──初のフィジカルリリースにして、メジャー1st ALBUM『AVANTGARDE』がリリースされました。ご自身ではどんな作品にしたいと考えていましたか?
「この先10年、20年、30年と続く自分の音楽人生を振り返った時に、メジャー 1st ALBUMは記念になりますし、記憶に残るアルバムになるじゃないですか。だから、“ああいう時代だったなぁ”とか、“こんなことに悩んでたなぁ”とか、“ああいう人たちと関わっていたな”というものが残るアルバムにしたいと思っていました」
──では、そのアルバム『AVANTGARDE』で、今のこの時代を象徴する曲を挙げるとすると?
「リード曲「アヴァンギャルド」はまさにそうですし、「メッチャいいじゃん!」も今の社会性を表現している曲です。あと、高校3年生で上京した時に書いた「十人十色」をこのタイミングで世に出すっていうこともそうだと思います。もう10年近く東京で暮らしてきましたけど、都会であるが故の孤独は変わらないですし、同じような気持ちがまだあるんだなっていう…。そういう価値観を書いた曲なので、この3曲はすごく意義があります」

──今、ピックアップしていただいた3曲について、1曲ずつ詳しく聞かせてください。「アヴァンギャルド」はどんなところから作りました?
「これは、サウンドとメロディー、両方なんですけど、イントロのピアノのフレーズがアイデアとしてずっと置いてあって…」
──ラテンになっていますよね。
「最初のアイデアはもう少しクラシックっぽかったんですけど、アレンジャーの塚田(耕司)さんと相談して、最終的にちょっとラテンっぽい感じにしました。デモ音源もかなり作り込んでいたので、塚田さんがSEやフェイク、ギターのフレーズはほぼ変えずにブラッシュアップしてくださって。よりいいものにしていただきました」
──ここまで打ち込みの曲はLittle Black Dressの曲では珍しいですよね。
「もともと全部が打ち込みの曲は少ないんですけど、ロックの曲でここまで振り切ってるのは初めてです。今までやったことないことだらけをやってみようと思って。あとは、踊り子さんにも踊っていただきやすいように、ダンスミュージックを意識していました。塚田さんは普段、ダンスミュージックを作ってらっしゃるので、そこは塚田さんに色を塗っていただいた感じです。私のデモではもっと暗かったので…」
──どうしてダンスミュージックにトライしようって思ったんですか?
「今まで私の曲で踊ってもらいやすい曲がなかったんです。“アヴァンギャルド”って言ってるくらいなので、これを機にいろんな表現者の方たちとつながれるといいなと思って。サビも15秒で作っています。今、SNSで曲を使っていただくっていうのには外せないポイントなのかな?ということも初めて深く考えてみたりしました。今の時代だからこそという作り方です」
──確かに、セクションごとに色が違うから飽きさせないですし、TikTokでダンスチャレンジができるようなパートもありますね。
「そうですね。今回、間奏にははギターソロじゃなくてスキャットソロを入れてあるんですけど、そこのアイデアは宇宙戦艦ヤマトの「無限に広がる大宇宙」なんですよ」
──そうなんですね!? ちゃんとご自身のルーツである70年代のニュアンスも入ってる…。
「「無限に広がる大宇宙」はスキャットの曲なんですけど、それを聴いたときに、“<Ah〜Ah〜>だけでこんなに悲しみや悔しさを表現できるんだ”って衝撃を受けました。これはもう、“アヴァンギャルド”っていう“枠組に囚われない表現を目指す考え方を体現するもの”に絶対に入れたいと思って。あと、歌詞は子供にもストーリーが伝わりやすいような内容になっています。トラックがかっこいいのに、<腹ぺこ>っていう、ちょっとポップなワードを使っていて。そこは、ピンクレディーの世界観からちょっとヒントを得ています。歌謡曲のエッセンスを自分なりに落とし込んでみました」
──“アヴァンギャルド”はリード曲のタイトルで、アルバムのタイトルにもなっていますね。
「昨年の配信リリースしたアルバム『SYNCHRONICITY POP』の制作時に、ものづくりで行き詰まったことがあって…。そこでいろんな美術館に行ったり、岡本太郎さんをはじめ、芸術家の方の著書を読み漁ったときに“アヴァンギャルド”っていうワードに出会いました。聞いたことはあったんですけど、今の世の中であまり聞かないと思って。それが始まりです。で、メジャー1st ALBUMとして、先ほども言ったように、何年も残る作品として考えたときに、“一番羽を伸ばして、自分らしくやっていく“っていうのがテーマだと思って。アルバムタイトルの方は、曲が揃って、最後に決めたんですけど、最終的に曲を書いていって、集まって、”アヴァンギャルドになったな“っていうので、このタイトルになりました」
──繰り返しになるかもしれませんが、“アヴァンギャルド”っていうワードに出会った時にどう感じたんでしょうか?
「自分自身と闘い切ることができれば、周りからどんな評価を受けたとしても、無敵の境地に行けるんだ!っていう気づきですね」
