──昨年4月にCuegeeとして始動してから、ライブも行ってきましたが、実際に活動を始めていかがですか?
「しばらくはずっとクラブシーンにいたんですけど…この音楽をやるにあたって、アンダーグラウンドのシーンを自分の目で見る時間はすごく必要だったと思います。だけど、同時に僕はアイドルでもあるので、“クラブで会えるアイドル”って思われてしまうのは、ちょっと違ったんじゃないかな?とも思って」
──“SUPER★DRAGONの松村和哉”であるご自身と、Cuegeeとしてのご自身の間にある葛藤を改めて目の当たりにしたんでしょうか?
「そうですね。僕としては、どっちがどっちということではなくて、仕事が2つというイメージでした。だけど、世間がそうさせてくれないというか…でも、それをあまり気にしなくなればいいだけの話なんですけど。アイドルもラッパーも人間なので。それがあるべき姿なのかな?とは思います」
──“アンダーグラウンドのシーンを自分で見る時間が必要だった”とおっしゃっていましたが、実際にアンダーグラウンドシーンで活動してみていかがでしたか?
「自分の肌にとても合っていました。DJもライブをする人も当たり前に酔っ払っていて自由で。僕は酔っ払ってライブすることは基本的にはないですけど。予定調和じゃないものがずっと行われている感じがすごくカッコよく見えました。ただ…名前を出さずに出たこともあって」
──Cuegee目当てのファンは一人も来ない状態で?
「はい。そうすると、誰も自分の歌を聴いてくれないこともありました。普段、アイドルをしていると、自分のことを見に来てくれる人がいて、歓声を上げ続けてくださるので、歌ってシカトされるという経験はなかなかないことでした。そういう経験を経て、すごく強くなったと思います。もうどこででもライブをできると思います」
──知名度とは別に、実力の差みたいなものは感じましたか?
「実力で負けた気はしないです。自分に限った話じゃなくて、アンダーグラウンドって日の目を浴びないだけで素敵なアーティストがたくさんいるんだっていうことも思いました。アンダーグラウンドってすごく排他的なところなので、すごくひねくれている人もいますし(笑)」
──そういう人たちと交流して得たものはありますか?
「もちろん“アンダーグラウンドから売れてオーバーグラウンドへ行きたい”という人もいますけど、“ここが心地良い”という人もいますし、“売れたら負け”という考えの人もいて…。そういう人たちはビジネスじゃなくて、美学でやっている感じがして、すごくカッコいいと思いました。自分は、もしご飯を食べられない状況になったとしても自分の音楽を貫けるのかなと考えると…自信を持って“はい”とは言えないと思いました」
──アイドルとしてのご自身との共存も含めて、改めて自分のスタンスを確認する機会にもなったんですね。
「そうですね。でも“自分の居場所はアンダーグラウンドではない“と感じました。そこでできた仲間もいますし、制作に関わってくれる方との出会いもあったので、貴重な時間でしたけど」
──その1年間を経て、Cuegeeとしての方向性みたいなものが明確になったのでは?
「アイドルの自分を守らなきゃいけないけど、丸い作品は作りたくない。そのためにどうすればいいのか? それが、ずっとわからなかったんですけど…そもそも“アイドルとしての立場を守る”という考えに対して“守るべきものなのかな?”というところに立ち返って。“アイドルは聖人君主であれ”とか“品行方正であれ”みたいな空気をずっと感じ続けてきましたけど、“それって本当にそうなのかな?”と思って。“そこに一貫性さえあれば何をしてもいいんじゃないかな?“と思うようになりました。いや、別に悪さをするっていう意味じゃないですよ(笑)」
──もちろん。悪さはしないでください(笑)。松村さんは、アイドルとしての自分と、ラッパー・Cuegeeとしての自分に葛藤をしながらも、どちらかに振り切ることはしない。絶対に共存させようとしているところが、すごく独特な立ち位置を確立させている要因ですよね。
「僕にはどっちもあるからいいと思うんです。制作のスイッチの切り替えにもなりますし、いろんなものを見続けていたいので。それこそアンダーグラウンドだけにいたら考えが凝り固まってしまうだろうし。自分の音楽は、ストレスみたいなものが原動力になっているので、ストレスであったことがストレスと感じなくなったら、それが一番の退化な気がします。ちゃんと嫌なものを“嫌”と受け取れる体でい続けたいです」
──嫌なものを排除していくのではなく、嫌なものや痛みをちゃんと感じることに意味がある。
「はい」

──まさにそういうことを歌ったのが、2nd Digital EP『Role model』ですよね。
「はい。すみません…」
──どうして謝るんですか?
