1回目を迎えた今回は、24の国と地域から約270ブランドが集結。会期中には40を超えるイベントが組まれた。初日のオープニングを飾ったのは、香港出身のクリエイティブディレクター、Kit Wanによる「キット・ワン・スタジオズ(KIT WAN STUDIOS)」の香港初となる単独ショー。韓国は今回初めて「Featured Partner」となり、過去最大規模の韓国パビリオンとランウェイを展開して存在感を増した。オーストリアは7ブランドによるパビリオンで初参加。オーストラリアも前年の7ブランドから10ブランドへ規模を広げてパビリオンを構成した。タイも複数ブランドによるパビリオンとファッションパレードを展開するなど、各国がまとまりを持って独自のデザインを発信した。会場は「Contemporary」「Urban」「Craftsmanship」「Circular Fashion」など7つのゾーンで構成され、商談の場であると同時に、各国のデザインとカルチャーが交差する場として熱気を見せた。
日本からは24ブランドが参加。そのうち20ブランドが参加したCFD TOKYO(一般社団法人東京ファションデザイナー協議会)の団体ブースは90平方メートルに及び、会場内でも最大級の団体ブースの一つとなった。前年の8ブランド・36平方メートルから、ブランド数・面積ともに大きく規模を広げての出展となった。
日本から約5時間、世界の市場反応が交差する
CFD TOKYOブースには会期前の時点で270件の商談予約が入り、会期中の商談は300件を超えた。数字の大きさ以上に印象的だったのは、訪れたバイヤーの国籍と地域の幅広さだ。欧州、北米、アジア、中東など、文字通り世界中から来場者が集まり、日本から比較的アクセスしやすい香港にいながら、世界各地の市場反応を一度に確かめることができた。
その出会いを支えたのが、センターステージのビジネスマッチングの仕組みだ。出展者は事前に登録したブランド情報をもとに海外バイヤーとのアポイントを組み、会期前から商談の機会を確保できる。会場ではQRコードを利用し、出展者とバイヤーの情報交換を円滑にする取り組みも行われていた。さらに、バイヤーと出展ブランドが同席するランチミーティングも実施。ブースでの短い商談だけにとどまらず、継続的なコミュニケーションへつなげる複数の接点が設けられていた。
会場では、事前に設定された商談だけでなく、通りがかりに商品へ目を留めたバイヤーとの偶発的な出会いも生まれた。一度訪れたバイヤーが、一日のうちに複数回ブースへ戻ってくる場面も、複数のブランドで見られた。センターステージは販路を開く商談の場であると同時に、どのデザインが、どの国や地域で反応を得られるのかを世界規模で一度に検証できる、貴重な市場検証の場でもあった。
20ブランドで臨んだCFD TOKYO
CFD TOKYOの団体ブースに参加したのは、「バップ(BAP)」「ベースマーク(BASE MARK)」「ボディソング.(BODYSONG.)」「チドリ(CHIDORI)」「ディゼムバイシーク(disemBySiiK)」「ディウカ(divka)」「ダブルスタンダードクロージング(DOUBLE STANDARD CLOTHING)」「インプロセストーキョー(IN-PROCESS Tokyo)」「ジュンオカモト(JUN OKAMOTO)」「ローランダー(LOWRUNDER)」「マリコ(MARIKO)」「マルモア(marmor)」「メグミウラワードローブ(MEGMIURA WARDROBE)」「メッキ(MEKKI)」「ヌヌフォルム(nunuforme)」「ペイエン(PEIEN)」「アールビーティー(RBTXCO)」「リツ(ritsu)」「タクター(tactor)」「タージュ(TAGE)」の20ブランド。それぞれが異なる個性を携え、世界各地のバイヤーとの商談に臨んだ。
アウターを軸に、機能性と造形美を融合した服を提案するメグミウラワードローブは、センターステージ開幕前日の9月1日に、楽天ファッションウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO 2027 S/S)でランウェイを発表。その日の深夜便で香港入りし、東京での発表の熱気を携えたまま、世界各地のバイヤーとの商談に臨んだ。
構築的なパターンから服の新しい輪郭を探るディウカには、事前にブランドを調べていた上海の来場者が、一日のうちに二度足を運んだ。デザイナーの田中崇順は、「これほど多くの国の人々と一度に会い、普段は名刺交換の機会をつくることさえ難しい相手と直接話せることに、出展の価値を感じた」という。
