──3月15日に代官山UNITで行われた、et-アンド-最後の One Man Live『et-アンド- One Man Live ~The Last~』を終えた感想から聞かせてください。

「半年以上前から“et-アンド-史上最大規模のワンマンライブをします!”ってファンの方々に向けて伝えていて。そのライブがラストライブになってしまったことで、みんなを悲しませちゃったり、驚かせてしまったことはすごく申し訳ないと思っていたんですけど、解散が決まってからの毎日は、メンバーみんなで、“変にくよくよしないで、最後まで自分たちらしく楽しく迎えたいね”って話していました。ファンの方々にもそういう自分たちの気持ちを伝えて、みなさんも理解して受け止めてくださって。ライブ当日はパフォーマンスをしながら、一曲一曲の思い出が本当に走馬灯のように思い浮かんできました。ファンの方々も一曲一曲、すごく盛り上がってくださったので、最後の最後、予定外の「Holoholo」を披露したりもして。しっかりと最後を締めくくれたと思いましたし、楽しくて幸せな時間でした」

──野島さんにとっては、et-アンド-として活動した約4年間はどんな日々でしたか?

「これまでリーダーという役割をやったことがなかったんです。自分ではリーダーという立ち位置はあまり向いていないと思っていたんですけど、毎日毎日、et-アンド-のことを考えていました。“リーダーとして自分はどう貢献できるのか?”、“どうやって引っ張っていけるんだろう?”、“どういう伝え方をしたらいいんだろう?”と、いろいろと葛藤しましたけど、そのおかげで相手が何を考えていて、どういう感情なのかも理解できるようになりましたし、様々な場面において、視野が広くなったと思います。そういう意味で、et-アンド-は自分のことを人間として強くしてくれた存在だったと思います。あと、20歳になって、夢をがむしゃらに追いかける仲間がいることが自分にとってはすごく心強かったです。et-アンド-のメンバーは家族にしか見せたことのない自分を見せてきた仲間でもあったし、自分にとっては心の拠り所にもなっていました。たった4年間で、家族のような関係を築けることって、なかなかないと思うんですよ。それはメンバーとの相性もあるだろうし、その雰囲気を作ってくれたチームのスタッフさんやファンの方々にも本当に感謝しています。すごく充実していましたし、いい環境だったなって思っています」

──特に思い出深い出来事は何ですか?

「やっぱり遠征ですね。東名阪と香川、北海道を回ったツアーでは、マネージャーさんがハンドルを握って、東京から香川まで車移動しました。前日から、“どうやってそんな長時間運転するの?”って思っていたんですけど、みんなでいろんなサービスエリアに寄りながら、車内で話すことで絆も深まりましたし、親密になれた出来事もたくさんありました。ライブ中に心を通わせて信頼しあえるパフォーマンスをするのも大事ですけど、移動中での思い出が“青春だな“って思うぐらい、濃くて楽しくて…。たくさん笑ったし、今でも”楽しかったな”って思います」

──SKE48として活動した6年間とet-アンド-としての4年間を経て、今年芸能活動10年目を迎えました。節目となる年に遂にソロのアーティスト・野島樺乃として始動することはどう感じていますか?

「正直、今もすごく緊張しています。ソロになった実感があるか?って言われたら、まだet-アンド-の解散からあまり時間が経っていないので、そんなになくて。これから、じわじわと感じてくるんだと思います。今までもソロライブをやらせていただいたり、ソロの曲をいただいたり、ソロでのお仕事はしてきたんですけど、今日の楽屋、私一人なんですよね…」

──そうですね(笑)。

「“これから毎日楽屋は一人ぼっちか…“って思いますし、移動も一人。一人の場面が増えると思うんです。そういう時に、寂しさも感じるのかな?って思ったり、これまですべてを一人でやったことがないので、緊張しちゃいます。例えば、ライブはソロライブの経験もありますし、今まで通り自分のスタイルでやれるんですけど、楽曲をリリースするとか、インタビューを受けるとか…。自分というものを見せる時にしっかりとしたこだわりがないといけないなって。これからは自分と見つめ合って、やりたいことを見つけて、形にしていくっていうことにこだわりたいです」

──et-アンド-の解散が決まった時は“次はソロだな”って思っていましたか?

