──ソロアーティストとしてのDebut Album『Determination』には、再びステージに立って歌う“決断”と“決意”が込められていましたが、前作から1年8ヶ月ぶりの2nd Albumを制作するにあたって、どのようなテーマやコンセプトを設けていましたか?
「“2nd Albumで、声優アーティスト=前島亜美の個性を確立したい”ということを目標としていました。輪郭を固める個性の確立ではなくて、自分の芯を太くする。私にとっては、2nd Albumも決意ですけど、本当の意味で自信を持って、どんな音でも、声でも、歌でも表現していいんだ、受け止めてくれる人がいるということを信じて。今後、より飛躍するための地盤を固めるようなアルバムにしたいという想いがありました」
──Debut Album『Determination』のリリース以降、アニメタイアップが3作品あり、2度のワンマンライブを開催し、アニソンフェスにも出演しました。
「『Determination』の制作はソロアーティストデビュー解禁前の誰にも何も言えない状況から始まったので、どんな歌を歌えばいいのかもわからず、自分の素の声もわからない状態で、何を求められているかもわからなくて…。わからないだらけの中での制作でした。でも、アルバム発売から1年半の間でいろいろ経験をさせていただきました。なんとなく自分の個性や強みはこっちの方向性かも?というのが見えてきました」
──ご自身で感じている“前島亜美の個性、強み”というのは?
「やっぱり歌って踊ることですね(笑)。2nd Album『POLYPHONY』のWリード曲として、TVアニメ『才女のお世話 高嶺の花だらけな名門校で、学院一のお嬢様(生活能力皆無)を陰ながらお世話することになりました』のタイアップ曲と、もう1曲をこの熱量でつんく♂さんへの想いを持っているのも私の個性、強みですし、個性の確立を考えた時にルーツは欠かせないと思って、つんく♂さんに書いていただきました。私のルーツはつんく♂さんで、ハロープロジェクトさんなので、ダメ元でつんく♂さんにお手紙を書かせていただきました。私の熱い想いをつんく♂さんにお伝えしました」

──改めて、ハロプロとの出会いを聞いてもいいですか?
「家族がハロプロさんを好きだったので、物心ついた頃からハロプロさんのライブ映像がずっと流れている家庭でした。私も気がつけばBerryz工房さんがすごく好きになっていて、その中でも嗣永桃子さんが大好きで。当時のハロプロキッズの皆さんは小学生で、私が見ていた時のBerryz工房の最年少メンバーの菅谷梨沙子さんが小4だったんです。私も小4になるタイミングで“間に合わなくなっちゃう!”と思って、“ハロプロのオーディションを受けたい”と親にお願いしました。人生で初めて受けたオーディションが20年前のハロプロキッズオーディションでした。その時はご縁がなくて…ハロプロとは違うグループ活動をスタートさせてからも、ずっと心のどこかで、“つんく♂さんの元で、つんく♂さんの音楽を歌ってみたかった”という想いがありました。当時、自分がいた環境もすごく好きでしたし、楽しかったんですけど、せっかく今、ソロアーティストとして音楽をやっているのであれば、つんく♂さんに想いをぶつけてみるのもアリなのでは?と思って、お手紙を書いた次第です」
──どんな想いをぶつけたのですか?
「私、本当にすべてを説明したがってしまうタイプなので、“私はこういう人間です”というところから始まって(笑)、私の中のアイドルの正解と言うか、“これぞアイドル”というのはやっぱりハロプロさんだったという想いや、ずっと、つんく♂さんの音楽を歌える人生に憧れを持ってきたことを書きました。そして、この2nd Album に想いをかけていること、個性を確立したいアルバムにおいて、つんく♂さんの歌が歌えたら、小さい頃の自分にも胸を張れると思う、みたいなことをすごく長々と書いてしまいました。“本当にお忙しい中、すみません”と書き添えましたけど、“なんだかすごい熱量を感じた”というふうに言っていただけて、曲を書いていただきました」
──グループ活動時代につんく♂さんと会っていますよね?
「1度、つんく♂さんのYouTube番組『つんつべ♂』でご一緒しました。今回提供していただいた「女神Stay Gold!」に<奇跡を夢見る女子高生だった>という歌詞があるんです。“あの時の私のことも肯定してくださっているのかな?”と思って、感慨深かったです」
──楽曲提供を引き受けてくれたことがわかった後、何かリクエストはしたのでしょうか?
