2022年に22年ぶりに復活を遂げたkein。lynch.の玲央(G)、deadmanの眞呼(Vo)とaie(G)らを擁し、活動期間は3年という短い月日ながらも、後続に大きな影響を与え、語り継がれていたまさに伝説のバンドだ。復活作やツアーを経て、今回完全新作としてリリースされるEP『PARADOXON DOLORIS』について、玲央と眞呼に話を聞いた。
──2022年に22年ぶりに復活。昨年はアルバム『破戒と想像』を発表し、ツアーを廻られて、今回EP『PARADOXON DOLORIS』をリリースされます。今作はバンド初のメジャー流通でリリースされるわけですが、この状況についてお二人はどう受け止めていますか?
玲央「時系列に沿ってお話しすると、元々メジャーデビューすることは考えていなかったんです。“この時期にこういったボリュームの作品を作りたいよね”という話をメンバー間で固めていたら、キングレコードさんからお話をいただいたので。だから率直な感想としてはまぁ、嬉しい半分、“そうなんだ?”というか(笑)」
──(笑)。というと?
玲央「正直に言って、メジャーを意識して作るということをまったくしていなかったんです。だからスタンスとしては、去年リリースしたアルバムのときと心情的には変わっていないですね」
──眞呼さんはメジャーレーベルからお話が来たときにどう思われました?
眞呼「単純に驚きましたね。もう本当にそれだけというか…」
──ご自身の中では、とにかく自分たちの作りたいものをまず作ることを優先していたのでしょうか?
眞呼「そうですね。昔は、20代とか若いうちにメジャーでやるというのが当たり前で、そこに当てはまらないのであればもう辞めてしまえ! みたいな風潮がありましたけど、そこから考えると本当に驚きでしかないというか、ちょっと申し訳ないというか…(笑)」
玲央「確かに90年代はそういう空気感がありましたね」
眞呼「僕の尊敬している方々は、もう音楽を辞めてしまったりとか、そうせざるを得ない風習があって。それを見てきた者としては、なんかちょっと悲しい半面、“こういうこともあるんだな”とも思います。であれば、自分が尊敬しているミュージシャンだった人たちも、もう一回、表舞台に出てきてくれないかな?って思ったりはします。まったく関係ない話ではあるんですけど…」
──いろんな思いがあるという。
眞呼「はい。とにかく強烈に驚きました」
──昨年発表されたアルバム『破戒と想像』は、過去に音源化されていたものやライヴで披露されていたものが中心になっていましたが、今作『PARADOXON DOLORIS』の制作はどういったところから取りかかったんですか?
玲央「今年の春先か初夏ぐらいにかけての頃だったと思うんですけど、“秋頃に東名阪2デイズでライヴをやりたいよね、そのときに何か音源を出したいよね”っていう話をぼんやりとしていたんです。それで当初は、まだ音源化されてない楽曲がいくつかあるので、その楽曲プラス新曲という新旧織り混ぜた形にしましょうか?という提案をしたんです。それに対して、aieさんが、“それなら全曲書き下ろしにしましょうよ!”と。そこから締切を設けて、ソングライティングのできる人は2曲ぐらいずつ持ってきて、10曲の中から5曲選ぼうか?みたいな…そんな感じでアナウンスしたら、みんなが曲をバンバン作ってくるんです、ものすごいスピードで。今回のEPの中で、「Spiral」以外は各々が草案を持ってきてスタジオで固めたような感じだったんですけど」
──「Spiral」は今作の1曲目に置かれている曲です。
玲央「みんなが持ち寄った曲を見て、“なんかちょっと足りないよね、こういう曲調のものがあったら作品として締まるよね”という話になったときに、そしたらこれもaieさんなんですけど、“スタジオ、まだ残り2時間あるんで、今から作りません?”って。僕が普段やっているlynch.だと、DTMでわりときっちり図面を書いて、それをメンバーに渡した上でアレンジしていくので、僕からしたら“あと2時間しかない”んですよね。だから“まだ2時間あるから作りましょうよ”っていう、その一言に驚いて。でも、aieさんが言うんだから、ひとまずみんなやってみようよということになって、そこでほぼ完成しました。そのときに眞呼さんも仮歌を歌っていて…」
──本当にすごいスピードですね。
玲央「でも、よくよく考えたら90年代のバンドってみんなこういう作り方してたよなと思って。今さらながら僕自身勉強させてもらったというか、忘れていたものを掘り起こされたというか。でも、これも去年、既存曲を収録したアルバムを作ったからこそだと思うんです」
──制作の後にツアーもありましたし、そこでkeinとしてのメカニズムというか、筋肉の使い方みたいなものが改めて分かって、いまの形になったのでしょうか?
