──今作は初のセルフプロデュースシングルですが、セルフプロデュースしようと思ったのはどうしてだったのでしょうか?

「もともとセルフプロデュースでシングルを作ろうと思ったわけではなかったんです。ただ“30歳を機にセルフプロデュースでやってみない?”とスタッフさんに提案されて“アリかな?”と思いました。とはいえ、僕自身がそこまでポジティブな人間なわけではないので、自分で作品を作ろうとすると、本音で書こうとして暗いものができてしまうんじゃないか?という危惧があって。だけど、テーマ出しから歌詞出しをやってみると全然そんなことはなかったです。“意外と自分は30歳に対して前向きに考えているんだな”って思えました。そこで“セルフプロデュースでやってみるのはアリだな”と思って進めた結果、初のセルフプロデュースシングルができました」

──ネガティブなものになる可能性もあったんですね。

「ありましたね。先輩たちからは“30代入ると楽しいよ”って話をよく聞くんですけど、“本当!?”っていう懐疑の念があったので…。なので、ネガティブなものになるかもしれないなとは思っていました」

──でも、実際に出来上がった歌詞はポジティブなものになりましたね。

「はい。結果、めちゃめちゃポジティブになりました。歌詞をよく読むとネガティブな部分もありますけど、意外と30歳に向けて楽しみな気持ちが多いんだなと思いました。たぶん30歳をゴールだとか何かの区切りだと思っていたら結構ネガティブだったと思うんです。でも僕にとっては、30歳ってこれからもずっと続いていく中での1つの通過地点でしかなくて。ここで乗り換えて、また別のところへ行くのかもしれないし。そういう意味を込めて、テーマを旅にしました。歌詞のアイデアとしては、最初2パターン考えました。一つはネガティブなもので、もう一つはポジティブなもの。乗り物も、一つは電車で、もう一つは飛行機。そしたら、飛行機でポジティブなほうがしっくりきたので、こっちにしました」

──電車バージョンもあったんですね。

「ありました。そっちでは乗り継ぎに失敗したり、よくわからない無人駅に到着したりしていて…」

──ちょっと苦しい旅が。

「はい。でも、旅路の中ではそういうこともありますよね。僕、青春18きっぷで旅をしたことがあるんですけど、乗り換えを間違えて“ここどこ?”みたいなところに行きついて、そのままその日はもう電車が来なくて…って経験もあるんです。その記憶を歌詞にしようかな?と思ったんですけど、それよりももっと広い世界に飛び出して、見たことない世界を見に行くような旅にしたいなと思って飛行機にしました」

──歌詞はスムーズに書けましたか?

「出てこないところは出てこないですけど、出てくるところはさらさら出てきました。ポジティブすぎるのも自分の素直な気持ちではないなと思っていたので、<トランクいっぱいに つめた ガラクタも 憧れも 結構重くなっちゃって>というフレーズから始めましたが、それも本音です。まだ30歳ですけど、いろんな経験をしてきて、“まぁまぁいっぱい詰め込んだよね”って思うし、“その中にはガラクタもあったよね”って。でもそれって、僕だからっていうことではなくて、みんなそうなんじゃない?と思うんですよ。“みんな、トランクの中、整理できてます?”って」

──そう言われると、私もガラクタだらけですね。

「はは(笑)。でもガラクタの中にも大切なものはもちろんあるし、ガラクタだと思っていたものが、実は全然ガラクタじゃなかったりもする。そういうものだと思うんです。だから同じように“みんなそうじゃない?”って思いながら、同じく30歳になる人たちにも共感してもらえるように書きました」

──作詞自体はこれまでにも経験があると思いますが、作詞自体は得意ですか?

「苦手ではあります。語彙力がそんなにないから…。だからいろんな曲を参考にしたり、いろんな歌詞を読んでみたりしました。“こういう歌詞もあるのか”とか“これだけ力抜けちゃってもいいな”とか、そういうことを考えながら書きましたね」

──いろいろな曲や歌詞をみていく中で、ご自身の歌詞の好みや書きたい歌詞のタイプみたいなものは何か見つかりましたか?

