──ソロプロジェクト、jjeanの始動おめでとうございます。ジャンさんは以前から楽曲をSoundCloudにアップしていましたが、今、改めてソロプロジェクトとして楽曲をリリースしようと思ったのはどうしてでしょう?
「ありがとうございます。おっしゃる通り、3、4年前からSoundCloudで楽曲の投稿はしていたんですが、本格的に動かしていきたいという気持ちが年々強くなっていて。SUPER★DRAGONの良さって、俳優としてドラマに出たり舞台に出たりと、それぞれ光るところがあるところだと思うんです。その中で、自分はずっと続けてきたモデル以外だと、音楽が一番身近にあるなと思っていた。だからグループ活動をおそろかにするということじゃなく、逆に、グループのギアを入れる一つにしたいという意味で、SUPER★DRAGONがメジャーデビューするタイミングで始めました」
──jjeanとして作る楽曲は、これまでSoundCloudで公開した楽曲とアプローチやマインドは違いますか?
「そうですね。SoundCloudのほうは良くも悪くもメモ感覚で、思いついた曲をバンバンあげていた感じでした。だけど、こうしてリリースとなると、気持ちの入り具合も違いますし、今回に限っては一発目というところでのプレッシャーも感じました。プレッシャーというか、今までも作品を出していたからこそ、以前から知ってくれている人たちからの本格的に始まったときの期待値は高いと思うので、その期待を裏切らないようなクオリティにしないとな……と」
──今までの自分を超えるものを、と?
「はい。具体的には、SoundCloudに上げていた曲はすべて英語詞だったんですが、やっぱりまずは日本国内でより多くの人に知ってもらいたいと思ったので、今回は僕の曲にしては日本語を多めにしました。さらにトルコ語のラップも入れていて。そこは工夫したところでもあるし、苦労したところでもありますね。あとはなるべくキャッチーなものにということも意識しました」
──そもそもSoundCloudに楽曲を上げ始めたのは何がきっかけだったのでしょうか?
「2019年にリリースしたSUPER★DRAGONの『3rd Identity』というアルバムのタイミングで、個々のアイデンティティをより全面に出していこうということで、メンバーそれぞれがSNSを始めることになったんですが、そこで僕はSoundCloudを選びました。それが始まりです。それまでもずっと“自分の頭の中に広がる世界みたいなものを発散したい、何か形にしたい”と思っていたんです。それが小説なのか、絵なのか……と模索しているときに88risingという海外のレーベルと、そこに所属しているJojiというアーティストに出会って、音楽が一番自分の頭の中の世界を再現できそうだなと思った。そこから曲作りを始めました」
──なるほど。今、少し話にも上がりましたが、改めてジャンさんの音楽遍歴を教えてください。
「0歳の頃からモデルをしていて、撮影現場に音楽が流れていたので、おそらく普通の家庭で育つよりはトレンドが自然と体に入っていたのかなとは思います。あと、トルコのほうのおばあちゃんが、ジャズをメインにした音楽をやっている方で。家でもおばあちゃんの音楽が流れていたので、今でも自分のベースにあるなと思うクラシックとジャズは、その影響かなと思います。あとは両親の影響でブルーノ・マーズやアリシア・キーズ、ホイットニー・ヒルトンなどはよく聴いていました。ギターを始めるきっかけになったのは、お母さんが勧めてくれたキロ・キッシュ。そうやって家族で共有しながらいろいろな音楽に出会っていきました」
──その中で、特に好きだなと思ったアーティストや、自分から掘り下げていくきっかけになったアーティストはいますか?
「やっぱりJojiですかね。Jojiは日本とオーストラリアのハーフの方で、日本と海外の血が入っているというところにまずすごく親近感を覚えました。あとはJojiの世界観もすごく好きで。Jojiの音楽は世界観がダークなんです。自分自身もダークな状態になっていたときに作ったそうで、音楽で自分自身も救ったし、いろいろな人を救ったんです。そういう世界観にもすごく惹かれて、そこからJojiが聴いている音楽を聴いたり、のちにJojiが所属することになる88risingの他のアーティストを調べたりするようになって、音楽がどんどん好きになっていきました」
──Jojiの音楽は聴いている人を救ったという話がありましたが、リスナーとしてのジャンさんにとっては、音楽はどのような存在ですか?
