キャノンボール・アダレイは思いのほかたくさんの顔を持ったアルト奏者です。まず、マイルス・デイヴィス・セクステットの一員として、超有名盤マイルスの『カインド・オブ・ブルー』(Columbia)に参加していますね。また、年配のジャズファンなら、これもまたご存知の話題盤『マーシー・マーシー・マーシー』(Capitol)に代表される、ファンキー・ジャズの大物としても知られている。

今回はその他にもさまざまな表情を見せるキャノンボールの魅力を、多角的にご紹介していこうと思います。まず最初は、マイルスのサイドマンだった時、シカゴへツアーした際に、リーダー、マイルスを外して録音した名盤『キャノンボール・アダレイ・クインテット・イン・シカゴ』(Mercury)です。ちょうど油の乗り切ったキャノンボールが、これまた絶好調のジョン・コルトレーンとつばぜり合いを見せる極め付きの名演です。

キャノンボール名義ながらマイルス色が濃い名盤『サムシン・エルス』(Blue Note)。これもマイルスに焦点を当てるならアナログ時代A面冒頭に収録された《枯葉》が目玉でしょうが、今回の主人公はキャノンボール。そうすると、あまり陽の目を見ないB面がむしろ聴き所。タイトル曲はハード・バップ・マニアが好むスタイルをマイルスとキャノンボールの掛け合いで聴けるのです。

そして、彼がファンキー色を強めた傑作がサン・フランシスコでのライヴ盤が『キャノンボール・アダレイ・イン・サンフランシスコ』(Riverside)。弟、ナット・アダレイを率いたクインテットで思う存分ファンキー節を披露しています。サイドのピアノは、こうした場面に欠かせないファンキー・ピアニスト、ボビー・ティモンズです。

キャノンボールのソウルフルな一面が浮き彫りにされたのが、ミスター・ソウル、ミルト・ジャクソンと共演した『シングス・アー・ゲッティング・ベター』(Riverside)です。しっとりと心に染み入るようなミルトのヴァイブと、実に気持ちの良いコラボレーションを見せている、キャノンボールの隠れ名盤です。

そしていよいよ登場、発売当時ジャズ喫茶の人気盤となった『マーシー・マーシー・マーシー』。注目すべきは後のビッグ・ネーム、ジョー・ザヴィヌルの参加です。ヨーロッパ人とは思えないファンキーなフレーズは今でも語り草。そして、このアルバムをヒットさせた原動力であるタイトル曲を作曲したのもザヴィヌルと聞くと、改めてザヴィヌルの才能を知る思いですね。

そして最後にご紹介するのがまた意外な組み合わせ。ファンキー大将とは水と油のように思える、ビル・エヴァンスです。しかもエヴァンスの極め付き名曲《ワルツ・フォー・デビー》を採り上げている。しかし、お聴きになればわかるように何の違和感も無い。それどころか、この名曲のまた違った一面をアルトによって引き出しているのはたいしたもの。

こうしてみると、改めてキャノンボールの柔軟な姿勢が見えてきますが、それではそうした多方面で発揮される彼の魅力の共通点はなんでしょうか。まず第一に挙げるべきはその朗々としたのアルトの音色でしょう。豊かで明るい彼のトーンはすべてのスタイルに共通しています。そして、その心地よい音色に乗ってリズミカルかつ軽やかにフレーズが進行して行く。彼は超一流のテクニシャンであり、それが彼の魅力の源泉なのです。

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

USEN音楽配信サービス ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)

関連リンク

一覧へ戻る