1967年に録音されたゲイリー・バートンのアルバム『ダスター』(RCA)は、60年代ジャズシーンに大きな衝撃を与えました。今ではごく普通のジャズとして聴けるこの演奏も、当時のジャズファンはラリー・コリエルのギター演奏にうかがえるロックの影響を声高に語り合ったものです。面白いことに、このアルバムはジャズ喫茶とロック喫茶の両方でかかる数少ないアルバムでした。

ロック寄りのミュージシャンというゲイリー・バートンのイメージが大きく変ったのが、1971年に録音されたアルバム『アローン・アット・ラスト』(Atlantic)です。ヴァイブ・ソロという極めて珍しいフォーマットによる、それまでのジャズには無い新鮮な響きをファンは大歓迎しました。「いーぐる」でも、アナログ盤が擦り切れるほどリクエストがあったものです。もちろん内容も素晴らしく、バートンの代表作に挙げられる名盤です。

そんなバートン像がまた大きく変ったのが、1972年にリリースされたヴァイオリン奏者ステファン・グラッペリとの共演作『グランド・エンカウンター(邦題・パリのめぐり逢い)』(Atlantic)でした。ジャンゴ・ラインハルトとも共演したフランス・ジャズ界の重鎮を向こうに回し、自在にマレットを操るバートンの音楽性の幅広さに私たちは驚かされたのです。

そして録音年月日を見てファンは再び驚きました。なんと、このアルバムはバートンがままだロックの影響圏にいると思われていた1969年に録音されていたのです。

しかしなんと言ってもジャズファンの間でバートンの名声が確立したのは、一連のチック・コリアとの共演作でしょう。ピアノとヴァイブのデュオという極めて斬新な組み合わせから、思いもかけない素晴らしい世界が展開されたのです。『チック・コリア・アンド・ゲイリー・バートン・イン・コンサート』(ECM)は、ライヴならではのスリリングな展開が聴き所。名演にして名盤です。

誰もが知る大スター、パット・メセニーはゲイリー・バートンに見出されジャズシーンにデビューしました。1989年に録音された『リユニオン』(GRP)は、師弟の再会セッションとも言うべきアルバムで、バートンはメセニーをフィーチャーし脇に回った印象がありますが、息の合った演奏は実に心地よい。

バートンが生粋のジャズマンであることを改めて感じさせたのが1996年に録音された『ディパーチャー』(Concord)です。マイルスが影響を受けたというジャズピアニスト、アーマッド・ジャマルの名演で有名な《ポインシアーナ》を、バートンは淡々としかし心を込めて演奏しています。美しい曲想を殺すことなく自らの音楽性を表現している。こうした演奏は、ジャズという音楽のエッセンスを身に付けたミュージシャンだからこそ出来るワザなのです。

そして彼がジャズ・ヴァイブの伝統に連なっていることを示したのが、2000年に録音された『グレイト・ヴァイブス~ハンプ・レッド・バグス・カルに捧ぐ』(Concord)です。ライオネル・ハンプトン、レッド・ノーヴォ、ミルト・ジャクソン、カル・ジェイダーといったヴァイブ奏者たちにちなんだ名曲を取り上げ、先人たちに敬意を表しています。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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東京・四谷にある老舗ジャズ喫茶いーぐるのスピーカーから流れる音をそのままに、店主でありジャズ評論家としても著名な後藤雅洋自身が選ぶ硬派なジャズをお届けしているUSENの音楽配信サービス「ジャズ喫茶いーぐる (後藤雅洋)(D51)」。毎夜22:00~24:00のコーナー「ジャズ喫茶いーぐるのジャズ入門」は、ビギナーからマニアまでが楽しめるテーマ設定でジャズの魅力をお届けしている。

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