──2ヵ月連続 Digital Singleがリリースされました。まず、第1弾「新世界」のお話からお伺いしたいのですが、振り返ってみると、前作「シアン」で<世界が終わる前の歌が聞こえた>と歌っていますよね。これは「新世界」に向かう予兆だったのでは?と感じているのですが。

木天蓼「「新世界」に関しては、詩音さんから“攻めたい”ってかけらをもらったんですよ」

詩音「“攻撃的なキラーチューンがいい”って言いました(笑)」

──どんなモードだったんですか?

木天蓼「「シアン」で怒りや葛藤、苦しさを全て吐き出したかな?とも思ったんですけど、いろんな環境の変化がある中で、そういう気持ちがずっと継続してあって…」

詩音「私も「シアン」をリリースした時に、“もうこれでネガティブな自分から抜け出して行くんだ”という気持ちでいたんですけど、音楽を続けていく上でいろいろと考える時期があって、悩んだりもしていました」

木天蓼「とはいえ、前を向いて、自分たちの活動をもっとより多くの人に知ってもらいたいという気持ちもあって。だから、「シアン」では自分たちの今の内面を提示したので、次は秘めごとがこれから進んでいく先にみんなもついてきて欲しいというか…“自分たちが先頭に立って歩いていく“という決意を示したかったんです」

──その「新世界」は<チッ、クソッ>という舌打ちから始まります。

詩音「そうです(笑)。活動していく上でいろんな感情になってしまって…例えば、SNS とか、数字とか。そういう上面なものだけで、本質的なものや努力は見てもらえなかったり、それだけで判断されてしまったりして。それは、音楽だけではなく、皆さんの日々の生活の中にもあると思っています。そういうことに対する怒りや悔しさも感じて舌打ちから始まっています」

──イライラしていたんですね。

詩音「イライラしていましたね(笑)。秘めごとはあくまでも自分たちらしさ、自分の武器を忘れずに活動していきたかったので、改めて、“自分たちらしく頑張っていこう”という強い想いも芽生えた時期だったので、決意の曲になりました」

木天蓼「言うなれば、「ハウル」、「シアン」、「新世界」は“三大怒りソング”です(笑)。「シアン」や「ハウル」で、自分たちが感じていた怒りや葛藤という感情は、結局、終わりがないものであって。日々、いろんな悩みや喜怒哀楽が生まれてくるわけじゃないですか。それをその都度、吐き出して、自分を維持していくんですけど、この「新世界」は今までとは違っています。ただ怒りや葛藤を吐き出すだけではなく、それを糧にして、自分たちがやるべきことが明確になっているというか…」

──その“やるべきこと”というのは?

木天蓼「自分たちが信じることを、自分たち主導で示して、その場所に集ってもらう。歌詞は聴いてくれた人が共感できる怒りや葛藤、日常に溢れていることを書いています。みんなと同じように苦しんで、みんなと同じように日々いろんなことを感じながら前に進んでいます。ただ、僕たちはありがたいことに音楽を届けられる場所にいるので、日常の中で寄り添えるようなことを伝えられる立ち位置にいて。だったら、この二人でしかできないことをやって、自分たちだけの武器で、意思表示をする。その決意表明です」

──詩音さんは最初に楽曲を受け取った時にどう感じましたか?

詩音「今までの秘めごとになかった感じの曲調だなっていうのが第一印象でした。このメロディラインにどう感情を込めようか?ということを考えていました。でも、聴いていて、“メロディラインが次、どこに行くんだろう?”というワクワクさはあったので、ただただ攻撃的な楽曲にはならないようにしました。聴いていて私が感じたワクワクするような気持ちも感じ取ってもらいたかったので」

──「新世界」はライブで一緒にクラップしながら盛り上がりそうなアップチューンですが、よくよく聴き込んでみると、メロディラインも楽器演奏もバンドのアンサンブルもかなり難しそうな曲になっていますね。

木天蓼「秘めごと史上最高難度に到達してしまった曲になっています(笑)。僕は歌詞の流れと演奏の流れをかなり密に絡ませないとダメな人で。そこが分離しているのはどうしても許せないんです。秘めごとは、“メロディアスである“ということを重要視していて。しかも「新世界」は、マスロックやプログレのエッセンスも少し差し込んだりしているので、その部分と日本人特有のメロディ感やコード感を融合させるのにかなり時間を費やしました。そういう意味でも新しい挑戦だったんですけど、全てが絡み合うように計算しまくっていたら、大変なことになっていました(笑)」

──歌詞とメロディ、アレンジと演奏の融合を果たした曲になっているんですね。

木天蓼「そうです。生活の中でどうしても抜け出せない負のループがあるのと同じように、ギターのリフもリズムに関係なく、ずっと同じフレーズをループさせていたり、それが途切れて、また違うところに行ったりしていて。実はすごくギミックが隠されています。あと、一つの映画を見てるような感覚で「新世界」を聴いて欲しいと思っていて、場面がどんどん切り替わるような構成にしました。」

