──様々な恋愛をテーマにしたEP『acclimatation』が出来上がりました。今回、恋愛をテーマにしようと思ったのはどうしてだったのでしょうか?
「以前からずっと曲作りはしているんですが、自分の曲の7割くらいはラブソングで。というのも、人間味が一番出るのがラブソングだと思うんです。EPのタイトル『acclimatation』には、“順応”とか“適応”という意味があって、特に自然界で動物が環境に適応していくということによく使う単語なんです。恋愛って自分の弱点や自分に必要なものに気づける1番のきっかけだと思っていて。今回は人間味のあるEPにしたかったので、ラブソングをテーマに選びました」
──人間味のあるEPにしたかったのはどうしてなのでしょう?
「SoundCloudで曲を発表していた時期に『LIFE』というEPをリリースしたんです。それは命の儚さや人間の美しさをテーマにした作品でした。jjeanとして正式にリリースできるなら、またそういうEPを作りたくて。それにEPという括りだといろんな表現ができるじゃないですか。そう考えたときに恋愛をテーマにしたら面白そうだと思いました」
──収録されている5曲は、それぞれ恋愛の様々な形を切り取ったものですが、それぞれのストーリー作りはどのようなところから進めていったのでしょうか?
「EPの構成として、ハッピーな純愛から始まって、儚くて叶わない恋愛で終わる、聴き進むにつれてダークになっていくという段階を踏むということは最初に決めていて、それに沿って内容を考えていきました。それぞれ違う物語なので楽しんでもらいたいですね」
──ではそれぞれの楽曲について聞かせてください。まずは「TFL」。初恋を歌った楽曲です。
「今作の収録曲は全てのトラックを、仲の良いGeek Kids Clubというチームが作ってくれているんですけど、この「TFL」は、もともと僕がビートを作っていたんです。それをGeek Kids Clubが気に入ってくれて、アレンジをしてくれました。そしたら僕には珍しいくらい明るい曲になって。でも僕は自分らしさを“光と闇の共存”だと思っているんです。“jjean”に“j”が2つあるのも、二面性という意味を込めているので。だから、明るい曲が出来たときに、ここからどんどんダークな曲になっていく構成にしようと決めました」
──この曲はテンポが変わったり転調したりと、面白い楽曲ですが、サウンド面でのこだわりを教えてください。
「テンポを落とした部分に関しては、主人公と相手の女の子が夜、崖の上で寝そべりながら星を見ているようなリラックス感を出したかったからです。ストーリーを忠実に表現するためにテンポ感を意識しました。あと、ハイパーポップってジャンルは、ボーカルエフェクトをかけたりしてボーカルの音作りの遊びが大事になってくるんですが、この曲では1番と2番でボーカルエフェクトを変えています。ビートメーカーとエンジニアに感謝です」

──続いては「queen bee」。学校のマドンナに恋をしている主人公の歌です。
「頭の中に浮かんでいたのは『ハイスクールミュージカル』…王道のディズニーチャンネルのようなイメージです。さっき話したように、「TFL」が100%の純愛で、ラストが悲しい恋愛だとすると、2番目って意外と難しくて。“queen bee”というのは、学校のマドンナを指すスラングなんです。イメージとしては、アメリカの大学のチア部のみんなが憧れる女の子みたいな。その子は他の男と付き合っているんだけど、“俺のものにするぜ”みたいなことを歌うと、ちょうど2番目くらいになるのかな?と思いました。この曲は作るのが楽しかったです」
──サウンド面でのこだわりはありますか?
「この曲に限らず、今回の制作時に意識したのは、メロディをキャッチーにするということでした。この曲はサビ以外は割とテクニカルですが、サビはキャッチーにしました。この曲、1番と2番で歌詞が同じなんですよ。要はループさせやすい曲。箸休めのような、気軽に聴けるような曲を1曲は入れたかったので、家でメイクをしているときとか、ラフに流してくれたら嬉しいです」

──3曲目は「save you」。少しずつ切なくなってきますね。
「はい。これは“元カノを救う”という曲なんですが、単純に救うのだとあまり面白くないと思って。すごく自己中ではありますけど、元カノがちょっと危うそうな男と付き合っていて、“俺がもう一度付き合って人生救ってあげてもいいけど”って言うようなニュアンスの曲にしてみました」
──面白い視点ですよね。
「徐々にダークになっていく3曲目という位置なので、ちょうど50%くらいかな?と思いながら…」
──この曲はラップが炸裂しています。
「jjeanではあまりラップをしないんですが、2番のビートの感じがラップとマッチしたのでラップにしました。今回は日本語詞と英語詞のバランスも悩んだんです。“今後は日本語を多めにしていこうかな?”と考えていて、今回のEPではちょうど半々くらいにしたいと思っていたので、ラップゾーンを日本語にするとそのバランスもいいと思って日本語ラップにしました。あと、この曲はシンセサイザーのエフェクトのつまみを大きく触って“ギュワン”って音を入れたりして音作りの面で一番遊んだ曲です。ライブでみんながノる姿も想像がつきやすい曲になりました」

──4曲目は、別れが迫った恋人同士の絶妙な心境を歌った「up 2 you」。
「悲しくなってきましたよね。これは別れそうな空気だけど、男性は自分からは別れるとは言えないという状況の曲です。相手も別れたいと思っているのを感じているから、“早く別れたいって言っちゃいなよ”って相手に対して思っているという…。だけど曲の中では“別れよう”っていうワードは出てこないんですよ」
──<俺は飲み込むsay good-bye>だけですもんね。
「そうそう。飲み込むところで止まっているので、そのハラハラ感も楽しんでいただきたいです」
──サウンド面ではどのようなことを考えて?
「小さい頃から『キングダム ハーツ』というゲームが好きで。その『キングダム ハーツ』のサントラをGeek Kids Clubの一人が制作したことがあるんですよ。それもあって、この曲はちょっと『キングダム ハーツ』に出てくるような曲をイメージしてみました。テンポもこれまでの3曲と比べると少し落としています。スルメ曲になってくれたら嬉しいです」

