──新曲「Stellar Days」はTVアニメ『太陽よりも眩しい星』のオープニングテーマとして書き下ろしたとのこと。楽曲を作るにあたって原作を読まれたそうですが、「Stellar Days」に繋がったモチーフやキーワードはありましたか?
「特定のセリフというのはなくて、あるとしたらアニメのタイトルに“星”が入っていたので、それは念頭にありました。でも、どちらかというと作品に描かれているピュアで真っ直ぐで、だけど、そのぶん切なかったり、もどかしかったりするようなところを(楽曲でも)表現したいと思っていました。あとはやっぱりオープニングテーマなので、物語が始まるという意味で、“どういう楽曲で始まるといいのか?”というのは意識しました」
──メロディ先行で進めていかれたんですか?
「曲調を先に決めた気がします。でも、その次に<放課後 宇宙の片隅で 一番 輝く星を見つけた>というフレーズがメロディと一緒に浮かんで、そこがすごくポイントでした。それによって曲が動き出したというか…」
──そのフレーズが浮かぶまではかなり悩まれたんですか?
「いえ、すごく悩んだって感じではなかったです。いろいろとイメージしている中で、“放課後”の持ってる自由さと寂しさとみたいな、なんとも言えないその空間…。日が暮れて夜になっていく間の時間のようなものが浮かんで。しかも、放課後って誰もが経験している身近なものじゃないですか。一方で、(原作の)タイトルにある“星”は遠いもので。でも、それらが結びつくようなフレーズ…“放課後”と“宇宙の片隅”が結びついたときに、孤独感だったり、そこで出会えている奇跡だったりが、なんだかハマった感じがして。そこからはもう、順を追って書いていきました。で、最後にパズルのピースをはめるじゃないですけど、タイトルにもなった<Stellar Days>が出てきて完成に至りました」
──この楽曲について秦さんは“(この作品が持つ)溢れるほどの眩しさとどこまでも澄み切った純粋さと、揺れ動き震える戸惑いを表現できれば”とコメントしていました。このあたりのニュアンスを出すためには、サウンド面でのアプローチになるものですか?
「そうですね…(歌詞とメロディの)両方ですね。Aメロは、突き抜ける明るさというよりも、少し切ない部分がメロディとしてもあると思いますし。でも、戸惑いとかを最初から描こうとしたというより、青春を切り取ろうとしたときに、“それも含めて青春だな”っていうのがあったので。青春の、なんとも言えないもどかしさだったり、すべてが明け透けじゃなくて秘めているものがあったりする微妙な距離感を、全体を通して描きたかったので」
──アレンジも秦さんご自身で?
「いえ、今回もトオミ ヨウさんと一緒にやりました。「Stellar Days」のアレンジに関しては、ソリッドなんですけどキラキラしているとか、宇宙、空まで抜けていくような爽快感などのイメージを共有しながら進めていきました」
──トオミさんともずいぶん長いお付き合いになると思いますが、トオミさんのアレンジの魅力というのはどういうところだと感じていますか?
「いろいろあるんですけど、特に好きなところを挙げると、非常に音楽的な発想に基づいていることです。例えば、その曲が持っている魅力をより引き出してくれたりとか、僕がデモで“こういうふうにしたい”と思っているものを増幅してくださったりとか。しかもそれがナチュラルで、なおかつ聴く人にちゃんと刺さるアレンジにまで昇華されているというのが、すごく好きなところです」
──今回の「Stellar Days」で、トオミさんにお願いして良かったと思うところは?