「はい! 私がBerryz工房さんが好きで、中でもイントロにタイトルコールがある「スペシャル ジェネレ~ション」が好きなんです。ライブだとお客さんが0コンマ何秒で反応して、みんなで言う伝説的な曲です。そういう曲に憧れがあるので、“ライブで盛り上がる、お客さんとコールアンドレスポンスできる曲だと嬉しいです”ということをお伝えさていただきました。あと、“歌詞の方向性としては、私はつんく♂さんが書かれる人生賛歌がとても好きなので、そういった内容だと嬉しいですが、もう、思うままにご自由にお願いします”というようなオーダーをさせていただきました」
──全部、答えてくれていますね。
「はい、驚きました。イベントで台北に行っている時に初稿をいただいたんですけど、タイトルを見ただけで、この活字をつんく♂さんが私のために書いてくださったのかと思うと、一文字一文字が染みて泣けてきました。音楽を聴いた瞬間に台北のホテルの部屋で一人、号泣しながら聴きました」
──ハロプロに憧れて芸能界に入り、今も声優アーティストとしてステージに立ち続けている前島さんに向けたつんく♂さんからのメッセージが込められていますね。
「そうなんですよ! つんく♂さんからの静かな喝であり、温かな激励をいただいたと思っています。聴けば聴くほど、歌詞が染みすぎるんです!」
──特にどの部分ですか?
「“当時ばかりを振り返るのではなく、今も輝いているんだよ”という…それを見ている人たち、見守っている人たちがちゃんといるんだというのも感じますし、やっぱりサビです。<眩しくて輝かしい未来だろ>とか、<ほら、怯むな/もう勝つしかない>とか。…今、この場でも泣きそうになります。“このアルバムで前進したいんだ”という私の想いを全部汲んでいただけて。あと、この<女神>という言葉ですけど、私、グループ時代に<勝利の女神は振り向くよ>っていうパートをソロで歌っていて…」
──タイトルコールではないですが、第一声も驚きました。
「急に叫びますよね(笑)」
──トラックは2ステップにジャジークラブを加えた今っぽいお洒落なビートになっているので、声を張り上げずに歌うと、クラブミュージック風になるんですが…。
「レコーディングではいろいろ試したんです。ウィスパーでやるバージョンとか、もっとセリフっぽくやるバージョンとか。25テイクくらい録ったんですけど、つんくさんに頂いたデモがこの張りだったんです。私も「スペシャル ジェネレ~ション」や「まっさらブルージーンズ」に憧れていたので、“ここは決意表明として、つんく♂さんの想いを受け取って私が叫ぶべきだ”と思ったので、結局、煽るような叫びテイクにしました」
──ハロプロ魂ですね。声色や唱法、ビートのとり方も、この曲の次に収録されているTVアニメ『公女殿下の家庭教師』オープニングテーマの「Wish for you」とは全く違っています。
「すごく悩みました…ハロプロさんに憧れて“嗣永桃子さんのように可愛らしく歌いたい”という当時の自分を宿して歌うのか。それとも、今の自分で、魂で歌うのか。すごく迷ったんですけど、20年の時を経て、せっかく今、つんく♂さんとご一緒できて、その間の私が歩んできた人生があるので、それで勝負しようと思いました。だから、全く声を作らず、想いだけで、魂だけで歌いましたし、レコーディング中はずっと16ビートを聴きながらやっていました。タカタカタカタカタカタカタと、相当、早いですけど、全編を通して16ビートを感じながらやりました」
──「女神Stay Gold!」をアルバムのオープニングナンバーにしたのはどうしてですか?
「それも悩んだんですけど、私の中ではどう考えても1曲目でしかなくて。 今回、アルバムを第1幕、第2幕という、少し演劇的な構成にさせてもらっているんですけど、やっぱり芯を固める、自分を固める上で、ルーツから始めないと…という想いがあったので、1曲目にしました」
──アルバムにはこの1年半で携わったTVアニメのテーマソング3曲が収録されています。アルバムをまとめるにあたって、主にタイアップ曲中心の第1幕と、前島さんが作詞した5曲をまとめた第2幕に分けて収録されています。どうして第1幕、 第2幕という分け方にしたのでしょうか?
「私の人生の全てをこのアルバムに詰め込みたかったんです。そう考えた時に、演劇を頑張ってきた舞台女優としての私というのも無視できないと思って。それも私の個性というか…あと、自分で作詞した曲がちょうど半分の5曲になったんです。当初はそんなに作る予定ではなかったんですけど、あれよあれよときっかり半分になったので、自分の作詞曲をまとめた方が聴いていただく方にも分かりやすいと思って、こういう構成にしてみました」
──第1幕と第2幕はそれぞれどんなイメージですか?
「第1幕は、声優アーティストの前島亜美としてのパブリックイメージです。ルーツから始まって、これまでの歴史をたどって、その中には枠をはみ出すような新曲もあったり。今までとこれから、皆さんに見守ってきていただいた前島亜美が第1幕です。第2幕は5曲全てが私の言葉なので、自分の中にある多声性=POLYPHONYをふんだんに詰め込むことが出来たと思っています」
──今、お話に出たアルバムのタイトル『POLYPHONY』についても聞かせてください。どんな意味の言葉なんでしょうか?
