――まずはおふたりの自己紹介を。
NO80「ビートメイク、DJプレイ、レーベルのマインドセット含めてプロデューサーとして活動しています。NO80(ノーエイティ)というアーティストネームは出生年の1980年に由来します。あと、元々ヴァイオリンやっていました(笑)」
VENM「僕は1983年の浅草生まれで、親が離婚して小学校の時から千葉って感じです。MC名のVENM(ヴェノム)はアメコミが好きで本当はダースベイダーにしようと思ったんですけど、ダースレイダーさんがいたので、VENMって名前に(笑)」
――そんなふたりの出合いは?
NO80「たまたま僕がSNSからリアルのシーンに飛び出てみようって覚悟を決めた時にVENMに出会って。ほぼ20年ぶりにシーンに戻ってきて、まだBボーイっているんだなと思って彼と繋がりました」
――そんなふたりがローンチさせたレーベル「cerQle(サークル)」とは?
NO80「ふたりで焼肉食っているときにどうしようかってなって(笑)」
VENM「僕がcerQleって名前を感覚的にパンって出して。交差して開くみたいなイメージで」
NO80「最初VENMがcerQleって言った時は全然分からなかったんですけど、後々考えてみたら円、和、仲間、繋がり、多様性とかに落ち着いたのかな……全然違う生き様、考え方だけどお互いリスペクトし合えるっていうのは多様性なのかなと。年齢も気にしていないし」
――いま現在の体制は?そしてどんなレーベルにしていきたいですか?
NO80「所属アーティストはまだ3人しかいなくて。NO80、VENM、もう一人MONOっていうMCがいます。全然タイプが違う3人が共感して集まった感じです」
VENM「それすごい難しくて。めちゃくちゃカッコいい人達がいっぱいいて、ベンチマークみたいなのはあるんですけど、言ってしまうとその人たちを超えられない感じがするので内に秘めています(笑)」
――イメージしているリスナー像は?
VENM「僕はラッパーって立場上、結構絞ってるかもしれないですね。ラップって日常生活で感じていることを表現しているから、皆が思ってるんだけど、気づいてない部分を気づかせるというか。感情を発動させたいというか。あと日本語を使っている以上、日本語が理解出来る人には聴いてほしいですね」
――HIP HOPにおけるクリミナルな側面についてはどう思いますか?
VENM「重要なところはHIP HOPっていうのはメッセージの中に全て理由とか意味があって。HIP HOPに出てくるそういった側面ていうのは、ある種のリアルですよね」
VENM「そのリアルな側面に触らなくていいなら触らないけど、触らなくちゃ生きていけないから触っているだけで。でも表現にフィルターはかけないようにしますね。NO80にこれは言わない方がいいとか教えてもらいながら。あ、これは言わない方がいいんだ……とか(笑)」
――なぜHIP HOPというアートフォームを選んだのでしょう?
NO80「HIP HOPにやられたのは16歳の時に見たDJ HONDAさんの影響で。大人になってようやく時間とお金が追い付いてきて。あ、音作りたかった!やる!ってなって(笑)」
VENM「小さい頃からあまり物事が続かないタイプで。ちょっと悪さをしてしまって、鑑別所でたまたまZeebraさんのリリックの書き方講座みたいなのを見て、そこから続いているのがラップですね。解放される感じもあるのでハマってフリースタイルもずっと出来るなって」
――NO80さんのビートメイクのツールは?
NO80「メインはIsla InstrumentsのS2400……E-mu SP1200オマージュのドラムマシンですね。ライブの時はローランド SP404でBPMを合わせてSerato DJでエフェクトかけながら擦って世界観を作っていくって感じです」
――VENMさんのリリックはどうやって?ツールとかマインドは?
VENM「僕はリリック書くときはノートもあるし、携帯の時もって感じで使い分けてます。ちなみにMONOは完全ノート派です。思いは色々と変わっていくじゃないですか。なので、嘘はつかない、言いたくないことは書かない。あと、例えばですけど亡くなったレジェンドたちと万が一会った時に恥ずかしくないように在りたいってスタンスですね」
――制作のアプローチやレコーディング環境は?
VENM「きっかけはスタジオ入ってフリースタイルだったんですけど、基本的にはストックされているビートにリリックを乗せるかたちですね。レコーディングは9SARI GROUPのスタジオでやってもらって、その場でマスタリングって感じです」
NO80「MONOは自分でレコーディングして、ミックス、マスタリングは外部の方に。僕は全部自分で。cerQleの色を大事にしながらそれぞれ自由に」
――おふたりのルーツミュージックと、ふだんの音楽との付き合い方は?
VENM「CHAGE&ASKAさんの「僕はこの瞳で嘘をつく」を小学3年生の時に聴いて、それがルーツといえばルーツかな(笑)。いまはテクノ、ハウス、もちろんHIP HOPも聴きますけど、その時の場面で聴いていて。音楽というより、どちらかというと現象で捉えていたりしますね」
NO80「広いよね。灰野敬二さんとかもVENMから教えてもらったりとか。僕のルーツは嘉門達夫さんの「替え唄メドレーパート2」でした(笑)」
――レーベルとリリースの話題に戻りましょう。現在は配信に特化していますね。
NO80「優先順位として多くの人に聴いてもらいたいので、ビジネス的な面からフィジカルに原価をかけるよりは今は配信ですね」
VENM「MONOはCD作ったりしてて、彼の周りの環境もレコード聴いている人たちが多くて。僕は捕まって出てくる度にフィジカルというか、物が無くなってて(笑)。だから、僕も今は配信て感じです」
――第一弾リリース「MIC LINE」はどういういきさつで生まれたのでしょう?
