ジャズマンを代表するアルバムの変遷も面白いものです。私がジャズを聴き始めた1960年代、ケニー・ドーハムの代表作と言えば、間違いなく『静かなるケニー』と邦題が付けられた『クワイエット・ケニー』(New Jazz)でした。そしてジャズ喫茶でのリクエストでも、マル・ウォルドロンの『レフト・アローン』(Bethlehem)と並ぶ人気盤。「いーぐる」でも実によくかかりました。

変化が現れたのは1980年代、イギリス発の「クラブ・ジャズ・ムーヴメント」がきっかけ。コンガ、カウベルの響きも軽やかな名曲《アフロディジア》が収録された『アフロ・キューバン』(Blue Note)が、ダンス・ミュージックとして大脚光を浴びたのです。そのニュースはいち早く日本にも伝わり、そのころようやくこのアルバムの日本盤が当時の東芝EMIから発売されたこともあいまって、ケニー・ドーハムと言えば今回冒頭に収録した『アフロ・キューバン』となったのです。

確かにテナー・サックスにトロンボーン、そしてバリトン・サックスまで加えた豪華4管にパーカッション隊を加えた小気味良いサウンドは、まさにハード・バップ。ジャズ喫茶ファンにもピッタリの名曲でした。

ところで『静かなるケニー』にしても『アフロ・キューバン』にしても、「静と動」で趣こそ違え前述のように典型的ハード・バップなので、ドーハムと言うと「ハード・バッパー」のイメージが強いのですが、彼は由緒正しいビ・バッパーなのです。あのマイルス・デイヴィスが辞めた後、チャーリー・パーカーのサイドマンを務めたのがドーハム。折があれば、パーカーのサヴォイ・セッションに収録されたドーハムの演奏もお聴きになってみてください。

さて2枚目にご紹介するアルバムはまさしくハード・バッパー、ジャッキー・マクリーンと共演した『インタ・サムシン』(Pacific Jazz)。この二人の組み合わせも相性が良く、今回はご紹介しませんでしたが、『マタドール』(United Artists)や『ジャッキー・マクリーン・クインテット』(Blue Note)なども傑作です。

3枚目は知名度こそ低いかもしれませんが、まさしくドーハムの最高傑作と言っても過言ではない『ジャズ・プロフェッツ』(ABC)。制作会社がすぐつぶれ、「幻の名盤」として一部のコアなマニアには知られていましたが、だいぶ経ってから日本盤が発売されるまで、聴いた人がいないためあまり紹介されることもありませんでした。タイトルは知る人ぞ知る名白人テナー奏者、J.R.モンテローズとドーハムが結成したジャズ・グループの名称です。それにしても、「ジャズの予言者たち」というネーミングはカッコいいですね。

『ショート・ストーリー』(Steeple Chase)は、1963年にドーハムがヨーロッパに演奏旅行に出かけた際、現地のミュージシャンたちと共演した記録。サイドでフルューゲルホーンを吹いているのはアラン・ボッチンスキー。しかしやはり聴きどころはドーハムの熱演と、それを煽り立てるテテ・モントリューのノリの良いピアノでしょう。

『ラウンド・ミッド・ナイト』(Blue Note)は、前述のJ.R.モンテローズにケニー・バレルのギターが加わった、これも折り紙つきの名盤。そして最後はドーハムがワンホーンでしみじみと歌い上げる、冒頭にご紹介した『静かなるケニー』です。これもまたサイドで主人を盛り立てるフォミー・フラナガンが名演です。まさに「名盤の影にトミフラあり」ですね。

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

USEN音楽配信サービス ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)

関連リンク

一覧へ戻る