――新曲「ワルツ」は、松本まりかさん主演のABC テレビ・テレビ朝日系ドラマ「ミス・ターゲット」の主題歌です。家入さんのドラマ主題歌としては通算13曲目になるんですよね。

「我ながらびっくりです。なんてありがたいアーティスト人生でしょうか。本当、応援してくださるファン、支えてくれているスタッフ、みなさんのおかげです」

――ドラマ用に書き下ろしたそうですが、どのように制作を進めていったのですか?

「最初にお話をいただいたときは、“結婚詐欺師のラブコメディ”とだけ聞いていて、こういうテイストの楽曲がいいといったことも知らずにいたんです。なので、何を求められてもいいように、いろんなタイプの楽曲を準備していました」

――制作サイドのオーダーを待たずに書き始めた?

「はい。というのは、私、人より不器用なので……主題歌を歌わせていただけるのなら真摯に取り組んで、全力を尽くしたいし、そこで“時間がなかったからいいものが作れませんでした”っていうふうにはしたくないと思ったんですね。その気持ちをスタッフのみんなにも話して、できることは全部やろうという思いで臨みました。最終的にバラードでというリクエストと、物語のプロットをいただいて、いろいろあった中から「ワルツ」を仕上げていった感じです」

――「ワルツ」について、とあるコラムで家入さんは「恋をして、本当の愛を知ることで変わっていく女性の姿が描かれているこの作品と、私の心がクロスした」と書いていましたが、もう少し詳しく教えてもらってもいいですか?

「主人公のすみれさんは百戦錬磨の結婚詐欺師で、狙いを定めた男性に対して思わせぶりな言動をなんでもないことのようにできる女性で。でも、そんなすみれさんが、本当の恋をしたことによって、自分をコントロールできなくなる。それまで言えていた言葉も、できていた仕草も、できなくなってしまう。だけどそれって、恋をしたすべての人に言えることのような気がするんですよね。傷付けたり、傷付いてしまったりするのも、好きだから。自分にとって大切な相手だからこそ、相手に言われた言葉が気になったり、ちょっと言い過ぎたかなって振り返ったりする。自分の世界の中に存在しない人だったら、傷付くことを言われても、一瞬不安に思ったりするかもしれないけどすぐ通り過ぎて、自分の言動を見つめ直すことはしないはずで」

――すごくリアリティのある考察ですね。そういえば「ワルツ」を初披露した3月の日比谷野外音楽堂で開催した「家入レオ YOAN ~SPRING TREE~」のMCで「すごく傷付いたけど、この恋をしてよかったなと思うことがあった」とも話していました。

「恋をして、その人とお別れするのは、“出会わなかったらよかったかもしれない”っていうくらい、苦しいものだと思うんです。よく“時間薬”と言ったりしますけど、時が過ぎるのを待つしか傷を癒す方法がないって、残酷なことだと思うんですよね。でも、そんな苦しい中でも、“この人と出会えて、恋をすることができてよかった”と思えるって、たぶん奇跡みたいなことだから」

――毎回そう思えるわけでもないですし。

「そう。なので、結婚詐欺師のすみれさんが自分をコントロールできなくなるって、ある意味奇跡みたいなものだと思うんですよ。そういう部分で、すみれさんと自分がクロスしたというか……そういう恋にまつわる想いをギュッと閉じ込めた一曲になりました」

――その曲に「ワルツ」というタイトルを付けた理由は?