「音楽の専門用語で、クラシックにおける演奏技法のことを言うんですけど、今回は主に文学的な意味においての、日本語でいう“多声性”という意味を大切にしたいと思っていて。自分自身や世界に渦巻く様々な声、言葉。時に相対する感情が複雑に絡み合っていると思うんですけど、どれか1つを正しいとするのではなくて、それら全てをそのまま存在として認めることです。ある作家さんが“ロシアの文学作家、ドストエフスキーが執筆の方法として用いている”ということを研究をされていて、POLYPHONY=多声性という言葉が文学において浸透してるんですけど…」
──む…難しいです。
「正解が1つではなくて、作者があらゆる意見に対して、“これが正解である”という定義付けをしないことが大事なんだという。それがいろんな肩書きで、いろんな世界を見てきた私にすごく心地よいテーマで、このアルバムに相応しい言葉だと思いました」
──多面性とも違うんですよね?
「そうですね。多面性ではなく、多声性にしたのは、声優アーティストとして声で戦うというところにも重なると思ったのと、自分自身の心の中にもいろんな声があって。いろんな意見があって、常に戦っている。どれが本当の自分なのかわからなくなって悩んだりもするんですけど、“全部を肯定してあげればいいんだ”と思うと楽になれるというか…“そのまま出してみよう”というアルバムになりました」
──なるほど。
──第2幕にはWリード曲の1曲、TVアニメ『才女のお世話』エンディングテーマの「完璧じゃない私」が収録されています。タイアップで作詞も手がけたのはこの曲が初めてですよね。
「すごく楽しかったです。私の作詞史上最速で書けました」
──そうなんですか!?
「レーベルメイトの愛美さんに“タイアップの作詞って楽しいよ”というのは聞いていました。“やってみなよ。絶対にできるよ”って言ってもらっていたんです。“いつかやってみたいな”と思っていたところ、早速の機会をいただけました。まず、曲から決めたんですけど、コンペで選ばせてもらいました。これまでの私の曲は、自分の性格もあって、真剣な曲が多くて…声優アーティストとして、遊び心やカラフルさも欲しいと思っていたところに、デモの段階で仮の言葉でたくさんセリフが入っている可愛い曲をエレガ(Elements Garden)さんが出してくれたので、“これだ!”と思って選ばせていただきました。“よし、歌詞を書くぞ!”となったんですけど、原作が素敵すぎるんですよ」
──原作を読んでどう感じましたか?
「キャラクターが魅力的ですし、心に残るシーンや言葉が多すぎて。原作を読みながらノートをつけてメモしながら作詞を進めていたんですけど、本当に最速で書けました。大先輩の水樹奈々さんとお話しをした時に、“タイアップの作詞をする時に、キャラクターソングにならないように自分の成分も入れることを心がけている”とおっしゃっていたことを覚えていて。だから、キャラソンではなくて私の曲でもあるんだという、作品と私の共通点を考えた時に、<完璧じゃない>っていうのがポンと出てきました。そこからはダーッと書けました」
──でも、前島さんは完璧主義者ですよね?
「いや、でも、それって、自己満足の完璧主義ではなくて、自己防衛の完璧主義者なんです。“なるしかなかった”みたいな…。“なりたくてなった”のではなくて、完璧になろうとすることでしか自分を守れなかったようなところがあって。それは誰のせいとかではなくて、自然とそうなっていました。より良いものを作ったり、表現をしなければならないという責任感からきていると思います。その上で、完璧じゃないことも悩みですし、完璧になろうとしてしまうことも悩みになっていて」
──その悩みが原作と重なったのでしょうか?
「『才女のお世話』を読んでいて、完璧じゃない雛子ちゃんがすごく魅力的だったんです。“私のそういった部分も誰かに見せて愛してもらえたらいいな”とも思いました。しかも、その頃、すごく作詞に悩んでいる時期だったんです。自分の言いたいことを書くのが作詞ではなくて、音と親和性があって、キャッチーで聴き心地がいい言葉を適切に選ぶのが作詞なんだ。そう思っていた時期なので、“何を差し置いてもキャッチーに!”というのを第一目標で書いていました」
──それも多声性の1つですよね。
──その多声性=POLYPHONYというのは最初から決めていたテーマなんですか?
「いえ、最初は違うタイトルで進んでいました。それも歌詞の中に入れているんですけど」
──どの曲に入っているんですか?