ディゼムバイシークは、会期中に約30件の接点を得た。相手はバリ、スペイン、ドイツ、シンガポールなど多岐にわたる。「香港市場に向けて見せるだけではなく、香港から世界へデザインを提示し、国や地域ごとに異なる反応を得られたことが大きな収穫になった」という。
物語から発想した服づくりを続けるジュンオカモトは、前年に続く2度目の参加。前回と同じバイヤーから再びアポイントが入ったことに、単発の出会いが継続的な関係へ育つ可能性を感じていた。今回はタイとカナダで、新たな取引の可能性が生まれている。
世界のバイヤーが見出す、日本ブランドの独自性
各国のバイヤーと直接会話することで、日本と海外では同じ服でも評価されるポイントが異なることが見えてきた。
チドリが提案するのは、一着の形や着方を変えられるトランスフォームウェアだ。日本では仕組みが一見して伝わりにくいという反応を受けることもある一方、「海外ではその意外性や発想自体を面白がってもらえた」とデザイナーの藤原史成は語る。
ボディソング.の服は、欧州のバイヤーからも関心を集めた。日本のストリートカルチャーを感じさせるムードに加え、有松絞りをトラックスーツへ応用するなど、細部に日本の技術を組み込んでいる。視覚的な強さと、背景にある技術の双方が、国境を越えてブランドを伝える要素となった。
商談以外の発信機会も生まれた。リツとベースマークはニュージーランドの業界誌『Apparel Magazine』の取材を受け、メッキは『VOGUE Hong Kong』のセンターステージ特集で紹介された。バイヤーとの取引だけでなく、海外メディアを介してブランドの存在を伝えられることも、国際展示会に参加する価値の一つだ。
多様なルートで広がる海外への挑戦
日本からはCFD TOKYOの団体ブース以外にもブランドが参加した。国内約50店舗に卸し、工場との直接取引によるジャパンメイドを強みに年4回のコレクションを発表する「リサウンドクロージング(RESOUND CLOTHING)」は2度目の出展。タイ、英国、台湾、マレーシアなどから来訪があり、今後の取引につながる手応えを得た。
岡山のセルビッチデニムやチノ素材、和歌山の織物などを生かす「ザ・チノ・リヴァイヴド(The Chino Revived)」は、「Pitti Uomo」へ継続的に出展してきた実力派ブランドだ。今回が香港初出展となり、飛び込みで訪れた香港の有力百貨店「Lane Crawford」のバイヤーとも直接話す機会を得た。
また、CFD TOKYO加盟デザイナーの鈴木里砂が手がける「ジップアート(ZIP ART)」は、団体ブースではなく日本の合同展示会「PLUGIN|EDITORIAL」の招待枠で参加した。今回、「ロマンス・イン・ジップ(Romance in ZIP)」から「ZIP ART」へブランド表記を改め、ルックにも男性モデルを起用。性別を問わず興味を持ってもらえる見せ方へと舵を切ったことで、メンズを扱うバイヤーの訪問も増えたという。センターステージの翌週にはジェトロの支援を受け、サウジアラビアのショールームへ参加する予定だ。一つの展示会を単発で終わらせず、複数の市場へ挑戦を広げる日本ブランドの動きも見える。
香港から世界へ
商談が具体的な取引として実を結ぶまでには、会期後の継続的なコミュニケーションと一定の時間が必要だ。一方で、ブースを再訪するバイヤーや継続的なアポイント、海外メディアからの取材など、今後の展開を期待させる成果は、すでに随所で見られた。
東京から約5時間でアクセスできる香港の大きな可能性は、アジア市場への展開を具体的に進めながら、同時に欧州を含む世界各地のバイヤーと直接商談し、国や地域による反応の違いを比較できる点にある。アジアでの販路開拓と、その先の欧州市場を見据えた市場検証を同時に行えるセンターステージは、日本ブランドにとって、現実的かつ戦略的な海外展開の起点になり得る。
香港は、単にアジアへ進出するための入口ではない。どの市場で、どの商品が、どのような言葉で届くのか。世界に向けた仮説を試し、ブランド自身が次の一手を見定める場所としての可能性が示された4日間となった。
取材・文:佐藤実丘

プロフィール
佐藤実丘(さとうみく)|tenen主宰/Fashion × Culture Strategist/Editor
M.A. Fashion Marketing and Global Cultures
外資系コンサルティング会社勤務を経て、現在はファッションとカルチャーの領域で、展示会や販路開拓プロジェクトの企画・進行、リサーチ、取材、コンテンツ制作を手がける。東京都の若手デザイナー育成・販路開拓事業「FDAT」では、メンターサポートにも携わっている。
