――独立後、2人体制となったいきものがかりとして、初のアルバム『○』がリリースされます。ものすごく濃い内容で驚きました!

吉岡聖恵「ありがとうございます!いつもアルバムを作るときは、バラエティ豊かな作品にしたいということを心掛けているんですが、今回は明るい曲が多いだけでなく、ちゃんと芯を喰った内容もしっかりと歌えた作品となりました。さらに、今回、初めて世武裕子さんに「誰か」の編曲をしていただいたんです。彼女のピアノは、私と一緒に歌っているような感覚になって、自分でもグッとくる気持ちを抑えながら歌えたんです。ものすごく透明感があるのに、かなり強い曲に仕上がって驚いています」

――もともといきものがかりは、様々な方との出会いが多い印象があるのですが、今回も、新しい方との出会いから生まれた曲が多いですね。

水野良樹「そうですね。いきものがかりはデビュー前から、いろんなタイミングで大切な人達と出会い、元々3人だった僕らだけでは成立しない音楽をやってきたんです。だからこそ、アルバムを制作するときにせよ、ライブにせよ、いろんなミュージシャンと関わることで本当に素晴らしいものが出来上がることがわかっているので、出会いに対して素直でありたいということを、変わらずずっと思い続けています。とくにこの12年は吉岡の出産を挟んだことで、いつもとは違うペースでグループが進む中、僕はHIROBAという別の場所で世部さんや、鈴木正人さんや林正樹さんなどと出会い、いい空気の入れ替えができたなと思っていて。世武さんや林さんのピアノに乗る吉岡の歌声はどんなものなんだろう?って、僕が聞いてみたいという好奇心から生まれた曲もある、新たな挑戦に満ちたアルバムとなりました」

――実際にその化学反応はいかがでしたか?

水野「予想以上に合ったと思います。すごく良かったですね。ミュージシャン同士って、ただ出会えばいいのではなくて、お互いの長所やイメージを上手く重ねなければ成立しないんです。そのコミュニケーション能力が、僕も吉岡も増えてきたんじゃないのかなと思っています。吉岡もより柔軟になり、自分の歌のスタイルをいろいろ模索して変えていったり、それぞれのサウンドに合わせて自分がどう変化するかということより考えてくれたのかなって思うんです」

吉岡「曲を聴いた瞬間に、制作している段階から、“合うだろうな”という気持ちで楽曲を作ってくれているのが伝わってきたので、そこに乗っからせていただきながら歌っていきました。それが本当に心地よくて!出来上がった時も、違和感はまったくなく、新しいいきものがかりとして受け入れてもらえるものになった、素晴らしいものになりました」

――産後は、メンタルも声質、歌い方も変わると思うのですが、いかがでしたか?

吉岡「ただただ、精一杯で(笑)。でも1曲に対して丁寧に作っていくという気持ちだけは変わらずにいたいと思いながら取り組んでいます。どうしても時間の使い方が変わりますし、やることが増えるので、いろんな人に頼らなくてはならないシーンが増えてしまって。ここはみなさんに聞きたいですね。“世のお母さん!睡眠はちゃんと取れていますか!?”って」

――あはは。一番大事ですからね!

吉岡「そうですよ!でも、だからこそ、レコーディングブースに入った時は、歌に集中が出来るので、幸せを強く感じました」

――歌に対する想いを再確認できたということでしょうか?

吉岡「歌うことって、私にとって小さなころから当たり前のことなんです。なので、その歌との距離感の違いは判らないんですが、ふとアルバムの曲をレコーディングしている時に、本当に集中している自分に気づき、“これは私にとって本当に大事な時間だ”って気づいたんです」

――そこに気づけたのは本当に素敵なことですよね。

吉岡「そうですね。これまであまり気づくことはなかったんですが、そこに気づいたからこそ、より響いてくるのかなと思いながら歌っていました」

――今回、デビュー以降初めて水野さんが吉岡さんにディレクションをしたとお伺いしましたが、いかがでしたか?

