──フルアルバムとしては2023年5月リリースの『ポートレイト』以来です。この2年の間に、中国での活動も活発になるなど、環境の変化も大きかったと思いますが、皆さんとしてはこの2年でどのような変化があったと感じていますか?

比喩根(Vo/Gt)「かなり変わりました。曲のテイストも変わりました。ライブの本数もかなり増えたので見せ方も変わってきて…それが曲の変化に直結しているのかな。海外でライブをやらせてもらう機会も増えましたし、そうすると言葉が通じないのでサウンド面を押す形になって。だから玲山、小﨑の2人のライブでの立ち振る舞いも変わってきました。この2年間はバンドとしての魅力の方向が増えたと思います」

──そもそもchilldspotは、活動を始めてすぐにコロナ禍になってしまいましたしね。

比喩根「そうですね。コロナ禍が明けると同時に、いろんなところにライブしに行かせてもらうことも増えました。少しずつ模索していっている感じです」

──ライブでいうと、今年6月には雪国、崎山蒼志さんをゲストに迎えたchilldspotが主催する対バンライブ『ジャム Vol.2』を開催されましたが、いかがでしたか?

比喩根「よかったね」

玲山(Gt)「よかったね。年齢が近い方とライブすることってこれまであまりなかったので、我々の主催で、それができたのはすごくよかったです」

──同世代のアーティストと対バンするというのが『ジャム Vol.2』のテーマだったのでしょうか?

比喩根「そう決めてはいなかったです。でも、この2組以外の候補も自然と比較的同世代のアーティストが多かったかも…。それこそchilldspotは活動を始めたのがコロナ禍だったから、横のつながりが本当になくて。だから同世代の人たちとやってみたいと思うようになりました」

──この2組と一緒にライブをして得たものや感じたものはどういうものでしたか?

比喩根「どっちもうまかったよね。具体的に何かを得たというよりは、エネルギーというか、パッションのようなものをすごくもらいました」

玲山「本当にその通りで。当日は“同世代で頑張っていこう”みたいな雰囲気があった気がします」

小﨑(Ba)「2組のライブを見て、“音源で聴いていたこういう音って、ライブでやったらこんなに化けるんだ”と思ったり。“chilldspotでもこういう曲やってみたい”とかも考えました」

──横のつながりが欲しかったということですが、仲良くはなれましたか?

比喩根「仲良く…なれたかな? 雪国さんはスケジュールの都合でライブのあと少しお話しをしたくらいでしたけど、崎山さんとは終わったあと軽く飲みに行けました」

玲山「うん、仲良くなれました!」

『ジャム Vol.2』@UMEDA CLUB QUATTRO/Photo by 昴

──そんなライブを経て3rd FULL ALBUM『handmade』が完成しました。前作のDigital EP『echowaves』から玲山さん、小﨑さんも曲作りに参加するようになりましたが、作詞もお二人が手がけるようになったのは、今作からですよね?

比喩根「はい。小﨑は以前、「僕たちは息をして」という曲でも歌詞を書いてくれましたが、作詞作曲を二人がするようになったのは今回からです」

──お二人も作詞作曲をするようになったのは、何かきっかけがあったのでしょうか?

玲山「とにかく曲がたくさん欲しくて。そのために3人それぞれが作るようになりました」

比喩根「『echowaves』から楽曲制作に携わってもらっているプロデューサーの方がいるのですが、その方に“一度、メンバーの好きなことをやってみようよ。メンバーみんなトラックから曲作れるんだし”と提案されました。そこで収録曲の2倍くらいデモ曲を作って、そこからコンペ形式で曲を選ぶ方法で進めて制作をすすめてみたんです。前回はEPだったからまだよかったけど、今回はフルアルバムなので、2025曲のデモが必要になって…でももう私がパンクしてしまって。そこで二人が“作詞もしてみようかな?”と言ってくれたので、そのままお願いしました」

──比喩根さんとしては楽になったというか…。

比喩根「はい、すごく楽になりました」

──とはいえ、chilldspotの魅力の一つは比喩根さんが作る楽曲だったと思います。そこを手放す怖さのようなものはなかったのでしょうか?

