──お二人は今回の取材を含めて舞台『アオペラ』関連で何度か顔を合わせているとのことですが、現在のお二人の関係性としてはどのような感じですか?
畠山理温「こうやって一緒になるのはまだ5、6回くらいなんですけど、柊くんは僕より先輩ですし、すごく良い人だなという印象です」
桑原柊「理温は本当に人懐っこくて可愛いくて。僕はこれまであまり自分より年下の人と一緒にやることがなかったので、こうやって年下の人から話しかけてもらえると嬉しいですね。劇中では幼馴染役ですし、これからさらに仲を深めていけたらと思っています」
畠山「ありがとう!」
──では最初に舞台『アオペラ』に出演が決まったときの気持ちを教えてください。
桑原「僕にとって初めての2.5次元舞台、プラス初めてのアカペラという未知の分野への挑戦。出演が決まったときはすごく嬉しかったですけど、同時に、新しいものに対する不安や緊張もありました」
畠山「僕は、まず舞台に出ることが初めてで。さらにアカペラも初挑戦ということで、初めてなことが多かったんですけど、その時期の僕は、“何か行動しないといけない!”と、もがいていた時期でもあったんです。“行動するからには勝ち取ってやる!”と挑んだオーディションだったので、合格したときはすごく嬉しかったですし、ワクワクしました」
──台本を読んだ印象を教えてください。
桑原「描かれているのは、憧れるような高校生活。王道なキラキラの超青春物語ですが、その中にアカペラという新しい要素が入っていて、そのコラボレーションが面白いし、見どころだと思いました。また『アオペラ』に出場するグループで、僕のいるFYA'M'(以下フェイム)(私立奏ヶ坂中学高等学校)と、理温がいるリルハピ(都立音和高校)でも全然雰囲気が違うんです。そういった違う学校の絡みも楽しんでいただけると思っています」
畠山「僕は台本を読んで最初に、“羨ましいな”と思いました。というのも僕たちの高校時代って、コロナ禍と丸かぶりだったんです。だから『アオペラ』の世界は、僕にとってはアニメや映画でしか見たことがない高校生活で…それを体験させてもらえるということで、読んだときからワクワクが止まりませんでした。読んでいくと、クスッと笑えるシーンも少々あって」
──“少々”?
桑原「いや、多々あります!」
畠山「はい、多々ありますから、そのあたりも楽しみにしていただきたいです」
──畠山さんはリルハピの四方 ルカ、桑原さんはフェイムの紫垣 明を演じます。それぞれご自身の役をどのようなキャラクターだと捉えていますか? まだ稽古前ということですが(※取材は9月下旬に実施)、現時点でどのように演じたいか構想もあればあわせて聞かせてください。
桑原「紫垣 明は、“女の子好き”、“博愛主義”とか“ムードメーカー”、“彼の周りは賑やか”といったプロフィールが書かれていますが、僕は、明くんの誰よりも優しくて人情深くて、誰も置いてけぼりにしないところが好きです。女の子好きというのも、“女の子の笑顔を見たいから行動する”という考え方からくるものですし、人のために行動できる子だと思っていて、そこは尊敬しているポイントです。その軸がぶれないように演じていきたいです」
──ご自身と似ているなと感じるところはありますか?
桑原「明くんは風紀委員の猫屋敷くんによく怒られていますけど、割と僕も学生生活では怒られることが多くて(笑)。そういうところは似ているし、だからこそ演じやすくもあるのかなと思います」
畠山「そういう意味では、僕はルカと真逆です。ルカは微笑み王子なんですけど、実際の僕は“来学期こそは微笑み王子になってやろう!”と思って挑んでも、そうなれない学生でした。ちょっとクールっぽく無口にしてみたり、窓際で外を見て黄昏てみたりしていたんですけど、3日も持たなかったです(笑)。ルカくんとは性格も全然違うんですけど、だからこそルカくんを演じることで、新しい自分になれることにワクワクしています」
桑原「正直、自分の作る紫垣 明くんが、原作ファンの方々に受け止めてもらえるのか?という部分での不安はぬぐい切れていないですが…僕自身は明くんのことが大好きなので、大好きな人になれるのは僕も楽しみです」
畠山「うん、うん。同じ不安は僕にもあって。役作りについての不安が60%、楽しみが40%くらいの感じではあるんですけど、いい方向にいくだろうっていう自信はあるので、あとは稽古をしてその不安を削っていければと思っています」
──本作はアカペラを取り入れた作品。今はアカペラの練習をしているところだそうですが、実際にアカペラに挑戦してみていかがですか?
