ドナルド・バードは典型的なクリフォード・ブラウン直系トランペッターです。その明るく輝かしい音色はまさにブラウニーゆずり。1932年生まれのバードは1930年生まれのブラウニーとほぼ同世代。惜しくも1955年に交通事故のため亡くなってしまったブラウニーの遺志を継ぐようにしてジャズ・シーンにデビューしたバードは、ハードバップの名トランペッターとして幾多の傑作を残しました。

最初のアルバム『ハーフ・ノートのドナルド・バードVol.1』(Blue Note)はルース・ブラウン(後に、ブルーノート・プロデューサー、アルフレッド・ライオンの奥さんとなる人)の名司会によって紹介される、バリトン・サックスのペッパー・アダムスと組んだ新2管クインテットのお披露目とも言うべき名演。聴きどころは、まずはデューク・ピアソンの書いた名曲《マイ・ガール・シャール》を小気味良く吹ききるバードのトランペットの切れ味です。

次いで注目したいのは、高音域を担当するトランペットからは一番音域の離れた超低音楽器、バリトン・サックスから信じられない切れ味のフレーズを発射するペッパー・アダムスの迫力です。音の魅力だけで聴かせてしまうワザは彼ならでは。

『バード・イン・ハンド』(Blue Note)は、そこにテナー・サックスのチャーリー・ラウズが加わっていた時期の分厚い3管セクステットによる典型的ハードバップ。マイナー調の曲想とラウズの持ち味がジャスト・フィットですね。ちょっと元気の良い演奏が続いたので、3枚目のアルバムはバードの初期の傑作、幻の名盤と言われたトランジションの『バード・ブロウズ・オン・ビーコンヒル』です。ワンホーンでじっくりとフレーズを歌い上げるほのぼの調のバードもまたいいもの。後に博士号までとったバードの奥ゆかしい面が現れた傑作でしょう。

さて一転して『フエゴ』(Blue Note)は、かつて一世を風靡したファンキー・ジャズの名盤。マイナー曲想を吹かせたら天下一品、ジャッキー・マクリーンがこのアルバムのアーシーな味わいに一役買っています。とりわけバード作になる《エーメン》はそのゴスペル調の曲想によって60年代ジャズ喫茶で大ヒットしました。

バードとマクリーンの相性の良さを証明するのが『オフ・トゥ・ザ・レイシズ』(Blue Note)でしょう。前出のアルバム『バード・イン・ハンド』のチャーリー・ラウズの代わりにマクリーンが、そしてピアノがウォルター・デイヴィスから名手ウィントン・ケリーとなっているところが効いています。

というか、アップテンポで演奏された収録曲の目玉《恋人よ我に帰れ》の張り切りぶりは、やはりマクリーンならではのもの。私などもその日の気分のよって二つのアルバム、それぞれの持ち味を楽しんでいます。

さて、最後にご紹介するのは、昨年オリジナル・ジャケット・デザインでCD化されたブルーノート未発表シリーズから、1961年録音の『チャント』(Blue Note)です。一見一昔前のフュージョンっぽいジャケットなので素通りしちゃっている方もあるかと思いますが、いつも言うとおり、「なんでこれがお蔵なの?」という出来の良さ。ソニー・ロリンズの演奏で知られた《俺は老カウボーイ》(アルバム『ウェイ・アウト・ウェスト』収録)が採り上げられているのも珍しい。また、ピアノがハービー・ハンコックというもの聴き所でしょう。

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