ジャズ・ギタリストには、ウェス・モンゴメリーのように、自らのギター奏法だけで聴き手を惹き付けてしまうミュージシャンと、フロントにホーン奏者を入れ、チーム・プレイで味を出すタイプに分かれるようです。今回ご紹介するケニー・バレルはまさにチーム・プレイ派の代表とも言うべきギタリストで、さまざまなサイドマンたちと独特のアーシーな世界を生み出しています。

最初は彼の代表作『アット・ザ・ファイヴ・スポット・カフェ』(Blue Note)で、落ち着いた渋いアナウンスに続いて、これまた渋さの極地のような演奏が繰り広げられます。ちょっとダークで野太いバレルのギター・サウンドからは、暖炉の熾火のようなじんわりとした暖かさが伝わってきてとても気持ちが良い。

圧巻はマニア好みのテナー奏者、ティナ・ブルックスの哀愁たっぷりなソロ。若干掠れ気味のサウンドから搾り出されるフレーズは、地味ながら着実にファンの心に沁みこんで行きます。続くボビー・ティモンズの良く弾むピアノも、軽やかながら着実に地に足が着いたアーシーな演奏。

『K.B.ブルース』(Blue Note)は、サイドに参加しているホレス・シルヴァーがジャズ界の名高いパトロン、ニカ男爵夫人に捧げた名曲《ニカズ・ドリーム》が素晴らしい。バレルの描き出す渋い世界にマッチしたハンク・モブレイが参加しているところも聴き所です。

アンディ・ウォーホルが、(おそらく)まだ有名でなかったころの素描のジャケットが印象的な『ブルー・ライツVol.2』(Blue Note)の聴きどころは、ブルーノートに唯一のリーダー作『ヒア・カムス・ルイ・スミス』を吹き込んだトランペッター、ルイ・スミスの参加でしょう。冒頭の名曲《キャラバン》での、クリフォード・ブラウン直系の張りと輝きのある吹きっぷりは実に爽快。続いて出てくる二人のテナー奏者、ジュニア・クックとティナ・ブルックスの違い、聴き分けられましたか? これはかなり高度なブラインド問題で、マニアの頭、いや耳を悩ませる難問です。

『オール・ディ・ロング』はプレスティッジお得意のジャム・セッション・アルバム。リラックスした中にもジャジーな気分が横溢した快演です。こうした「場」に、バレルがいるかいないかでずいぶんと演奏の雰囲気が変わってくるのはとても面白いことですね。

そして極め付きの名演、テナーの巨人ジョン・コルトレーンとの共演作『ケニー・バレル・アンド・ジョン・コルトレーン』(Prtestige)の凄いところは、吹きまくりコルトレーンに対し、必ずしも「ハイテク・ギタリスト」というわけでもないバレルが、「味」で五分と五分の勝負をしているところです。というか、ものによっては少々刺激的なところもあるコルトレーンのアルバムの中で、彼の良さを活かしつつ良い意味で「聴きやすく」している。こうしたところは、バレルのあまり表ざたにならない長所ではないでしょうか。

そして最後にご紹介するアルバム『フリーダム』(Blue Note)は、ちょっと珍しい組み合わせです。何とハービー・ハンコックがサイドを務めているのです。確かにピアノ・ソロは新鮮。しかしやはり聴きどころはバレルと極めて相性の良いテナー奏者、スタンレイ・タレンタインの燃えっぷりでしょう。《Gマイナー・バッシュ》で見せるフリーク・トーン一歩手前の壮絶ソロは何度聴いても気持ちよい。そしてそれに煽られたかのようなバレルのソロも絶品です。

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