「もちろん全部ではあるんですけど…サウンド的なレイヤーで、高い音の成分がかなり加わっていて、そこがキラキラして聴こえる部分を担っているんですよ。楽器の構成としてはすごくシンプルなので、そういう中で歌に空間を残しながらもキラキラと装飾されているのは、トオミさんと一緒にアレンジしたからだと思います」

──ここからはもう少し歌詞について深掘りさせてください。個人的に印象的だったのが<好きになってよ 好きでいていいの?>というフレーズなのですが、ここにはどんな想いを込めたのでしょうか。
「<好きになってよ>のストレートさもですけど、それよりも<好きでいていいの?>というフレーズが、とても切なくて…自分で書いておいてなんですけど(笑)。でも、“好きになって欲しい”って気持ちより、想っていることさえ許されないというか、片想いの切なさが、そこにあると思っていて。だって、別に好きでいたっていいじゃないですか。好きでいることに、誰かから何かを言われるわけではないんですけど、でも、“私は、僕は、その人のことをこのまま好きでいていいのかな?”って。そう思ってしまうくらい、相手のことを想っているというのが、この2つのフレーズによって表現できるというか…<好きになってよ 好きでいていいの?>から伝わる気持ちの揺れ動きと片想いの苦しさが、この曲のムードに合っている気がします」
──歌詞で言うともう一つ、<すべてが ほら かすむくらい きらめいてる>というフレーズを歌詞で平仮名表記にしているのには、何か狙いがあるんですか?
「何か意図があってそうしたってわけではなくて、感覚的なものです。“霞む”とか“煌めいて”とかにすると、なにかが違ったんですよ。もちろん漢字が似合うときもあるんですけど、「Stellar Days」では“ちょっと違うな”と思って、平仮名にしています」
──なるほど。では、秦さん自身が手応えを感じたフレーズを挙げるとしたら、どの部分になりますか?
「難しいですけど、やっぱりこの曲のとっかかりになった最初の2行(<放課後 宇宙の片隅で 一番 輝く星を見つけた>)が書けたときに、この曲の温度感のようなものもつかめたので、そこ、ですね」
──「Stellar Days」に限ったことではないのですが、秦さんの楽曲は景色が浮かぶというか、もっと言うと、目線を動かされる感覚があると昔から思っていました。今回も、放課後の教室のような目の前の光景から、宇宙とか星という遠くの場所にあるものを見上げるという動きがあって、秦さん自身はこういう2つの被写体だったり、目線の動きだったりを意識して歌詞を書いたりしているんですか?
「それでいうと、やっぱり“場面”を描いている感じはするんですよ。それが切り替わっていくというか、すごく主観的な目線で見ているシーンを切り取っているときもありますし、そのシーンを俯瞰しているときのものもあるので、それによって描かれる世界が変わることはあるかもしれません。とはいえ、僕自身が描いたり、イメージしたりする場面はあるものの、聴く方によって変わるとか、違うものをイメージするとかで全然良いと思うんです。むしろ、なるべくいろんなものが想起できるような描き方をしたくて。ただ、そこにある温度とか、気持ちは伝わるようにしたいんです。たぶん、そこからそれぞれの記憶と結びついていくと思うので。今回の曲でも、<放課後>と聴いて浮かぶものって、人によって違うじゃないですか。でも、そこに浮かんでくるものっていうのはすごく広がりがあるものだと思いますし、そういうフレーズを書きたいと、いつも思っています」
──ちなみに、秦さんの放課後の思い出といえば?
「中学のときはバスケ部だったので練習ばかりしていましたし、高校のときは、すぐお腹が空いて学食に行ってました(笑)。でも、放課後って、特別なエピソードで覚えているっていうよりは、景色で覚えている気がします。どんどん校舎が薄暗くなっていって、遠くの空だけオレンジで、吹奏楽部の練習が聴こえてきて…。そういう光景を覚えています」
──では、秦さんにとって“Stellar”のような存在はどういうものですか?
「難しいことを聞きますね(笑)」
──もしくは“Stellar Days”と聞いて思い出す時期でも構いません(笑)。
「なんだろう…? やっぱり高校時代かな。男子校だったので、いわゆるキラキラした感じもなくて、鬱屈としていましたけど(笑)。ただ、あのときが一番青春だった気がします。今の自分が形成された時期というか、方向性が定まったのは高校生の時期なので。たぶん、あの時期にあの場所にいなかったら、今の自分になっていないと思います。甘酸っぱい思い出はまったくないですけど(笑)、それはそれで“Stellar Days”とも言えるのかな?と思います」
──当時の出来事や出会いで、“今の自分に繋がっている”と思うことはありますか?
