時代と共に評価が高まるアーティストがいます。ジャズの世界ではギル・エヴァンスがその代表ではないでしょうか。マイルス・デイヴィスとのコラボレーションで知られた名アレンジャー、ギル・エヴァンスの音楽は、今、弟子筋に当たるマリア・シュナイダーの活躍に象徴されるように、改めてスポットが当たっています。

最初にご紹介するのは、そのマイルスのアルバム『スケッチ・オブ・スペイン』(Columbia)です。クラシック作曲家、ロドリゴの名曲《アランフェス協奏曲》を見事ジャズ作品として世に問うたこの作品は、1960年代のジャズ喫茶で爆発的人気を得たものです。原曲の持つエキゾチックな雰囲気を活かしつつ、マイルスのちょっと陰影感のあるトランペット巧みにフィットさせたのは、ひとえにジャズとマイルスを知り尽くしたギルだからこそ出来たワザでしょう。

その一方で、ギルはミュージシャンのイメージまで変えてしまうようなアレンジも見せます。『ギター・フォームス』(Verve)では、それまでアーシーなハード・バップ・ギタリストとして知られたケニー・バレルの新たな可能性を引き出しました。想像力を刺激する選曲構成、アレンジはギルの手柄。このアルバムもまた60年代ジャズ喫茶のヒット盤でした。

『ビッグ・スタッフ』(Prestige)はギルの50年代後半の作品で、彼の空間を音響のカーテンで包み込むような独特の手法が明確に聴き取れます。そしてそのちょっと霞がかかった様なサウンドの壁から、極めて個性的で明確な輪郭持ったスティヴ・レイシーのソプラノ・サックスが姿を現す演出は見事。ちょっとクセのあるサウンドですが、慣れるとけっこうのめり込みます。

ギルのサウンドに対する探求は当然新たなツール、エレクトリック・サウンドにも向かいます。シンセサイザーを大胆に導入したアルバム『スヴェンガリ』(Atlantic)はギルの新生面を知らしめた傑作。ギルの音楽的好奇心は極めて幅広く、それこそ「ジャズ」に限りません。60年代後半彗星のごとく現れ、1970年に惜しくも亡くなってしまったロック・スター、ジミ・ヘンドリックスに捧げた『プレイズ・ジミ・ヘンドリクス』(RCA)は、優れた音楽家を素材として、それを極上のジャズ作品として纏め上げるギルの非凡な才能がうかがえます。

聴きどころは、後にフュージョン・シーンで大活躍するデヴィッド・サンボーンの一聴して彼とわかる特徴的なソロでしょう。スティーヴ・レイシーといいサンボーンといい、ギルはバック・サウンドとソロイストの個性の対比のさせ方が実に巧妙。それはもちろんマイルスについても言えることです。

アレンジャーであるギルは、当然歌伴においても優れた作品を残しています。1987年に吹き込まれた『コラボレーション』(EmArcy)は、ヘレン・メリルとのほぼ30年ぶりの再演アルバムで、しっとりとした情感を湛えたメリルの歌唱をギルのサウンドが優しく支えています。

私がギルのオーケストラをライヴで観たのは1980年代に入ってからでした。その時の驚きは今でも覚えています。極めて色彩感に溢れるサウンドに深い奥行きがあるのです。これはさまざまな楽器の音色がナマの空間でブレンドされてはじめて実感でき性質のものなのでしょう。その時の感動を最も良く伝えているのが『プリースティス』(Antilles)です。

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