「僕は元気をもらったり、ギアを入れたりするきっかけになるのは、音楽よりも、友達とか家族のほうが多くて。音楽はそれよりも、どちらかというと小説を読んでいる気分に近いというか……」
──先ほど言っていた、ご自身の頭の中の世界を形にしたいと思って音楽を選んだという思いに通じますね。
「はい。歌詞を読んだり、MVを見たりして、その人の中にある世界観を楽しむことのほうが多いかも。映画を見ているような気分です」
──ではここからはjjeanとしてリリースした2曲について伺います。まず1曲目の「Rafflesia」。
「僕は曲を作るとき、花言葉かギリシャ神話から着想を得ることが多くて。今回も花言葉から着想を得ました。ラフレシアという花の花言葉は“現実と夢の間”。その世界観はすごくいいテーマだなと思ったので、それをダークに描けたらなというところから広げました。今回の楽曲はハイパーポップというジャンルがベースになっているんですが、それは日本で浸透しているハイパーポップとはちょっと違って。アメリカやオーストラリアでポピュラーになっている、割とロックの要素が強いハイパーポップ。日本ではそういう意味でのハイパーポップをやっている人はまだいないと思ったので、日本での先駆者的な存在になれたらいいなという気持ちもあって。そう考えたときに、夢と現実の間というガチャガチャした感じはハイパーポップに合うなと思って、ストーリーを考えていきました」
──楽曲の制作工程としてはどのように?
「僕はまず曲で描きたい世界を一回作っちゃうんです。トラックは、僕の信頼しているGeek Kids Clubというチームにお願いしたので、彼らにまず世界観を共有しました。次に彼らのラボにお邪魔して、ピアノやギターでセッションしながら、“この音いいね!”みたいな話をしながらある程度土台を作って。あとは向こうで固めてもらって、そこに僕が歌詞とメロディを乗せて行く、というやり取りを何度か繰り返して完成させました。今までも一緒に曲作りはしてきましたけど、今回はいつもよりも気合が入っていたぶん、今までよりも楽しかったですね」
──先ほど、「夢と現実の間」というテーマをダークに描いたというお話がありましたが、ダークにしたのはなぜ?
「僕は基本的にポジティブ思考なんですけど、それでもたまに悩んだり落ち込んでしまうことはある。そんなとき、励まされるような音楽を聴くというよりは、同じような境遇の人から話を聴いて“そういうことあるよな”って思うほうが聞き入れられるんですよ。だから同じようにダークなものを聴いて救われる人もいるよなと思って。あとは“映画を作る”がテーマで曲を作っているので、シンプルに自分の頭の中にあった作りたい世界がダークだった。今回の曲で描いているのは、手を染めてしまった主人公が、ラフレシアという罪を認めさせる世界で目覚めて、罪を認めて人生をやり直すというストーリー。といっても手を染めたのは仕方がなかったことだったので、なかなか罪を認められなくて。やっと認めて目覚めた世界が2曲目の「Babylon」に繋がっています」
──最初からこの2曲を対にしたストーリーがあったんですね。
「そうです。2曲編成にしたいということもGeek Kids Clubには伝えていました」
──日本語を多くしたり、トルコ語のラップを取り入れたりと、普段とは異なる歌詞づくりをされたとのことですが、作詞において意識したことはどのようなことでしたか?
自分のベースはクラシックやジャズ。SUPER★DRAGONではラッパーですけど、だからこそ、ソロではそこと差別化したいという気持ちがあって。韻を踏みすぎるとどうしてもHIP HOPに寄ってしまう。だから小節の終わりじゃなくて、小節の最初で踏むようにするとか、HIP HOPになりすぎないように着地させました。あとはHIP HOPって割とレンジが狭いというか、一定のトーンで進んでいくイメージがあると思うんですが、それこそ自分のベースにあるR&BとHIP HOPを混ぜるというところは意識したかったので、レンジの広さも意識しました。3言語を使うというところで、トルコ語の置き所にも悩んだんですけど、お父さんに聞いたところ、トルコでラップをしている人はそこまで多くないということだったので、新鮮かなと思ってラップにしました。日本語詞については、難しい言葉を使うというよりは、単語ひとつひとつは簡単にして、それよりもその代わり景色が浮かぶようなワードチョイスを心がけました」
──レンジの広さだったり、トルコ語のラップだったり、ジャンさんのボーカリストとしてのスキルがないとできないことですよね。やはり、ご自身の武器は最大限に使おうという考えがあった?
