――前作の『Into The Time Hole』から、気持ち的に同じところ、変わってきたところはありますか?

松尾レミ「まず同じところでいうと、精神的な面はやっぱりまだ『Walking On Fire』作って、『Into The Time Hole』作って、『The Goldmine』作って、この3つは結構繋がっている精神世界かなと思いますね」

亀本寛貴「同じメンタリティだよね」

松尾「そうそう。それはやっぱりコロナを経験しての、何を選んで生きて行くか、例えば人に期待したり、何かチャンスが落ちてこないか祈ってるだけっていうのだと生きていけないなっていうのがあって。自分を鼓舞して生きていくっていう、そういうメンタリティは特に強くなったので、そういうものが歌詞だったりとかメロディにも反映されているとは思います。そこは繋がっている部分かなと思いますし、楽曲において変わった面で言うと、今回「ラストシーン」って曲をちょっと前に出してアルバムにも入ってるんですけど、それは今まで自分の中にあったルーツなんだけど、わかりやすいようにGLIM SPANKYで出してこなかったようなテイストを歌詞でもメロディでも出したので、自分はナチュラルに出したんだけどみんなから見ると意外って言われるようなことだったりも、ちょっとずつ自分の中で解禁していって。今まで壁を作っていたものがいい感じに消えていってる部分があって、変な殻を作ることなく、いろんな作品作りに挑戦できたかなっていうところが今までよりも羽を伸ばすというか、肩の力を抜いて作られたかなと思いますね」

亀本「そこの制約とか、自分たちはこうだっていうのが決まりすぎてると1年に1枚作るのは難しいけど、こういうことしていいよ!これもOKにしようぜ!って感覚で作れたし、直近の3枚を作ることによってどんどん広がって行ってたんで、今回は特にそういう気持ちだったと思います」

――松尾さんが今「ラストシーン」の話をしてくれましたが、この曲で歌詞の一人称の変化や、情景的な描き方に変わってきたのかなと。

松尾「そうですね。結構これは自分の中の作家的な感覚で書いた感じがしてて。今までは本当に自分が思ったことだったりとか、メッセージだったりとか、もちろんそういうものはいまだに書き続けてはいるんですけど、この「ラストシーン」で参考にした部分は70年代のニューミュージックの人たちのメロディ感だったり、歌詞世界だったり、すごく作家っぽいんですけど誰が聴いても自分のもののように感じるというか、さっき街で見かけたような気がする情景だったり、そういう部分をうまく落とし込めたらなと思って。情景的には鮮やかな描き方をしているんだけど実は小説を作家が書いているかのような、ちょっとだけ神の視点、ちょっと引いた視点もある。それは今までなかったかもしれないですね。書いててめちゃめちゃ面白かったです」

――この曲を聴いて思い出す手法がユーミンだったりしたので、すごく馴染みがある世界観でもありました。

松尾「ありがとうございます。例えばユーミンだったり、吉田美奈子さんだったり、松本 隆さんだったりとか、ジャパニーズポップスのそういうイメージの人たちの歌詞世界は聴いてきた人たちにも馴染むし。でも逆に最近の若い子たちの洗練されたシティ的な楽曲が好きな人たちにも馴染むし。そこをバランス見ながら1曲にできたかな、サウンド含めてできたかなっていうところで自分たちでも気に入ってる曲になりました」

――この曲が現代的だなと思ったのは<滲んでいく 西の空が 駆り立てた>のセクションで、サウンドプロダクションにブレイク・ミルズのような印象を受けたからなんです。

亀本「この曲自体リズムが超ハネてるから、あそこのキックのフレーズはちょっとHIP HOPっぽくなってるよね?」

松尾「そうだね。結構ブラックなノリというか、16ビートの中でも絶妙なハネ具合にこだわりましたね。リズムの話は亀本といつも議論するんですけど――議論というかディスカッションかな――とある世代からリズムの捉え方が変わったような気がするっていう話をしたことがあって」

亀本「90年代ぐらいのノリだよね。ディアンジェロとかエリカ・バドゥ、J・ディラのビートを通ってる人と通ってない世代の人ではフィーリングが違うというか。僕らと同世代ぐらいの人からはナチュラルに通ってる人が多いなって感じますし、今は特にJ-POPシーンでは、R&B、HIP HOPとかがメインストリームになってきてるじゃないですか。そういう界隈で活躍してるトラックメイカーやプレーヤーって割と若いんだよね。だから50代のHIP HOPのトラックメーカーで今最前線みたいな方はあんまりいない」