「この楽曲を作っているとき、私の中に男性と女性が2人でステップを踏んでいるイメージがあって。でも、気づいたら2人じゃなくて自分1人だけで踊ってる――もうお別れしてるのに、自分ばかり楽しかった過去のことを思い出してるんだろうなとか、吹っ切れたと思ったら、次の瞬間にはやっぱり会いたくなったりとか――気持ちがダンスを踊っているように変化していく。それがすごく悲しいなと思ったんです。ただ、実は「ワルツ」ってタイトルは仮タイトルだったんですよ」

――そうだったんですか。

「“なんか「ワルツ」っていいな”と思って付けたんですけど。私の場合、たいてい最初から答えがあって、その答えでいいんだ、正解なんだって思うために、いろんなトライをした末に一周して最初に戻ってくることが多くて。曲作りに限らず、それが私らしい感じもするんですよね。この「ワルツ」に関しては、実は、そのワン・ツー・スリー、ワン・ツー・スリーという三拍子の軽快なリズムに、哀愁を感じていて。それプラス、作っている最中笑い泣きしている主人公の顔がずっと浮かんでいて、そのイメージで言葉を紡いでいったんです。そうやっていざ曲が出来上がってみると、何気なく「ワルツ」というタイトルを付けてたけど、 “きっと私はこういうことを歌いたかったんだな”って思いました」

――すでにドラマはスタートしていますが、ご覧になっていかがですか?

「主人公のすみれさんを演じる松本まりかさんのインスタグラムの投稿を拝見したり、実際にドラマ現場でお会いする機会もありましたが、このドラマにかけている情熱がすごく伝わってきたんですね。私も久しぶりにドラマの主題歌を歌わせていただいたので、我ながら並々ならぬ想いで曲作りをしていて。なんでしょう……やっぱり想いは想いを呼ぶんだなと思ったし、人に楽しんでいただく、感動していただくって、自分を出し切って、出し切ってようやく届くものなんだなと改めて感じて、第1話を観たときにとても感動しました。これまでもいろんな主題歌をやらせていただいてきましたけど、自分が作詞作曲をした楽曲が主題歌になるのは、実は今回が初めてで」

――ドラマ主題歌13作目にして初の自作曲とは意外です!

「私は歌うことも作ることも好きで、今回も自分で作った楽曲以外に、作曲家さんや作詞家さん、アーティストの方にお力添えをいただいたりもして、いろんな楽曲を制作していたんです。どの曲が主題歌に選ばれても悔いはないと心の底から思ってたんですけど、私が作詞作曲をした楽曲が選ばれて、それがテレビで流れたときに、“私、作ることももっと大事にしていこう”って強く思ったし、自信になりました」

――なるほど。作り手として全力を尽くした楽曲に、自ら歌をのせるという点ではどうですか?今回の「ワルツ」って、たとえばブレスなどの技巧も含めて、歌全体がある種デザインされているようにも感じたのですが、新しく挑戦したこと、新たな気付きはありましたか?

「心を込めて歌うというのは、いつ何時も大事にしていることのひとつではあるんですが、デビュー以前からずっと一緒にやっていた音楽塾ヴォイスの西尾芳彦先生に言われて心に残っているのが、“気持ちを込めて歌ってますと言っても、相手にその気持ちが伝わらなかったら、それはプロとして違うと思うよ”っていう言葉で。それを言われたとき、そのとおりだと思ったんですよね。気持ちを込めて歌うのは当たり前であって、それを相手に受け取ってもらえるかどうかって、やっぱり技術も大切で。そういう意味でも、自分が紡いだこの「ワルツ」を、どう歌ったら“はっ!”としていただけるだろうかって……レコーディングでもいろんなトライをしましたが、この曲をはじめて歌った時に、不思議なんですが微笑んでいる自分に気がついて。その結果、この曲は明るく歌えば歌うほど悲しく響くという気付きがあったんです」

――切なく歌うのではなく、先ほど言っていた笑い泣きの感情ですね。

「そうなんです。レコーディングでスタッフのみんなに、悲しく歌ったパターンと、楽しいことを想像しながら歌ったパターンを聴いてもらったら、楽しい気持ちで歌ったものの方が響いたという声が圧倒的に多くて」

――不思議ですね。

「でも、好きな人といるときの自分って、飾ってない、ありのままの自分だから。一緒にいたときのことを思い返しても、“相手にこう思われたい”っていう気持ちより、もっと無邪気に、自分らしくいられることが幸せって思ってたなとか。だから、声がいつも以上に少女っぽくなってるなっていうのは、自分でも感じましたね」