「槇原敬之さんの歌詞は素敵だと思いました。ストレートに情景が浮かんでくるんです。「ラブレター」っていう曲の歌詞を改めて読むと“書き出しから、すご!”と思って。情景が全部浮かぶんです。あとはスキマスイッチさんの曲も好きなんですけど、スキマスイッチさんの歌詞は等身大でストレート。そんな、聴きながら頭の中で想像できる歌詞が好きだったなと再確認しました。だからこの曲も、具体的な場所とかは書いていないですけど、“ストレートな言葉で、想像しやすいものにしよう”と思いました」

──確かに「It's time to fly!」にも具体的なものは書かれていないですが、状況や気持ちは想像できますね。

「具体的な行き先は書いていないけど、“ワクワクする方向に進んでいる”ということは書きたくって。“何故この仕事をしているのか?”を考えると、進んでいく道の先にはワクワクだったり、好きという気持ちしかないんだって思いました。書いていく中で、それが一つのテーマになっていたかな?と思うので、押し付けるわけじゃないですけど、“聴いている人にもワクワクしてもらいたい”と思いながら書きました」

──“このお仕事をしている理由は、道の先にワクワクがあるから”というのは、歌詞を書きながら改めて感じたことですか?

「もちろん、好きだからやっているという感覚は漠然とありましたけど、じゃあ“お金を稼ぐことを考えていなかったか?”といったら、稼ぐことを考えていたこともあるし、今だって気持ちよりも効率のほうが大事だと思っちゃう瞬間もあるだろうし。でも“好きだから”とか“これをやってワクワクするから”が、核になっているということは、やればやるほど思えてきたことだと思います。いくら稼げたって、いくら効率が良くたって、心が死んでいたらこの仕事はできないと思うんです。ものづくりってそういうものではないから。“お金にならなくてもここだけはこだわりたいんだ”みたいな仕事の仕方のほうが、残るものを作っていけると思うんです。それはここ2、3年思っていたことですけど、書きながら改めて気づいたことでもあります」

──ここ2、3年思っていたということですが、それに気づくきっかけがあったのでしょうか?

「プライベートで交流のある人から仕事を受けるようになったことかもしれません。例えば大学の友達と芝居をやりたいから、事務所に“この土日だけもらえませんか?”ってお願いして舞台をやってみたり。板の上での芝居はやりたいことの1つなので、台本を読んで“絶対にやりたい”と思った舞台にスケジュールを調整してもらって出たり、積極的に朗読劇の仕事をしたり。別に“お金になる・ならない”に関係なく、そういうことを積極的にやっています…ぶっちゃけ、お金にならないんですけど(笑)。でもやりたいと思ってやる仕事はこうも心を動かしてくれるんだなっていうのはすごく感じて。もちろん、普段させてもらっている仕事に心が動かないわけじゃないですよ。いい現場でお仕事をさせてもらっているときには感じることだし、仕事の大きさに関係なく心が動く瞬間というのは、プライスレスなんだなと思うので、それは大事にしたいです」

──そんな思いを込めて歌詞を書かれたわけですが、セルフプロデュースということは、トラックやサウンドも畠中さんがイメージを伝えて作ってもらったということですよね?

「はい。旅というテーマのほかに、“肩の力が抜けた感じにしたい”、“あまり押し付けがましくない感じにしたい”ということをお伝えしました。今までは、特に表題曲では、戦う曲が多かったので、今回はもうちょっと楽に、風に乗れるような曲を表題曲にしたかったんです」

──では、そのオーダーのもと、このトラックが届いたときはどう感じましたか?

「自分が思ったよりも力の抜けたものが届いたので、“力抜けてる〜!”とびっくりしました。“これを表題曲にするのって勇気がいるな”とも思いましたけど、やってみたら楽しいかもと思いました」

──歌う上で意識したことはどのようなことでしたか?

「ラフに歌う。とにかく肩の力を抜くことを考えました。仮歌を歌ってくれたのが、作曲も手がけてくださったXinUさんなんですけど、XinUさんの歌い方が肩の力が抜けていて、すごく素敵だったんです。“これくらいラフに歌えたらいいな”と思って参考にしました」

──表題曲でここまでラフな曲を歌うのは初めてとおっしゃっていましたが、実際に歌ってみていかがでしたか?