松尾「だからドラムは同世代がいいなと思って、粕谷くん(元Yogee New Wavesの粕谷哲司)に頼んで。やっぱり感覚が近いので、レコーディングも細かいニュアンスをコミュニケーションできました」

亀本「そこはほんと粕谷くんもそうだし、ライブでやってもらってるDATSとかyahyelの大井一彌くんもちょっとしたハネ感とかがなんかハマるし、自分のフィーリングと近いって感じがして。“なんかやっぱあるよね!”って話をよく松尾さんとしますね(笑)」

――前作のインタビューで亀本さんが「ロックサイドにいない人のロックサウンド」を面白いと思えるようになったと話してましたが、それがさらに前進してるなと思って。リード曲の「Glitter Illusion」はR&Bにおけるエレクトロニクスの使い方なのかなと思ったりしました。

亀本「うんうん。感覚的にはJ-POPというより、もうちょっとグローバルなポップスをイメージしてみて、そういうのを聴いてると、結構日本だと――なんか本当に日本の愚痴みたいになっちゃうんですけど(笑)――そんなことはなくて。日本の認識って、ロックは直線的なもので、HIP HOPとかR&Bは揺れてて……みたいに線がバーンってある。でも、個人的にはまずロックンロール自体、ブルース発祥だし、当たり前にそこにあんまり境目ないんですよ。ブルースとかR&Bとかあんま境目ないし。で、ブルースもHIP HOPもジャズも同じで、僕はそこが全部繋がってて区切れてないんですよ。その感覚はすごく大事だなと思っていたので、この曲は若干R&Bだったり、ジャズのボーカルもののエッセンスがあるポップスにしつつ、ロックのフィーリングも全然自由に入れていいっていう感覚で作っていった感じですね」

――アレンジを、日向坂46、嵐、Sexy Zone、BTSの作品にも参加しているSoma Gendaさんと一緒にやっているのもすごく面白くて。

松尾「ありがとうございます。Somaくんは昔からの付き合いなんです。中学時代からの友達で。中学時代からって下手したら幼馴染ぐらいの(笑)感じと言っていいと思うんです。なのでやっと今こういうふうにお互い進化してコラボレーションができたので、特別な1曲になったと思います」

亀本「この曲は自分の中ではUKの歌姫のようなバチン!としたサウンドにしたいんだけど自分でできるかわからないからできるかぎり頑張ってみようぐらいの感覚だったんですけど、スタッフからGendaくんとやったらどうかって話をいただいて。そういうのを作るんだったら彼に入ってもらった方がよりそこに近づけるだろうと思ってお願いしたら、ばっちりでした」

――もちろんそこに亀本さんのギターリフがあったりするのがキモですね。

亀本「そうですね。そこでリフを入れるのはすごく大事かなと思って。一応メンバーにギタリストがいるんで、そいつにも仕事してもらわないと……みたいな(笑)」

――確かに(笑)。シグネーチャーですね、GLIM SPANKYの。この曲の歌詞に関してもさっき松尾さんが言っていたように役柄的な側面がありますね。

松尾「そうですね。これもちょっと小説チックというか、短編映画を覗き見るみたいな感じの書き方をしているんですけど。結局この曲もある夜の風景かもしれないけど、言いたいことは、自分で自ら光らせていこうっていうポジティブな、この何が本当で何が嘘かわかんない、もしかしたら全部まやかしかもしれない、全部イリュージョンかもしれないけど、それさえも自分の心を持ち上げるものとして捉えて、ラメを乗せるでもいいし、最高の服を着るでも音楽に乗るでもいいけど、結局は自分を抱きしめられるのは自分しかいないっていうことを書いた曲です」

――エッセンスのパーセンテージがやっぱり松尾さんらしいなというか、100%ガールズ・エンパワーメントみたいな感じではないというか。

松尾「そうですね。確かに」

亀本「結果としてはそこに持っていくイメージはあるんだよね?」

松尾「まあね。でも性別も関係なく、今の時代、日常生活の中で、誰もが迷ったり“なんでだよ !?”って思ってしまうことって絶対に起こってくるから。例えばこの曲の主人公は私の中では女の子だけど、父親ぐらいの年齢の男性が聴いてくれても、主人公の気持ちにふっと入り込めて、心が強くなるものを見つけていきたいっていうふうに思ってもらえたらいいな、そんな映画が撮れたらいいな、みたいな感覚で書いてますね」