──歌詞は“蝶”がモチーフになっていますね。
「蝶はいろんな象徴として使われることは知っていて…いつか歌詞に入れたいと温めていたんです。美しさや自由、変化の象徴なので。歩いても走っても、立ち止まっちゃったときは、羽根を生やして、壁を飛び越えちゃう。“また別の自分になるんだ”っていう。そういう自分の中の気づきが、同じような孤独にぶつかってる人に届けばいいなと思います」
──“自分自身と闘う”とありましたが、歌詞の一番は<僕ら>になってますよね。
「最初、暗かった頃の歌詞は、自分のことについて歌っていた要素が強かったんです。でも、いつもアドバイスをくださる身近な存在の方に“音楽っていうのはエネルギーやパワーが強い。歌い手や演者の想いが何倍にもなって、お客さんに届くんだ”と言われたことがあって。そこで、“私はこの曲で悲しい気持ちを伝えたいかな?”って考えると、“いや、そうじゃなくて、次に歩き出すパワーや勇気を伝えたい”と思って。だから、自分のことではなく、“みんなで乗り越えよう、みんなで一緒に闘おう”ってニュアンスを入れたくて書いていきました」
──だから、一瞬<弱い僕>が出てくるけど、最後は<未来は僕らで切り拓く>と歌っているんですね。
「そうですね。きっと、今、いろんな状況で闘っている人がいると思うんです。私には妹がいて、SNSでの悩みも聞いたりします。みんなが表現しやすい時代にはなっているけど、自分の知らないところで誹謗中傷されていたり、自分がやりたくてやっていることが否定されたりする。多様性や“自由を尊重しましょう“って言われるようになった時代なのに、とても逆行していると感じます。縛りつけているというか…自分自身も縛りつけちゃうようなストイックな若い世代が多いのかな?とも思って。でも、だからこそ、個性や才能という何にも変えられない武器で闘うことを決して諦めないでほしいですし、自分自身を磨くために自分自身と闘い続けてほしいです。”みんなで一緒に闘おう“って、未来のホープの皆さんに届けばいいなと思います」
──「メッチャいいじゃん!」には<退職代行頼ります>という昨今話題になることが多い退職代行業者を思わせるフレーズがあります。
「意外とその話を聞くことが多くて。私はどっちの側にもいないからこそ、(退職代行業者を)使って辞めた方、使われた方、両方の気持ちがわかります。みんな、ぐるぐる回ってるというか…肯定も否定もしたくなくて。だから、いろんな立場の人が聴いて、それぞれに受け取っていただける曲だと思います」
──とはいえ、そこまで考えないで聴きたい曲ですよね。
「はい。もともとはコロナ禍でライブができない時期に作っていた曲だったんです。“ライブでみんなで笑い合いたい”って思って作り始めて、最初は今の時代を反映させるような歌詞ではなかったんです。最後の最後まで一番のAメロが書けなくて…。他の曲がどんどんできて、でも、とてもメッセージ性の強い曲ばっかりになったなぁと思って。このアルバムを引っ提げてライブすることを考えた時に、ちょっと肩の力を抜いてみようと思って、頭を空っぽにしてみたら、5分ぐらいで日記のように書けました。だから、頭を空っぽにして聴いてもらいたいですね」
──ライブでクラップしたり、大きな声をあげている場面が想像できます。
「バンドメンバーさんに<Hoo!>って言ってもらったり、スタッフの方に笑い声を入れてもらったり、楽しんでレコーディングもしていたので、それが伝わったら嬉しいです」
──曲の最後に遼さんの笑い声も入っていますね。
「バンドメンバーさんのレコーディングの時に一緒に歌わせていただいて、ほんとうに楽しかったんです。曲はフェードアウトで終わるつもりだったんですけど、“ライブみたいに終わろう”って言って、私もカウントを入れたりして。その時のものをそのまま採用しています。今、ラジオで曲を聴いてもらうために、いろいろプロモーションしたり、あと、「アヴァンギャルド」みたいにSNS上で曲を使ってもらうために、作品としてきっちり作られているものが多いじゃないですか。でも、私が好きな70〜80年代の曲を聴いていると、ライブ感がある曲が多くて…この曲では、サディスティック・ミカ・バンドのようなラフ感を出したかったんです」
──アレンジャーの曽我淳一さんとの作業はどうでしたか? サザンオールスターズの桑田さんが“この人がいないとアイデアが形にならない”というくらい信頼している方ですが。
「曽我さん、ほんとうに優しい方で、自分の頭の中では浮かんでいるけど、言葉にできないときや音にできないときがどうしてもあって。でも曽我さんには引き出しがすごくたくさんあって。桑田さんと作業されていて、ポップスであったり、自由さであったりを共有されているのかなと思います。だから、“もう少しポップス寄りにするんだったら、こっちのコードがいいんじゃないかな?”とか教えてくださって。私は今回、ポップスにしたいという意識が強かったので、とても心強かったです」
──曽我さんを通して日本語のポップスのレガシーを受け継いでるんですよね。
「いろんなエッセンスを受け取っているので、毎回、すごく新鮮ですし、楽しいです」

