――新曲の話をする前に、少しだけ今年リリースされた楽曲を振り返りたいと思うんですが、どの楽曲においても“本当の私”や“私らしさ”を追求してますよね。
「基本的に、<自分に価値がある>や<自分を愛する>という思考がずっと自分の中に流れてはいて。ただ、そこに至るまでに実はいろいろあったんですね。それ以前を思い返してみると逆のところにいて。自分らしくできなかったし、自分を抑え込んでいた。音楽でも自分がやりたい、目指している場所にずっと届かなくて。うまくいかない日々がずっと続いて、自分のやりたいことがやれなかった日々が長く続いたので、今やっと<なりたい自分になろう><なりたい自分になれるんだ>って言える勇気を持って歩めているので、それがどんなに幸せなことかっていうのをすごく実感している、ここ数年という感じですね」
――その思考が変わった数年前には何があったんですか。
「4年前かな。2019年に「Rebirth」という曲をリリースしたときに、いろいろと手放さなきゃいけない出来事があって。大切な人との別れが一番大きいですね。それが、私を変えた大きなきっかけになった。自分が全てだと思ってたものを手放したときに、自分のなかには何も残らなかったんですね。そこで、“あれ、私の価値ってどこにあるんだっけ?”と思って。音楽もうまくいかないし、日常生活でもうまくいかない。じゃあ、私は何に価値を見出していけばいいんだろうって思ってから、自分の好きなことやろうっていうマインドに切り替えました」
――人生で自分が本当にやりたいことが見つかるセカンドバースデーみたいなものだったんですね。
「本当にそう。あの曲がなかったら、今の自分はいないと思います」
――そして、今年2月にリリースした「ピンクの髪」では<わたしだけの為にオシャレをして>という人が主人公になってました。
「昔、付き合ってた人が黒髪が好きだって言ってて。だから、ピンクの髪にしなかったし、バイトをしてる時もピンクにはできなかった。その人が好きな自分にならなきゃとか、社会で働く中で、この人に気に入られなきゃいけないとか。そういうことじゃなく、自分が“良い”と思うことをやろう、好きなことをやろうっていうメッセージですね」
――同年5月にリリースして各チャートを賑わせた「Super Star」には<いつか私を好きになる><これから私は何をしたいだろう>という問いかけがあります。
「「Super Star」も延長線上にあるんですけど、実はその前に出した「Purpose」で言えなかったことを、「Super Star」で書いてるんですね」
――2021年4月にリリースされた「Purpose」で言えなかったことというのは? 直訳すると目的ですよね。
「当時の自分はすごく遠回りしてたんですよね。自分のなりたい姿をぼんやりさせたまま、いろんなところに行って、全然やりたくない仕事をしたり、“あ、違った”って戻ったりしてた。もちろん寄り道が必要なときもあるんですけど、振り返って見ると、本当はゴールをちゃんと決めて歩んでいけば簡単なはずだったのに、ゴールはぼんやりさせたまま歩いてしまっていたから、歩みがすごく遅かったんですね。どこに行くかっていう目的地を決めないままで歩んできてしまったことで、いつまでも本気になれなかったりした。それを「Purpose」で表現してたんですが、もっとうまく伝えられたのにっていうのがあって、ちょっと補強する形で「Super Star」を書いていて」
――そこで見つかった目的とは何でしたか。
「いちばん大きなところで言うと、まず、人生の目的を見つけたんです。死ぬときに、みんなに愛されて、みんなを愛して死にたい。死ぬ直前に、私は本当にみんなに愛されて、そして、たくさんの人を愛してしてこの人生を終えるんだって、後悔なく死んでいきたいなっていう、最終目標地点を決めたんですね。そうするためには人間的に成熟する必要がある。そこで、自分には音楽っていうものがあったので、それを使って、この目標を達成しようって思ったんです。もっと具体的に言うと、たくさんの仲間を見つけて、みんなで一緒にチームとなって歩んでいく。その過程の中で、たくさんの人たちに出会って、音楽を通じてコミュニケーションを取っていく。そうやって、大きい目標からどんどん掘り下げていって、自分のやりたい音楽がだんだんわかってきたっていう感じです」
――自分のやりたい音楽とは?
