフラーにしたんですけど、アレンジャーの江口亮さんと歌詞の話をした時に、“黄色いハンカチはすごい幸せな感じがする”って言われて、なおさら黄色がいいじゃないかってことで黄色にしました」

──それは昔の映画『幸福の黄色いハンカチ』のことですかね。黄色いハンカチをぶら下げて待っているっていう。

「それです。いいですよね、いなたいです(笑)」

──「tamerai」は片想いの心の機微を描いていますが、三阪さんご自身はこの歌詞のように悶々と考えてしまうタイプですか?

「私は結構ガツガツいくタイプです(笑)。「tamerai」は私の実話ではないんですけど、書いているうちに自分から出てくる感情を書いたりすることももちろんあるので、全部が全部私じゃないとは言い切れないんですけど。でもちょっと気になるな、ぐらいの人に対しては、こんなふうになっちゃうかもしれないです」

──なるほど。はっきりと“好き!”と思う人にはわかりやすくいっちゃうからためらわないけど、気になるなぐらいの人にはいろいろと考えちゃうと(笑)。

「そうです(笑)。いろんなシチュエーションの中で、この曲を聴いてもらえたらうれしいです」

──作曲は「恋の計画」と同じ、秋浦智裕さんですね。

「私は秋浦さんの音楽に引っ張られているんでしょうかね。「恋の計画」も「tamerai」も本当にビビッときた曲で、どちらも自分で歌詞を書いてますもんね。相性がいいのかもしれないです」

──作曲家の方たちによって、デモの作り方も違ったりしますか?

「全然違いますね。「tamerai」はデモ通り、そのままに近いんですよ。デモが良すぎて」

──「tamerai」というタイトルや、歌詞のテーマは、そのデモを聴いて決められたのですか?

「秋浦さんがデモに仮タイトルをつけて送ってくださったんですけど、そのタイトルが「tamerai」だったんです。それを見て“「tamerai」ってめっちゃいなたくていいな!”と思って、そこから広げて作りました」

──レコーディングでは、どんなことを意識されて歌いましたか?

「それこそ昭和の曲をたくさん聴きました。柔らかい歌声の中にすごく芯のある声があったり、サビはすごく切なそうに聴こえるんだけど太い声だったりしていて、芯のある声というのが特徴的だなと思っていたので、松田聖子さんとかの歌を聴いてインスピレーションを受けて、ブースに入りました。自分で歌詞を書いているということもあって、表現したいことがいつもとはまったく違ったので、新しいインプットとともに、自分自身も試行錯誤しながらレコーディングしました」

──完成した「tamerai」は、どんな作品になったなと思いますか?

「この曲の昭和っぽい感じのメロディとサウンド感に、どういう現代っぽさと懐かしさを混ぜるか、ということをいろいろと試行錯誤しました。幅広い世代の方に聴いてもらえる曲になったらいいなと思いますし、イントロが結構特徴的なので、TikTokとかそういうSNSでも使ってもらえたらうれしいなと思っています」

──ジャケットデザインが、駅の案内板みたいで面白いですね。

「そうなんです。たとえば黄色のマフラーを使うとか、この駅の案内板みたいなのとか、いくつか案があったんですけど、この案内板の方にしました。黄色が好きなんで黄色を入れたかったっていうのがあって、これは銀座線の案内板が元なんですけど(笑)。思った以上にお気に入りのジャケットになりました。このジャケットからあの曲調って、誰が予想するんだ?って(笑)。ギャップですよね。「恋の計画」から、私が作りたいと思うジャケットを、ディレクションしてくれている人と一緒に作ってきたので、ジャケットにも注目してもらえたらうれしいですね」

──そして「tamerai」のMVも三阪さんがアイデアを出されたと。

「はい。こういうのが撮りたいというのが自分の中であったので。いろんな昭和時代の映像とか、その時代の海外のMVとかも見ましたし、昔のテレビ番組の歌唱シーンとかも見たり。ちょっと変化球っぽい面白い感じですけど、「tamerai」の苦しさや切なさは残したようなMVになっています」

──3月31日(日)にはEX THEATER ROPPONGIにてワンマンライブが開催されます。“一心同体メモリーズ”というタイトルがついていますが、どんなライブにしたいと考えていますか?

「高2の時に回るはずだったツアーのファイナルがEX THEATER ROPPONGIだったんです。でも、コロナ禍で中止になっちゃって、リベンジで無観客ライブをEX THEATERでやったんですけど、有観客は今回が初めてなんです。三度目の正直みたいな感じで、EX THEATERはすごく悔しい悲しい思いをした場所なので、やっとみんなと一心同体になっていい思い出が作れるなと思っています。331日って自分の中でも一区切りみたいな時期で、今までの集大成プラス新曲も実はEX THEATERまでにもう一曲新曲があるんです。曲が増えたことで今までとはセトリも変わったり、バンドメンバーも総入れ替わりしたので、今までらしさも残しつつ、でもあまり今までらしさのない(笑)、私たち自身も一心同体となってドキドキするようなライヴの生感が出ると思います。みんなと楽しい時間が過ごせたらいいなと思っているので、ぜひ観に来てほしいです」

──もう一曲、新しい曲があるんですね!

「新しい曲もとてもいいんですよ。次の曲も自分で作詞しました。3月中にはリリースしたいと思っています。今のところ「tamerai」が一番なんですけど、「tamerai」を超えてくる可能性があります(笑)。「tamerai」と同じぐらい好きな曲なので」

──それは楽しみですね。楽曲だけでなく、ジャケットやMVも含め、トータルで今の活動を楽しんでいらっしゃるように思いますが、三阪さんご自身はどう感じていますか?

「いろいろと10代の頃とは考え方ややりたいことが変わってきていて、今の自分に納得がいってないことももちろんあります。今までもそうですが、いつも壁にぶつかって砕けて、また組み立て直すみたいな作業をやっていく中で、特に今は結構壊していかないといけない時期なんじゃないかな?と思っているんです。この「tamerai」も今までやってきていないジャンルなので、今までの私のスタイルを壊してもう一回組み立て直す、そういう感覚です。だからこそワクワクもあるし、葛藤もあるし。今、生きてるって感じがするので、すごく良い時期なんじゃないかなと個人的には思っています。新しいものを作って、その先にある新しい人たちとの出会いが楽しくて音楽をやっているので、そういうところにもフォーカスを当てていけたらいいなと思っています」

──今後やってみたいことはありますか?

「いっぱいありますよ。それこそサッカーが好きなので、半年ぐらいイングランドで生活して、プレミアムリーグを見ながら歌をやって、みたいな生活をするのが夢なんです。頑張りたいです(笑)。音楽的なところでは、やっぱり331日のワンマンライブが自分の中でも節目なので、まずはそれを楽しみたいなと思いつつ、4月以降も自分の中でやろうと思っていることが決まってきているので、それを組み立てていって、またみなさんの前で発表したいなと思っています」

(おわり)

取材・文/大窪由香
写真/中村功

RELEASE INFORMATION

三阪咲「tamerai」

2024年216日(金)配信

三阪咲「tamerai」

LIVE INFORMATION

SAKI MISAKA ONE MAN LIVE 2024 “一心同体メモリーズ”

2024年331日(日) 東京 EX THEATER ROPPONGI
時間:開場16:00/開演17:00

SAKI MISAKA ONE MAN LIVE 2024 “一心同体メモリーズ”

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