1950年代初頭に結成された名コンボ『モダン・ジャズ・カルテット』は、ジョン・ルイスとミルト・ジャクソンという二人のたぐい稀なる資質を持ったジャズマンの組み合わせによって、40年もの長きに渡り代表的ジャズ・グループとして活動を続けました。今回はこの長命コンボ成功の秘密を、二人のミュージシャンの個性をヒントに探ってみたいと思います。

『ヨーロピアン・コンサート』(Atlantic)はM.J.Q.の代表的名盤ですが、彼らの魅力はクラシック音楽を思わせる緊密な構成美と、ジャズならではの即興演奏が実に自然な形で結びついているところです。ですから、ジャズにあまり馴染みのない音楽ファンもすぐに親しめ、そして知らぬ間にアドリブの魅力に惹き込まれていくのです。

M.J.Q.の音楽監督を務めたジョン・ルイスは、プロデューサー的な資質に恵まれ、ルイスを含む東海岸のジャズマンと、ジム・ホールらウエスト・コースト・ミュージシャンが出会った『グランド・エンカウンター』(Pasific Jazz)でも、ルイスの存在がこのアルバムのテイストに大きな影響を及ぼしています。さすが、チャーリー・パーカーのピアニストを務めた貫禄ですね。

他方、ミスター・ソウルの異名をとったミルト・ジャクソンは独特の深みのあるヴァイブ・サウンドで、演奏の気分を一気にブルージーな世界に引き込みます。彼のリーダー作『ザッツ・ザ・ウェイ・イット・イズ』(Impulse)では、ミルトの存在が音楽をアーシーな雰囲気で包み込んでいます。

ところで、ピアニストとしてのジョン・ルイスの持ち味はどんなところにあるのでしょう。ルイスのピアノ・アルバム『瞑想と逸脱の世界』(Atlantic)の聴き所は、タメと粘りの効いたピアノのタッチです。一見ヨーロッパ的とも思えたルイスの演奏が、黒人ならではの深いスイング感を生み出しているのです。

大物サイドマン、ジョン・コルトレーンを従えた『バグス&トレーン』(Atlantic)では、ミルトのヴァイヴが音楽の気分を決めています。どちらかというと吹きまくるコルトレーンが、ミルトと共演することによって見事にブルージーな世界を描き出しています。

『アニマル・ダンス』(Atlantic)は、ヨーロッパの新人トロンボーン奏者、アルバート・マンゲルスドルフの才能を見込んだルイスが彼をフィーチャーしたアルバム。アメリカのジャズマンとはひと味違うマンゲルスドルフの個性を活かしたこの作品成功の秘密は、ルイスの巧みなリーダー・シップに預かっていると思います。

さて最後のアルバムは楽器編成こそM.J.Q.と同じながら、リーダーがミルト・ジャクソンになると音楽の雰囲気がずいぶんと違ったものになる好例です。『ミルト・ジャクソン・カルテット』(Prestige)では、アーシーでブルージーな黒人音楽特有のディープな気分が横溢しています。

こうして二人のアルバムを聴いてくると、M.J.Q.成功の秘密が少し見えてきたのではないでしょうか。つまり、クラシックの対位法なども巧みに取り入れるジョン・ルイスの幅広い音楽的視野と、ヴァイヴ・サウンド一発で音楽の気分を塗り替えるミルト・ジャクソンの強烈な個性が、実にうまい具合に混ざり合った音楽グループがM.J.Q.なのです。

そして二人の演奏がともに深いところで黒人ミュージシャンとしての独自の持ち味を持っているからこそ、彼らの演奏はどんなに洗練されてもジャズとしての魅力を失わないのです。

文/後藤雅洋(ジャズ喫茶いーぐる)

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