「大きく言えば愛を渡して、愛を受け取れる場所です。つらいときには帰れる場所で、孤独なときにはそばにあるもの。気分を上げたり、ムードなんかも作れたら最高です。リスナーの方だけではなく、私の周りで支えてくれる人たちも、そして私自身もお互い良い影響を与えることができるそんな音楽人生を目指しています」
――スーパースターになることが目的ではない?
「そうですね。みんなのスーパースターになるっていうことではなく、自分のスーパースターになりたいという思いで書いてます。私はかつて自分がすごく嫌いだったし、コンプレックスを抱えて生きることが辛かった。それがどれだけ生き辛いかっていう記憶が自分の中に残ってる。でも、いまは自分の好きなことをして、自分のコンプレックスを肯定してあげて、弱さを認められるようになったことで、すごく生きやすくなった。もしかしたら、この世の中に、そういう考えやアイデアが必要な人がいるんだったら、私が歌っていくことで、その人のプラスになるんじゃないかなっていうふうには思ってます」
――続く、「PSYCHO」にも<ここに本当のアタシ>というフレーズがありました。それはどんなイメージでしたか。
「それもやっぱり繋がってますね。あれは最近のコンプレックスを書いてて。例えば、私、最近まで、ステージ恐怖症だったんですね。ステージに上がると頭が真っ白になっちゃって、歌詞が飛んじゃったりする。本当にライブをするのが怖かったんです。あと、どんどんスケジュールが忙しくなってくる中で、締め切りに追われていって、疲弊していく自分とか。少しずつ階段を上ることで、周りのみんなの期待やプレッシャーをとても強く感じてしまって、昔の自分に戻りそうになったんですね。誰かにいい顔をしたり、気に入られようとする自分に戻りそうになったときに、<本当の私、忘れんじゃねぞ>って。お前はもう変わったんだから、そういうことを考えないで、自分らしくいなさいっていう、最近の自分に書いた曲でもあります」
――常に葛藤あるんですね。「Rebirth」より前の自分に戻りそうになる?
「今でも全然ありますし、コンプレックスもずっとありますしね。でも、弱さを認められる人ほど、私は強い人間だろうなって思ってるので、そういう昔の自分を思い出そうとしても、そんな自分を受け入れて、それを強みに変えられる人間になりたいなと日々思ってます」
――根底に流れてるメッセージは共通してる?
「全部そうだと思います。Love Myself(自分を愛すること)がLove one another(互いに愛し合うこと)になるってことですね」
――では、ご自身にとっての人生の最終目的を冠にした「LOA(ロア)」はどんなところから生まれた曲でしたか。
「ちょうど歌詞を作り出したときに、妹から電話がかかってきて、泣いてたんですね。普段はあんまり電話をかけてこないんですけど、コンプレックスや劣等感を持ってるタイプの妹で、多分溢れ出してきたときに私に電話がかかってきて。電話の向こうで“トラウマから逃げたい”と言って泣いていて。それを聞いたときに、私が書く曲が彼女のためにならないだろうかと思ってちょっと妹に描いた曲でもあるんです。きっかけとしては妹の電話で、彼女みたいなタイプの人に伝わるようにと思って描いた曲です」
――妹さんに伝えたかったことは何ですか?