――「ワルツ」を聴いて、切ないのに温かみを感じる理由がわかった気がします。そんな「ワルツ」と対極のニュアンスの「愛をあげる」がカップリングです。

「まったく違うキャラクターですよね(笑)」

――本当に!(笑)。「愛をあげる」はXⅡX(テントゥエンティ)名義でも活動しているベーシストの須藤 優さんが作詞作曲を手掛けています。この曲との出会い、そして「ワルツ」のカップリングに選んだ理由を教えてください。

「昨年、ライブハウスツアーを回っていて。あれは広島公演の朝だったかな……突然須藤さんからLINEが入って。“レオちゃんに合うと思って作った曲だから、聴いてみてほしい”ってメッセージで。聴いてみたら、素直に歌いたい衝動に駆られて。スタッフのみんなにも展開し、そこから流れるように話が進み「ワルツ」のカップリング曲として収録させていただくことになりました。最初は自分で歌詞を書こうと思ったんですけど、仮歌詞があまりにも素晴らしくて。そのまま須藤さんに書いていただくことになりました。フルコーラスの歌詞が届いた時、歌い甲斐のある主人公だなと思ったと同時に、 “私のイメージってどんななの !?”って(笑)」

――あははは!それで須藤さんは何て?

「“なんか、レオちゃんはそういう面も含めて魅力的だから、こういう強気な女の子っていうのもすごく似合うと思うよ”みたいなことを言われて」

――確かにすごく似合うと思います。

「でも、<洒落になんないくらい オーバーウェイトの愛をあげる>って……これはなかなかですよ(笑)」

――家入さんならありそうかも。

「あははは!ヤバーい!」

――いや、家入さんがオーバーウェイトの愛をあげにいくのではなくて、誠実に向き合っているからこそ、相手がそう受け取ってしまうというか。受け取る側の感じ方がそうなっていそうな……

「あー!真剣に向き合いたいって思うから、ストレートに言うと割と相手がダメージを食らっちゃったりとか。言われてみれば確かに……そういう時期もありました」

――でも、そういう一面を出してくるとは、さすが須藤さんですね。歌詞がすべて乗った状態で楽曲を聴いて、どう感じましたか?

「歌い手として腕が鳴りましたし、実際、とても歌い甲斐がありました。この曲、サビで半音上がって、Aメロ、Bメロになったら半音下がって、サビが来たらまた半音上がってっていう、とにかく転調が多いんです。あと、レンジも広いので、単純に難しかったですね。でも、「ワルツ」は自分が作った曲で、作り手としても音楽が楽しいなと思ったし、この「愛をあげる」では歌い手として、やっぱり音楽って楽しいなと思って。違う角度の幸せをすごく感じたシングルになっています」

――今作は恋愛をテーマにした2曲になっていますが、歳を重ねていくなかで家入さんの恋愛観も変わってきたりしていますか?

「変わってきたと思います。2019年に『DUO』というアルバムをリリースしたとき、楽曲によってはちょっとお芝居に近いというか。例えば、楽曲の中でタバコを吸ってる女の子がいたとしたら――私はタバコを吸わないけど――歌うときは吸っている自分で在りたい……というか、そういう小さなこともその楽曲を歌うと決めたからには受け入れたい、という気持ちがあって。歌うことで、ふだんなれない自分になることが楽しい!みたいな側面があったと思います。好きな人がいると、その人が好きそうなタイプに自分をカスタマイズすることを恋と捉えていた時期があったというか……」

――うーん……器用というのとはちょっと違いますよね?

「そう、器用じゃないんです。結局は無理が生じるから、一緒にいても緊張してたり、自分らしくいられなかったりで、ダメだ!と。でも今は、さっきの“一周して最初に戻る”じゃないですけど、やっぱり私は私としてしか生きられないから、ありのままの自分、そしてありのままの相手を受け入れられるような恋愛がいいな……って。そんなふうに変わってきましたね」

――そうした心境の変化もありつつ、最近は割と初チャレンジが続いて環境も変化していますよね、なかでも上海と深センの海外公演はどうでしたか?