「もともとずっと、一人の歌い手になるのが夢だったんです。七歳から始めた地元の合唱団がきっかけで“誰かを元気づけられる歌い手になる”という夢を持つようになりました。当時は、童謡を歌う“歌のお姉さん”というイメージしかなかったんですけど、中学生になって、SKE48NHK紅白歌合戦に出演してキラキラしている姿を見て。地元を盛り上げていることにとても魅力を感じて、SKE48のオーディションを受けて、一歩を踏み出しました」

──2015年に加入して、2019年には『第1回 AKB48グループ歌唱⼒No.1決定戦』で優勝しています。その時にソロというのは?

「考えていませんでした。その優勝が私のSKE48人生の本当の始まりだったんです。それまでずっと支えてくださっていたファンの方がいて、それがひとつのきっかけになって、選抜メンバーに入るようになって。でも、SKE48に加入したからには“自分の名前を刻みたい”という気持ちが第一にありましたし、“地元の盛り上がりをサポートしたい“っていう想いもあったので、ソロになるというイメージはなかったです」

──2年後、2021年にet-アンド-として活動を始めた時はどんな心境でしたか?

「もっと歌に特化していきたいと思ってet-アンド-に加入したんですけど、“10代最後の挑戦“っていう覚悟を決めていました。”武道館でワンマンライブ“って目標を掲げていたので、”ソロになる“というイメージはそこまで持ってはいなかったです。でも、自分が歌を始めたきっかけであり、一人の歌い手になるっていう夢はずっとぼやけたことはなくて。音楽は、俳優さんと一緒で、人生経験を重ねることがものをいうというか…その人の背景がわかる音楽ってすごく魅力だと思っていて。自分自身もいろんな経験を重ねたいと思っていたので、しっかりとした過程を経て、10年目にしてソロアーティストになれるってことは、一つ、自分の夢が叶ったことでもありますし、”10年続けてきてよかった”っていう思いもあります」

──10年目にして初のソロデビューとなりますが、どんなアーティストになっていきたいですか?

「“誰かを元気づけられる歌手になりたい”っていう、一番最初に想い描いた夢は変わらないです。七歳の時に合唱団でボランティアで老人ホームに歌いに行ったり、チャリティーコンサートを行ったりしていて。そこで老若男女、本当にみんなと音楽で心を通じ合えた気がしたんです。七歳の自分が歌った瞬間、場がふわっと明るくなった雰囲気を今でもはっきりと覚えています。その感覚を忘れないでいたいです。今、こうやって歌を伝える人として活動している中でも、自己満足の歌ではなく、原点である“誰かを元気づけられる歌手になりたい”って気持ちは忘れずに常に持っておきたいです。BGMではなく、人に寄り添える歌を唄いたい。ワンフレーズだけでもいいから、誰かの胸に刺さる歌を届けていきたいと思っています」

──ソロの第一弾となるデビュー曲「One」が『2025 プレナスなでしこリーグ1部 Youtube配信公式テーマソング』となりました。

「正直、“ソロになって、どうやってプロジェクトを動かしていこう?“って、とても考えていたんです。でも、いくら考えていても、きっかけがないと何も生み出せないですし、しっかり練らないと届かなくなってしまうので。あとで後悔するのも嫌だと思って、すごく悩んでいたんですけど、その時に、なでしこリーグのタイアップが決まりました」

──作詞は野島さん自身が手がけた書き下ろしになっています。

「自分にとって初めの一歩の楽曲なので、書き下ろしといっても、自分のものにもしたくて。なでしこリーグの試合映像を見たり、選手が発する言葉から感じたり得たものを、自分のこれまでの経験とも重ねて、自分なりに解釈して落とし込んで歌詞を綴ることができたので、我ながら“いい曲を作れたな”って自信を持ってお届けできる曲になりました」

──ご自身の経験と重なった部分っていうのは?