玲央「そうですね。2000年以前のkeinをそこで消化できたのが大きいです。一区切りついた感じです」
──眞呼さんも玲央さんがおっしゃっていたような感覚はあります?
眞呼「ありますね。やっぱり解散が急だったから、途中で終わっちゃった感じは正直あったので。僕的には今、復活できてよかったなと思ってます。やっていて、おもしろいし」
──制作やツアーで昔の曲を歌ったときにどんな感覚がありました?
眞呼「そこは客観的に見ていたところもあって、やっぱりちょっと変なバンドだなと思いました。サウンドとかもそうだし、急に曲調が変わるとか。こんなことやってたんだ!?っていう再確認もできましたし、思い出してきた部分もあって。それを踏まえた上で僕も今回曲を作ったんですけど、みんなが作ってくる曲とまったく違っていて…“あれ? みなさんそういう風ですか?”みたいな(笑)」
玲央「(笑)。眞呼さんが作ってきた曲はkeinらしかったんですけど、今回はライヴで盛り上がるようなエネルギッシュな作品にしようというテーマが最初にあったので、それとはまた違うタイプというか…。だから質の話ではなく趣向の話ですね。すごくいいメロディだったから、次にボリュームのある作品を出すときにやりたいなと思っています。僕の中にこういうふうにしたら絶対にかっこいいと思うアレンジも既にあるので」
──お話にもあった通り、2デイズライヴへ向けて制作されていたこともあって、今作の楽曲はどれもフロアの熱狂をイメージできる楽曲になっていますが、その中で玲央さんは「Puppet」を作曲されています。イントロからグッと掴んでくるインパクトがありますね。
玲央「基本、keinというのは全員が違う方向を向いてるんです。このバンドの面白いところはそこで、幹は一緒なんですけど、みんな別の方向に枝を伸ばしていて。それもあって、聴いていただいたらわかると思うんですが、既存曲も含めてユニゾンがほとんどなくて。なのに音楽として成り立っていることが、僕はすごくバンドらしいと思っているし、そこにストッパーをかけたくないんです」
──それぞれがやりたいことをどんどん出し合っていこうと?
玲央「なおかつ、ライヴでも同期を使わずに、完全に生身の人間が弾けることだけをやります。同期を使うことで、3本目のギターやボーカルのガイドになるようなものを入れて厚みを出すことも可能なんですけど、僕らが聴いて育ってきた80年代、90年代のアーティストって、レンジ感をフレーズやポジショニングで全部カバーしていたんです。そういうアーティストが上に行けていたのを知っているので、そういったものを目指したいというのは、keinとしてやりたいものでもあるし。でもまぁ、みんな本当に好き勝手やっていますね」
──曲出しの時点から、みなさんそれぞれが好きなものを持ち寄ってきて、という好き勝手さ?
玲央「そうですね。僕は単純なリズムと、ベースもルート音のみで、自分が“こう弾きたいです”っていうギターを入れたら、もうメンバーに投げちゃうんです。ボーカルのメロディも、自分の中には“こういうふうに歌ったらどうかな?”というのはあるんですけど、それをミュートした状態で眞呼さんに投げるんです。そうすると、自分では考えつかないメロディが飛んできて。それを聴いて、“すげぇなぁ”って。そういうやりとりをスタジオだったり、データを投げ合ったりして固めていくんですけど…だから、図面があってそこに色をつけていくというよりも、みんなが好き勝手に図面を書き足して、それを引きで見るとひとつの絵になっているという…そんな感覚です」
──なるほど。色を足すレベルではなく、もはやもう別の何かを付け足してしまうぐらいの。
玲央「はい。たとえば僕が家の絵を描いて送ったら、そこにタイヤが付いたり(笑)、煙突が付いたり、羽が生えたり。それを俯瞰で見るとすごく歪なんだけど、面白い絵になっているんです。それがkeinだなというのをライヴで演奏していて痛感したので、先ほど眞呼さんも言ってましたけど、“変なことやってるなぁ”って(笑)。そういった違和感や異物感があるのがkeinなんです。みんなもその認識を持ってくれていると思うんですけど(笑)」
──確かに今回の収録曲も、いわゆるスッと流れていかない曲ばかりですよね。
──歌詞は眞呼さんが書かれていますが、「Puppet」であれば、少し皮肉的なところはありながらも、でもこれが現実というか…世の中の負の部分、闇みたいなものを感じるものになっていて。
眞呼「想像していないものを書くことはまずないので、現実にあることに目を向けてはいます。やっぱりファンタジーじゃいけないと思うんです。みんなが生きている上で抱えている問題の、答えというわけではないんですけど…その答えは人それぞれでいいと思いますし。ただ、聴いた人が“これは私の曲だ”と思ったら、その曲はその人の物ですし、聴いている人たちが“私の曲だ”と思ってくれるような曲にはしたいと、毎回思っています」
