1955年に結成された、伝説的マイルス・デイヴィス・クインテットの一員としてその名を知られた名ピアニスト、レッド・ガーランドは、バド・パウエルの系列に連なる典型的ハードバップ・ピアニストです。しかし、その特徴的な「球を転がす」ようなタッチはまさにワン・アンド・オンリーで、誰しも一聴して「これはガーランドだ」と聴き分けられる優れた個性の持ち主でもあります。もちろん、だからこそマイルスは彼をサイドマンとして起用したのでしょう。

彼は1958年までマイルス・コンボに在籍していましたが、その間プレスティッジ・レーベルと契約し、自分自身のリーダー作を吹き込むだけでなく、マイルス・コンボの同僚、ジョン・コルトレーンのサイドマンを務めていたりもします。面白いのは、そのコルトレーンを自分名義のアルバムではサイドマンとして使うなど、同時期に主役が入れ替わるような吹き込みが混在し、プレスティッジらしさが現れているように思います。

「プレスティッジらしさ」とは、同じような顔ぶれをスタジオに集め、とりあえずセッションを行ない、てきとうにリーダー名をつけて発売してしまうような、ある意味で「ジャジー」な感覚です。『ハイ・プレッシャー』(Prestige)は、そのコルトレーンにトランペットのドナルド・バードを加えた典型的ハードバップ2管クインテットで、いかにも50年代的な気分が好ましい。もちろんガーランドのピアノ・ソロがタップリ聴けるところは、やはり彼のリーダー作。

時代は一気に70年代に飛び、録音もドイツのMPSレーベルです。このアルバムを新譜で聴いた時はほんとうに驚きました。まず、当時すでに「伝説のピアニスト」と化していたガーランドの健在振りと、録音のせいなのでしょうか、まったくピアノの音色が変わっているところ。キラキラと輝かしいタッチは、プレスティッジ・レーベルでは聴けなかった新鮮さです。そしてもう一つの聴きどころはサイドのテナー奏者、ジミー・ヒースの好演ですね。このアルバムは「70年代ハードバップ・リバイバル」の先鞭となった傑作です。

そしてまた50年代に戻り、『ハイ・プレッシャー』と同じメンバーによる『ソウル・ジャンクション』(Prestige)を聴くと、時代の違いが浮き彫りになります。こちらの演奏はコルトレーンのソロもドナルド・バードの出番も十分に確保され、聴きようによっては誰がリーダーでもおかしく無い。うがった見方をすれば、金看板マイルスをコロンビア・レーベルに取られてしまったプレスティッジが、バードを代役に見立てた巻き返し作戦とも言えなくもありません。

そしてご存知、ガーランドの代表作『グルーヴィ』(Prestige)です。まさにピアノトリオによる名演。その秘密は何といっても、彼もまたマイルス・コンボの同僚、ポール・チェンバースの参加でしょう。ぐんぐんと演奏を前進させ活気を与え続けるチェンバースのベースは、それだけ聴いても充分気持ちがよい。『ディグ・イット』(Prestige)は『ハイ・プレッシャー』『ソウル・ジャンクション』と同一メンバーによる《ビリーズ・バウンス》の他に、チェンバースを迎えたトリオ演奏と、バードが抜けたカルテット演奏が収録されたアルバム。最後にご紹介する『ア・ガーランド・オブ・レッド』(Prestige)は、トリオによる初リーダー作で、こちらもチェンバースが参加しています。それだけに聴き応え充分な傑作となっています。

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