桑原「難しいです…今までやってきた歌とは全然違います。普段は、トラックの音を聴いて、それに合わせたり、だからこそ自分らしく歌えたりするんですけど、アカペラは、自分たちの声だけで音楽を作り上げないといけないので。周りの声をどれだけ聴いてそこに合わせられるか。それでいて、周りの声に惑わされずに歌えるか、が必要になるので。さらに伸ばす音にしても、どれだけ伸ばすか、どんな音色で伸ばすかもみんなで揃えないといけないですし…難しいです」
──これまで何度もミュージカルに出演されている桑原さんでも難しいんですね。
桑原「はい。ミュージカルでは、自分が歌うパートはある程度自分の歌いたいように歌えますし、コーラスだとしても誰かしら同じパートの人がいるんですが、アカペラだと一人1つの音で、誰も助けてくれません。全然違う感覚です」
畠山「僕も苦戦しています。というのも、僕は音楽を聴くときに、人の声を特に聴いていて。でもアカペラだと“この人の声いいな”と思って他の人の声を聴いてしまうと思わず釣られてしまったり、その人のパートを覚えてしまったりして。人の声じゃなくて、自分の声を聴かないといけないので難しいです。“僕のパート、どこだっけ?”ってわからなくなってしまうこともあって…」
──お二人が演じる明やルカは、そんなアカペラに魅了されています。まだまだ苦戦している最中だとは思いますが、今お二人が感じているアカペラの魅力や面白さはどのようなものでしょうか?
桑原「声だけで音楽を作っているということです。なかなか他にはないことですし、自分たちの練習した録音音声を聴くと、うまくハマったときは何が起きているかわからないくらいすごいものが出来上がっているんです。それを自分が作っているのもすごいことだと思いますし、ちょっとでもズレるとおかしくなっちゃう。そこは難しさでもありますけど、その精密さが面白さでもあって。チームスポーツのような、自分だけが頑張ればいいわけじゃないところが楽しいです」
畠山「みんなで合わせていくものなので、我が強いだけじゃダメなんです。バイオリン、ピアノが鳴っている中で、自分だけがダンボールを叩いていたら変じゃないですか。そういう気持ちです。…今の例え、わかります? とにかく、自分が楽器になった気分で、周りと合わせることを意識するのが面白いです。揃った瞬間って、自分たちでもよくわかるんですよ!」
桑原「“うわー、決まった!”って感じするよね」
畠山「そうそう。“今、来たよね!”ってみんなで目で確認しあって。その感覚をご褒美にやっている感じです」
桑原「うん。それを味わうために練習をしています!」
──アカペラもあって、もちろんお芝居もあって。稽古もこれからさらに大変になっていきますね。
桑原「そうなんです。今はまだアカペラの練習しかしていないんですけど、最終的には役としてアカペラを歌わないといけないので」
畠山「そっか! 気付かなかったわ」
桑原「そうなんだよ。今はまだ音と向き合う作業だけだけど、これからは役と向き合う作業が始まるから」
畠山「役としてのアカペラか…」
桑原「そこがどうなるのか…」
──楽しみですね。
桑原・畠山「はい!」
──幕が上がる日を楽しみにしています。
──ここからは作品から離れて、お二人についても教えてください。お二人とも音楽がお好きだそうですが、どういう音楽がお好きなんですか?
桑原「僕は小さい頃からミュージカルを見るのが大好きだったので、音楽もミュージカルの曲が大好きです。あとはK-POPも好きです」
──特に好きなミュージカル作品やミュージカルソングを挙げるなら?