「まず、サポーターの方々と選手の関係性って、職業は違えども、私もずっと応援していただいている側なので、似ていると思いました。ファンの方々は熱量をもって応援していて、選手の方々はサポーターに対しての感謝の気持ちをパフォーマンスで見せていて…パフォーマンスで恩を返す関係性は自分と同じだと思いました。あと、ライブと試合の熱さもそうです。画面越しにも見ていても、なでしこリーグの熱さが伝わったので、それはしっかり楽曲に込めたいと思いました」

──シンガロングできるアンセム的な曲が来るかと想像していましたが…。

「チャントみたいな感じですよね? スタッフさんとも考えたんですけど、やっぱり“しっかり聴かせる歌が野島の良さでもあるんじゃないか?”という話になって。自分もそういう歌を得意としているので、しっとり聴かせたいと思ったんです。でも、コールアンドレスポンスのような、チャントみたいな感じもどうしてもやりたかったので、最後のサビの<One timeきっと/One life もっと>と繰り返すパートで、自分の声で五声くらい重ねたり、いろんなところでハモっています。プラス、自分だけの声だと物足りないというか…ワンチーム感が出ないので、その場にいたマネージャーさんやディレクターさん、レコーディングスタッフさんにもブースに入ってもらいました。男性の声も重ねて、本当にみんなで作った一曲になっています」

──確かに合唱感がありますよね。

「声を重ねて、分厚くしたかったので。ファンの方々にも伝えているんですけど、スタジアムや自分のライブでもコールアンドレスポンスができるパートにしたいと思っていて。サブスクの音源で聴く「One」と、ライブで聴く「One」はまた別物になると思います」

──サビの頭に書かれている<1秒先の未来に駆けてく>にはどんな想いを込めていますか?

「<1mmの奇跡>はあの“三笘の1mm”とかけていますけど、<1秒先の未来>は、サッカーだけじゃなく、今の自分にとっても、その瞬間瞬間が大事だと思っていて。いつ、何かに選ばれてもいいように、いつ、誰かに選ばれてもいいように、その瞬間瞬間を無駄にしないで生きていきたいっていう想いを込めて書いていますし、その感情が歌にも乗っています」

──数字の<1>にはこだわりましたか?

「そうですね。もともと「One」ってタイトルじゃなかったんですけど、最終的に「One」ってタイトルにしました。歌詞を書いてく中で、途中から<1>って数字にすごくこだわってる自分がいて。<1mm><1秒先><一度きりの未完成な人生><願いが1つ><この1歩>…歌詞を見たときに<1>がたくさんあって。これだけ歌詞に書いているってことは伝えたい言葉なんだと思って、自分でも納得して、最終的にタイトルにも「One」って数字をつけたんですけど…」

──どう納得したんですか?

「歌詞に裏テーマのような意味合いがたくさん散らばっていて。何よりも、ソロとしての一曲目。デビューシングルというのが大きいです。“聴いてくださるあなたの一歩を応援するエールソング“って言っていますけど、自分にとってもエールソングになると感じていて。自分にとっても初めの一歩ですし、今後も記憶に残しておきたくて。曲名を見たときに”この曲でデビューしたな、ここからが始まりだったな“と思い浮かべられるように「One」というタイトルを選びました」

──“一人になった”っていう意味での「One」でもありますか?

「そうですね。本当にいろいろと含まれているんですよ。この歌詞に書かれているすべてが「One」に繋がっています。ソロになったっていう“One”でもありますし、ソロとしての一曲目っていう“One”でもあって、“上を目指すなら一番がいい“とか、自分が書きたい想いがすべて“1”に直結していって。だから、今の自分を鼓舞するために書いた楽曲で、今の自分を表している歌詞でもあるんです。ソロになって、全然余裕なんてなくて…“この1秒に人生をかけて歌っている“ってことを、この曲を通して聴いてくださる方に伝えていきたいって想いがありました。自分を厳しい目で見て、自分を応援する一曲になっていると思います」

──1年後とかではなく、1秒先の未来を見ている?