──たとえば、<希望 未来 選べ虚偽から>という歌詞なんて、まさに今の世の中でもあるなと思いました。
眞呼「結局、選んでいるものに本物がない場合ってよくあると思うんです。選択肢がないと言ってしまえばそうなんだけど…」
──目の前にたくさんの選択肢があるように見えているんだけど、実はそうではなくて…。
眞呼「選択肢があるようでない世界ですから」
──「Toy Boy」に関しては、歌詞を眞呼さんと玲央さんが共作されていますね。
玲央「共作といっても、僕は本当に一節だけなんです。この曲の歌録りをしているときに、“ここに何か入ってたらいいな”と思った部分があって。それで“仮歌で何か歌ってみてください”ってふんわりと眞呼さんに歌ってもらって、“その感じであればこういう英語の歌詞はどうですか?”ってその場で書きました。そしたら眞呼さんが“いいですね!”と言ってくれて採用されたので、厚かましくクレジットに入っていますけど、歌詞はほぼ眞呼さんが書いています」
眞呼「メロディをその場で変えちゃったんですよ。で、“どうしましょうね?”って(笑)。でも考えてみたら、あの歌録りが一番楽しかったかも」
玲央「“これって<cloudy>じゃないですか?”とか、楽しかったですよね」
眞呼「“こんな感じの英語に聞こえます”って、エンジニアの方も含めてワイワイやっていて、おもしろかったです(笑)」
玲央「「Spiral」もそうでしたけど、かなりその場の閃きを大事にしていました。行き当たりばったりではなくて、“ないなら作ったらいいじゃん”っていう発想でやっているなって、いまの話を聞いて思いました(笑)。わりと現場主義というか…」
──お話を聞いている感じだと、最終的にどうなるのか分からない中で作っているということですよね?
玲央「そうなんです。だいたいaieさんがきっかけなんですけど、僕は彼のことを天才だと思っています。思いつきをやっぱり大事にしたいから、“これはもう決まっているからダメだよ”なんていうことは、僕は絶対に言いたくないんです、彼の前では。一回やってみてダメならやめればいいし。基本ウェルカムでいたいんですよ」
──一度解散する前はそういったスタンスではなかったんですか?
眞呼「aieさんが加入してすぐに解散してますからね」
玲央「でも、当時のaieさんは今のaieさんではなかったと思います。途中加入なのもあって一歩引いていたところもありますし、もっと言っちゃえばdeadmanはじめ、様々なバンドを長らくやってきて、いろんな経験をした上で今のaieさんが出来上がっているので」
眞呼「速いんですよ。“曲作りませんか?”って話が出た後、すぐリフ弾いてましたもんね?」
玲央「そうそう。ほんと速かった。多分、本当は昔もこういうスタンスでやりたかったんだろうなって思うんです。ただ、スピード感は今のほうが圧倒的に速いです」
眞呼「当時は一回持って帰るとかも多かったですしね」
玲央「多かったですね。ラジカセで録って、一回持って帰って次のスタジオまでに…みたいな感じで」
眞呼「それに比べるとかなり速い」
玲央「20年以上前とやっていることは一緒なんですけど、全然違いますね。そこはスキルが上がっているからというのもあるし、考え方が成熟しているというのもあるし」
──これまで培ってきたもの持ち寄って、今、keinをやっていると?
玲央「それも出そうと思って出しているわけじゃなくて、みんな無意識で出ちゃってるんです。“今度みんなで曲を作るから引き出し作っとかないと…!”みたいな、事前準備をしているんじゃなくて、“こんなのどう?”ってサラっと話したところから、みんながいろんな球種のボールをバンバン投げてくるので。それがやっぱりこのバンドの魅力であり、そこは自分が弱いところだなと自覚しているところもあるので、繰り返し言うようですけど、本当に勉強になっているんです。みんなすごいなって」
──キャリア的に見たときに、keinはお二人にとって原点のような存在なのかな?とも思うんです。そういったバンドに対して、初期衝動とはまた少し違うとは思うんですが、今、改めてこういう形で向き合っていることってあまりないことだと思いますし、第三者的に見ていてもおもしろいことだなと思います。
玲央「僕はすごく贅沢なことだと思っています。貴重な時間をもらっているし、貴重な経験をしているなって。だからこそみんなに知ってもらいたいですし、知ってもらうためには自分たちの発信だけではやっぱり限界があるのは、僕自身、lynch.というバンドをやっていて理解しているので。キングレコードさんからお話をいただいたときに、“これは本当にいい機会だから、みんな行きましょう!”っていう話はしました」
──眞呼さんもそういう貴重な経験をしている感覚があったりしますか?