──もう1曲、「十人十色」はライブでもやっていた曲ですか?
「いえ、最近は全然やっていなくて…。私が初めてMISIAさんのオープニングアクトをさせていただいたときに、ギターで弾き語りで披露した曲です。だから、思い入れの深い曲ですけど、ずっとリリースしてこなかったんです」
──どうして今、このタイミングで入れようって思ったんですか?
「この曲をリリースする自信がなかったんです。上京ソングとして書いたんですけど、“道をどう進んでいけばいいかわからない”という不安を歌っていて。でも今はもう、同じような不安はありません。“じゃあ、今じゃないな”って思ってリリースしてこなかったんです。でも、<私は私を 好きなだけ生きる/この街で もう戻らない>って言い切れるような自信がちょっとついてきて…だから、最後にその歌詞を加えました」
──最後の2行はなかったんですね。
「違う歌詞だったんですけど、“今の私”に変えました。“これなら今、歌える”と思って」
──その前までは、当時の心境ですよね。今のご自身から見てどう感じましたか?
「“まだ共感できる部分がある”って思いました。当時はカルチャーショックだったんです。岡山では電車も乗ったことなかったですし。東京の電車の中で床に寝転がっている酔っぱらいのおじさんとか見て、“なにこれ? 海外?”って」
──あはははは。映画で見る、ニューヨークの地下鉄みたいですしね。
「そういうところから入って…。スクランブル交差点で、ランドセルを背負った小学生が私よりスムーズに歩いていたりすると、“え?どういう世界線!?”って思ったりとか。そういう衝撃は忘れないですし、忘れたくないです」
──アレンジも変えたんですか?
「はい、変えました。最初はもう少しヨーロピアンというか、アコーディオンを入れたりして、すごく爽やかだったんです。でも、もっとポップスに、ちょっと昭和歌謡っぽくしたくて」
──エレキシタールが印象的なので、オリエンタルなムードが漂っています。
「私が好きな「異邦人」とかの時代性を映せたと思います。あと、コーラスというか、天の声みたいなのも入れていて。あれ、<Go>って言ってるんですよ。スクランブル交差点にいるときにいろんな人の声が聞こえたんですよ。“あっちに進め、こっちに進め”っていう…そういう天の声が入っています」