「そうですね。<One time><One life>って言葉も、“今、この瞬間を感じて生きていく”という意味があって。“未来に向かって歌っている“というよりは、”未来に生きる自分の今を変えよう“と歌っています。”今、この時を大切にしていこう“って想いを込めているので、自分がソロとしてデビューして一年、二年、三年と過ぎていって…年月が経てば経つほど、今を大事にすることを忘れてしまうこともあると思うので、その時にまた原点に戻してくれるような楽曲にもなると思っています」

──そして、MVも公開されました。

「オルカ鴨川の開幕戦のハーフタイムに歌いに行ったんですけど、その日に鴨川市陸上競技場で撮影をしました。天気予報では見たことのない横殴りの傘マークが出ていて…5日くらい前から毎日、天気予報を見ながら“よし、ちょっと小雨の予報になったぞ”とか、“いや、やっぱり横殴りの傘マークに戻った…”とか一喜一憂していました。結局、撮影当日は豪雨、強風、極寒のお天気で…」

──そうなんですか!? MVを見る限りはそこまで悪天候だとはわからなかったです。

「そうなんですよ! もともとは“薄明の空”をテーマに掲げて、薄明光線っていうシチュエーションをイメージして書いた歌詞でもあったんです」

──<雲の隙間から降り注ぐ光>から始まる歌詞で、<薄明の空に浮かび出す星>というフレーズもあります。

「なでしこリーグの映像や試合のハイライト映像を見ているときに、完全に晴れてるわけじゃなくて、選手たちの努力で光が差し込んでいるピッチが情景として浮かんできて。私の中ではしっくりきたイメージだったので、最初は「One」ではなくて「薄明光線」というタイトルで書き進めたんです。結局、それは裏テーマにして、ジャケット写真は薄明光線をイメージして自分で選びました。だから、MVは雲の隙間から太陽の光がバーって降り注いでくるっていう絵の中で撮りたかったですし、せっかくのピッチだったので、青空と撮りたかったんですよ。でも、そんな天気はどこやらっていう感じで(笑)。その中で監督さんとも話し合って、もともとは予定にはなかったロッカールームでリップシーンを撮影することができましたし、私がピッチ上で“さぁ、歌うぞ!”ってなった瞬間、雨が止んだんです。強風は強風だったんですけど(笑)」

──だから、あの珍しいヘアアレンジだったんですね。

「メイクさんがスプレーしても風で違う方向に飛んでっちゃうような天気だったので…“もしかすると持つかもしれないから“ってピンで留めました。本当に試行錯誤しながらの撮影で、カメラマンさんは寒さで手が赤くなって、かじかむ手で震えながら一生懸命に撮ってくださいました。強風で機材が倒れるってこともあったんですけど、ピッチ上で歌う時は雨が止んだので、あのシーンが撮れたのは奇跡でした」

──天候には振り回されたんですね。

「それも思い出です。完成したMVを見て、“あんなに寒かったし、あんなに強風だったのに、結構、すがすがしい顔で歌えてるじゃん”と思って(笑)。結果、私だけじゃなくてなでしこリーグの選手の方々のプレーが散りばめられていて、それが歌詞にもしっかり当てはまるような編集で、歌詞も私自身の手書きなので、自分の思いがより伝わるMVになりました」

──ソロアーティスト第一弾「One」が完成して、ファンの皆さんにはどう届いたらいいと思いますか?

「初めての経験がたくさんあって、慣れないことも多かったので、かなり、ドキドキしているんですけど、ソロになって、こうやって自分の想いを歌詞に綴ることができたので、“自分の考えていることや心の内をもっと世に発信していきたい“と思っています。なんでもかんでも人に言わない性格ではあるんですけど、自分がソロのアーティストとして活動していく中では、自分自身を表現していく一つの大事な手段というか、”音楽が自分の発散の場所になるといいな”とも思っていて。だから、音楽を通して、リアルタイムで私の心情を聞いてくださっている方に届けられるといいなって思っています」

──最後に改めて、今後の目標を聞かせてください。

「前回のソロライブでも言ってるんですけど、まずは“過去の自分を超える”って目標を絶対に成し遂げたいです。なので、名古屋のボトムラインっていう老舗のライブハウスでワンマンライブをするのが、まず、叶えたい目標の一つです。あと、将来、東名阪ツアーもしたいですし、Billboard LiveBLUE NOTE TOKYOでワンマンライブができるようなアーティストになりたいです。音楽、歌を愛して、その良さを聴いていただく方にも伝えていけるように、着実に一歩一歩、叶えていきたいです」

(おわり)

取材・文/永堀アツオ
写真/野﨑 慧嗣

RELEASE INFROMATION

野島樺乃「One」

2025年416日(水)配信

野島樺乃「One」

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