「自分を許してあげることですかね。最初は、他人を愛することを描いていたんです。「LOA」はLove one anotherの略で、お互いに愛し合うって意味なんですけど、世の中を簡単に見渡せるようになったこの時代に、なんでみんな、お互いに愛せないんだろうと考えていて。そのことについて書き始めた時に妹から電話かかってきて。この子は他人を愛すること以前に、自分を愛することが難しいんだろうと思って。それを考え始めたときに、結局、自分に余裕がないと人のことを愛すのって難しいじゃないですか」
――そうですね。
「自分が疲れてたら、ちょっと人に冷たくなっちゃうし。SNSで誹謗中傷する人もきっと、自分にコンプレックスがあって、劣等感を抱えてるから、あえて誰かを非難することで自分を肯定したいんじゃないか、とか。そういうことを考えたときに、人を愛することの一番最初の卵の部分は、もしかして自分を愛することなんじゃないかなと思って。それは彼女へのメッセージになるし」
――自分を愛する前に、自分のことを許してあげることの大切さを歌っていますね。
「やっぱり自分の弱さを知ることって、とっても大事だと思って。私は昔、自分がすごくできる人間だと信じたんです。本当は弱いことを知ったんですけど、それを隠して、仕事はできるし、歌が上手いしって着飾っていた。でも、ふと、その自分の弱さが現れたときにすごい落ち込むんですよね。やっぱり私は駄目な人間だったんだって、自己嫌悪になって、劣等感に陥ってしまう。そういう生き方よりも、自分は弱いんだって理解してあげる。そういう自分を受け止めて、間違ったことをやっちゃっても、自分はこういうタイプだよな、しょうがないかって受け止められる方が、の前者タイプの人よりも生きやすいし、強いと思う。どんな状況になっても自分を受け止められるから強いと思うんですね」
――自分の弱さを認めたり、人を羨む気持ちやコンプレックスとも向き合ってますよね。それは、とても辛い作業だと思うんですけど、Furuiさん自身はまだコンプレックスはありますか。
「ありますね。精神的にも弱いです。見た目の部分でも、背が低いとか、顔が丸いとか(笑)。だいぶ肯定できるようになったけど、本当はこうだったらいいのになって、人を羨んだりする気持ちは無くなってない。自分がうまくいってないときに誰かがうまくいってると、どうしても悪態を吐いちゃいますよね」
――そういう自分も、この曲では自分で抱きしめていて。
「結局、妹に書いたんですけど、曲を作っていると、私はやっぱり自分の未熟さを感じるし、音楽に対してのコンプレックスがあるんですね。あの人はもっと良い曲を作るのにとか、私はこんなもんしか書けないのかとか、本当にこれはみんなが喜んでくれるのかな、とか……だから、私が妹に伝えたいことは、私が自分自身に言いたいことでもあったことに気づいて。どんな歌詞を書いても、80点でもいいじゃないかって。毎回、100点じゃないし、私はまだ100パーセント満足して曲をおわったことがない。でも、そういう自分を恥じるんじゃなくて、80点でもいいやって思って。そのおかげで、この曲を書き進められたなっていうのがありましたね。あと、実はさっき言ったステージ恐怖症が直ったのも、その考えがあって」
――どういう考えですか。
「ネットの記事で見たんですけど、100点じゃなくて、80点出せればいい、と。自分が100点だと思ってやっても、周りから見たら100点じゃないかもしれないっていうのを見たときに、そっかと思って。私がステージに上がったときに、100点を目指してやってるけど、別にそんなことは必要なかったのかもしれない。20%なくてもいいし、そのほころびが意外にグルーヴを生み出したりするのかもしれないなって。そういうマインドに変わっていったことで、実はステージ恐怖症がなくなってたんです。同じように、この曲も、そんなふうに考えて作ることができました」
――妹のことを考えながら最終的には自分の心と向き合う結果になったんですね。アレンジはどう考えてましたか。ご自身のルーツであるゴスペルにも意味があるんじゃないかと思ったんですが。
「この前の「Super Star」と「PSYCHO」は、私としてはキャッチーで聴きやすいポップミュージックを作ろうと思ってて。それも大正解だと自分で思ってるんですけど。なんていうんだろうな……みんなが好きなものをちょっと追い求めた感も若干あって。そうじゃなくて、もう一度自分の原点に立ち返ってみようかなっていうのがあって。打ち込みのトラックじゃなくて、生音が入る温かいものを作りたいって。そこで、「Super Star」「PSYCHO」を共作したknoak(ノーク)に相談して、Sayo Oyamaさんも加わってもらって。実はSayoさんがですね、私の師匠で」
――ええっ!そうなんですね。
「私のゴスペルの師匠でして。私がゴスペルを始めたのは小学5年生だったんですけど、初めて見たのがSayoさんのゴスペルで、Sayoさんのクワイアにいたので、彼女の背中を追っかけて育ったというか。ゴスペルを教えてくれたのはこの人と言っても過言ではないぐらいですし、やりたい曲や感じてるグルーヴが不思議と一緒なんですよ。それはそうですよね!その人から流れてきてるものをずっとやってきたから(笑)。私のことを一番よく知ってるのはこの人だなと思って、1回、原点に立ち返ろうと思ったときにお願いしようと思って、knoakと3人で作りました」
――3人での共作はどうでしたか?