「すごい楽しかったです。中国に行って、ライブ中お客さんがみんなで大合唱、という景色を見て、とても新鮮に感じましたし、自分を解放した状態でライブに来てくれてるから、こういうライブの楽しみ方もあるんだって発見がありました。あと、初海外ライブの地だった上海の夜景を見ながら、最近小さくまとまろうとしてたかもなと、ハッとした自分がいて。もっともっと外に出て行きたいと思ったのと、これは海外に出てみてわかったことなんですけど、海外に行けば行くほど、日本のファンのみなさんのことも、日本という国のことも、もっと好きになるんです。中国をはじめアジアの良さを知る=日本のことも好きになるってことなので、今後はアジアでの活動も視野に入れてしっかりやっていこうと思ってます」

――海外公演以降も、8年ぶりの野音公演があったり、武部聡志さんとのジブリ・コンサートやピアノ・デュオ・セッションがあったりとライブ続きで

「毎回内容も違うので、本当鍛えられていますし、やればやるほど“まだまだだな!自分”って。デビュー当初のほうが、何もわかってないから切り込んでいけたけど、家入レオとして1年1年過ごしていくたびに、ここも足りてない、もっと頑張らなきゃ、もっと練習しなきゃって思う。でも、私は、苦しいと楽しいがセットなものが本物だと思っているので。これはあまり表で言うべきことじゃないかもしれないんですけど、本番当日を迎えるまでに、ランニングしたり、ストレッチしたり、筋トレしたり、ライブに向けた準備をするんですね。もちろん私だけじゃなく、どの歌い手の方もやられていると思うんですけど。1時間半から2時間のライブをやるために、2、3か月かけて準備して。やっぱりすごく苦しいと思う瞬間もある。でも、だから本番で力が出せるし、そうやって私がふだんやっているものを、本番のステージで発揮してあげなかったら自分がかわいそうとも思うし。それくらいの気持ちで、今、音楽をやれていることは、これからの私にとっての財産になると思うんです」

――そう考えると、5年後、10年後の家入さんが楽しみになってきますが、まずは10月からの全国ツアーですね。まだ先のことなので、何も決まっていないと思うんですけど(笑)。

「そうなんです。唯一決まっているのは、頑張ります!ということだけで(笑)。でも、なんか流れが変わってきているような気がしてるんですよね。自分でも今やっていることが楽しいと思えるし、これからのことも楽しみで仕方がないんです」

(おわり)

取材・文/片貝久美子
写真/藤村聖那

家入レオ TOUR 2024LIVE INFO

10月12日(土)三郷市文化会館
10月17日(木)オリックス劇場(大阪)
10月19日(土)サンポートホール高松 大ホール
10月26日(土)静岡市民文化会館 中ホール
11月4日(月)愛知県芸術劇場 大ホール
11月7日(木)札幌市教育文化会館
11月15日(金)倉敷市芸文館
11月16日(土)シンフォニア岩国 コンサートホール(山口県民文化ホールいわくに)
11月24日(日)トークネットホール仙台(仙台市民会館)
12月1日(日)福岡サンパレス ホテル&ホール
12月12日(木)LINE CUBE SHIBUYA(東京)
12月13日(金)LINE CUBE SHIBUYA(東京)

家入レオ TOUR 2024

家入レオ「ワルツ」

2024年5月22日(水)発売
完全生産限定盤(CD+DVD)/VIZL-2321/4,400円(税込)
Victor Entertainment

家入レオ「ワルツ」

2024年5月22日(水)発売
初回限定盤(CD+DVD)/VIZL-2322/2,200円(税込)
Victor Entertainment

家入レオ「ワルツ」

2024年5月22日(水)発売
通常盤(CD)/VICL-37738/1,400円(税込)
Victor Entertainment

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