前回、ブッカー・アーヴィン特集の前置きで「実力の割にはいまひとつ知名度が低い」と紹介しましたが、今回のテナー奏者、スタンレイ・タレンタインにも似たようなことが言えると思います。ただ、タレンタインの場合は日本のファンの間でも一定の認知度はあるのですが、少しばかり「軽く」見られている節もある。また、アーヴィンはおそらくアメリカでも一部の熱狂的ファンはいたでしょうが、さほど一般的知名度があったとも思えませんが、タレンタインはアメリカではまさにビッグ・ネームだったのです。

この日米の違いは面白い。その理由は少しわかるような気もします。と言うのも、日本に幅広くジャズが紹介され始めた1960年代、テナー・サックスの王者は何と言ってもジョン・コルトレーンでした。彼は音楽自体の素晴らしさもさることながら、突き詰めたような求道者的な雰囲気も含めて高く評価されていました。その影響で、アメリカではふつうに認められているジャズの大衆的部分とか娯楽的な要素に対して、相対的に低く見る風潮があったように思います。

タレンタインの魅力は何と言ってもその野太くアーシーなテナーのサウンドです。そしてビ・バップ以前のスイング・テナー、たとえば、コールマン・ホーキンスとかベン・ウエブスターが持っていた、濃い味わいも備えている。ただ、コルトレーンやウエイン・ショーターたちのように新しい試みに挑戦したりするタイプではないので、その分「軽く」見られていたのかもしれません。

1枚目にご紹介するアルバムは、彼がおしどり夫妻と言われた妻のオルガン奏者、シャーリー・スコットと共演した『ネヴァー・レット・ミー・ゴー』(Blue Note)です。冒頭に収録された名曲《トラブル》のアーシーでファンキーな気分はタレンタインならでは。シャーリーのオルガン・ソロも素敵です。2枚目の『ジュビリー・シャウト』(Blue Note)は、兄弟コンビ、トミー・タレンタインのトランペットにソニー・クラークのピアノ、そしてケニー・バレルが加わった2管セクステット。アーシーでブルージーな気分が横溢した楽しい作品。

タレンタインが少しばかり「軽く」見られたのは、70年代以降フュージョン的作品にも顔を出したことが理由かもしれません。しかし、アルバム『アップ・アット・ミントンズVol.2』(Blue Note)に収められた極め付きライヴの熱演《ラヴ・フォー・セール》をお聴きになれば、そんな偏見は一掃されることでしょう。圧倒的な演奏テクニックで吹きまくるタレンタインの迫力はまさに第一級テナーマンの貫禄十分です。サイドのギター、グラント・グリーンの燃え具合も素晴らしい。

『ルック・アウト』(Blue Note)はタレンタインがこれまたアーシーなピアニスト、ホレス・パーランをサイドに迎えたシンプルなワン・ホーン・カルテットでタップリとテナーの魅力を伝えています。このアルバムの3曲目に収録された《マイナー・チャント》はアーシーな気分に溢れたまさにマイナー調の名曲です。一転して『ザッツ・ホエア・イッツ・アット』(Blue Note)はレス・マッキャンをピアノに迎えた軽快な《スマイル・ステイシー》で始まります。それでも調所に見せるタレンタインのファナティックな「絶叫」は、彼ならでは。そして最後に収録したのは、彼がCTIに吹き込んだ人気アルバム『シュガー』から、コルトレーンの名演で知られた《インプレッション》です。

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