「楽しかったです。今までにない歌い方だったし、フェイクで遊んでいくのも面白かったし。“うん、楽しかった”が一番しっくりくる表現ですね。もうちょっと元気に歌うと、いつもの僕になっちゃって、それだと面白くないな…って思ったので、力の抜き具合は調整していきました」

──ミュージックビデオも旅をモチーフに、踊りながら進んでいくものに仕上がっていますね。撮影はいかがでしたか?

「雨でした…ビショビショになりながら撮りました」

──えっ!? 雨の中での撮影だったとは思えませんでしたよ。

「良かった! 大粒の雨の中での撮影だったんです。でも最後に晴れているのだけは本当。夕日をバックに歌うところだけ、本当に晴れて。だからあのシーンでは“やっと晴れた!”という、本当に感動した表情を捉えてもらいました。それこそ先々が晴れていると踏み出したくなるから、最後に晴れてくれてよかったです」

──最初は一人で踊っていて、途中ダンサーさんが増えていくという構成は、旅の途中で仲間が増えていくということなのかな?と推測しながら拝見しました。

「そうですね。仲間と出会うんです。でも別れるんです。出会いがあれば、別れもある。最後に別れるというところも含めて旅な気がするんです。でも一緒に踊ったことは絶対に記憶に残ります。自分の人生も、景色でも人でもそんなことの連続だった気がするんです。ずっと一人だけど、彩りを加えてくれたのは、人だったり景色だったり、そういうものだったなって」

──カップリング曲「5 A.M.」はどのような曲にしたいと思って制作を進めていったのでしょうか?

「「It's time to fly!」は新しい感じで歌っているので、“今までの僕の歌はこういう感じだったんじゃないか?”という曲をやってみる、というのがカップリング曲でした。だから肩の力を抜くというよりは、今までくらいの音の厚みがあるものがいいなって思いました。でもせっかく「It's time to fly!」という表題曲があるんだから、カップリング曲では、“旅の前”を歌いたいと思っていました」

──関連性を持たせたかったんですね。

「そうですね。最初に頂いた歌詞がちょっとイメージと違ったので、僕が初めて海外旅行に行ったときの記憶をガーッと書き起こして、それを送って、再度書いていただいたんです」

──歌詞のアイデアの元は畠中さんの実体験なんですね。

「はい。書いてもらったのは、家を出てから始発の電車に乗っていく様子ですけど、それこそ、小学生の時に家族でサイパンに行ったときの朝のワクワクした気持ちが忘れられなくて。だけど、この曲ではただワクワクしたことだけじゃなくて、そのときの自分に、今の自分を重ねてみました。“あのときと同じ時間、同じ道を、今の自分で歩いてみたら?”というイメージです。小学生のときの僕は、旅の支度を全部済ませて、キャリーケースを引いてまだ真っ暗な街を歩いて。そしたらちょっとずつ光が出てきて、空が紫色になってきてワクワクしている。だけど、大人になるにつれて、苦味みたいなものも増えていくじゃないですか。紫の空を見ていたのは、ワクワクしていたときだけじゃなくて、先輩にすごく怒られた飲み会の帰り道だったり、悔しくて眠れなくて迎えた朝だったり。そういうものを全部含めた朝の空です」

──そんな様子を、自分らしく歌ったと。

「自分の癖も思いっ切り生かして歌えたので、“これぞ”という感じになっていると思います」

──そうして初のセルフプロデュースシングルが完成しましたが、ご自身のプロデュースで1枚作ってみていかがですか?

「自分が想像していた以上に楽しかったですし、面白かったです。自分には何もないと思っていたんです。何もないというか…人から求められてやるのがいいと思っていました。だけど、今回“何をやりたいか?”と聞かれて。数年前だったら“何がやりたいって言われても…”って感じだったんですけど、いざ掘り下げてみたら、やりたいことが出てきて、“自分にもやりたいことや言いたいことがあったんだな”と思いました」

──クリエイティブの扉が開いたんですね。

「そうですね。受け身じゃないほうが楽しいかもしれないと思えました。お芝居でも台本をただ読むだけじゃなくて、“ここには何があるんだろう?”と探していく工程があるんですけど、受け身じゃなく音楽をつくるということは、それに似ている気がしました」

──音楽活動において、この先の目標ややりたいことにも変化があったりするんでしょうか?

