今ではごくふつうに愛聴されているヨーロッパ・ジャズも、昔はごく一部でしか知られていませんでした。ヨーロッパ・ジャズにファンが注目し始めたのは、アメリカのジャズを一通り聴き尽くしてしまったようなコアなマニアに向け、一部のジャズ喫茶がヨーロッパのジャズ・レーベルを紹介したのがその始まりではないでしょうか。1970年代のことです。

「いーぐる」でもそうしたアルバムをいくつかご紹介してきましたが、その中でもっとも人気があったのが旧ユーゴスラビア出身のトランペッター、ダスコ・ゴイコヴィッチです。ごくオーソドックスなハードバップでありながら、そこはかとなく漂ってくるエスニックなテイストが、百戦錬磨のハードバップ・マニアを惹きつけたのでしょう。

『テン・トゥ・トゥー・ブルース』(Ensayo)は、当初エンヤ・レーベルから『アフター・アワーズ』のタイトルで出された人気盤のオリジナル・スペイン盤で、ダスコの代表作とも言うべき快適な名演、《ブルース・フォー・ライン》が聴きどころです。このアルバムはスペインの盲目のピアニスト、テテ・モントリューが参加しており、彼もまた、1970年代のハードバップ・リヴァイバルの波に乗って、わが国でも多くのファンを獲得しました。

オランダのジャズ・レーベル、クリス・クロスは渋めの小傑作で注目されましたが、テナー・サックス奏者、ジョー・ヴァン・エンクハウゼンのリーダー作『バック・オン・ザ・シーン』は、さり気無い演奏ながらサックス・ジャズの醍醐味を伝える傑作です。

聴きどころは、あのチャーリー・パーカーも演奏している《イフ・アイ・シュド・ルーズ・ユー》で、何のけれん味もなく吹き切って、しかもこの曲の持つ独特の哀感を見事に表現しています。

ベルギーのギタリスト、ルネ・トーマはアルトサックス奏者、ジャック・ペルゼーと「トーマ・ペルゼー・リミッテド」というグループを組んでいましたが、『T.P.L.(Vogel)は彼らの代表作です。小気味良いギターのノリで始まるバリー・ハリスの名曲《ロリータ》が素晴らしく、一種ファナティックな凄みを見せるペルゼーのアルトが聴きどころです。

ケニー・クラークは早くからヨーロッパに渡ったアメリカのドラマーですが、ベルギーのピアニスト、フランシー・ボラーンと組んだ「クラーク・ボラーン・ビッグ・バンド」は、渡欧したアメリカ人ミュージシャンとヨーロッパ・ミュージシャンの混成バンドとして大活躍しました。

『クラーク・ボラーン・ビッグ・バンド』(Atlantic)は彼らの代表作で、ビッグバンドならではの快適なスイング感と、ヨーロッパ的なセンスの良さが巧みにブレンドされた、知られざるビッグバンドの名盤です。

『ジャズ・ギタリスト』(Philips)はジプシー・ギタリスト、エレク・バクシクがデイヴ・ブルー・ベックの演奏で知られる《テイク・ファイヴ》はじめ、《トルコ風ブルー・ロンド》など、一風変わった選曲が面白い。ギターファンにオススメの隠れ盤です。

そして最後はヨーロッパ・ジャズの枠を超えたピアニスト、ミシェル・ペトルチアーニがフランスの人気オルガン奏者、エディ・ルイスと白熱のデュオを繰り広げる『デュオ・イン・パリ』(Drufusu)です。これは掛け値なしの名演、名盤と言っていいでしょう。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

USEN音楽配信サービス ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)

関連リンク

一覧へ戻る