──「kiriがないですわ」は、アイドラらしいオシャレなサマーチューン。まずは、この楽曲が生まれた経緯から教えていただきたいのですが、やはり最初から“サマーチューンを作ろう”と考えてスタートしたんですか?
SHUKI「そうですね。リリースする時期が先に決まっていたので」
KENJI「みんなで話し合って、“そういう方向でいこう”ということになったんです」
SHUKI「僕たちっぽさを前面に出しつつも、しっとりな曲というよりもちょっと軽快なテンポ感や雰囲気がある。そういう曲にしようということも最初から決めていました」
──真夏のギラギラ感とは違いますね。
SHUKI「そうですね。力を抜いた感じとかけだるさは意識しました。それとトラック的にもガチャガチャするより、なるべくスッキリとした聴き心地になるようにっていうことも意識しました」
KENJI「最初に“夏曲”っていうくくりのデモをたくさん作ったんです。でも、その段階で曲の方向性は決まっていて、それがさっきお話した感じでした。だから、その要素を汲んだ上でどれだけバリエーションを出すかも含めて制作を進めていました」
CHOJI「その何パターンか作った中で僕が“この曲がすごくいい”と思ったのは、サビのパターンです。ベースはエイトなんですけど、ギターはかなり刻んでいて、それがあまり聴いたことのない組み合わせだと思ったんです。だから、“これはいけるな!”って思いました」
──ちょっとボサなテイストがあるところも素敵ですよね。
SHUKI「曲ができたあと、最後にサビのコード進行を変えたんです。そこから曲全体にボサ感が出て来たんじゃない?」
KENJI「イントロからの進行の流れは先にありました。でも、“サビにもっと疾走感とメロが展開していく面白さがほしいね”となって、今の感じになっていきました」


──イントロのギター、オシャレですよね。
CHOJI「難しいんですよ、あれ(笑)」
YU「難しそう!」
SHUKI「まず仮で作ってから、どんどんフレーズが難しくなっていったんだよね(笑)」
CHOJI「そう(笑)。最初は、“ギタリストだったら、こういうところにこう入れる”ってやっていたんですけど、“いや、もう1拍後ろの方がいいんじゃない?”って。それで、“あ、そう?”ってやっていったら、どんどん難しくなっていったんです(笑)」
KENJI「手グセじゃないやつね(笑)」
CHOJI「そう。だから、自分の引き出しにはなかったものになりました」
──SHUKIさんとKENJIさんは、こだわったところはありますか?
SHUKI「僕のベースのこだわりは(笑)」
──ドラムのSHUKIさんがベースのこだわり?(笑)
SHUKI「はい(笑)。ドラムにすごく薄くリバーブをかけたところです」
KENJI「ああ、それはやったね!」
SHUKI「ラフミックスを作っているとき、いろいろと試行錯誤をしていたんです。そこで、ちょっとベースが重すぎるというか、ハッキリしすぎていて“気合いが入った感じになるな”って思ったんです(笑)。だから、試しに少しだけリバーブをかけてみたら、浮遊感が出ていい感じになったんです」
KENJI「それとキックのタイミングでいなくなったり出てきたりするサイドチェーンっていう、ちょっとうねるようなエフェクトもかけました。そうすることで“エイトで疾走感を出しつつも、重くなりすぎないように“っていうのを話し合って決めました」
SHUKI「そのバランス、大変だったよね」
──楽曲が持っているあの軽やかさは、そこから来ているんでしょうか?
KENJI「そうだと思います。ライブでそこがどうなるかはまだわからないんですけど、レコーディングは、そこを意識しましたね」
SHUKI「ドラムもそういう方向性です。以前の僕たちだったら、生ドラムにトリガーっていう電子の打ち込みの音を、もう少し重ねていたかもしれないです。でも、今回は浮遊感や余裕感を大事にするために、“なるべく生主体でいこう”ってなって。だから、キックに関しても、いつもだったらもうちょっとサイズが大きいものを使うんですけど、今回はそこも抑えめにして、頑張りすぎないというか…気合いが入っていない感じにしました。結果的にそれが成功したのでよかったです」
──全体的に力の抜けた印象がありますし、そこが心地いいですよね。
SHUKI「はい。意識していたのでそう感じてもらえると嬉しいです」


