──まず、今年6月に開催された、アイドルにフィーチャーしたスペシャルイベント『愛♡魂-icon-24』について聞かせてください。公演後にはSNSで“アイドルは天職”と書かれていたことも印象的でした。このライブを開催しようと思った理由、そして実際に開催して感じたことを改めて教えてください。
「アイドルとしてキャリアをスタートさせているので、アイドルができる内は“アイドルにフォーカスしたい”と思っていて…その一つとして『愛♡魂-icon-24』を開催しました。“アイドルソングを歌っている僕が好きだ”と言ってくださるファンの方もいますし、アイドルソングに特化したライブを開催することでいろんな僕の面を見てもらえるし、僕がそういうことができるということをまだ知らない人にも届けたかったので。それと、日本のアイドル文化をいろんな人に伝えたいという思いもありました」
──“日本のアイドル文化を広めたい”というのは、海外に出てみて何かを感じたからですか?
「そうですね。日本でもそうですけど、海外だとさらに、今はK-POPの文化が強くて。だから“日本のアイドルの良さも海外の人にもっと知ってもらいたい“と思いました」
──そして実際に開催してみて、“アイドルは天職”と感じたんですね。
「はい。アーティストとしても、アイドルとしても、どちらもできるという自分の強みを再確認できて、よかったです。今後も年に1回は、『愛♡魂-icon-』を開催したいですね」
──確かにどちらもできるのはアーティストとして強みですね。
「そう思っています。自分の中にはやりたいことやこの先のビジョンがあって。皆さんから見たらそこに向かって進んでいるように見えると思うんですけど、僕からすると、そこに行くまでの道のりを逆算して一つ一つ選択しているので、どちらかというと逆から見ているような感覚です。その中の一つがアイドルです」
──なるほど。その視点で言うと、今は予定通り進んでいますか?
「予定通り進んでいると思います。そういう意味ではアルバム『I’m A Hero』がちょっとした変化に繋がっていくのかな?と思っています…新しい僕を見せられたのかな?って」
──ではそのアルバム『I’m A Hero』について聞かせてください。まず今回“ヒーロー”をテーマにした作品を作ろうと思ったのはどうしてでしょうか?
「作る前からいろいろなタイトルやコンセプトが自分の中にあって…その中で制作当初は別のコンセプトで決まっていたんですけど、一度リセットしました。そして、今、自分が思うことや好きなものをシンプルに取り入れたのが『I’m A Hero』です。自分は小さい頃からヒーローに憧れていて。でもヒーローにも弱みはあるし、悩みや葛藤もある。ヒーローだからって完璧じゃない。そういうことを改めて考え直して、“みんな誰しもが誰かのヒーローだけど、みんな完璧じゃないから、自分のペースを保ちつつ、みんなで協力して、支え合う。そういう幸せな世界が来るといいよね”という思いを込めたアルバムにしました」
──コンセプトを一度リセットしたんですか?
「はい。別のコンセプトで曲も何曲か作っていました。アルバムに収録している「花、暖かく」は、以前のコンセプトで作った曲です。この曲の歌詞を考えたのが今年の頭で、その頃からアルバムのコンセプトも別のもので考えて作り始めていました。でも「花、暖かく」をリリースして少し経ってから、“コンセプトを変えよう”と思って」
──「花、暖かく」のリリースは7月ですよね? そこからコンセプトを変えて制作を? 相当大変だったのでは?
「本当に短期間で集中して作りました。僕は自分のやりたいことがコロコロ変わるタイプなので…“寝る前はこう思っていたのに、朝起きたらこっちがいいって思ったから変えよう”みたいな。でも今回のアルバムは制作期間が短くなったから、その分、自分のやりたいことをシンプルに出せたと思います。「花、暖かく」は、逆にこのアルバムの中で一味違う曲になったので、それも結果的に良かったです」
──今回はコラボ曲も多数収録されているので、まずはコラボ曲について聞かせてください。カナダ人のラッパー・Sean Leonを迎えた「Lonely feat. Sean Leon」から。シーン・レオンさんとコラボすることになった経緯はどういったものだったのでしょうか?
「彼は僕が尊敬するアーティストの一人で、このアルバムでぜひ一緒に特別なことをしたいと思っていました。コラボは彼といろいろ話をする中で決まったのですが、この曲で一緒にやろうと言ってくれたときは本当に嬉しかったです」
──元々お一人で歌うはずだった楽曲ですが、実際に2人で歌って完成したものを聴いていかがですか?
