――インタビューさせていただくのは「瞬きと精神と君の歌と音楽と」以来、約1年ぶりになります。2023年はaoさんにとってどんな1年でしたか?

「すごく楽しかったです。フェスにも出せてもらって、今までで一番活動の幅が広がったような気がします」

――特に印象に残ってるのは?

「やっぱりサマソニが一番印象に残っています。あんなにたくさんのお客さまの前で歌うという経験が初めてだったんです。『Spotify RADAR: Early Noise Stage』に出演させていただいたんですけど、最初にステージに上がったときは、もともと私のことを知っていて、私を見るために来てくれたファンの方々が目の前にいてくれたんです。でも、ライブを始めると、偶然通りかかって、足を止めて、私の歌を聴いてくれる人が増えてきて。最後には、すごく奥の方までいっぱい人がいて、忘れられない経験になりました」

――RADWIMPS「KANASHIBARI feat.ao」にフィーチャリングボーカルとして参加したことも話題になりましたが、ご自身のオリジナル楽曲として、2023年は5曲のデジタルシングルをリリースしています。昨年7月リリースの「4ever」は新境地と言えるEDMポップになっていました。

「サウンドとしては、今までリリースした中では、「チェンジ」と同じぐらい、明るくてアップテンポな曲になりました。歌詞は、自分を一番大切にしてほしい、自分を必要な存在だと思ってほしいっていう思いを込めて書いていて。その頃、悲しいニュースが多くて…そのニュースについて、SNSではいろんなコメントや意見が飛び交っているんですけど、少し経つと、みんなその話題について触れなくなってしまう。そこで大切なことを言っていた人もいたはずなのに、いつの間にかみんな忘れていくっていうことが冷たく感じるというか、悲しいなって思いながら書いた曲でした」

――MVはaoさんのリアル友達と一緒に撮っていますね。

「はい。MVは友達といるシーンと、私が1人でいるシーンがあって…みんなでいるシーンはSNS上というか、世の中のことを表現して、一人の私は内面的なことっていう、1人と大勢の対比をMVで表現しました」

――aoさん自身は、友達といるときの自分と、1人でいるときの自分は違いはありますか?

「うーん…私の周りにいる友達は考えることが好きな子が多くて、深い話をすることもたくさんあるんです。だから、友達と喋って、そこで初めて新しい理解を得るってこともあります。でも、作詞をしているとき、1人でいるときの私は、やっぱり自分に向き合わなくちゃいけないっていうところが一番の違いかな?って思います」

――同年8月には、東京・大阪・名古屋国際工科専門職大学CMソング「ENCORE」をリリースしました。

「「瞬きと精神と君の歌と音楽と」以来のバラードだったんですけど、盛り上がるところはちゃんと盛り上がる、芯の強い曲を作れました。この曲から、タイアップというか、“こういう内容で書こう”っていうテーマが決まっている状態で書くことが増えてきたんです。それも、新しい挑戦だなと思っています」

――「kioku」はNetflixオリジナルアニメ『陰陽師』のED主題歌でした。

「曲作りの前に原作の小説を読んだんですけど、片思いしてる人が相手に振り回されて、嫉妬とか、いろんな憎しみの感情が募って、女が鬼になっちゃうっていうストーリーなんですね。最終的に原作では女は死んでしまうんですけど、そのときに片思いしていた男が来て、名前を呼ぶんです。人間だった頃の名前を呼び続けると、鬼が意識朦朧としていく中で、だんだん角がなくなっていって、牙もなくなって、目つきも人間らしくなっていく。最終的に人間の姿で亡くなるっていう。それが、すごく切なくて。自分にはそういう経験がないので、原作を読んだからこそ書けた、私にとっては新しいラブソングになったと思っています」

