ジミー・スミスはオルガンをジャズの楽器として世間に認知させた最大の功労者です。彼の名前は、アラン・ドロンとジェーン・フォンダが共演した映画『危険がいっぱい』の挿入曲《ザ・キャット》の流行とともに、日本のジャズファンに知れ渡りました。黒猫のジャケットが印象的なアルバム『ザ・キャット』(Verve)は、1960年代のジャズ喫茶でほんとうによくかかったものです。《危険がいっぱいのテーマ》とともに、映画音楽で有名なラロ・シフリンのオリジナル曲で、このアルバムでシフリンはアレンジも担当しています。

ジミー・スミスと並んで60年代ジャズ喫茶の人気者だったウェス・モンゴメリーとの共演作『ザ・ダイナミック・デュオ』(Verve)もまた、オルガンとギターという相性の良い楽器の組み合わせが大成功したヒット・アルバムです。1960年代のジャズアルバムはアレンジも重視され、こちらはオリヴァー・ネルソンがアレンジと指揮を担当しており、その辺りも聴き所です。

私たちの世代はヴァーヴに移籍したジミー・スミスに最初に接しましたが、当時はブルーノート時代のアルバムがたやすく手に入りませんでした。『オープン・ハウス』(Blue Note)は『ザ・キャット』(Verve)の大ヒットに刺激され、お蔵入りだった1960年録音のセッションを60年代も後半になってから発売したものです。内容は典型的なハードバップで、ジャッキー・マクリーンの参加が聴き所です。アレンジ重視の60年代でも、こうしたオーソドックスなジャズを好んだファン層がいたということでしょう。

スタンレー・タレンタインとケニー・バレルのアーシーな組み合わせがサイドに付いた『バック・アット・ザ・チキン・シャック』(Blue Note)は、ジミー・スミスのブルージーな魅力が満喫できる傑作です。《マイナー・チャント》のしみじみとした味わいは一度聴いたら忘れられません。私も大好きです。

しかし、ジミー・スミスがオルガンをジャズにおける重要な楽器とファンに認めさせたのは、1956年に録音された名ライヴ盤『アット・クラブ・ベビー・グランドVol.1』(Blue Note)での熱演でしょう。圧倒的なドライヴ感が素晴らしい《スイート・ジョージア・ブラウン》はジミー・スミスが只者でないことを証明しています。

ブルーノートの名プロデューサー、アルフレッド・ライオンはジミー・スミスをスターにすべく、大量のリーダー作をレコーディングしましたが、『ハウス・パーティ』はその名のとおり、ブルーノートの看板ミュージシャンたちがジミー・スミスのために参集したオールスター作品。驚異の新人リー・モーガンはじめ、ブルーノートの顔とも言うべきルー・ドナルドソン、そしてマニア好みのテナー奏者、ティナ・ブルックスが参加した豪華な3管セッションです。チャーリー・パーカーの演奏で有名な《オー・プリヴァーヴ(このアルバムでは英語表記でオー・プライヴェートとなっています)》、《ラーバー・マン》など、選曲も魅力的。

アルバム『ホーム・クッキン』(Blue Note)では、スミスと相性の良いケニー・バレルとの組み合わせが魅力。この作品を含め、ブルーノート時代のスミスのアルバムにはオルガン奏者としての凄みと同時に、マニア好み、ハードバップ・セッションの楽しさが満載です。ヴァーヴのアルバムと聴き比べて見るのも一興でしょう。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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