「まず、“自分の曲を歌ってくれている“ということがとてもありがたいです。今までずっと一人で歌ってきたので、他の人がコラボしてくれたり、自分の歌を歌ってくれたりしているのを聴くと、“また新しい扉が開いたんだな”と思って…自分の夢に一歩また近づけたという実感があります」
──フィーチャリングしたことで、ご自身の歌やラップに変化や影響はありましたか?
「そこはあまりないかも…。というのも、自分は自分のスタイルでやっていきたいと思っているので。その方が、コラボしたときにそれぞれの良さも感じられるだろうし。でもフィーチャリングすること自体は、すごく自分にとって刺激になりましたし、すごく良い経験になりました」
──ご自身がブレないからこそ、人とやる意味がある?
「そうです。“一緒にいい作品を作りたい”という思いがあるので、お互いにリスペクトし合ってできたと思います」
──レコーディングの際にはどのような気持ちで歌ったのでしょうか?
「この曲は、“ヒーローにも孤独な部分があるんだ”ということを歌った曲です。コラボをすることで、人それぞれの捉え方がさらにできるようになった感覚です。なんというか…僕のボーカルだけではない声が入ることによって曲の中にもう一つの世界観が生まれて、さらにいろんな想像ができるようになったと思います。この曲は、歌い方もサウンドの感じも、他の曲と比べてちょっと尖っている曲だと思うんですが、僕はすごくお気に入りです」
──続いては10月に配信シングルとしてリリースされた「あたしだけのスーパーマン feat. コレサワ」。コラボは岩橋さんからオファーしたのがきっかけということですが、コレサワさんにオファーしたのはどうしてだったのでしょうか?
「それこそ『愛♡魂-icon-24』をやって、アイドルソングのような曲を作りたいと思ったんです。ファンと掛け合いをする曲ってすごく大切だなと思って。普段、僕が歌っている曲は、英語だったり、キーの問題があったりして、ファンの人から“歌いたいけど歌えない…”という意見をもらったこともありました。だから、Fairy(ファンの愛称)と一緒に歌える曲、むしろ一緒に歌わないと完結できないような曲を作りたくて。そこで、“どういう曲がいいのかな?”と思って考えていたときに、TikTokでコレサワさんの楽曲を聴いて“この人に作ってもらいたい!”と思いました。そしたら快諾していたけたので、僕が使いたい表現や歌詞、メロディーの雰囲気などをお伝えして作ってもらいました」
──コレサワさんとは面識のないところから?
「はい、全く面識はありませんでした。本当にTikTokを見て“いいな”って思って」
──そうだったんですね。曲については岩橋さんから要望をお伝えしたということですが、ファンの人との掛け合いのほかには、どういうことを希望として伝えたのでしょう?
「“女性目線の歌詞にしてほしい”ということをお伝えしました。女性目線というか、ファン目線かな? “女の子が歌って共感できる曲を作ってほしい”と。あと、“主人公の女の子はちょっとわがままで、ヤキモチを妬いているような子がいい”とも伝えました。そういう楽曲のイメージもあって、コレサワさんに作ってもらいたいと思ったんです」
──実際にコレサワさんからこの曲が上がってきたときはどう感じましたか?
「一発で“これでお願いします!”と言いました。最初に送ってくださったデモは、コレサワさんが歌っている弾き語りのものだったんです。その段階で、すでにサビが頭から離れなくて…。そういう曲って口ずさみたくなるし、カラオケとかでも歌いたくなる曲だから、“これは絶対にいい曲になる!”と思いました」
──曲中で描かれているのは、テレビの中のスーパーマンに憧れつつも文句を言う女の子。そのストーリーについては、受け取ったときどう感じましたか?
「本当に僕とFairyの関係性みたいだと思いました。配信リリースされた後、実際にファンの方が“玄樹くんってやっぱり私たちのこと理解してる!”というコメントをしてくれているのを見て、すごくうれしかったです。あと、この曲を作ったコレサワさんはやっぱりすごいと改めて思いました。だってコレサワさんは僕のファンではないのに、僕のファンの人たちに刺さるような表現をたくさん使ってくださったわけですから…」
──女性目線の楽曲ということで、岩橋さんが歌う上で意識したことはありますか?