――ドビュッシーの「月の光」にオリジナルの歌詞をつけた「月のひかり」は、ハーゲンダッツのTVCMソングとして話題になってましたね。

「ずっとクラシックピアノをやっていたんですけど、「月の光」はまだ弾いたことがなかったので、最近、やっと始めたんです。誰もが知っているメロディーだからこそ、みんなが歌詞に注目するだろうなと思って。歌詞は、冨永恵介さんと小玉雨子さんとの共作で書いていただいているんですけど、いつも自分が書いている歌詞よりもちょっと古風な感じというか…ちょっと日本の古い言葉づかいみたいな感じなんです」

――<さやけし心>とか、<かそけき世界>とか、ちょっと和歌っぽいですよね。

「そうですね。そういうのもあって、いつも以上に言葉にフォーカスして歌いたいなって思いました。例えば、<まるい月よ>は丸い感じでとか、レコーディングの時に一つ一つの言葉を意識して歌いました」

――1st EP『LOOK』には「月」という楽曲が収録されていますし、「kioku」にも<月>というフレーズがあります。「月のひかり」も含めて、“月”というのは、aoさんにとってどんなモチーフになっていますか?


「私は内面のことを歌詞にすることが多いので、どうしてもちょっと暗くなっちゃうっていうか…自分の弱さみたいなところを書くことが多いんです。だから、“月”や“光”は、私にとっては、すごく対照的なものに思えるんです。特に、“月”は大きくて、全てを包み込んでくれるような優しさがあるって思っていて。それが、歌詞の中では、一つの希望のような感じでよく出てくると思います」

――そして、新曲「問.1」はリクリート『高校生Ring 2023』のテーマソングになっています。

「私も高校生なので、『高校生Ring』に関われることがすごく嬉しいですし、そういうプロジェクトがあるんだっていうことも今回、初めて知ったんです。高校生が初めて社会に一歩踏み出す。社会と関わるはじめの一歩に携われて嬉しく思いますし、『高校生Ring』のことについての歌詞ですが、高校生である自分の経験も振り返りながら書けた曲になったと思います」

――曲に関して事前に何かリクエストはあったんですか?

「『高校生Ring』の企画内容を教えてもらって、そのテーマソングを書いていただきたいですっていうことだけでした。『高校生Ring』は高校生が未来に繋いでいくビジネスアイデアを実際にプランニングして発信するというプログラムになっていて。テーマソングと言えば、応援歌が思い浮かびますけど、一方的に応援するよりは、高校生が“うんうん”って聞きながら共感できるような曲を作りたくて。高校生が将来のことを思って漠然と抱えている不安みたいなものに対して、ちょっと希望を与えられるような歌詞というか…“思い切って踏み出していこう”って誘うような、今の高校生たちの気持ちを奮い立たせるような曲にしたかったんです」

――タイトル「問.1」にはどんな思いを込めましたか?

「私自身も今、高校生なんですけど、高校生って、社会に踏み込む瞬間というか…直接、社会問題に関わっていく瞬間ってまだあまりないように感じていて。そんな中で、『高校生Ring』は、高校生が社会問題に対しての自分の考えを初めてプランニングする、初めての場なんじゃないかな?と思ったので、“高校生の最初の一歩目”、“人生の最初の問い”って意味で「問.1」にしました」

――aoさん自身は中学3年生の時にシンガーソングライターとしてデビューしているので、みんなよりも先に社会に出ていますよね。

「私はいろんなことをチャレンジしていきたいタイプなんです。だから、何かにチャレンジするときに、もちろん不安になったりすることもありますけど、そこまで不安を感じないんです。でも、チャレンジするって結構、勇気がいることだし、怖いことだっていうのはわかります。何かが変わってしまうかもしれないって不安になる気持ちよりも、チャレンジすること自体にすごく意味があると私は思っていて。結果がどうなっても、きっとそれが将来、価値のあるものとして、自分の中に残ると思うんです。だから、高校生にはチャレンジしてほしいなと思います」

――歌詞では<矢印>と表現されていますが、目の前にいくつかの選択肢があって、どれを選ぶか思い悩んだりしたこともありますか?