比喩根「実はそれで悩んでいる時期が長くて…そのときにいろいろ考えて、それを正直に2人に話しました。私は今みたいに“それも魅力ですよね”って言われたいから曲を書いていたところもあったと思って。だけど、メンバーと話をして“3人でいい曲を作ろうって考え方でバンドをやっているわけだから、そこもフラットに見るべきじゃない?”と言ってくれて。そこで“ほんとうだ!”って気づいたんです。それまでは、“私が書かないと私がやる意味がない”って思い込みもあったんですけど、実際に2人にも書いてもらった曲がすごく素敵でしたし、それを私が歌うことで、私では出せない新しい魅力やアプローチができた気がして。今は、やってよかったと思っています。っていうか、よく書けるなって思いました。“2人とも何でもできるやん!”って」

比喩根(Vo/Gt)

──ではここからは『handmade』の収録曲について聞かせてください。まず、1曲目の「Unbound」。小﨑さんがラップに初挑戦していますが、この曲はどのようにできた曲なのでしょうか?

玲山「僕がギターリフを考えて、小﨑に渡して料理してもらいました。そのあとに3人でそれぞれどういうメロディを乗せるか?というコンペをしたときに、小﨑がラップの案を出してくれて。“だったらそれ、自分で歌えばいいじゃん”と言って、小﨑がラップもすることになりました。小﨑がラップすることになったのってレコーディングの3日前とかじゃなかった?」

小﨑「うん、時間がなかった。時間がないなかでラップに初挑戦するという(笑)。その焦燥感もいい感じに出ている気がします(笑)」

──ラップは小﨑さんの提案だそうですが、ラップを入れようと思ったのはどうしてですか?

小﨑「最初に玲山から送られてきたデモはテンポがもっと遅かったので、テンポを上げてみたんです。そしたらファンク感が強くなって。ファンクにラップって合うし、これまでのchilldspotにはラップってなかったから面白いかな?と思って。まさか自分がラップをすることになるとは思っていなかったですけど(笑)」

比喩根「最初、私に歌わせるつもりだったもんね(笑)」

──実際にラップをしてみていかがでしたか?

小﨑「“世の中のラッパーってすげぇな”って思いました。そもそもコーラスとかもあまりしていなかったので、マイクの扱い方もあまりわからなかったですし…」

玲山「「Unbound」を初披露したのが中国のイベントで、2回目がサマソニだったんです。そんな大きなステージだったのに声が出ていて、まずはそれだけで“素晴らしい”と思いました」

比喩根「えらいよね。親バカみたいになっちゃうけど、本当にえらいよね。ベースを弾きながらだし。うちの子、すごいよ」

小﨑「そうそう、ベースを弾きながらラップをやっているというところは強調してほしいです(笑)」

比喩根「レコーディングでは、最初は慣れていない感じがあったんですけど、やっていくうちにどんどん吸収して自分のものにしていって…本当に“すごい!”と思いましたし、これからの“ラッパー小﨑”に期待ですね(笑)」

──今後、ツインボーカルの曲も生まれそうですか?

小﨑「それは全然考えていないですけど、その曲に合いそうだったら、玲山が歌うのもいいかもしれないし…いろんな体制でやってみたいです」

──作詞をお二人に委ねてから、皆さんの発想も柔軟になっているのかもしれないですね。

比喩根「確かに。もともとそれぞれ好きなジャンルも違って、アイデアはたくさん持っていたと思うんですけど、今まではそれをあまり活かせていませんでした。だけど、提案してみたらラップもできるし、作詞もできるしで、ハマらないことがなかったというか…幅が広がったと思います」

──お話を聞いていると、自由度が増して楽しそうだと思いました。

玲山「面白いよね」

比喩根「そうだね。何やってもいいもん」

──実現できるスキルも培ってきたからできることだと思います。

比喩根「確かに。“じゃ、ラップして”って言われてできるベーシストはきっとあまりいないですもんね(笑)」

──他のメンバーが歌うというアイデアもあるとなると、比喩根さんも“自分のボーカルをもっと生かそう”という気持ちになりますよね?

比喩根「そうなんですよ。小﨑が入ることで私の声で引き締まる感じが出たり、それこそ他のメンバーが作ったメロディや歌詞で新しい魅力が出る感じがあるので、あまり“魅力的に見せなきゃ”とか思わずとも、いい形でできている気がします。その分、いい曲を作らないと2人に曲を作ってもらって私は歌うだけの人になってしまうので、コンペで自分の曲が通るようにいろんな曲を聴いてみようとか思えたりもして。いい活力になっています」

小﨑(Ba)

──4曲目の「踊っていたいわ」は小﨑さんが作詞作曲編曲まで手がけた楽曲です。これはどういう経緯でできた曲なのでしょうか?