「今回、話し合いながら作っていくのが面白かったので、今後もそんな感じでやっていきたいと思いました」

──個人的には、畠中さんのセルフプロデュースで5〜6曲入りのEPやアルバムも聴いてみたくなりました。

「ちょっと制作期間を長めにもらえれば…(笑)。でも今回やってみて、意外と好きだなと思えたので、この先には苦しみを感じることもかもしれないですけど、またやってみたいですね」

──8月18日にはバースデー&リリースパーティー『TASUKU HATANAKA 30th Birthday & 9th Single Release Party -It's time to fly!-』が開催されます。どのような公演になりそうですか?

「笑顔になってもらいたいです。これが50歳とかだったら真剣に“これまでを振り返ろう”みたいな雰囲気になるかもしれないですが、まだ30歳なので。肩肘張らずに、まさに“パーティーしましょう!”っていう感じです」

──昼公演には内田雄馬さん、夜公演には小林親弘さんがゲスト出演されます。

「そうですね。雄馬さん、内田雄馬…呼び方がよくわかってないな」

──普段は何と呼んでいるんですか?

「“雄馬さん”って言っているときもあるし、“おい”って言っているときもあるし、“ねぇ”とか“お前”とか…。定まっていないですね、そういえば。年上なんですけどね…雄馬さんでいいか(笑)」

──(笑)。そんな内田雄馬さんと、小林親弘さんと、どんな話をしたいですか?

「どんな話をするんだろう? 今のところ完全にノープランです。とにかく楽しんでいってもらえればと思います」

──ライブパートはどんな感じになりそうですか?

「声優なので、今までやってきたキャラクターのキャラソンも歌いたいですし、アーティストとしてこれまでリリースしてきた曲も歌いたいし。楽しめる面白い感じに構成したいですね」

──イベントの前日には30歳になりますが、どのような30歳、30代になりたいと思っていますか?

「いざ近づいてみると、全然延長線上でした。大人だと思っていたけど全然大人じゃなく、区切りだと思っていたものはまったく区切りじゃなかった。シームレスに30代にいってしまう感じです。でも欲は深まっていく一方で…」

──どういった欲なんでしょう?

「お芝居もそうですし、こういうふうに音楽でものをつくるということもそうですし、“もっともっとやりたい”って。困ったことに、欲望だけが増えています(笑)」

──歳を取れば取るほど、やりたいことが増えていくって素敵なことですよね。現実が見えてきて諦めることが増えていきそうなものなのに。

「そんな大それた夢は描いていないですよ。“ハリウッド進出!”とかは思っていないですけど、大小関わらずに“好き”を突き詰めていきたいです。ハリウッド進出で叶えたいことは、ハリウッドにしかないものかというと、そうじゃなかったりするので。今はもう亡くなっている画家が偉大な作品を残していますけど、当時はゴミ箱に捨てられた絵だったというじゃないですか。それでもあの人たちは描いていたわけですよね。そこにはもう“好き”という気持ちしかなかったはずだと思うんです。何かに駆られて描いていたわけですよね、きっと。これから、自分にとってのそういうものを見つけられたらいいなって思っています」

(おわり)

取材・文/小林千絵

RELEASE INFROMATION

畠中 祐「It's time to fly!」初回限定盤(CD+Blu-ray)

2024年717日(水)発売
LACM-345932,970円(税込)
Lantis

初回限定盤(CD+Blu-ray)

畠中 祐「It's time to fly!」通常盤(CD only)

2024年717日(水)発売
LACM-24593/1,430円(税込)
Lantis

通常盤(CD only)

EVENT INFORMATION

TASUKU HATANAKA 30th Birthday & 9th Single Release Party -It's time to fly!-

2024年818日(日)
<昼公演>開場1300 / 開演1400 / ゲスト:内田 雄馬
<夜公演>開場1800 / 開演1900 / ゲスト:小林 親弘
会場:神奈川 Zepp Yokohama

Lantis MENS GIG“A・C・E” 2024

2024年1013日(日)
<昼公演>13:45開場/ 14:30開演
<夜公演>17:15開場/ 18:00開演
会場:東京 Zepp Shinjuku(TOKYO)
出演者:仲村 宗悟、畠中 祐、古川 慎

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