「そうですね。やっぱり一発目だと、聴く人は大半がBLUE(SUPER★DRAGONのファンダム)だと思うんですけど、僕はスパドラだと主にラップを担当しているから、がっつり歌っているところを聴くことはあんまりない。だからこそ、ボーカルとしてのスキルやグルーヴ感は出したかった。ラッパーとしてのスキルも、シンガーとしてのスキルも、どっちも頑張ってきたからこそ、両方出し切りたいと思いました」
──対する「Babylon」は全英語詞。そこは意図的に区別したのでしょうか?
「そうですね。日本語でも英語でもトルコ語でも曲を作っていくと、どうしても英語詞でしか出せないグルーヴ感や世界観があるなという現実は避けては通れなくて。この曲は、映画のエンディングのイメージだったんですが、頭の中に描いたそのエンディングはナレーションも英語だったので、歌詞も日本語が合わなかったので英語詞にしました。海外のファンは「Babylon」を気に入ってくれたらうれしいなという気持ちもあります」
──jjeanとして2曲をリリースしたわけですが、今どのような心境ですか?
「自分の中に広がる世界を届けたいというのが一つの夢だったので、それがやっと現実になってうれしいです。ただjjeanを始めるにあたって目標に掲げていることがふたつあるので、それも叶えられるように邁進していきたいなと今思っています」
──そのふたつの目標とは?
「ひとつは、アニメのタイアップを担当するということ。僕はすごくアニメに影響を受けているんですよ。特に「HUNTER×HUNTER」はマンガも何度も読んでいるし、アニメも今6周目くらい。俳優業はあまりやってきていないですけど、声優には興味がある。それくらいアニメが好きなので、jjeanとしてアニメのタイアップを担当できたらいいなと思っています。あとはやはり自分が音楽を始めるきっかけになった88risingに、日本人として絡んでいけたらと。この2つの目標は、できることなら今年中に叶えたいですし、そこに向けてどんどん動いていきたいです。作っている音楽に自信はあるので、たくさんの人に届けて、受け入れてもらえるように、試行錯誤していきたいなと思っています」
──jjeanとしての次作の構想も決まっていますか?
「はい。今は制作を始まる前の会議をしているところです。今の時代って、TikTokやInstagramのリールがあって、昔と比べて“見つかる”機会が増えたと思うんです。そのぶん、戦うことにもなりますけど。だからこそ止まらずにいたい、常に動いていたいと思っています。それに、僕は好きなアーティストに対して、なかなか新曲が出ないと“なんで?”“はやく出して!”ってなる。だから僕はなるべく多く作品を出していきたいと思っています。今のところ、次は今作よりは頭を使わずに聞ける曲になるかなと思っています」
──楽しみにしています。ジャンさんはSUPER★DRAGONでも楽曲制作に関わっていますが、SUPER★DRAGONとjjeanでインスピレーションの元は違いますか?
「そうですね。SUPER★DRAGONはいい意味でポップな脳を使っているイメージで。わかりやすいようにしたいなと思いながら作っているんですよね。あとはSUPER★DRAGONのときのバースは(松村)和哉と分担することが多いので、和哉が王道のスタイルで書いてくる分、自分は一捻りしようと思っているところもあって。jjeanとして音楽を作るときとは使う脳が180度違う。右脳と左脳みたいな。よくわかんないですけど(笑)。とにかく全く別物という感覚ですね」
──これは和哉さんにも伺ったんですが、ソロのほうが楽しくなっていっちゃうんじゃないかと不安しているBLUEの方もいると思うんですけど……
「SUPER★DRAGONもjjeanも全力で挑みますよ!」
(おわり)
取材・文/小林千絵