小﨑「アルバムを作るときに、“オルタナティブダンス”とか“トレンディーポップ”、“パンクロック”とか、自分たちの入れたい曲のジャンルをいくつか出していたんですけど、その中から、“オルタナティブにダンスの要素も入っている曲を作りたい”と思って作ったのがこの曲です。でも本当にそれくらいの意識で、あまり何も考えずにこのトラックができました」

比喩根「最初、すごくキーが高かったんですよ」

小﨑「基本的にボカロを使ってメロディを作るんですけど、人間が歌うことを想定していなかったからすごくキーが高くて…」

比喩根「一応、歌えはするけど…みたいな」

小﨑「で、一回歌ってもらったら喉が限界そうだったので、ちょっと下げて」

比喩根「下げてもらったら自分の声帯に合ういい感じのメロディになりました」

玲山「うん、すごく良くなったよね。俺はボカロミックスも好きだけど(笑)」

比喩根「わかる! 私も叶うならあのキーで歌いたかった」

──比喩根さんとしてはご自身が書いた歌詞ではない曲を歌うわけですが、いかがでしたか?

比喩根「小﨑くんが書く歌詞って、“本をたくさん読んでいるんだな”ということを感じさせてくれる詩的な歌詞だと思っていて。レコーディングでは“どういう人なの?”とか“どういう心情なの?”と聞いて、ディレクションしてもらいながら歌いました」

──小﨑さんの説明を受けて、比喩根さんとしてはどのような想いで歌いましたか?

比喩根「登場人物になるべく寄せて、ウィスパーでちょっと可愛い感じを意識しました。あまり太くなりすぎないように…だけどJ-POPっぽさは残して」

──確かに、口ぶりなどから感じられるこの主人公の女性は、普段のchilldspotの曲にはあまりいないタイプの子ですよね。

比喩根「そうですね。ちょっといじけた少女っぽいイメージというか…自分のことを黒髪ロングヘアのお嬢様だと思って歌いました」

小﨑「以前歌詞を書いた「僕たちは息をして」もそうですけど、作詞をするときは自分の視点よりも違う人の目線のほうが書きやすくて。この曲のトラックができたときに、甘い感じやファンタジーな感じ、儚さが欲しいと思って、こういう歌詞ができました」

──実際に比喩根さんの歌声が入ってみていかがですか?

小﨑「いや、もう完璧ですね。“こんな表現もできるんだ”って」

比喩根「デモの段階で、宅録でボーカルを入れるんですけど、その時点で“歌、うまいねー”って言われました。“やったー!”です」

小﨑「自分の作ったメロディに当てはめて歌ってくれるのってすごくテンションが上がるんですよ。いつも感動します」

比喩根「私もいつも2人に思いますけどね、“演奏うまいな”って」

──素敵な関係性ですね。

玲山(Gt)

──10曲目の「暮れ色」は玲山さんが作詞作曲を手がけた楽曲です。この曲はどのようにできたのでしょうか?

玲山「年末にジャスティンも含めてみんなで作曲合宿に行ったときに作った曲です。その合宿をした場所が、いい感じのコテージだったんですよ。山の麓で海がちょっと見えるような場所で。そのゆるさ、いなたい感じを活かしたいと思って、サウンドも歌詞も、なるべく地味に地味にしていきました」

──作詞は初めてですか?

玲山「はい。初作詞です。とても苦労しました。特に英詞。英語話者ではないので、ニュアンスがわからなくて、いろんな人に聞きまくりました」

比喩根「デモの段階では適当な英語を当てはめていたんです。それを聴いて、最初は私が日本語で歌詞を付けてみようかな?とも思ったんですけど、日本語だとうまくはまらなくて…」

玲山「語感重視にした結果、苦労しましたけど英詞になりました」

──比喩根さんは、歌ってみていかがですか?

比喩根「<言葉は 忘れてしまうのだろう>とか<歌にして、そっと残せたらな>って絶対に私からは生まれない歌詞だと思って。3人の中で一番、飾らない歌詞を書くのが玲山なのかな。だから私も“あまり考えすぎない”ということを意識して歌いました」

玲山「とにかく地味にしたかったので小難しい表現はしたくなかったですし、“ストレートに”ということは、ボーカルディレクションのときもすごく言っていました」

──ご自身で初めて作詞作曲した楽曲が出来上がってみていかがですか?

