そのミュージシャンが入っているだけで黒々とした雰囲気が醸し出される人物のナンバーワンは、グラント・グリーンではないでしょうか。60年代ブルーノート特有のアーシーな気分を醸し出すのに欠かせないのが、彼のシンプルなギター・サウンドです。

1931年生まれのグラント・グリーンは、ハードバップ真っ盛りの1950年代にはテナーサックス奏者、ジミー・フォレストのローカル・バンドに参加しており、ジャズの中心地ニューヨークに進出したのは60年代に入ってからでした。ルー・ドナルドソンの紹介でブルーノートと契約し、数々のリーダー作を吹き込み、同時に実にたくさんのブルーノート契約ミュージシャンたちのサイドマンを務めています。

まず最初は、このアルバム吹き込みと同じ頃マイルス・バンドのサイドマンに起用されたハービー・ハンコックの『マイ・ポイント・オブ・ビュー』(Blue Note)です。ドナルド・バードとハンク・モブレイの2管にグリーンが加わった《ブラインド・マン、ブラインド・マン》は、1963年という時代を反映したジャズロック風リズムパターンが懐かしい。

一方、マニア好みのテナー奏者クリフ・ジョーダンの隠れ名盤『ブローイング・イン・フロム・シカゴ』(Blue Note)では、ハードバップ・ドラムの定番、脇から煽り立てるドラミングで、渋い味わいのクリフ・ジョーダン、ジョン・ギルモアの2テナーを引き立てています。まさにハードバップの名脇役です。

続くハンク・モブレイの『ワークアウト』(Blue Note)は、モブレイの傑作であると同時にグリーンの魅力がよくわかる名演です。エッジの効いた腰の強いトーンから繰り出されるフレーズは、一聴してグリーンとわかる個性的なもの。決して難しいことはしないのですが、聴き手を演奏に引き込む力は実に強力。

一転してホレス・パーランのリーダー作『ハッピー・フレーム・オブ・マインド』(Blue Note)では、ギターの持つ特性を生かし、ジョニー・コールズとブッカー・アーヴィンの2管フロントのサウンドに暖かなくつろぎを与えています。とは言え、ゆったりとした中にも黒々としたフィーリングが醸し出されるのはグリーンならではの得意技。同じフレーズの繰り返しが実にブルージー。

軽やかな中にもアーシーな感覚が息づくアルト奏者ルー・ドナルドソンは、ジミー・スミスと並んだブルーノートの顔的存在です。アルバム『ヒア・ティス』(Blue Note)は軽快なスタンダード・ナンバー《ア・フォギー・デイ》に始まり、バップ・チューン《クール・ブルース》で〆る曲順も素晴らしい。もちろんグリーンのソロは快調です。

黒いテナー奏者ナンバーワンは、もしかしたらスタンレイ・タレンタインではないでしょうか。60年代ブルーノートに彼が吹き込んだ傑作の数々は、現在再評価が進んでいます。彼のリーダー作『アップ・アット・ミントンズVol.2』(Blue Note)の《ラヴ・フォー・セール》を聴いてみて下さい。タレンタインの凄みが実感できるはずです。それにしてもこうした黒々系テナーとグリーンのギターの相性のいいこと!

一方でグリーンは、後にトニー・ウィリアムスと先鋭的グループ「ライフタイム」を結成することになるラリー・ヤングのような斬新な発想のオルガン奏者のサイドも務め、幅の広さを見せています。ヤングのリーダー作『イントゥ・サムシン』(Blue Note)では、フリー寄りのテナー奏者、サム・リヴァースと共演し何の違和感も抱かさないのはさすが。

そして最後は、スロー・ナンバーで独自の境地を醸し出すアイク・ケベックの『ブルー・アンド・センチメンタル』(Blue Note)のタイトル曲をお聴きください。シンプルなフレーズがじんわりと心に染み込むグリーンのソロが素晴らしい。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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