「いや…メディアとかSNSで、“このEPを聴いてください”と自分から言ったことがこれまで一度もなくて」
──それはどうしてですか?
「“聴いてください”って言える作品じゃないなって」
──どういうことでしょうか?
「聴いた人が幸せにならない作品だから…」

──でも作ることには意味があった作品ですよね。“ものすごく赤裸々な言葉が並んだEP”という印象を受けましたが、どういうEPにしようと思って作り始めたのでしょうか?
「自分が今やろうとしていることって、前例がなさすぎるので、自分がロールモデルにならなきゃいけないなと思って。そのために汚い部分を詰め込みたいと思いました。Cuegeeでいい子になってしまったら、ラッパーになった意味がないなって」
──汚いところを全部出し切ろうと。実際、赤裸々ですし、攻撃的な言葉も並んでいますね。
「はい。事務所とレーベルからは“個人名を出さなければ何をやってもいいよ”と言ってもらえたので。でも実際、誰かに対して言いたいことはそんなになくて…それよりも大きな力に対して思っていることがたくさんあるという感じです」
──いきなり最後の曲の話からしてしまいますが、「Trauma」はまさに先ほどおっしゃっていたように、芸能界で活動をする中でのさまざまな葛藤が、全部今の自分につながるという結論に達していて。そういう考えになれたのは、『Role model』に収録されている楽曲があったからですか?
「そうですね。刺激のない日々を送っていたら書けなかった曲たちだと思います。活動の中では、一生のトラウマになるようなこともありましたけど、そのおかげで、曲が書けたからいいか、みたいな」
──「No TV Star」の<あの子もあの人ももうここにいないが>、「Trauma」の<消えたい夜に思い出すのはあのとき消えていったやつばっか>など、今作は“ここにいない人”を歌っている印象があります。そういう存在がCuegeeの活動の理由の一つになっているのかな?と感じました。
「アンダーグラウンドのシーンを見ていて思ったんですが、“お金にならないからやめちゃう”という現実ってたくさんあるんです。今の音楽業界の空気感として、“レーベルが才能を見つけて売る”よりも、“レーベルは売れた人を拾う”みたいな仕組みになっているように感じて。その隅っこに追いやられてしまった才能がたくさんあるんだろうなって。“この人、音楽を辞めないでほしい”と思う人たちもたくさんいましたし、そういう人がちゃんと音楽を続けられるような世の中になったらいいなって思いました。そういうカッコいい人をみんなに教えたい、それが自分にできることなのかな?って」
──その一つが共作やコラボなんでしょうか?
「そうですね」
──今作には、今年2月リリースのKee Roozをフィーチャリングゲストに迎えた「I know I am feat. Kee Rooz」も収録されています。Kee Roozとはどこで出会ったんですか?
「使っているスタジオが一緒だったんです。しかも、同い年で。同い年だと簡単には“カッコいい”って言いたくない気持ちもあって、メジャーシーン、アンダーグラウンドシーン、どちらでも、同い年で自分よりカッコいいなって思う人がいなかったんです。でも、Kee Roozはすごくカッコよくて尊敬していて。出会う前からKee Roozのリスナーだったんですけど、使っているスタジオが一緒だと知って、仲良くなりました」
──ということは憧れの人と一緒に曲を作るみたいな感覚なんでしょうか?
「そうですね。今はもう完全に友達になっちゃいましたけど」
──制作はどのように進めていったんでしょうか?
「Kee Roozはグライムというジャンルを日本で流行らせようとしていて。僕もグラムはとても好きなジャンルですけど、自分では乗ったことのないビートだったので、“彼の土俵でやりたい”と思って、共通の知り合いのプロデューサーを呼んで、グラムの曲を作りました」
──一緒に曲作りをしてみていかがでしたか?
「楽しかったです。走るとき、一人で走るより隣に人がいたほうが早くなるっていうじゃないですか。そんな感じでした。“負けたくない”っていう気持ちが原動力になって」
──得たことや学んだことは何かありますか?
「彼の歌詞の書き方がすごく独特で! 韻から先に書くんです。韻を最初に決めて、その間を埋めるという書き方をしていて、“変なやつだな”と思いました(笑)」
──パズルみたいなことですよね。
「そうそう」
──松村さんもいつかその作り方を試す日があるかも?