「そうですね。常に悩んでいるというか、考えて、選んでいると思います。特に、曲を作るときは、曲の方向性も常に矢印だらけなんです。“洋楽っぽい曲を作りたいけど、このテーマに合うのかな?”とか、“ただ自分が作りたいものを作るだけじゃなくて、みんなが聴きたい曲を作った方がいいんじゃないかな?”とか。いろんな矢印がある中で自分で選択して進めている感じです」

――「問.1」のサウンドに関してはどんな選択をしていますか?

「この曲は、ちょっとしんみりくるようなサウンドにしたくて…最初の方は静かめでシンプルなんですけど、サビで訴えるような感じにもしたかったんです。ただ自分の思いを呟いたり、ただ共感を得るだけじゃなくて、“高校生として世の中に訴えていく“みたいなことを表現したかったので。サビで思いっきりボン!と背中を押す感じとかも、歌詞を考えたときとすごくマッチしていて、いい曲ができたなって思います」

――ストーリー性を感じる展開ですよね。多重コーラスから始まって、ピアノとボーカルだけで語りかけるようなAメロがあり、四つ打ちのバスドラに背中を押されて、さらにテンポアップしていく。ラスサビ前には、鳥のさえずりも聞こえてきます。

「最初のコーラスは青春感のようなものも入れたかったんです。合唱部じゃないけど、学校を思い出させるようなサウンドにしたいなって思って、コーラスを入れて。鳥のさえずりは、<思い続ける希望があるから>という、“これから頑張ってやっていこう”っていう歌詞とをイメージしたサウンドとして、自然音を入れています」

――レコーディングはどんなアプローチで臨みましたか?

「そのときちょっと鼻声だったんですけど、“それもまたいいね”って話になったんです(笑)。最初のAメロは帰り道に独り言っぽく歌っているのが想像できるようなニュアンスで、サビは誰かに訴えている自分が想像できるよう“力強く歌ってみよう”って意識をしながらレコーディングしました」

――誰かに訴えかけつつも、<私のために踏み出すんだ>と歌っていますよね。

「そうですね。“人のため”は結局、“自分のため”になると思いますし、“自分のため”も、きっと人に何かしてあげるための準備になると思っていて。そのために、自分が先にちゃんと経験するっていうか。誰かのために何かをしてあげるような自分になるために、今はまだ高校生だから、自分のために踏み出していく時期なんじゃないかな、と。そのためにも勇気がすごくいると思うし、それを頑張っていこうっていう思いを込めました」

――歌詞では、<今>というフレーズを繰り返し使っていますね。

「“今”って今しかないんですよね。特に高校生は…私も今、すごく実感していて。この春に高校3年生になるので、“もう受験なんだ!?”とか、“もう大学生になっちゃうんだ!”とか、いろいろ考えると、本当に『高校生Ring』に参加している今は今しかないなって思います。もちろん、来年参加できる人もいるかもしれないですけど、今やってるプロジェクトは今しかないし、今訴えたいものも今しかない。それを意識して、<今>っていう言葉をキーワードにしています」

――何度が“訴えかける”というワードが出てきていますが、aoさんが今、訴えたいことって何ですか?

「最近、友達と話したのは、そもそも“訴える”っていう行為自体をする人が少ないなっていう話をしていて。例えば、私は中学のとき、学級委員や部長をやっていて、先生の圧にギリギリ耐えていた学校生活を送ってたんです。だから、中学の時は全然楽しくなくって。高校生になって、アーティストとしての活動があるっていうのもあるんですけど、今はもう進んで参加しなくなって心に余裕ができて、中学生の頃を振り返ったときに、“もっと言えばよかったな”って思うんです。中学生のときは、内申点をつける側とつけられる側という関係もあったんですけど、“大人が正しい”とか、“子供だからまだ未熟な考えだ”っていうのはないと思うし、そこで声を上げなかったり、自分の考えを主張しなかったのは心残りだなって思っていて…」

――中学生や高校生であっても、先生や大人に対して、ちゃんと自分の意見や考えを口に出して言うべきだってことですよね。

「そうですね。そうしないと、自分が抱えていることをうまく自分の中で昇華できないから。何年経っても、“やっておけばよかったな”って思わないように、自分のためにも意見や考えを言える人が増えればいいなって思います」

――“大人”という言葉もありましたけど、aoさんはどんな大人になりたいですか?