VENM「VENM、KOOPA、K-rush、Mairiの4MCが集まって16小節合わせたら出来た曲ですね。たしか話が来たのが、年の瀬で来年から上昇して行こうみたいなイメージでリリックは書きました」
――ある種HIP HOPの良いノリがパッケージ出来た?
VENM「そうですね。納期の面もあって、レスポンスも早いのでビートは呼煙魔君で。僕は納期がないと仕事が出来なくて(笑)ソロの時は別だと思うんですけど、皆も案外ちゃんと書いてきてくれて進みましたね」
NO80「納品するという作業に関しては皆のペースは変わらずでしたね。ビジネス的な制約で安定して作っている感じですね」
――第二弾リリースの「Lost Pain」はどんな曲ですか?
VENM「僕は嫁といつも一緒にいるんですけど、なにが楽しいかって言ったらふたりで馬鹿話をしてケラケラ笑っている時が楽しくて。こんな感じがずっと続けばいいなって。そういった気持ちを曲にしてみました。クラブのパーティで感じる一体感とか、お客さんの顔にミラーボールの反射した光が当たっていてワンラブな感じが良くて。そういう想いって前からあって、でも曲にできなかったんですけど、本気で思ったから作りましたね」
――浮遊感のあるビートですね。
VENM「ネットで知り合った人からビート買って。OGIAD BEATSっていうビートメイカーですね。YouTubeのフリービートでフリースタイルしている時にハマったんで、本人に直接連絡してビートをゲットしましたね。実は2曲くらいこの人のビートで作ってて(笑)」
――第三弾の「K-hole」は?
VENM「2008年くらいに書いた曲で。先にリリックがあって、今回のタイミングでリリースしました。ビートはarcasさんて方です。結構トリップしてぶっ飛んだ曲で。なにが本当か分からないですけど、宇宙物理学とか天文学とかヴァーチャルぽくなってくるじゃないですか。アカシックレコードにアクセスしたというか。でも実体験として色々な魂と会ってたんだな……と。ちゃんと物を作ろうと思うきっかけにもなりましたね」
――一種のシャーマニズムという観点もあるんですね。
VENM「そういうのがしっくりくるというか。色々とハテナがあるじゃないですか。そこを追求していくというか、思考を永遠に続けていくというか」
――<ココハ精神ノ集積回路、解放サレタ意識ガ集マル所>というリリックが印象的ですね。
VENM「このリリックは僕からすると日記みたいな感じです。今日こういう事がありました。みたいな感じで。現実か非現実化か分からないけど友達もいるしこれでいっか……みたいな(笑)」
――この曲で一番伝えたいことは?
VENM「自分が体験したことをラップしているから、聴いた人の感じ方で違うのかもしれないですけど、結局ハイライトは一番最後の4小節ですかね。思い次第で思い通りになるぜ。って。僕はぶっ飛んだ話をしたいんじゃなくて、非現実で作り上げたことも大事だと思ってるというのも伝えたかったですね。曲名も分かる人には分かるんだけど、自分でも何言ってるんだろうって(笑)」
NO80「VENMと僕の音楽的感性で一致している曲でもあって。デジタルでドープなビートに意図的にこういったラップを乗せているというのがcerQleの神髄でもあるんですよね」
――これまでリリースした曲の反応、手応えはいかがですか?
NO80「まだまだ知名度は低いレーベルでもあったんですけど、USENで流れたことで初速だけじゃなくてしっかりと伸びてきた実感もあって」
VENM「僕もふだんは鳶やっているので、ワークマンの店内BGMで曲がかかってたよと言われた時はうれしかったですね(笑)」
――ロールモデルにしているアーティストはいますか?
VENM「たまたま今日思ったんですけど、ひとつの目標としてNO80のトラックでILL-BOSSTINOさんと曲作りたいです。できたらいいなって」
NO80「DJ KRUSHさんのスタンスや独自のサウンドを追求する姿勢と探究心は凄いですよね。憧れている部分もありますし、尊敬しています」
――現行のシーンについてどう思いますか?
VENM「全ては移り行くし、それは仕方ないけど、僕は根本を大事にしていたいですね。薄めずに死ぬまでに次に渡すことが出来ればいいなと思います。もしディストピアになっても、そういう奴がいないと駄目になると思ってて」
NO80「ひとつのムーブメントだと思ってて。2000年代初頭のムーブメントとかの世代で育ったので、音を追求していたいのはあるんですけど。ローファイとか、バトルシーンも原体験としてはいいと思うし、俯瞰して見ていますね」
――今後の展望についてはどうですか?
NO80「ビジネス的にはプロデューサーとして、VENMやMONOのようなアーティストたちを抱えてレーベルとして成立しているマーケットを作るということですね」
VENM「曲を作って、ライブして精度高めて進化していくということを続けていくということですかね。少し武士道っぽいですけど(笑)。狙いを定めて、階段を昇っていくように歩み続ける。それに尽きますね」
(おわり)
取材・文/内堀泰太