眞呼「aieさんとは別のバンド(deadman)を一緒にやっていて、ああいう感じの作り方はよくやっているから、馴染みがあるので僕的にはやりやすいんですけど、やっぱり演者が違うと曲が変わってくるところは非常にあって。これだけそれぞれが違うことをしているバンドもないというか…。みんなが出してくる音がおもしろいから“これもいいよね”、“あれもいいよね”がいっぱい出てくるところもあって。今回みんなが作ってきた曲も、曲調的には以前のkeinの感じではないですし。すごくいい意味で、身勝手なんですよね…そこは昔から変わってないですけど」
──ヘヴィさはすごく増しているんだけれども、湿度みたいなものはしっかりとあって、ただ、決して過去の焼き増しではなく、新しさもしっかりとある。そのバランスがすごくおもしろい曲が揃いましたね。
眞呼「“これっぽいよね”とか、“あのバンドっぽいよね”っていうのはないですね。まぁ、あるっちゃあるんでしょうけど、なんか安心させてあげられない感じはします(笑)」
──ははははは(笑)。安心させてあげられないというのは、それだけ刺激的ということではありますよね。
玲央「でも本当にぶっちゃけて言うと、僕らによく声をかけてくれたなって思いますよ(笑)」
眞呼「やっぱり自分たちも大人になってるので、応えたい気持ちもあるんです。でも…ね?っていう(笑)」
玲央「そこで迎合する形をとってしまうと、それはkeinでなくてもいいんです。僕らは“keinが欲しい”と言われているので。“じゃあ、keinって何だろう?”という話をみんなでしたら、“好き勝手にやっている感じ、聴いたときに違和感や異物感が絶対に残るあの感じだよね?”ってなって。で、“今回はエネルギッシュな楽曲をみんなそれぞれ出してね”って言ったら、もう揃いも揃ってみんなあっちこっち向いてるわけじゃないですか。“これでどうですか?”ってディレクターさんに聴かせたら、“おもしろいですね!”って(笑)」
眞呼「“おお、そうですか…!”って(笑)」
玲央「というかキングレコードが一番おもしろいと思う(笑)」
──(笑)。全部受け止めているわけですからね。
玲央「そうそう。“いいんですか!?”って言いましたもん。僕としては、解散から22年後に復活したkeinというバンドがメジャーデビューするというのを、おもしろいと思ってもらいたいんです。年齢のことで諦めてほしくないですし、自分の信じている音楽を誰かしらに迎合することで曲げてほしくないですし、こういった稀有なバンドがいることをみなさんに知っていただきたいし、それを諦めないでほしいなという気持ちもあって、今回のメジャーデビューを決めたところもあったので」
──本当にいろいろな思いがあったんですね。
玲央「あとは、やっぱりそういったものを後世に伝えるべき立場でもあると思うので、年齢的にもキャリア的にも」
──お話にもありましたが、本作を持って東名阪2デイズツアーを行われます。
玲央「この5曲がセットリストに追加されることで、表情はやっぱり変わっていくと思います。以前までは“2000年以前のものを今のクオリティで再現しました“というスタンスでやっていたんですけど、ここからは本当の意味で新しいkeinを見せられるんじゃないかな?と思っているので、僕自身も楽しみですし、みなさんにも楽しみにしていただきたいです」
眞呼「とにかくこちらとしては全力でやるしかないので。あとはもう観ていただいた人に任せます」
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(おわり)
取材・文/山口哲生
写真/野﨑 慧嗣
RELEASE INFORMATION
LIVE INFORMATION
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TOUR’2024「PARADOXON DOLORIS」
11月23日(土) 名古屋 NAGOYA JAMMIN’
11月24日(日) 名古屋 NAGOYA JAMMIN’
12月4日(水) 大阪 Yogibo META VALLEY
12月5日(木) 大阪 Yogibo META VALLEY
12月18日(水) 東京 新宿LOFT
12月19日(木) 東京 新宿LOFT
会場限定Single『People』リリース決定! ※数量限定生産