吉岡「これまで私たちを育ててくれたディレクターの方がご勇退されたことがあり、自分たちだけでやることになったのがきっかけなんです」

水野「僕はほかのアーティストさんに対してディレクションをすることはあったんですが、メンバーとの距離感はやはり難しくて。吉岡に関しても、僕よりもはるかに経験がある方がディレクションをしたほうがいいだろうということで、デビュー当時からずっと同じディレクターさんにお願いしていたんです。その背中を見ながら、いろんなことを教えていただき、その結果、今の僕たちがあるんですよね。このタイミングで2人になったことも含め、言葉にするのはこっぱずかしいんですが、お互いをリスペクトする気持ちが前よりちゃんと表現できるようになったんです」

――すごくいいことだと思いますよ。

水野「あはは。お互いがちゃんといいところを認め合い、目の前の曲をよくしようという気持ちで作り上げているので、今回初めてディレクションに関わらせてもらいました。それもあって、本当に二人で向き合って作ったという感覚が強い1枚になりました」

――実際に水野さんにディレクションしていただいていかがでしたか?

吉岡「最初に岡嶋かな多さんとリーダーとで「誰か」をディレクションしてくれたんですが、いいも悪いも、20数年私の歌声を知っているからこそ、本当にわかっているなって思ったんです」

水野「ほかのアーティストさんをディレクションするのとはまったく気持ちが違いました(笑)。吉岡は、レコーディング前にしっかりと歌を作りこんでくるんです。その設計図、構成案がちゃんとあって、練習もしてくるので、ある程度形になっている状態で挑むタイプなんですよね。なので、あまりこちらから何かを言うようなタイプのシンガーではないんです。だからこそ、吉岡が提示してくれたものに対して、作曲者としての意図を伝えたり、“こういうアプローチがあるんじゃないか?”ということを言って、お互い客観的になることが上手くできたんじゃないかなと思っています」

吉岡「リーダーが言うことって、作者でもあるし、自分の歌声の良さも知っているからこそ、納得できる言葉しかないんです。とてもやりやすかったですね」

――吉岡さんからみて水野さんの最近のいいところはどんなところにあると思いますか?

吉岡「リーダーは、私が知っている“リーダーっぽいな”という曲をどんどん超えてくれるんです。今回も、新しいメロディがどんどん増えているんですよ。そこでさらに勉強をし続けていることが分かるんです。歌詞も、“この言葉はこれまであまり使ってこなかったよな”ということもあったりして、すごく面白いんです」

――何十年も曲を作り続けると、歌詞のアウトプットは難しくないですか?

水野「難しいですね。でも、すごく幸せなことだとは思うんですが、僕も吉岡もそれぞれ子供が生まれたり、人生のフェーズがどんどん変わってきているので、そこで見える世界が変わってきているんです。20代の頃は、歌詞にかならず終わりがあるということを書いていたんですが、家族が出来て、息子が生まれてからは、自分の人生以上のことを考えるようになり、単純に終わるだけじゃなくて、終わった後も残される人がいることを考えるようになったんです。となると、歌詞の内容も変わってくるんですよね。さらに、コロナ禍や震災があることで起きる心境の変化を、悲しいことも嬉しいこともすべてインプットしているからこそ、歌詞としてアウトプットされているのかもしれません」

吉岡「歌っていると、そのリアルさが、すごく伝わってくるんですよ。だからこそ、グッときましたし…でもフィクションだという面白さがあるんです」

――たしかに、初期の楽曲はポジティブな中に大きな刹那を感じることがあるからこそ、より老若男女に愛されるユニットになったのかなって思ったのですが、やはり子供ができると世界観は変わりますか?

水野「変わってきましたね。とくに生死に関しては、大きく変わりました。いざ人生を振り返った時に、自分の両親がいて、祖父母がいて、その命が繋がって、たまたま僕が生まれてこれただけなんですよね。そう考えると、すべてが繋がっているんだなって思いますし、言葉を選ぶ基準が変わってくるんです。もちろん、そのつながりからはぐれる人はたくさんいるし、僕だって何かの機会ではぐれるかもしれません。だからこそ「誰か」は、その“誰か”としか呼ばれない人のことを考えた曲になっているんです」

――40歳を超えて、視野が広がり、楽曲を生み続けることに対して、楽しさはより大きくなりましたか?