「みなさんそうだと思うんですけど、小学校、中学校って同じ地区の子たちが集まるから、コミュニティがそんなに変わらないじゃないですか。でも、高校になるといろんな地域から来る人たちがいて、さまざまな価値観を持つ人と出会ったり、それによってこれまでと違う自分を見つけたりして。音楽に関しても、中学くらいから自分で作ったりはしていましたけど、高校に入ってから、より本格的にというか…自分と対話しながら曲を書くようになった時期でもあるので、そういうところは今に繋がっているのかな?と思います」
──曲の内容も変わってきたりしたんですか?
「変わってきました。中学のときとかは誰かのコピーをしたり、聴いてきた曲のテイストの中で作っていたと思うんです。でも、高校に入ってから、わずかではあるものの、自分らしさみたいなものが少し垣間見られるようなるというか…。それこそ、音楽の趣味一つとっても、パンク好きのやつとか、ハードロック好きのやつとか、いろんな人と出会ったので。それまで自分が好きな音楽ってすごく限られていたので、高校に入って初めて“こういう音楽が好きな人たちもいるんだな”とか“こういうのをカッコいいと思うんだな”っていうのを知りましたし。実際、カッコいいものもあったんですけど、“でも、これは自分がやる音楽ではないな”って思ったものもあります。軽音楽部だったのでちょっとバンドをやってみたりしたんですけど、軽音楽部でのコピーバンドはあくまでも遊びで、家に帰ってアコギを持って曲を作るほうが、自分にとっては音楽をやっている感じだったんです。そういうことがわかっていったのが高校時代で。他者を知ることで自分を知るような時間だったと思います」
──自分を知るには自分自身とひたすら向き合うべきと思いがちですが、他者の存在が必要不可欠なんですね。
「そうだと思います。それは、それこそ『HATA EXPO -The Collaboration Album-』でいろんな人と共作をしたときも思いました。作り方とかで自分にない新しい方法があることを知って、刺激を受けることも多々ありましたけど、その一方で、“自分はこういうところが好きなんだな”とか、“こういう部分にこだわりたいんだな”っていうのも知って。長く続けるにつれて自分のやり方も固まってくるので、他の人と関わらないとわからない自分のことっていうのは、いくつになってもあると思います」
──秦さんは来年でデビュー20周年を迎えます。今回の「Stellar Days」配信リリース後、来年に向けてどのような活動を予定されていますか?
「来年は20周年なので、色々とやれたらと思っています」
──それは楽しみです! デビュー当時に思い描いていた20年後と、今の現在地って、まったく違うのか、想像通りなのか…秦さんの中ではどんな印象でしょうか?
「んー、正直デビューのときに10年後の自分とか、20年後の自分って、想像していないんですよね。必死に目の前の1曲をやっているだけだったので、特別、“こうなっていたい”っていうのはなくて…」
──当時、すごく忙しかったですしね。
「それはもう、すごく忙しかったです(笑)」
──そういった慌ただしい時期を経て、まもなく20周年を迎えようとしている今、自分のペースで音楽活動を行えている実感はありますか?
「そうですね。デビューから10年目くらいのときに、“ここから先、どうやって音楽をやるのか?”みたいなことを考えたことがあったんです。というのも、周囲の先輩方を見て、すごく楽しそうというか、“ピュアだな”と思って。キャリアがある人ほどピュアに音楽をやっている感じがすごくして、自分がそんなふうになるためにはどうしたらいいのかな?と思って、環境とか、ペースとか、向き合い方とかを考えたんです。それを踏まえて少しずつ環境を整えていった結果、ここ数年はすごく歩きやすくなったと思います。それに、キャリアを積むにつれて音楽を作ることの喜びや、届けることの喜びがどんどんシンプルな感覚になっていってる気もしています。もちろん産みの苦しみのようなものもあるんですけど、全体としては総じて楽しくできていますね」
(おわり)
取材・文/片貝久美子