桑原「一番影響を受けたという意味では、ミュージカル『ライオンキング』です。小さい頃、ミュージカル『ライオンキング』を観てこの世界を目指そうと思ったので。思い出深いですし、自分の中で特に大きな作品です」
──桑原さんは実際にミュージカル『ライオンキング』には出演もされていますよね。
桑原「はい、幼少期は本当に『ライオンキング』に出演することだけを夢見ていたので、出られたことが自分の中では財産ですし、今自分がここにいる所以でもあります」
畠山「僕は何でも聴くんですけど、特に好きなアーティストはハナレグミさんとUAさん。両親が好きで、小さい頃から車の中で流れていて、僕も好きになりました。この2組は特に歌詞が好きで、何度も助けられました」
──差し支えなければ、特に好きな曲や歌詞を教えてください。
畠山「ハナレグミさんの「ハンキーパンキー」という曲です。この曲の<変わることをこばむのでなく / 変われたことをほめたいんだ / 傷を嘆くより / 出会えたことを歌いたいんだ>という歌詞に、僕の全部が入っている気がして、この歌詞だけで、たぶんこの先生きていけます。この歌詞があれば、キツくなることはないと思えるくらい、大好きな歌詞です」
──座右の銘のような存在なんですね。
畠山「そう…とも言う、かな…」
桑原「今、クレヨンしんちゃんがいましたね(笑)」
畠山「いや、座右の銘は他にあるんですよ」
──せっかくなので教えてもらってもいいですか?
畠山「“俺が知りてーのは楽な道のりじゃねェ、険しい道の歩き方だ”っていう、うずまきナルト(『NARUTO -ナルト-』)の言葉です」
──冒頭で舞台『アオペラ』のオーディションを受けたのも、“何か行動しなきゃ”と思っていたからとおっしゃっていましたよね。まさにその精神で?
畠山「そうです。このまま普通に大学生をやっていく道もあったと思うんですけど、何かやらないといけないと思って」
──桑原さんの座右の銘も聞いても良いですか?
桑原「小学生のときに先生から教わった言葉で、“実るほど頭を垂れる稲穂かな”です」
畠山「(理解できず顔を歪める)」
桑原「どういう意味か説明するね!」
畠山「お願いします!」
桑原「稲は実れば実るほど、頭が重たくなって垂れ下がってくる。それは人間も一緒で、知識や徳を積んだ人ほど謙虚になっていく、という意味。僕は“常に謙虚でいなさい”という意味だと捉えて、この言葉をいつも自分の軸に置いています」
──その言葉に感銘を受けたのが小学生のときというのがすごいですね。
桑原「僕は小学生の頃にこの仕事で大人の世界に入らせていただいたので。それ以来、ずっとこの言葉を座右の銘として生きています」
──なるほど。では最後に、お二人の俳優や芸能活動のこの先の目標、展望を教えてください。
桑原「自分の軸にはミュージカルがありますし、大好きなので、ミュージカルは今後も続けていきたいですが、それだけじゃなくて歌を歌ったり、ストレートの舞台や映像作品に出演したり、いろんなところで活躍できる人を目指しています。というのも、同じ事務所の森崎ウィンさんが憧れで。ウィンくんもミュージカルに出演しつつ、映画やドラマに出たり、声優業をやったり、アーティスト活動をしたりしていますけど、どのウィンくんを切り取っても最高に輝いていてカッコいい。そんな姿にずっと憧れています」
畠山「僕は正直に言うと、まずはこの舞台『アオペラ』のことしか考えていなくて。その先のことはあまり考えていません。海外にも興味があるので、旅行でもいいので、海外に行っていろんな人と触れてみたいですし。そのときにやりたいこと、惹かれたものをやれたらと思っています」
──舞台『アオペラ』でいろいろなことを得て、何かに興味を持つかもしれないですしね。
畠山「はい。なので、今は先のことは考えず、“舞台『アオペラ』のことだけを考える”と、決めています」
(おわり)
取材・文/小林千絵
写真/中村功
公演情報舞台『アオペラ』
原作:アオペラ -aoppella!?-
脚本・演出・作詞:元吉庸泰
音楽:桑原まこ
アカペラ監修:とおるす
出演:
都立音和高校:リルハピ
鈴宮 壱 役:長江崚行
丹波 燐 役:手島章斗
雁屋園道貴 役:宮島優心(ORβIT)
四方ルカ 役:畠山理温
宗円寺雨夜 役:磯野 亨
私立奏ヶ坂中学高等学校:FYA'M'(フェイム)
是沢舞斗 役:佐奈宏紀
綾瀬光緒 役:星元裕月
紫垣 明 役:桑原 柊
宗円寺朝晴 役:内田将綺
猫屋敷由比 役:坂田隆一郎
深海ふかみ 役:常盤みつる
都立音和高校:生徒会書記
辻堂颯太 役:眞嶋秀斗
ほか
日程・会場:
2024年11月8日(金)~11月17日(日)
会場 東京 シアターH