――デビュー当時は少年少女の怒りとかパワーみたいなところがすごく強かったと思うので、そこには自ずと変化が生まれていますね。

亀本「それはもうできないよね(笑)」

松尾「自分の書きたいことだったりとか、できる術をたくさん見つけたって感じがしてて。そういう心の叫びみたいなものはきっと思った時には書くと思うんですけど、それ以外の例えば物語っぽいのを書いてみようとか、めちゃめちゃサイケな歌詞書いてみようとか何でもいいんですけど。そういう自分の技を試せる、術が何個か自分の中で見つけられてきたので、今実験してる感じかもしれないです」

――松尾さんのアコギインスト「真昼の幽霊」が良いですね。

松尾「ありがとうございます。うれしい」

――アルバムの流れを作ってると思いました。

松尾「良かった!これはリビングで録った文字どおり宅録の音源なんで(笑)。これがどういうふうに聴いてもらえるかな?っていうところが、心配じゃないけど、いきなり世界観が変わるのでどうかな?って思ったんですけど、個人的にはすごく気に入っていて。「ラストシーン」で開けた世界からこのインストを経て、「Summer Letter」って曲に続くことによって、部屋の中の自分というか、心の底に触れるような音にできてたらいいなと思ってます」

――「Summer Letter」はGLIM SPANKYのスタンダードを感じました。

松尾「ありがとうございます。これは意外と変則チューニングで変な音の並びで弾いてるんですけど、一見それが分からないように、何も考えないで聴くと普通に爽やかな曲に聴こえるようにバランスをすごく考えましたね。マニアックにはしていけるんだけど、そうするとそのテイストが好きじゃない人が聴いた時に飛ばす曲になっちゃう。それが嫌で、全曲しっかりと土台の強度は保った上での表現をしたんですね。その上で、ここにサイケっぽいのを入れてみようとか、ちょっとアシッドフォークっぽいのにしてみようとか、最初の曲自体の強度を上げるために考えて作ったんで、この「Summer Letter」って曲も実は参考にしたのはニック・ドレイクだったりジョニ・ミッチェルだったり、そういうところから来てますけど、普通にポップスとして聴いてもらえるようなメロディ感だったりサビの歌詞がスッと入ってくるように心がけて書きましたね」

――確かにニック・ドレイクの個性や時代感のままだと入りづらい人もいるでしょうね。

松尾「そうなんですよね。私がもうニック・ドレイクが大好きすぎて、だから音像とかも全部好きって感じなんですけど、でもそれって音楽を聴くすべてのリスナーからしたら少数派で(笑)。だからその音楽が好きだけど、ちょっと入り込みづらいなとか、ロックだから聴かない人もいっぱいいるわけですよね」

亀本「そもそもロックは好きじゃないって人の分母は結構デカいよね」

松尾「私たちはロックが好きでやってますけど、だからこそ、そこをどういうふうにより多くの人たちに、開けた場所で聴いてもらえるかなっていうところも今回はいろいろ挑戦した感じですね」

――今回のアルバムタイトルにあるGoldmineはどこから?

松尾「この単語を見つけたのはコスメを見てるときで(笑)。アイシャドウってカラーに一個一個名前があったりするじゃないですか。それでGoldmineって色を見つけて、どんな意味なんだろうと思って調べたら、“金脈”」

亀本「“これ良さそうだ!”ってなったね」

松尾「そうそう!これ今自分の思ってることに意味を持たせられるワードだなと思って、そこからつけたんですけど。人それぞれ誰もが金脈を持っていて、金脈っていうのはもしかしたらやる気なのかもしれないし、心臓なのかもしれない、わかんないですけど、でもそれは消えない絶対に誰もが持ってる枯れない金脈だと思うんです。それをどうやって自分で掘って行ったりとか、宝を見つけていくか。それはできる人もいればできない人もいるかもしれないけど、どっちにしても絶対誰にも金脈があるよっていうことを伝えたいなと思って、そういうタイトルにもしたし、そういう曲を一曲目に書きました」

――「The Goldmine」は出だしの工事現場っぽいSEからして今の東京って感じですね。

亀本「確かに。朝の満員電車にたまに乗ることがあるんですけど、“これ毎日乗ってるとか、みんなマジか?やべえ!”って思うけど、みんな無で乗ってるじゃん。そういう感じで書いたんでしょ?」

松尾「そういう日常の些細な事もそうだし、現代の全部に当てはまるよね。音楽についてもそうだしさ、近くにこんな宝が眠ってるなんて、みんな誰も気付いてないわけ。もう<辺りは堀り尽くされた跡ばかり>って歌詞に書いてるけど、音楽だって出尽くしたような気がするし、カルチャーでもなんでもそうなんだけど、この先あんまり希望が見えないっていうところに自分たちが立っていて、亀が言ってたみたいに無っていうか、働いている人々が機械のように感情がない風に装って生きているけど、実はそうじゃないんじゃないの?っていうメッセージですね、これは」