──どうですか? 木天蓼さんの監督・脚本で、詩音さん主演の作品になりますね。

詩音「そうですね(笑)、これまでにない新しい曲調だったので、自分なりに解釈して考えて、歌い方もいつもとは違うようにしています。強さもありつつ、まだなくなっていない自分の弱い部分も表現しています」

──覚悟や決意の曲ですが、最終的には<君次第だ>って、聴き手に向けて歌っていますよね。

詩音「はい。自分にも歌っているんですけど、みんな本当の自分を見てもらえない悔しい想いをしている瞬間ってあると思うんです。会社や学校、どこでもあると思います。でも、自分らしさを忘れずにいてほしいですし、“全部は自分次第だよ”というのを自分にも言い聞かせながら、聴いている方にも届けばいいなって思っていて。<君次第だ>の後に<アウトサイダー>と続くんですけど、この曲を歌いながら、私も一つの枠におさまらない、はみ出し者でいたいと思いました」

──歌詞でいうと、<モノリス>も気になっています。SF映画『2001年宇宙の旅』に登場した謎の物体なのか、何かの一枚岩のことなのか…。

木天蓼「自分たちのシンボルというか、“確かにここにあるんだよ”というのをより普遍的に示したかったんです。物というよりは、創造力の溢れ出る未知のもの…ジャケットも僕が担当しているんですが、そういうデザインにしています。モノリスの前に”誰か”が立っていて、何が起こるかわからない…でも、それはきっと希望や新しい未来っていう」

──詩音さんはどうですか? 赤く染まったモノリスの先には何が待っているのでしょうか?

詩音「“新世界にみんなで一緒に行こう“という気持ちもありますけど、生活していく上ではこの先もまた、同じような気持ちになることもあると思うんです。悔しい想いをすることも、つらいこともあると思っていて。でも、さっきも言ったように、”周りに流されず、自分らしい姿で、自分の武器で戦うことは忘れずにいたい”というのは自分にも言い聞かせようとしています。この先もきっと、ネガティブな部分はたくさん出るだろうし、また感情が戻ってしまったり、後ろを向いてしまったりすることもあっても、そういう部分は忘れずに進みたいという気持ちに自分もなれました。その先にあるのは…やっぱり私はライブかな?(笑)」

木天蓼「内面的な部分を色々言いましたが、結局、僕たちはみんなからパワーをもらっていますし、“みんなも一緒に楽しくなろうよ”っていう、とてもシンプルなところに辿り着いている曲でもあります。秘めごとの旗を掲げて、真摯に音楽に取り組んで、これからも音楽を通していろんなメッセージを伝えていきたいと思います」

──赤く染まった壁の次にリリースされたのが「蒼き春」です。

木天蓼「そうなんです。真逆なんです(笑)。秘めごとには2つの軸があると思っていて…喜怒哀楽を素直にむき出しで吐き出していく一面と、自分的には“侘び寂び”の概念といいますか、優しい風景や思い出や日常を切り取っていく一面も、自分たちの魅力の1つだと考えていて。「カフカ」という曲があるんですけど、ものすごく好きなんです」

──夏の終わりの曲でしたよね。

木天蓼「そうです。夏の情景を描いている曲です」

木天蓼「僕は日本の四季がとても好きで、詩音さんもそういう風景を見ることがすごく好きなんですよ。二人の共通している部分です。で、ちょうど制作の時期に、新しい門出や卒業というモードに入って…」

──卒業ソングとも言いたくなるバラードですが、どんなきっかけがあったんですか?

木天蓼「選挙の投票に行った場所が中学の体育館だったんです。遠くの方からサッカーをしている声が聞こえてきて。体育館に入って、投票しようしたら、今度は軽音楽部のチューニングをしている音が聞こえてきました。このノスタルジックな感覚、“これを曲にしたい”と思いました。で、詩音さんは合間の季節が好きで」

詩音「春とか秋とか、合間の季節が好きなんです(笑)」

木天蓼「なのもあって?(笑)、冬から春の歌にしました。移り変わっていく季節の間の儚さや刹那的な美しさを曲で表現したくて、作りました」

──ピアノとアコギから始まって、ラストに向かうにつれて音がどんどん増えていって、最後にストリングスが加わる構成になっていますね。

木天蓼「この曲、自分の中ではサビがないんです。最初と最後は全く同じメロディと歌詞なんですけど、心情は変わらないまま、情景だけが変わった状態で聴けるというギミックになっています」

──その間に故郷からの旅立ちが描かれています。

木天蓼「場面は同じですけど、聴く人の年齢によって湧き上がる感情が違うんじゃないかな?と思います。それは、僕が久しぶりに中学校の校舎に入ったときに感じたことだったんです。懐かしさや成長を感じる人もいるだろうし、真っ只中の人もいるだろうし。その一瞬でいろんなものが蘇る。そこに、冬から春へという曖昧な季節が入ってきて、より情緒的な景色になって、思い出になって、未来になって溶け込んでくる。そういう情景を秘めごとなら、詩音さんの声なら表現できるってことも含めて作り始めた曲なんですけど、詩音さんは、この曲をすごく好きみたいです(笑)」