──そして最後はダーク濃度100%の「wingless」。
「暗いですよね。1曲目の「TFL」は出てくるワードが全部明るいので、「wingless」は対照的に、とにかくダークにしました。Jjeanは、今はハイパーポップがメインですが、この先ハイパーポップの他に、R&Bやオルタナもやっていこうと考えていて。R&BやオルタナはSoundCloud時代に結構やってきたので、まず今はハイパーポップをやってからとは思っているんですが、この段階からその要素も少し入れておきたいと思って、この曲を作りました。歌詞の内容的には自信のない主人公の話です。相手がどんな人なのか?というのは皆さんの想像にお任せします」
──前半の収録曲の主人公は自信があったので、そういった意味でも対照的なのが伝わってきますね。
「以前リリースした「Rafflesia」も神話からインスピレーションを受けたんですが、神話では“羽”って自信の大きさを示すところがあって。神話にルシファーという天使が出てくるんですけど、彼も最初は“飛べない天使”と呼ばれるくらい羽が小さかったんですよ。だけど、この曲の主人公は小さいどころから羽すらない。それくらい自信や勇気がないという意味で「wingless」にしました」
──今「Rafflesia」のお話が出てきましたが、この曲の歌詞の世界観や雰囲気は、他の曲とは違ってデビュー作「Rafflesia」「Babylon」に近い感じがしました。そこは意図的だったのでしょうか?
「超意図的だったわけではないですけど、自分らしさは出してもいいかな?と思っていて。他の4曲とは違う、「Rafflesia」「Babylon」に近い空間を表現してみました」
──やはり、ご自身としてはこういうものがjjeanらしさ?
「いや…そこは悩みでもあるんですけど、ハイパーポップっていうジャンル自体が幅広いものであるからこそ、“これがjjean”みたいなものが決め難くて。たとえば自分がラップしかできないとか、R&Bっぽい歌しか歌えないということだったら自ずと絞られてくるんですけど…」
──全部できちゃいますもんね。
「できちゃうというか、挑戦しているから…。だからjjeanがどこを目指すかというのは、デビュー前から悩みではあったんです。だけど、少しずつハイパーポップというジャンルをいろんなものに落とし込めるようになってきたので、やりながら自分らしさを構築していければいいなと思っているところです。そういう意味でも「wingless」はそのヒントの一つになっているのかな?と思います」
──ここまでざっと収録曲について聞いてきましたが、様々なラブソングで1作品を作ってみていかがでしたか?
「最初にも話したように、“恋愛ってすごいな“と思いました。恋愛をしていると、今回のEPみたいに、楽しいことやダークなことが100%、50%、0%と、目まぐるしくやってくるじゃないですか。それに直面するって、なかなか恋愛以外ではないと思うんです。仕事でも感じられることかもしれないですけど、恋愛って人を見るし、人として見られるので。”自分はこういうことがストレスなんだな“とか”こういうことが嬉しいんだな“ということを、恋愛で気づく人が多いのかな?って。実際に世界共通でラブソングって共感を呼ぶジャンルですし。実際、僕も各曲の主人公の今後が気になりましたし。価値観を左右させるような作品ではないと思いますが、どこか自分の恋愛や価値観を紐づけて共感してくれる人がいたら嬉しいです」
──ちなみに、先ほど今作ではキャッチーさを意識したとおっしゃっていましたが、それはどうしてなのでしょうか?
「現時点ではjjeanはライブをしていなくて。やるなら、待ち望んでくれた状態になってからやりたいと思っています。形式はさておき早いうちにjjeanでライブをしたいという気持ちもあって。そう考えたときに、ライブでのノリやすさとか、ライブでみんなが歌ってくれるようなものが必要だと思ってキャッチーにしました」
──ライブを意識してのことだったんですね。“もっといろんな人に聴いてもらえるように”とか、広がり方を意識してということではないんですね。
「SUPER★DRAGONの話になっちゃうんですけど…6月11日にリリースするMajor 1st Album『SUPER X』に収録されている「NPC」という曲は僕が作りました。その曲はTikTokとかで広がりそうな、とてもわかりやすくてキャッチーな曲なんです。そういう曲を作ろうと思えば作れるんですけど…jjeanはまだその段階じゃないというか。自分の表現したいことだけで頑張りたくて」
──jjeanや楽曲の世界観は崩さずに、それを表現するために必要なキャッチーさを入れるだけだと。
「はい。そういう意図でのキャッチーな要素は今後も入れていくと思います」
──“ライブを”という話もありましたが、jjeanとしてのこの先の展望を教えてください。
「今年25歳になったんですけど、僕は、特にソロに関しては焦らないほうがいいと思っています。だから去年1年間は、僕の曲をわかりやすく世の中に広めるというよりは、“僕はこういうアーティストです”ということをデジタル上で残すことと、同じ業界での人脈を広げる1年にしようと思っていました。そして1年が経って、実際に人脈も広がって。それを活かして、一気に広がっていく可能性あるものが、今年の後半には待っています。楽しみにしていてほしいです」
(おわり)
取材・文/小林千絵
写真/中村功