ミスター・スウィンガーの異名を持つズート・シムズは、私の大好きな白人テナー・サックス奏者です。彼は、ウディ・ハーマン楽団の有名なサックス・セクション「フォー・ブラザース」でスタン・ゲッツとともに注目を集めました。ゲッツが“クール・ジャズ”の代名詞のように言われたのに対し、ズートはどちらかというとウォームでスウィンギーなスタイルで人気を博しました。ちなみに「ズート」は愛称で、1940年代に流行ったダブダブのスーツのこと。

『ズート』(Cadet)は初期の傑作で、冒頭の名曲《ボヘミア・アフター・ダーク》をアルト・サックスに持ち替え軽やかに吹いています。彼は1950年代、同じ白人テナー・サックス奏者、アル・コーンと「アル・アンド・ズート」の2テナー・バンドを組みました。『ユー・エン・ミー』(Mecury)は彼らの名演です。このチーム成功の秘密は、音楽的テイストが似通いつつも、微妙にキャラクターが異なる二人のアンサンブルの心地よさ、そして全編にみなぎる快適なスイング感でしょう。たいへん似た二人を聴き分けるヒントは音色で、心持ちアル・コーンの方がソリッドなサウンドです。名曲《ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ》も収録されています。

『ズート・シムズ・イン・パリ』(Ducretet-Thomson)はズートがジェリー・マリガン・セクステットのメンバーとしてパリを訪れた際、リーダー抜きで現地のミュージシャンたちと録音したアルバム。トランペットにはマリガン・コンボの同僚ジョン・アードレイを誘い、臨時編成グループながら名演として知られています。かつてオリジナル盤には途方も無い値段がついていました。まさに「幻の名盤」。

再びアル・アンド・ズートのチームに戻ります。『ハーフ・ノートの夜』(United Artists)は彼らの快適なライヴ演奏が聴ける傑作で、ジャズにおけるスイング感とは何か、ドライヴ感とは何かを知る絶好のアルバム。それにしても、この二人がノルと手に負えませんね。

さて、40年代末から50年代にかけ活躍を続けてきたズートは、1970年代になってもその実力に衰えを見せず新たな挑戦を試みます。ソプラノ・サックスを使用したアルバム『ズート・アット・イーズ』(Famous Door)で、ピアノの名手、ハンク・ジョーンズをサイドに迎え、スタンダード・ナンバー《朝日のように爽やかに》を軽やかに吹ききっています。そしてテナー・サックスに持ち替えた《イン・ザ・ミドル・オブ・ア・キス》では、陰影感を漂わせた落ち着いた演奏で、表現の幅も広がりを見せています。

最後に収録した『イフ・アイム・ラッキー』(Pablo)では、まろやかで滑らかなサックスの音色に乗せ、相変わらず軽快な演奏を繰り広げていますが、よく聴くと、フレーズの微妙な表情に落ち着きと深みが表れています。ミュージシャンが年輪を積み重ね、単なる技術だけでは表現できない境地に達していることが聴き取れるのです。

1970年代ハードバップ・リバイバルの流れの中で多くのベテラン・ミュージシャンが再評価されましたが、ズートもそうした時代の潮流の中で改めてその実力が再認識されたのです。多くのミュージシャンがとりあげたスタンダード《イッツ・オールライト・ウィズ・ミー》など、ズートならではの切れ味と味わいが堪能出来ます。この時期、パブロから似たようなジャケットのアルバムが山のように出ましたが、このアルバムなどズートの代表作に挙げてもおかしくない名盤と言えるでしょう。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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