「何だろう…女性目線だからということではないかもしれないですが、レコーディングのときはテンションを上げて、踊りながら歌いました(笑)。レコーディングって上手くいかないと“うわー!”って、頭の中がごちゃごちゃになっちゃうんです。でも、この曲はそうならないように、ライブをしているような感覚でノリノリで歌いました。楽しかったです」
──ライブでファンの方と一緒に歌うのが楽しみですね。
「はい。皆さんに覚えてきてもらって、一緒に盛り上がりたいです」
──ラストナンバーは「We Walk Together feat. GUN WOO (MYNAME)」。この曲はMYNAMEのGUN WOOさんとのコラボですが、これはどういう経緯でコラボすることになったのでしょうか?
「MYNAMEのライブを観に行かせてもらう機会があったんです。そこで初めてメンバーさんとお会いして、いろいろお話をしていく中で、“コラボしよう!”という話になったことがきっかけです。コラボといってもいろいろな仕方があると思うんですけど、コヌさんとはバラードを一緒に歌いたいと思ったので、“ぜひバラードをお願いします”とお伝えしました」
──楽曲制作はどのように進めていったんですか?
「デモがいくつかあって、その中から2人で歌っているところを想像して一番合いそうだと思った楽曲を選びました。歌詞も、最初は日本語詞だけだったんですけど、“韓国語も入れてほしい”とお願いして。結果的に想像している以上に“コラボしている感”が出たので良かったです」
──ワンフレーズですが、岩橋さんも韓国語で歌っていますよね?
「はい。“歌いたい”と言って歌わせていただきました。すごく良いアクセントになったと思います」
──韓国語はもともと話せたんですか?
「いえ。いまだに“あそこ、何て歌っているんだっけ?”って思い出さないといけないくらいです」
──音で覚えているような?
「そうです。レコーディングのときはカタカナを振ってもらって…頑張りました。初めての試み、僕の初ハングルの歌です(笑)。いい経験になりました」
──実際のレコーディング前から“コラボするならバラード”と想像していたということでしたが、一緒にバラードを作ってみていかがでしたか?
「コヌさんは僕よりもアーティスト歴も年齢も上なので、学ぶことがすごく多かったですし、分かってはいましたけど本当に歌がすごく上手なので、いろいろなことが刺激になりました。そもそも僕とコヌさんは声の質が全然違うので…正反対と言ってもいいくらい。そんな2人で歌っているからすごく面白い曲になったと思います。今後ツアーとかで歌うときに、コヌさんのパートはコヌさんっぽく歌ってみようかな?とか考えています」
──そうですよね、ライブではフィーチャリングボーカルのパートをどうするか?という面白さもありますね。音源で流すこともできるし、岩橋さんが歌うこともできるし…。
「そうなんです。ライブに来てくださった方は、コラボパートを僕が歌うところを見られる可能性もあります。それに、僕のコラボ相手のパートを歌ってみたいかも…ですし。コラボにはそういう面白さがあるんだということも、今回気づきました。昔はパート割があって自分のパートを歌っていましたが、ソロになってからは全部一人だったので。そういえば、「あたしだけのスーパーマン」のレコーディングのとき、コレサワさんのパートを空けて自分のところだけを歌ったんですけど、間違えてコレサワさんのパートを歌っちゃったことがあります(笑)。そういうのも面白かったです」
──『I’m A Hero』はコラボ曲以外にもバラエティ豊かな楽曲群が並んでいて、岩橋さんのいろいろな歌声が楽しめるアルバムですが、岩橋さんの中で特に歌うのが難しかった曲や、チャレンジングだったと思う曲はありますか?
「それで言うと「Don't Need A Reason」です。この曲はラップ調の英語詞と、日本語のサビがある曲なんですが、英語と日本語だと発声の仕方が違うので、声色も自然と変わっちゃうんです。それを違和感なくあわせるのが難しかったです。ハイテンポなのに、2番ではメロウな感じになったりして。あと、ファルセットと地声も行き来していますし。すごくお気に入りですけど、歌うのはすごく難しいです」
──とはいえ、歌う曲はご自身で決めているわけですよね?
「はい。曲を選ぶときはいつも客観的に聴いて選びます。だからレコーディングになって初めて“こんなに難しいんだ…”と気づくっていう(笑)」
──ご自身が歌うかどうかよりも、曲としてどうか? という視点で選んでいるんですね。
「そうですね。プロ目線で“歌えるか?”ということで考えたとして、聴いていただく方はそこを求めているわけじゃないので。“いい曲”とか“テンション上がる曲”を聴きたいと思っていると思うので、僕もそういう視点で曲を選んで、あとから“難(ムズ)!”ってなることがよくあります」
──自然と難しい曲を選んで、そういう曲にトライしていくことで成長していくんですね。
「はい。だから今作のレコーディングでもまたレベルアップできたと思います」
──では、収録曲の中で特に好きな曲やフレーズを挙げるなら?
