1941年生まれのボビー・ハッチャーソンは、前々回ご紹介した1943年生まれのゲイリー・バートンとほぼ同世代ですが、わずか2歳の年の差が微妙な音楽性の違いを生んでいるようです。しいて言えば、ハッチャーソンはビバップ以来シーンで活躍し続けていたミルト・ジャクソンと、明らかに新世代のヴァイヴ奏者、バートンとを繋ぐ役割を果たしたといえるでしょう。

また、ハッチャーソンは一ヴァイブ奏者であると同時に、1960年代新主流派の重要人物でもありました。60年代新主流派は別名ブルーノート新主流派などとも呼ばれましたが、今回ご紹介するハッチャーソンのアルバムも、すべてブルーノート作品です。

新主流派の特徴は、モード奏法を用いるなど50年代ハードバップに比べ音楽の表情がクールで斬新な響きを持っています。最初にご紹介する『ハプニングス』などはその代表で、新主流派の代表的ピアニスト、ハービー・ハンコックをサイドマンに迎え、ハンコックの名曲《処女航海》を取り上げています。

ホーン奏者の入ったハンコック版の同曲に比べ、ヴァイブとピアノによる演奏は、この曲の特徴をより一層引き立てており、まさに名演です。
ハッチャーソンはホーン奏者との共演盤でも個性を発揮し、『コンポーネンツ』では、ヴァイブならではのクールで透徹した響きが音楽の表情を引き締め、50年代ハードバップとの違いを際立たせています。ジャケット写真に用いられた金属のアブストラクトのイメージそのまま、「モダンアート」のような切れ味が聴き所。サイドマンのフレディ・ハバードとの相性も抜群です。

『インナー・グロウ』はヴァイヴとマリンバ(木琴)を効果的に使い分けた傑作。《サーチン・ザ・トレーン》では、テーマ部分はヴァイブ、ソロではマリンバとそれぞれの楽器の特徴を生かし、シンプルな曲想を逆手に取った名演を披露しています。

ハッチャーソンは70年代に入ると微妙にスタイルを変え、『ナックルビーン』冒頭収録の《ホワイ・ノット》はマリンバの柔らかい音色を生かしたメロウな心地よい演奏です。しかし続く《サンダンス・ノウズ》では相変わらず切れ味の良いソロを展開しており、音楽の表情が多様になって明らかに新境地を切り拓きました。長年の相棒、フレディ・ハバードの快演も注目です。

毎度のことですがブルーノートは録音時に未発表の好演がたくさんあり、『スパイラル』は60年代後半に録音されましたが、発売は70年代に入ってから。最初に収録したタイトル曲ではハロルド・ランドをフロントに据え、テナー奏者との相性の良さも見せています。ピアノがスタンリー・カウエルというのも面白い。アルバム最後の曲《ジャスパー》はメンバーが変り、いつものフレディのほか、初リーダー作で共演したサム・リヴァースやアンドリュー・ヒルが参加しています。

『オブリーク』も録音当事未発表のアルバムで、『ハプニングス』と同じようにピアノのハンコックと共演しており、楽器構成はあのM.J.Q.といっしょ。ただ当然描き出される世界は違っており、ミルト・ジャクソンのソウルフルな魅力に対し、こちらはモダンかつクール。この一事に象徴されるように、ハッチャーソンのヴァイブ・サウンドが加わることによって、音楽の表情がクールでモダンなものに変貌するところが彼の魅了であり、聴き所です。

USEN音楽配信サービス 「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」

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