──ボーカルにも力が抜けている感じがありますよね。
YU「そうですね。「kiriがないですわ」のレンジは今までの曲の中でも高いんです。それで苦労したのは、サビで重ねているファルセットです。そこをいかに力を抜いたというか…ブレッシーな音色のファルセットにするのが大変でした。さっき言っていたベースと同じで、そこはふわっと浮遊感を出したいから、“もっとブレッシーに!”ってメンバーに言われながらレコーディングしました(笑)。でも、最終的には納得いくものになったので、よかったです」
──すごくエアリーですよね。それが楽曲の爽やかさにも繋がっている気がします。
YU「半年前だったら、多分あの感じでは歌えなかったんじゃないかと思うんです。あの高さだと、もっと張っちゃう…今までのテクニックでは、ここまで力の抜けた感を出すのは難しかったと思います。わかりずらいテクニックではあるんですけど、今だからできたことかな?って思います。浮遊感を出してもちゃんと声が鳴るのは、日々のボイトレの成果が地味に出たと思います(笑)」
──好きな人と過ごす夏の幸福感を描いた歌詞の世界観も、思い出も含めて、いろいろな人に当てはまりそうな風景だと思いました。これは、どういうイメージで作っていったんですか?
YU「夏曲だけに、テンポ感も含めて“緩さ”を大事にしようっていうことはメンバーとの話し合いで決まっていたんです。夏特有のモヤがかったエモさ。そこにメンバーもサウンド面でこだわっていたので、歌詞も、そこを狙いながらも狙いすぎないようにしていきました。力を抜いたものを力を入れて作るってかなり難しいんですけど(笑)、いい意味で適当に口ずさんでもゴロがいいっていうことも大事にしながら、情景が浮かぶものにしたくて。でも、3回くらい書き直しましたけど」
──そうなんですね。最初は、今のようなテイストではなかったんですか?
YU「初めに書いた歌詞は、狙っていたより重い恋愛ソングになりすぎちゃったりして、“こういう表現をしたいわけじゃないな”って思ったんです。それで何回か書き直していく中でサビの<kiriがないですわ>を思いついたとき、“ゴロと口調みたいなものがすごくバランスいいかも?“って思ったんです。だから、そこから再構築していって、先ほどおっしゃっていたように、なんとなくみんなの心にあるようなものを形にしていく作業を行いました」
──今、ドンピシャな夏を過ごしている人もいるでしょうし、“昔こんなことあったな~”って思う人もいそうですよね。
YU「そう。実際にはなくても“あったな~”っていう気がするようなね(笑)」
──まさに(笑)。それに今おっしゃっていたように、サビの部分は気が付いたら口ずさんでいそうなくらい耳に残ります。
YU「それは嬉しいです。バンドとしても、“繰り返し聴いてもらいたい”っていうのを「kiriがないですわ」の軸にしていたんです。そういう意味で難しかったのが、どこにキーワードが来るべきなのか?っていうのと、どこを繰り返したら何度も聴きたくなるのか?っていうことでした。場所を間違えると“クドイな”って思われそうですし、あるべき場所に繰り返しがないと、それはそれで流れて行っちゃいそうな気がしたので。だから、サビの中で、“どこを繰り返すか?”を、全パターンやってみて探しました。それを見つけるのにすごく時間がかかったんですけど、最終的には一番しっくりくるところに来てほしいワードが来たと思います」
──ドライブとかにも合いそうですよね。
YU「それを目指していました。散歩とかドライブとか、移動しながら聴いてほしいです」