──上京するときはどんな心境だったんですか?
「私が上京するときに、新幹線の中でいろんな上京ソングを聴いていたんですけど、泣けなかったんです。楽しみなのか、不安なのか、怖いのか…整理がつかなくて泣けなかったんですけど、泣きたくて、“上京ソング 泣ける曲”って検索して、いろんな方の上京ソングを聴いて。いろんな上京ソングに答えがいろいろと書いてあって、だんだん整理できました。“私も誰かにとっての上京ソングをリリースしたい“と思っていたので、ようやくリリースできてよかったです」
──上京から9年経って、最後の2行が付け加えられたんですね。
「“アヴァンギャルドに本能で生きていく”、“何者にもならない”って決意をしていて。それは私の今の精神性を表しているので。この曲は“何者”かになりたくてもがいていた曲なので、答え合わせのような2行になっています」
──もう岡山には戻らない?
「“アイラブ岡山”なんですけどね。自分が幸せなときって、未来のことも、過去のことも考えていないときだと思うんです。人が悩む原因は過去や未来のこと。今を見つめながら、今を踏み締めていくっていうことが、すごく大切っていうことに気づいたので。“過去に戻らない”っていうのは大事だと思います」
──週末の終電に乗って、<アルコールの匂いが漂ってます>とショックを受けていた“私”が、「PLAY GIRL」で駅の更衣室でメイクしたり…。
「そうなんです! だから、FM岡山でDJをされている牛嶋俊明さんは新曲をリリースするたびにいつも心配してくれています。“遼ちゃん、東京でなにがあったの? お父さん心配だよ”って言ってくださるんです。9年も東京にいればいろいろありますよね(笑)」
──あははは。「Lonley Shot」ではテキーラを飲み干していますし。
「また心配しちゃいますね(笑)。テキーラはあまり飲んだことはないんですけど、これはリズムからできた曲です。作り始めた時によく聴いてた洋楽のドラムパターンから作っていきました。他の曲はアレンジが忙しかったり、ボリューミーだったりするので、シンプルでいなたいロックを目指した曲です」

──歌詞は孤独感ですよね。隣にはあなたがいるけど、分かり合えないっていう…。
「いろんな種類の孤独があると思うんですけど、一緒にいるのに分かり合えないっていう孤独はみんなが通る道なんじゃないかな?と思って。それと、相手のことをすごく好きだからこそ、喧嘩の時に思ってもないことを言っちゃったりするじゃないですか。そこを許したつもりなんだけど、やっぱり何十年も心に刺さっている言葉ってあって。家族や友達、恋人とか、第三者とか、いろんな人からの胸に刺さった言葉が抜けないっていう…。結構、辛いものだと思うので、それをアン・ルイスさんのような“強い女”感を出しながら、書いてみました」
──ご自身では“自由”と表現していましたけど、全体的に肩の力が抜けて自然体になった印象を受けました。
「作詞作曲家としての遼がいろんな経験をさせていただいて。コロナ禍の最中にデビューしたので、分からないことだらけだったのが、今、ようやくいろいろと分かってきました。全部自分でやるのもいいけど、人の力を借りていいということにも気づきました。“何者”にもならない、“本能で生きていく”って言い切れるようになったことが大きいと思います」
──全7曲が揃って、ご自身としてはどんな感想を抱きましたか?
「自分に自信が持てるアルバムが完成しましたし、“人間って尊いな”と思いました。かなり暗い歌詞もあったりしますけど、7曲だけでもいろんな心理性が詰まっています。”生きる”とか“死ぬ”とかに対して、
──そうですね。いろんな感情や体験を味わい尽くしたくなりますよね。
「歌謡曲を聴いていてもそう感じるんです。たとえ勇気づけるような曲じゃなくて、失恋ソングだとしても、“これは人間だから味わえることだよなぁ”と感じます。それが体現できて、自分自身の成長を感じるというか…もっともっと頑張りたいです」
──これから先はどう考えていますか。
「まだ世に出ている曲が28曲しかなくて。“意外と少ない!”と思ったので、とにかく曲を世に出したいです」
──6年で28曲です。
「少ないですよね。以前のディレクターさんに“ピンク・フロイドか!”って言われたことがあります(笑)。だから、とにかく曲を作って形にしてリリースしていきたいです。今の時代は、いろいろと移り変わる時代ですし、災害や戦争があって、人が心を病みやすい時代でもあると思うんです。でも何十年後かに振り返ったときに、“あっ、こういう時代あった”って感じられる曲をリリースしていきたいです。中島みゆきさんの「時代」のように、その時代を刻み込んだような楽曲をたくさん残していきたいです」

(おわり)
取材・文/永堀アツオ
写真/中村功
RELEASE INFROMATION

Little Black Dress『AVANTGARDE』
2025年7月23日(水)発売
KICS-4211/2,800円(税込)
『AVANTGARDE』King e-SHOP限定SET
ALBUM『AVANTGARDE』にKING e-SHOP限定オリジナルTシャツがついた豪華セット︕
ECB-1790/1791/6,800円(税込)
Download & Streaming >>>
EVENT INFORMATION

『AVANTGARDE』リリースイベント スペシャルミニライブ&ジャケットサイン会
7月23日(水)19:00 タワーレコード池袋店店内イベントスペース
7月26日(土)13:00 アリオ倉敷2Fフードコート内サテライトスタジオ前