「まだまだ自分は子供ですけれど、例えば、自分が教える側になったときに、教える相手に対して、ちゃんとした姿でありたいです。すごく抽象的なんですけど、私は距離感が大事だなって思っているんです。私が通っていた塾の塾長は、距離感をすごく大事にしてくれていました。塾長と生徒ですから、塾に関することで質問すると、面白おかしく答えてくれるし、プライベートのことはグイグイ聞いてこないし。駄目だと思ったことは、ちゃんとその理由も話しながら、“それは駄目だよ”って教えてくれるし、いいと思ったことは、“こういう効果が生まれるからいいよね”っていうふうに、わかりやすく話してくれたんです。その手順を飛ばさずに、子供にしっかりと教えられる人って素敵だなと思います。そんな、子供が“こういう人になりたい”って思える大人になりたいです」

――アーティストとしての将来の理想像もありますか?

「ちょっと似たような感じになるんですけど、私は教える側じゃないですけど、伝えていく側ではあるわけなので、私の発信したことに対して、“私はこう思う”とか、“いや、私は違って”とか、いろんな意見があってほしいし、そういう場を作っていけるようなアーティストになりたいです」

――MVも公開されてますね。

MVは学校で撮影しました。この曲では自分の将来に感じている漠然とした不安を書いたので、それにちょっと似ていて、かくれんぼをするシーンが出てくるんです。鬼は私で、友達を探していく。その中で、自分の進路のこととか、将来のこととか、個々に悩んでるシーンも出てきて…私も考えながら、一つ一つ解決していくような意味として、11人を見つけていくんです。かくれんぼって、いろんなところを探さなくちゃいけないじゃないですか。その分、苦労もあるしっていうところは、何かを成し得るために必要なことと似ているかなって思って。学校が舞台だったので、歌詞ともマッチしたMVになりました」

――特に印象に残っているシーンはありますか?

「最後に屋上へ行くシーンです。あの映像が一番青春を感じます。屋上で、強い風が吹く中で、夕陽に向かって歩く5人の生徒たち。夕陽も綺麗だし、夕陽に向かって進んでいる感じも、『高校生Ring』に参加した人達が見たら、似た達成感を感じてもらえるかな?って思います。「問.1」で表したかった感情をうまく映像化できたと思いますし、『高校生Ring』に参加しているみんなが見て、“元気をもらえる”って感じてもらえたら嬉しいです」

――特に同世代の人に届けたいですよね。

「そうですね。勇気を与えられればいいなと思いますし、“自分もこうだったな”っていう風に共感も得られたらいいなと思います。誰かに振り回されている人とか、“これって今、自分のためになっていないな”とか、“自分に優しくできてないな”って思っている人が聴いたときに、“いや、これは自分の人生だから、自分のために踏み出していこう”って思える曲になればいいなって思います」

――「問.1」からスタートする2024年はどんな1年になりそうですか?

「高3なので、大学受験があって、1年の半分ぐらいが受験で削られちゃうんですけど、ライブもしつつ、ファンの方々とちゃんとコミュニケーションをとっていきたいです。私が伝えたいことは曲にして伝えて、今までと同じように、新しい考えをみんなで共有していきたいです」

(おわり)

取材・文/永堀アツオ
写真/中村功

RELEASE INFORMATION

ao「問.1」

2024年214日(水)配信
ビクター

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