「私の好きな大物ジャズマン」ということでセレクトしてみて気がついたのですが、パーカー、ドルフィー、オーネットと、アルトサックス奏者が多いのです。もしかすると、私がジャズに求めるスピード感、スリルの表現には、アルトならではのタイトな音色が向いているのかもしれませんね。

大物中の大物、チャーリー・パーカーの魅力はなんと言ってもアドリブのスリルです。一瞬の閃きにすべてを賭けてしまう、ビ・バップならではの潔さがたまらない。パーカーマニアは、鞭が撓るように小気味良く加速された、腰が強く輪郭のハッキリしたアルトサウンドが出てくるだけでもう満足です。

ダイアルとサヴォイはパーカーの絶頂期を記録した2大レーベルです。ほぼ同時期の録音なので甲乙つけがたいのですが、しいて特徴を挙げれば、有名な《チュニジアの夜》のソロに象徴されるダイアルセッションの完成度、のっけから即興で飛ばしまくる《クラウンスタンス》や、マイルスが一生懸命パーカーに追いつこうとする《バード・ゲッツ・ザ・ワーム》など、サヴォイならではの荒削りな魅力といったところでしょうか。

パーカーの真の後継者は、実はジャッキー・マクリーンなどフレーズを真似た“パーカー派”ではなく、むしろエリック・ドルフィーなのではないかと思わせるのが、アルバム『アウト・ゼアー』(Prestige)です。意表を突くフレーズが力強く艶やかなアルトサウンドに乗って奔出するところなど、まさにパーカー的。

それもそのはず、名を成してからこそいわゆる“パーカーフレーズ”はほとんど吹かないドルフィーの初期の演奏には、明らかにパーカーの影響がみられます。また、録音こそ残っていませんが、“フリージャズ”の代表選手、オーネット・コールマンも若い頃はパーカーに夢中だったそうです。アルバム『ゴールデン・サークルのオーネット・コールマンVol.1(Blue Note)は、自在にアルトを操り、泉が湧き出るごとく奔放にアイデアを飛翔させる、彼のアルト奏者としての実力を知らしめる傑作です。そして、あたかもエレクトリック・マイルスに挑戦するがごとく、独自のエレクトリック・ミュージックを創出した『ダンシング・イン・ユア・ヘッド』(Horizon)は、オーネット・コールマンの音楽観の集大成とも言うべきユニークな音楽です。

チャーリー・パーカーのサイドマンからスタートしたマイルス・デイヴィスは、時代によって著しくスタイルを変えてきましたが、1970年代半ばの大阪でのライヴ『アガルタ』(Columbia)は彼の音楽の究極点を示す壮絶な演奏です。どの時代のマイルスも素晴らしいのですが、どれか1枚と言われれば、私はこの時代のアルバムを挙げます。

『スティット・パウエル・J.J.(Prestige)と3人のミュージシャン名が列記されていますが、やはりこれはバド・パウエルとソニー・スティットのセッションが目玉でしょう。勢い込むパウエルと、それを迎え撃つスティットのやり取りはなんともスリリング。ふつう、テナーとピアノではどうしてもテナーが目立つものですが、パウエルに限っては完全にスティットを圧倒しています。やはりジャズピアノの王者と言われるだけのことはありますね。

そして、そのパウエルにアドヴァイスしたセロニアス・モンクのユニークさは、ホンの2、3音鍵盤を叩くだけで露になります。思いのほか録音が少ない、モンクのピアノトリオの傑作が『セロニアス・モンク・トリオ』(Prestige)です。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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