独特の力強いタッチでコアなジャズマニアから支持されているホレス・パーランのピアノ・スタイルは、おおむね右手の不自由を克服した結果という説明がされますが、果たしてそれだけでしょうか? 私にはパーランの魅力は、ワン・アンド・オンリーなリズム感に負うところが大きいように思います。

ちなみに、“ワン・アンド・オンリー”と最初に形容されたピアニストはエロール・ガーナーですが、彼のリズムもどんなピアニストにも似ていない個性的な特徴を持っています。二人のスタイルを比較をしてみると、ガーナーは陽性でノリが良く、快適この上ないリズム。他方、パーランはもっと地味で渋く、いかにも黒人らしいアーシーで粘りの効いたもの。しかし両者共に、音楽を気持ちよく前進させてゆく圧倒的なドライヴ感覚は共通しています。

『アス・スリー』(Blue Note)はホレス・パーランの代表作であると同時に、まさに他に類例の無いトリオ演奏。冒頭の図太いベースに先導されたテーマ曲、背後からブラシで煽りまくるドラムスといい、叩きつけるようなピアノといい、いわゆる「小綺麗なピアノ・トリオ」の常識を覆す迫力です。

ホレス・パーランの魅力はそのユニークなピアノ奏法に留まらず、ホーン奏者を従えたハードバップ・アルバムでも強烈な個性を発揮します。『オン・ザ・スパー・オブ・ザ・モーメント』(Blue Note)は、アーシーな感覚を共有するテナー奏者、スタンレイ・タレンタインと彼の兄トミー・タレンタインに、これまたパーランと相性の良いリズム隊、ジョージ・タッカーのベースにアル・ヘアウッドのドラムスという鉄壁の陣容。ブラック・ミュージックならではのレイジー(ちょっと気だるいような気分)な感覚が実に心地よい。

ホレス・パーランは1950年代末から60年代にかけ、ブルーノートの諸作で人気を博しましたが、1970年代に入り、ヨーロッパのジャズ・レーベル、スティープル・チェイスから久しぶりにヒット作を放ちました。『ブルー・パーラン』では、昔在籍したバンド、チャールス・ミンガスにちなんだ名曲《グッドバイ・ポークパイ・ハット》を切々と演じています。

『スピーキン・マイ・ピース』(Blue Note)は『オン・ザ・スパー・オブ・ザ・モーメント』と同じメンバーでの吹き込み。当然出来はいい。『アス・スリー』に収録されていた、パーランの個性にぴったりフィットしたファンキー・ナンバー《ウェイデン》をこちらではホーン奏者とともに演奏していますが、どちらも名演。

『ハッピー・フレーム・オブ・マインド』(Blue Note)は当初未発売だったパーランの幻の名盤。メンバーがパーランといかにも合いそうなテナー奏者、ブッカー・アーヴィンとグラント・グリーンのギターというのですから、これはマニアなら絶対に聴いてみたい組み合わせ。中身は期待を裏切ることのないアーシーかつ濃厚な演奏、ジョニー・コールズのトランペットもいい味を出しています。

最後はまたスティープル・チェイス時代の録音です。『ノー・ブルース』はタイトル曲のアーシーな感覚も素敵ですが、意外なのはタイプとしては正反対であるビル・エヴァンスの名演で有名な《マイ・フーリッシュ・ハート》を採り上げているところ。これはこれで面白い演奏だと思います。

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

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