「また新しい風が吹いたなと思います。knoakはすごいポップセンスを持ってるんですよ。そして、打ち込みでのトラックを作るのがとっても上手な人ですね。一方のSayoさんはやっぱり生音というか、ゴスペルは教会の礼拝の中で歌われるものなので、流動的で生きている音楽をやってきてる人。そんな違う文化が合わさるのがこの曲の魅力かなっていうのはすごく思ってます」
――ちょっとオルタナR&Bっぽい音色も入ってるから、いわゆるただのゴスペルではない現代的なサウンドになってますね。
「そこはちょっと意識して作りました。あと、今回初めてコーラスに入ってもらいまして。稲泉りんさんとMayowaさん。初めましてということでスタジオに入って、素敵なコーラスを入れていただいて、さらに山田丈造さんにトランペットを入れていただきまして、本当にみんなの力を合わせてできた曲だなと思ってます」
――原点のゴスペルに立ち返った曲を経て、この先は何か見えましたか。自分の弱さやコンプレックスと向き合い、自分自身を愛せるようになったという曲の中で<迷いの中からこの先が見えるはず>と歌ってます。
「きっと一生続くと思うんですよね。<みちのりは少しずつ長くてもひとつずつ>って歌ってますし、これを聞いて、すぐに解決するという問題でもない。日々、考えていっても、やっぱりまたいろんな問題にぶち当たって、私みたいにすぐ昔の自分に戻ってしまったりすると思う。正直、何かがはっきり見えたとか、そういう解決ソングにすることは自分の中ではなかったんです。でも、自分を思い出すきっかけに、自分を愛するっていうことに戻れる曲でもあるし、誰かにとってはこれが初めてのアイデアかもしれない。そんなふうな曲になればいいかなって今は思ってます」
――自問自答の末に最後は<一緒に一緒に一緒にNow>とみんなに呼びかけてますよね。
「Love one anotherですから。人間は一人じゃ生きていけないし、自分を愛せたところで、人がいないと誰かを愛せないし、誰かに愛されない。やっぱり、誰かに愛されているっていうことが、自分の自信になっていくので、最後は個人の問題じゃなくて、みんなで一緒に解決する問題だよっていうこと。あなたを1人にしないよっていう意味でも<一緒に>と歌ってますね」
――妹さんには聴いてもらったんですか?
「まだ聴かせてないんですよ。なんかちょっと恥ずかしいっていうか。逆に大したことないじゃん!って思われるのが怖いような気もして(笑)。実はワンマンのツアーに妹がコーラスで参加するんですよ」
――ええっ!そうなんですね。
「この曲も絶対に歌うので、そこでの反応が楽しみですね。泣きながら歌ってくれたらいいんですけど」
――ツアーは全国5都市ですが、どんなツアーになりそうですか。
「名古屋と福岡は初めてなので、正直、想像ついてないですね。どんな場所かもわかんないし、どんな人が来るかわかんない。でも、ちょっとずつ自信を持ててきてるし、ステージも怖くなくなってる。だから、以前見た方は、なんか成長してるって思ってもらえるかもしれないし、初めて見る方も、Furui Rihoってこうなんだっていうふうに思ってもらえるように、一生懸命に準備して臨みたいなと思ってます」
――ツアータイトル「CHIT CHAT」はどんな意味ですか?
「お喋りですね。チームのみんなで話して決めたんですけど、私のスタイルは、手が届かないカリスマじゃなく、近くにいて、“私も弱いよ。わかるわかる!”みたいな対話をするようなタイプの人間というか、曲だと思うんですね。そういう親近感があるようなタイトルがいいんじゃないかっていうことで、お喋りするようにライブ楽しめたらなっていう感じで付けました。だから、皆さんには、弱いもん抱えて、コンプレックス抱えて、そのまんまで来てほしい。日々つまらないな、刺激が欲しいなって人も大歓迎。私のライブは盛り上がる曲が多いんで、騒ぎ倒して、踊って、ストレス発散の場にしてほしいなと思ってます」
(おわり)
取材・文/永堀アツオ
写真/いのうえようへい