水野「いや~、書くのはやっぱりいつも大変で(笑)。ただ、制作の現場はすごく楽しいです。というのも、作った曲を吉岡が歌った瞬間、バチッとハマる瞬間があるんです。そのほかにも出会ったミュージシャンの演奏を聞いて、感動する瞬間は本当に楽しいんです。その時の空気感がすごく嬉しいし、楽しいし、幸せを感じるんです」

吉岡「最後の「○」のデモテープを聞いた瞬間、“リーダーっぽい曲だな!”って思ったんです。なので、歌い方に迷いはなかったですね。実はこの曲は、11曲で完成するはずだったアルバムに、どうしても1曲入れたいと作った曲なんです。ものすごく魂のこもった曲が出来上がりました」

水野「この12曲目は本当に作ってよかったなと思っています。最後に、アルバムの核になるようなものを出せたらいいなと思い、無理を言って作らせてもらったんです。しかも、ずっと付き合いのある本間昭光さんにアレンジをしていただいて。さらにエンジニアさんもずっと一緒にしていただいた方に録ってもらい、これまでの繋がりが証明できた1曲になりました。新しい出会いと、今までの繋がりが同居した1枚のアルバムになったことに、すごく満足しています」

吉岡「いい話…!」

――あはは。

――さて、これからUSENががっつりいきものがかりと関わっていくことが決まりました。その第一弾として、U-NEXTでライブを配信させていただきます!

水野「配信で見ていただく方にも、会場にいる雰囲気を感じてもらえるような生々しさを大事にしたいですね」

吉岡「楽しみにしていてください!」

――では最後に、読者にメッセージをお願いします!

吉岡「タイトルが『○』と言うんですが、自分を肯定する曲がたくさん詰まっているんです。どんな自分にも○を付けるすばらしさを歌っていますし、“完全な○じゃなくても、ちょっと歪んでいてもいいじゃん”という気持ちで自分を肯定できたらいいなという、ポジティブな気持ちが詰まったアルバムになっています。最後には救いのある曲ばかりですので、みなさん楽しんで聞いてもらえたら嬉しいです!」

(おわり)

取材・文/吉田可奈

RELEASE INFORMATION

いきのもがかり『〇』

2023年1213日(水)発売
初回生産限定盤(CD+Blu-rayESCL-5883ESCL-58845,478円(税込)
通常盤(CDESCL-58853,300円(税込)

LIVE INFORMATION

いきものがかりの みなさん、こんにつあー!! 2024 〜あなたと!わたしと!みんなで!歌いまSHOW!!〜

2024年2月4日(日) 神奈川 海老名市文化会館
2024年2月10日(土) 香川 レクザムホール(香川県県民ホール)
2024年2月12日(月) 広島 広島文化学園HBGホール
2024年2月18日(日) 栃木 栃木総合文化センター・メインホール
2024年2月23日(金) 青森 リンクステーションホール青森(青森市文化会館)
2024年2月25日(日) 新潟 新潟県民会館
2024年3月3日(日) 北海道 札幌文化芸術劇場 hitaru
2024年3月9日(土) 愛媛 松山市民会館・大ホール
2024年3月10日(日) 高知 高知県立県民文化ホール・オレンジホール
2024年3月20日(水) 福岡 福岡サンパレスホテル&ホール
2024年3月24日(日) 宮城 仙台サンプラザホール
2024年3月29日(金) 熊本 市民会館シアーズホーム夢ホール(熊本市民会館)
2024年3月31日(日) 島根 島根県民会館
2024年4月6日(土) 石川 本多の森北電ホール(旧 本多の森ホール)
2024年4月13日(土) 神奈川 神奈川県民ホール
2024年4月19日(金) 静岡 静岡市民文化会館
2024年4月20日(土) 愛知 名古屋国際会議場・センチュリーホール
2024年4月26日(金) 大阪 大阪府立国際会議場(グランキューブ大阪)
2024年4月28日(日) 奈良 なら100年会館
2024年5月3日(金) 東京 LINE CUBE SHIBUYA

横浜にじゅうまる公演
2024年5月25日(土) 神奈川 ぴあアリーナMM
2024年5月26日(日) 神奈川 ぴあアリーナMM

いきものがかりの みなさん、こんにつあー!! 2024 〜あなたと!わたしと!みんなで!歌いまSHOW!!〜

いきものがかり×U-NEXT

コラボ企画始動第一弾は過去ツアー映像をライブ配信!

「いきものがかりの みなさん、こんにつあー!! THE LIVE 2021!!!」
配信詳細はこちら >>>

ライブ配信期間:2024年1月13日(土)18:30~ライブ終了まで

下記、過去ライブ映像も2024年1月13日(土)より配信開始予定
いきものがかりの みなさん、こんにつあー!! 2010~なんでもアリーナ!!!~
いきものがかりの みなさん、こんにつあー!! 2012 ~NEWTRAL~
いきものがかりの みなさん、こんにつあー!! 2013 ~ I ~
いきものがかりの みなさん、こんにつあー!! 2015 ~ FUN! FUN! FANFARE! ~

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