──あはははは。どうですか?詩音さん。

詩音「久しぶりのバラードのリリースでもあり(笑)、SNSに冒頭だけデモで公開していたんですけど、その時は真っ白な冬の風景で。そしてそこから、季節の移り変わりや、春の暖かい光、希望に満ちたところに胸を張って歩き出せるような感情も出てきて。最後、最初と同じフレーズになるところを、木天蓼さんと、バンマスのUKと、話し合いながら“ピアノだけでしっとり終わろう”という意見もあったんですけど、私は“ストリングスを入れたい!って…そういう世界観も見えた曲だったので」

木天蓼「聴く人によってこの楽曲がもたらす風景が違うということだと思っています。生きてきた場所も違って、育ってきた場所も違うので。それぞれの青春時代の流れによってアレンジが変わってくると思うんです。今回は詩音さんが見ていた風景が採用されました、ナイス詩音さんです、僕も気に入ってます」

──詩音さんはどんな風景を見てました?

詩音「歌詞にもあるんですけど、故郷から離れるというのは、嬉しいワクワクな気持ちもありながら、自分がずっと育ってきた場所だから、寂しい気持ちもあって、離れたくない気持ちもある…それでも、新しい環境で頑張っていく。そんな希望です。冬の真っ白な、少し寂しいところから、春の暖かい光に行く、そして最後は満開の桜が散っている暖かい春のイメージでした」

木天蓼「僕とUKは寂しい青春時代を送っていたのか…(笑)」

──(笑)歌詞も<晴れだ>と終わっています。この曲も「新世界」に向かっているようですね。

詩音「そういう風に自分に言い聞かせたいという願望もあります。私は後ろを向きがちなんですけど、音楽に支えられたり、音楽を聴いて“頑張ろう”と思ってきたので」

木天蓼「<さようなら僕が 好きで/さようなら僕が 嫌いだった>という歌詞があって、これも詩音さんがすごく好きらしいです。この歌詞がまさしく詩音さんなので(笑)」

詩音「(笑)、大好きな場所だけど、大嫌いな場所っていう…そういう矛盾ってあって。“大嫌い”というのは強がりだったりもするんですよね。私もそういう性格をしているけど、その中でも前を向きたいと思っていて。ここはもうレコーディングでもすごく感情を込めて歌いました」

──2ヶ月連続リリースで2025年を締めくくり、 2026年はどんな1年にしたいですか?

詩音「聴いてくださる方に寄り添える音楽というのを忘れずに制作もライブもしていきたいです。自分自身もその時に聴いていた音楽と情景や匂いをいろんな場面で覚えているので。卒業の時もそうですし、普段の生活でもそうですけど、聴いてくださっている方の生活に寄り添って、人生の思い出と結びつくような忘れられない音楽を作っていきたいです」

木天蓼「このタイミングで「新世界」と「蒼き春」という、本当に秘めごとをわかりやすく表現した対極する2曲を聴いてもらえるのが嬉しいです。でも、“まだまだありますよ”と(笑)、そしてライブでも聴いてほしいです。楽曲を作って、リリースさせてもらって、ライブでみんなに詩音さんの歌声を聴いてもらって。それがセットというか…秘めごとですので」

詩音「本当にいろんな楽曲と世界観、それぞれ1曲1曲、皆さんの中に落とし込んで、いろんな場面で聴いてほしいです。それに、音源とライブではまた変わってくるので、“ライブではどう変わるんだろう?”というのを受け取りに来てほしいですし、みんなの気持ちもライブでぶつけてほしいです。ライブはそういう音楽での対話ができる場所だと思うので、私もありのままでステージに立つので、みんなもありのままの自分で対峙しに来てほしいです」

木天蓼「あれは言っておかなくていいの? 「新世界」の<チッ、クソっ>は僕が言ってる件…(笑)」

──え? そうなんですか!?

木天蓼「詩音さんにやってもらう気満々だったのですが、僕の<チッ、クソッ>のほうが“怒りがにじみ出てる”とみんなが言って。なんで?(笑)、結局、僕のが採用になりました」

詩音「私だと思われています(笑)」

木天蓼「誰にも気づかれなくて…“今更言いにくいぞ、これ”と思って…」

詩音「この場で言っておいたほうがいいかな? あれは木天蓼さんの声です! ずっと“どこかで言わないと…“と思っていました(笑)」

木天蓼「LIVEでは詩音さんVerがきけますので…なんだこの自虐的な雰囲気は!(笑)」

(おわり)

取材・文/永堀アツオ
Live Photo By ヨシハラ ミズホ

RELEASE INFORMATION

秘めごと「新世界」

2025年11月30日(日)配信

秘めごと「新世界」

秘めごと「蒼き春」

2025年12月15日(月)配信

秘めごと「蒼き春」

LIVE INFORMATION

単独公演 「狼煙」

2026年4月25日(土) 東京 東京キネマ倶楽部

単独公演 「狼煙」

秘めごと 関連リンク

一覧へ戻る