──みなさんは歌詞に関しては、どんな印象を受けましたか?
KENJI「YUらしさもあって、すごく面白い歌詞だと思いました。ただ、タイトルに関してはちょっとクセがあったので(笑)、最初は“どうなのかな?”って思ったんです。でも、曲に乗っけてみたときに、本当にすんなり入ってきましたし、曲がかなりサラッとしているので、その中に違和感は欲しくて。だから、いい塩梅になったと思いました」
SHUKI「昔から僕がYUの歌詞で好きなのは、語感とか韻の踏み方とか、口ずさみたくなる英語の感じを日本語に落とし込んでくれることなんです。それが一歩間違うとただのサラッとした曲になっちゃうところにクセを作ってくれました。だから、“本当に曲にハマっているな!”って思います。しかも、時代感というか、日本語ならではの愛くるしい言い回しみたいなのも曲にハマっていて。そこもすごくいいんですよ」
──確かに、日本人しかしない言い回しですよね。それが言葉の響きと相まって、とても気持ち良く伝わって来るんだと思います。
CHOJI「今って、タイトルを見て再生する人も多いと思うので、そういう意味でも引っ掛かりがあると思います。それにやっぱり聴いたほうがより説得力があります。特に2Aとかは、YUの歌詞があったからこそ、コーラスアレンジも印象的なものになったんじゃないかな?って強く思いました」
──そういえば、今回は、ほぼ英語がないですね。それも口ずさみやすい一因かも…。
YU「それ、すごく自分的には満足しているんです。日本語詞なのに洋楽っぽく聴こえますし、リズムや韻的なこともうまくハマって、かつストーリーも展開していっているので。それはやりたかったことだったので、それがひとつ叶ったのは嬉しいです」
──そしてアイドラは、今年は中国大陸で1月に6ヶ所で行ったツアーが全て即完売。さらにキャパを上げていこうとしています。実際、みなさんの中にも手応えはありましたか?
KENJI「ありました。中国大陸でも自分たちの音楽性を受け入れてくれるオーディエンスのみなさんがいるのは、“自分たちがやっていたことは間違っていなかったんだ”と確信しました。だからこそ、“また新しいチャレンジをやっていっても大丈夫だな“っていう自信にも繋がって。そういった意味でも中国大陸でツアーをしたことは、いい機会になったと思います」
──国や言語が違っても受け入れてくれるのは嬉しいですよね。
KENJI「そうですね。みなさん、日本語で歌ってくれていますし、歌詞の内容もしっかり理解してくれているので、そこが素晴らしいと思いました」
YU「中国大陸のオーディエンスって、すごく熱いんです。日本の場合、英詞の部分は難しいからお客さんはあまり歌わないっていうところもあるんです(笑)。でも、中国大陸では、日本語も英語も歌ってくれます。だから、僕らの音楽を聴いてくれている人たちは、根っからの音楽好きが集まっているんだなって思います」
SHUKI「それと意外だったのが、日本で僕たちがライブでよくやる人気の曲と中国のオーディエンスが好きって言ってくれる曲が、かなり違うことでした。日本のライブだとチルめに演奏する曲も、向こうだと大合唱してくれた。それが国民性の違いなのか、すごく面白いなって思いますし、いろいろ実験できる機会が多いです」
──ということは、楽曲の受け取り方も全然違うっていうことですよね?
SHUKI「だと思います。だから、いまだに何が一番刺さっているのかがわからないです(笑)。その感覚ってあまりないものなので不思議ですし、今、それを探っている感じです。ただ、僕たちのツアーに来てくれるお客さんのライブの盛り上がりと、中国のサブスク上で聴かれている曲はほとんど一緒なんです。そう考えると、それはきっと中国の方たちが感覚的に持っているものなんだと思います」
YU「日本の上位ランキングと向こうのサブスクの上位ランキングって全然違うんです。それも面白いです。それは今まで聴いてきたものが関係しているんじゃないか?と思います」
──中国大陸の方たちの人生の中で?
YU「そう。カルチャーなんだと思います。でも、それは自分たちが中国大陸でライブしたからこそ気づけたことだと思います」
CHOJI「実は、中国大陸のみなさんの熱量に応えるために、僕たちも中国語を勉強しているんです。そのおかげで面白さも増してきました。今年もまた中国大陸に行くので、“もう少し上手にしゃべりたい“っていうモチベーションになっています」
──コール&レスポンスはもちろん、現地のスタッフさんとも会話できると違いますしね。
CHOJI「そうですね。もっといいライブが出来るかもしれないです」

──その中国大陸ツアーの前に、日本でも10月に5大都市をまわるアイドラ初のZeppツアー『I Don’t Like Mondays. TOXIC TOUR 2025』が決定しました。まだ先ではありますが、“こんなツアーにしよう”という構想はありますか?
YU「僕たち、東京ではZeppでやらせていただいていて、照明とかも使った総合演出は、そこでしか作り込めていなかったんです。でも、Zeppツアーでは、そこも含めて僕たちの世界観を感じてもらえると思います。そういう意味でも、それをツアーでお届けできるのは嬉しいです。それに中国大陸ツアーや大きいフェスなどで、これまで力を蓄えてきています。バンドの演奏力も上がっているので、それを思いきり発揮して、日本のみんなと騒ぎ倒したいです」
KENJI「それまでに新曲も何曲かリリースする予定ですし、また新境地をお見せできると思います」
SHUKI「いつもだとアルバムをリリースしたツアーだったり、ファンのセトリ投票型のツアーだったりするんです。その場合、演奏する曲がどうしても決まって来るんですけど、今回は、それとは違うコンセプトになります。僕たちも本当に何の縛りもなく自信のあるセットリストを作れるので、それもすごく楽しみです」
CHOJI「東京ではずっとZeppでやらせてもらっていますけど、地方でのZeppは初めてなので、今まで“ライブハウスはハードル高いな”って思っていた方たちにも、ぜひ来てほしいです」
YU「確かに。Zeppだったら、怖いイメージはないもんね」
KENJI「治安は悪くないので(笑)、安心して来てほしいです」
CHOJI「“ライブハウスはハードル高いな”というので、何年か前まではライブに来ていたけど、最近は行けてないっていう方もいると思うんです。今回は、そういう人たちにも来ていただいて、みんなで楽しい空間を作りたいですね」
──ちなみに、先ほどKENJIさんがおっしゃっていましたが、ライブ前に新曲リリースの予定もあるんですね?
SHUKI「はい。もしかしたらライブで初披露の曲もあるかもしれないです」
KENJI「確定ではないですけど(笑)」
YU「まだ曲がないからね。だから、僕たちとしても希望的観測です(笑)」

(おわり)
取材・文/高橋栄理子
写真/野﨑 慧嗣
RELEASE INFROMATION
LIVE INFORMATION

I Don’t Like Mondays. TOXIC TOUR 2025
2025年10月5日(日) 北海道 Zepp Sapporo
2025年10月11日(土) 大阪 Zepp Osaka Bayside
2025年10月13日(月・祝) 福岡 Zepp Fukuoka
2025年10月18日(土) 愛知 Zepp Nagoya
2025年10月26日(日) 東京 Zepp DiverCity