――確かに「もう希望はないのか?」という出来事が多すぎますよね。

松尾「本当にそうですよね、最近もう。すべてにおいてそう思いながら書いてます。だから自分への応援歌としても書いてる部分があって。自分を鼓舞するためにもそうだし、でもそういう自分が励まされる曲はきっと励まされる人がいるはずだと思って信じて書いてますね。私もただのリスナーなんで、これを聴いてくれる人と同じ目線だし、変わらないひとりの人間として、ちゃんと今の時代に聴いた時にぐっとくるものを作りたいなと思って作ってます」

――ところで今のGLIM SPANKYは出演するフェスとかイベントの選び方にすごく幅を感じます。

松尾「幅やばいかも(笑)。激渋のフェスにも出るし。「長岡米百俵フェス ~花火と食と音楽と~ 2023」なんて、イルカさん、南こうせつさん、GLIMって並びしょ?で、その次にHY、倖田來未さん、RIP SLYMEって。うちらがここにいていいのかな?みんなキラキラ芸能人みたいな(笑)」

亀本「かと思えば「オハラ☆ブレイク'23秋 ザ・カンパイミュージック」では、(奥田)民生さんとかサニーデイ(・サービス)とか田島貴男さんとかベテランのミュージシャンとやったり。でもさっきの芸能人の方々じゃないけど、そういう人たちって基本的に誰でも知ってる曲をいっぱい持ってて、エンタメとしてのレベルも非常に高いから誰が見ても楽しめる。僕らは、僕らのことなんか知らないみたいな人たちもいっぱいいる中でちゃんとみんなを楽しませなきゃいけないじゃないですか。だからシンプルにパフォーマーとして鍛えられてるなって今すごく感じて。知らない人ばっかりだったとしても、前より少しずつ盛り上げられるようになってる気がする」

松尾「あとはさっき言ったようにサニーデイとか民生さん、TOSHI-LOWさんもそうだし、LOVE PSYCHEDELICOとか、その人たちと一緒に演奏して一緒に歌うのはかなりいい経験になってまして。例えばサニーデイの3人でバンドやってる世界を見てると、こんなに美しいものはないってすごく感動するし。先輩だし大人なんだけどちゃんとキッズな部分っていうものを感じられるのは財産になっていて。だから私も初心を忘れず、ときめくものを信じてやっていこうっていうのは最近思います」

――Goldmineはときめきでもあると。

松尾「ときめきを自分の中で探したりとか、それを信じていくこと。ゴールドなマインですね。自分の中のゴールドだから。ずっと大事にしてきたつもりだけど、改めてやっぱりそこを大切に、感覚をそこに合わせて、そういう純粋なところにアンテナを張っていきたいなっていう風に最近も思ってます」

(おわり)

取材・文/石角友香
写真/平野哲郎

The Goldmine Tour 2024LIVE INFO

2023年11月30日(木)恵比寿 LIQUIDROOM ――The Goldmine Release Party
2024年1月20日(土)横浜ベイホール
1月27日(土)X-pt.(高知)
1月28日(日)松山サロンキティ
1月30日(火)高松DIME
2月1日(木)滋賀U☆STONE
2月3日(土)CAPARVO HALL(鹿児島)
2月04日(日)熊本B.9 V1
2月06日(火)浜松窓枠
2月09日(金)柏PALOOZA
2月10日(土)郡山HIPSHOT JAPAN
2月15日(木)米子AZTiC laughs
2月17日(土)YEBISU YA PRO(岡山)
2月18日(日)広島CLUB QUATTRO
2月20日(火)磔磔(京都)
2月24日(土)NIIGATA LOTS(新潟)
2月25日(日)金沢EIGHT HALL
3月1日(金)札幌PENNY LANE24
3月3日(日)仙台Rensa
3月08日(金)DRUM LOGOS(福岡)
3月10日(日)名古屋市公会堂 大ホール
3月20日(水)NHK大阪ホール
3月24日(日)日比谷野外大音楽堂(東京)
3月30日(土)長野市芸術館 メインホール

GLIM SPANKY『The Goldmine』DISC INFO

2023年11月15日(水)発売
初回限定盤(CD+DVD)/TYCT-69288/5,280円(税込)
Virgin

GLIM SPANKY『The Goldmine』DISC INFO

2023年11月15日(水)発売
通常盤(CD)/TYCT-60219/3,080円(税込)
Virgin

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