比喩根「“俺、できるやん!”って思った?」

玲山「いや、“作詞、めっちゃ難しい”って思いました。それが一番で」

比喩根「曲を作るのって難しいよね」

玲山「でもちゃんと形になると、“作品ができた”って感動しますね」

──「踊っていたいわ」についての話の際、“J-POPさ”というワードが出てきましたが、私もアルバム『handmade』を聴かせていただいて、全体的にどこか歌謡曲っぽさやポップさを感じました。そのあたりはどのような意識だったのでしょうか?

比喩根「“J-POPさ”というよりも、メロディ強化なのかな。覚えやすいメロディにしたいというのは考えていました」

玲山「chilldspotってあまりカラオケで歌われているイメージがなくて。身近な人に聞いてみたら“メロディはすごくいいけど、歌うのは難しい”って言われたんです。比喩根だからできている芸当があるっぽくて。それはそれですごく大切なことですけど、同時にとっつきづらさもあって。もっと広く聴いてもらうには、覚えやすい曲、歌いやすい曲も必要なんじゃないかな?と思って、意識的にそういう曲を増やしました」

比喩根「小﨑くんがそういうキャッチーなメロディやリフを作るのが上手なので、そこも踏まえて、“作ってみるけど、私は苦手だと思うから、一緒に作ってほしい”と言って作ったのが『handmade』なので、全体的にそういう雰囲気が出ていると思います」

──このアルバムの収録曲は、いろんな人にカラオケで歌ってもらいたいですね。

比喩根「歌ってほしい! 友達とカラオケに行っても、いつも歌わされるだけなので(笑)」

玲山「「ネオンを消して」が特に難しいんだよな…」

比喩根「でも私としてはそれを言われたとき、衝撃だったんですよ。「ネオンを消して」はよくカバーもしていただけるんですけど、そこで初めて“私の作る曲って難しいんだ”と自覚したんです。それまで自分では難しいと思っていなかったから…」

──比喩根さんとしては、ナチュラルに出てくるメロディですしね。

比喩根「そうなんです。だから“覚えにくい”って言われたときに“覚えにくいんだ?”って驚きましたし、そのときに“もしかしたら私は歌がうまいのかもしれない”って気づいて(笑)。でも確かに“他の人が歌うということは考えずに作っていたな“と、複雑な気持ちになりながら…」

──そんな意識を持って作られた『handmade』ですが、完成してみて、どんなアルバムになったと思いますか?

比喩根「考え抜かれてはいるんですけど、今までで一番ラフな感じがします。今、chilldspotがやりたいことがそのまま出ています。“こういうことがやりたかったんだな”、“こういうメロディが歌いたかったんだな”っていうのが、一番ナチュラルに出ているアルバムだと思います」

小﨑「これまでで一番幅広くできたと思います。僕自身、好き勝手にやりたい放題やったアルバムです。ライブでやるのがすごく楽しみです」

玲山「俺、“めっちゃいいアルバムになったな”っていう単純な感想しか出てこない(笑)」

比喩根「飲んでいるときもいつも言ってるもんね」

玲山「レコーディングが終わったあと、3人で飲みに行ったんですけど、そこでも“今回、割と売れるんちゃう?”って言ってました(笑)」

『ジャム Vol.2』@SHIBUYA CLUB QUATTRO/Photo by Ray Otabe

(おわり)

取材・文/小林千絵

RELEASE INFORMATION

Chilldspot『handmade』

2025年924日(水)発売
CD+Blu-rayPCCA-064145,500円(税込)
配信 >>>

Chilldspot『handmade』

LIVE INFORMATION

5th one man live tour "mid way"

2025年10月5日(⽇) ⻑野CLUB JUNK BOX open 16:30/start 17:00
2025年10月17日(⾦) 札幌 PENNY LANE 24 open 18:15/start 19:00 
2025年10月25日(⼟) 仙台Rensa open 17:30/start 18:00 
2025年11月1日(⼟) 名古屋 THE BOTTOM LINE open 17:00/start 18:00 
2025年11月9日(⽇) ⼤阪 BIGCAT open 16:00/start 17:00 
2025年11月16日(⽇) 福岡 DRUM LOGOS open 16:00/start 17:00 
2025年11月25日(⽕) Spotify O-EAST open 18:00/start 19:00 
2025年11月26日(⽔) Spotify O-EAST open 18:00/start 19:00

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