「やってみたいなとは思っているんですけど、たぶん無理です(笑)」
──Kee Roozさんに言われて印象的だった言葉などはありますか?
「Kee Roozは根暗で、僕は割と明るいほうなので、“ラップうまくなかったら仲良くなれなかった気がする”って言われました(笑)。僕もそう思います(笑)」
──そう考えると、ラップという共通点があるってすごいことですよね。それだけで仲良くなれるって。
「はい。“やっぱりカッコいい音楽を作っているやつはいいやつだな”って思いました」
──表題曲「Role model (free style)」についても聞かせてください。この曲、すごいですよね。
「すごいですよね。自分の曲の中で一番好きです。これまで、フィーチャリングに呼んでいただいてワンバースだけ書くとか、SUPER★DRAGONの曲の制作とか、短い小節を好きに走り切るのは得意なんです。だけど、1曲を作るとなると、展開が必要じゃないですか。だけど自分はそれが苦手で…。“苦手だからどうしよう”じゃなくて“苦手だからやらない”、“得意なことだけを一生やろう”と思って、走り続けたらこうなりました」
──曲としての概念や常識を取っ払って。
「はい。“もう聴きやすさとかいいや!“って思って」
──だから“free style”なんですね。
「はい。サビがないっていう。おかげで、作る上でノンストレスでした」
──歌詞の内容はかなり攻めていますね。
「そうですね。要は“俺はバランスよくいたい”みたいなことを言いたくて。全部を手に入れすぎないようにしたいんです。お金も時間もそうですけど、何か1つが手元にありすぎると、人っておかしくなっちゃうと思うんです。だからやりたいことだけをやって、バランスよく手元に残しておきたい、ということを歌っています」
──いわゆる“ヒップホップドリーム”とはまた違う発想ですよね。
「お金は欲しいですけど、そんなにはいらないですし」
──では何が欲しいですか?
「いいスタジオとか…音楽をやり続けるためのお金は欲しいです」
──音楽を続けるためには健康でいないといけないから、ご飯も食べないといけないですしね。
「そうです、そうです。本当に欲しいものはない。車とか時計は一つもわからないというレベルで知らないです」
──ものよりも、音楽を続ける環境が欲しいということなんですね。
「はい。例えば、カッコいい曲を作る有名なプロデューサーと一緒に曲を作りたいと思ったら、やっぱりお金がかかるじゃないですか。MVを撮るときにCGを使うとすると、またお金がかかるし。お金が理由で作りたい作品が作れないのは嫌だなって思います。そのためのお金は欲しいです」
──本当に今、音楽表現をするために生きているんですね。
「はい」
──「Role model (free style)」を作る際、“苦手なことはやらないという選択をした”とおっしゃっていましたが、このEPの制作において、技術的にチャレンジしたことや大切にしたことなどはありますか?
「僕がカッコいいと思っている人に“カッコいい”と思われたくて。ただでさえ舐められやすい立場なので、ちょっとエモい感じで歌ったりしようものならもっと舐められると思って、とりあえず歌うのを禁止にしました。メロディ禁止令を出しました」
──先ほど“聴いてくださいとは言えない”とおっしゃっていましたが、ご自身にとって『Role model』という作品はどのようなものになりましたか?
「大切な1枚です。“今やるべきことだった”…そう思います。もちろんCuegeeとしてはピースなことも歌いたいんですけど、きっと年を取ったら丸くなってピースなことしか歌いたくなくなるんだろうから、尖れるうちは尖っていたいですし、10年後の自分が聴いて“10年前の俺、すげえトゲトゲしてたな”って懐かしく思えるといいですね」

(おわり)
取材・文/小林千絵
写真/中村功
RELEASE INFORMATION
- 未発表の新曲 「About time. I’m ready.」 をYouTubeにて公開!!!
突如 Cuegee公式YouTubeにて新曲 「About time. I’m ready.」 の音源が公開された。
これまでとはまた一線を画したメロウなフックに “俺ならだいじょうぶ” と連呼する生々しくもどこか幻想的なRAP。
「Role model」開催、edhiii boiとの共演でまた新たなステージに至ったのが伺える。
Cuegee コメント
『現在制作中の3rd EPで、1曲目に収録する予定の楽曲です。
Role modelを経て、少しだけピースになれるような気がしている。
Role modelへのアンサーソングを、曖昧な気持ちを綴りました。
色々な精算が済んでやっと準備ができました。』