「<No one knows what hero’s do>…ヒーローが、自分がやっていることに対して“誰も知らない”って独白している場面の「Lonely」冒頭です。自分と重ね合わせてしまうんですよね。皆さんはキラキラした僕しか見てないけど、“本当はいろんな葛藤があるんだよ”って。本当に自分のことを歌っているような気持ちになるので、リハなどで歌っていても、ここを歌うと胸にくるものがあります」
──ヒーローをテーマにした理由を伺った際にも、“ヒーローにも悩みや葛藤はある”というお話をされていましたよね。ヒーローって、“憧れの存在”や“強いもの”の象徴としてたとえられることが多いと思うのですが、岩橋さんはヒーローの弱さを抱える姿に着目しています。それはどうしてですか?
「弱さを見せられる人って、ずっとカッコよくいる人よりもカッコいいと思うんです。自分の弱みを出せる人ほど人に対して優しくいられるし、人の痛みがわかるからこそ伝えられることもたくさんある。完璧でいようと思うと、自分を演じようとしてしまいますし」
──そう感じたのは、そういう存在がいたから? それともご自身の経験から?
「自分の経験が大きいと思います。僕も“100%パーフェクトな人でいたい”と思っていました。でも、自分の弱い部分を見せたうえで壁を乗り越えることで、それを見たファンの人に勇気や希望を与えられる気がしたんです。それが、僕がやりたいことなんだと」
──確かに“あんなすごい人でも悩むことあるんだ”と知って励まされることってありますよね。
「はい。僕も、そういう意味で遠い存在にはなりたくなくて。一人の人として、皆さんと共感し合えるところは共感していきたいとずっと思っています。それに、ファンの人に自分の弱みを知ってもらってから自分自身も楽になりました。だからそういう意味で、本当にみんなが誰かのヒーローなんですよね」
──先ほど、今作『I’m A Hero』はご自身のキャリアの中で変化のポイントの1つになると思うとおっしゃっていましたが、改めてそう思う理由を教えてください。
「1つ1つの楽曲の中に、自分の将来に向けてのヒントになる要素が入っているんです。言葉で説明するのはすごく難しいんですけど…。例えば、それまでは“かわいい”とか“アイドル”でやってきて、いきなりものすごいロックに舵を切ったら、ファンの人も驚いちゃうじゃないですか。だから徐々に自分のやりたい方向に見せていくんですけど、「あたしだけのスーパーマン」みたいな曲も織り交ぜて、自分がこれまでに培ったものも糧にして、自分のやりたい方向に行けたらいいなと思っていて。そういうヒントが全曲に入っているのがこのアルバムです」
──お話を伺って、ソロでやりたいことがどんどん明確になってきているんだろうなという印象を受けました。
「そうですね。正直、スタートラインがどこかも分かっていなくて…」
──まだスタートラインに立っていない可能性もあるということですか?
「はい。まだ立っていないかもしれないですし、もしかしたらとっくにスタートしていたかもしれないです。そこはわからないですけど、常に未来の自分のビジョンは頭にあって、それを実現するためにどう動こうかな?ということをずっと考えています」
──その将来のビジョンというのはどのようなものなのか、伺ってもいいですか?
「うーん…」
──言葉にするのが難しければ、“こういう存在になりたい”という理想像でも。
「ずっと変わっていないのは、どんな曲を歌うにしてもどんなジャンルをするにしても、誰かがちゃんと幸せになるものを届けたいということです。ヒップホップにビーフという文化がありますけど、僕はそういうものはしたくないですし、誰かを傷つける曲は作りたくないです。“この曲を聴いて、誰かが幸せになれるか?”、“誰かが笑顔になってくれるか?”ということを常に考えて、これからも楽曲作りや活動をしていきたいです」
(おわり)
取材・文/小林千絵
写真/中村功
RELEASE INFORMATION
LIVE INFORMATION
GENKI IWAHASHI TOUR 2025 “Iʼm A Hero”
2025年1⽉7⽇(⽕) 神奈川 KT Zepp Yokohama
2025年1⽉10⽇(⾦) ⼤阪 Zepp Osaka Bayside
2025年1⽉12⽇(⽇) 福岡 Zepp Fukuoka
2025年1⽉23⽇(⽊) 東京 Zepp DiverCity
2025年1⽉24⽇(⾦) 東京 Zepp DiverCity