「「Jeanne d’Arc」です。<maverick>にしようと思っていました」
──maverick=異端者という意味ですね。
「でも、本を読んでいる時にPOLYPHONYという言葉を知って、“これじゃん!”って。これこそが今の私に必要な言葉で、なおかつ自分でも表現したい言葉だと思って、グンと舵を切りました」
──ご自身で作詞したデジタルロック「Jeanne d’Arc」の作曲と編曲はfripSideでも知られる齋藤真也さんですね。
「実はグループ時代のデビュー曲が 3曲あったんですけど、そのうちの 1曲、「Be with you」を小室哲哉さんが作詞作曲されていて、編曲が齋藤さんでした。だから、齋藤さんも私のルーツなので、第2幕のど頭に持ってこさせてもらいました。16年ぶりです。ソロアーティストとしては初めて、1人の人間として再会させてもらいました(笑)。最初は作詞するつもりではなかったんですけど、デモを聴いた時にあまりにも良くて…“恐れ多いですが、私が書いてもいいですか?”と手を挙げたら、快くOKしてくださいました。こんなにも素晴らしい曲だから、魂を込めて書かなきゃいけないって思った時に、“私が熱量を持って書けるテーマって何かな?”と考えたら、ジャンヌダルクという人物に対しての想いだったので」
──ジャンヌダルクが好きなんですね。
「これも本なんですけど、ジャン・アヌイという人が書いた『ひばり』という戯曲があって。それを読んだ時に、ジャンヌダルクにものすごく共振しました。いつか『ひばり』のジャンヌダルクを演じることが私の夢なんですけど、それも“POLYPHONY”とするなら“語りたい”と思いました。とはいえ、ジャンヌダルク目線ではなく、ジャンヌに共感した私の目線で書いています。舞台で演じたい戯曲からアイデアを得ていることもあって、舞台の専門用語も入れています」
──まさに<舞台(ステージ)>をはじめ、<台詞(セリフ)>、<悲劇>、<喜劇>…。
「<磁場>や<外連味(ケレンミ)>も舞台でよく使う言葉です。ちょっと馴染みがないかもしれないですけど、とにかくジャンヌダルクに心が動いた自分を書きたくて。歌詞って大体 500文字くらいで固まるんですけど、ジャンヌダルクのことを改めて調べたり、いろんな本を読んだり、メモを取ったり、自分の想いを書いたりしていたら、3万字ぐらいになっちゃって。3万字を 500文字にしました」
──かなりぎゅっと凝縮したんですね。
──さらに「職業:あみた」に続く曲として…。
「あみた曲シリーズ第2弾が「優良物件証明歌♡」です。何よりも今、このタイミングで“POLYPHONY”において、笑顔で明るく愉快に、“私は優良物件だ”ということをどうしても言いたかったので」
──あははは。少し愛が重めの優良物件ですよね?
「いろんな要素を後から足していたんですけど、この<優良物件>っていう単語をどうしても“POLYPHONY”に入れたくて。アルバム制作の最後に作った曲です。最後の一枠、どういう曲にするか?…いろんな可能性があったんですけど、「職業:あみた」に続く曲を作りたかったので、私がヒャダイン(前山田健一)さんの背中を追いかけて、歌詞を書いてみようと思って書いたらこんな感じになりました」
──<♡>がたくさんありますし、ライブで盛り上がるコールもふんだんに入っていますね。ユニークな曲ですけど、聴き手である“きみ”と一緒に生きていきたいという真摯な想いが込められていますよね?
「私、よく思うんですよ。私を応援してくださっている方々を“あみ民(あみたみ)”さんと呼んでいるんですけど、“あみ民さんとだけ生きていければいいや”って気持ちになることがたくさんあって。人生にはいろんなことが起きますけど、私と応援してくれている方々の空間、世界、関係性だけは絶対に守る。そんな使命感があります。それは私のためでもあって。1Cで<きみも寄越しなさい/確証を♡>と言っていて、これは本音です。“絶対、逃がさない!”みたいな…絶対に側にいてほしい気持ちは私の本音です」
──他にも夏の切ないラブソング「五月雨」やご自身の内言語を聴き手のエールにつなげた「インナースピーチ」など、まさに多声性に富んだアルバムになっていますが、芯を太くすることを目指したアルバムが完成して、その先というのは何か見えましたか?
「中身は詰められたという自信はあります。あとは、輪郭を作らないことだと思っています。とにかく出てきた音、言葉、歌、全部を出していいという想いで飛躍していきたいです。今までの私は完璧主義であるが故に、脳内に門番がいたんです。“これを言っていいか、言っちゃいけないか”をジャッジする門番にO.K.をもらわないと発言ができなかったですし、表現ができないことがずっとありました。今は、その門番…たくさんいるんですけど(笑)、勇退してもらいます。出てきたものをそのまま出しても、“多声性=POLYPHONYなんだ”と少しずつ思えるようになっていきたいです」
(おわり)
取材・文/永堀アツオ
写真/野﨑 慧嗣
















