蓮沼執太は、とても不思議な立ち位置にいる音楽家だ。もちろん、シンガー・ソングライターであり、作曲家であることは周知の通りだろう。しかし、電子音楽やフィールド・レコーディングによる実験的な作品を残していたり、アレンジャーやプロデューサーの才能も持ち合わせている。また、音楽をテーマにしたインスタレーション・アートを発表することもあれば、音響デザイナーや空間プロデューサー的な仕事もしているのだ。つかみどころのない存在でありながら、どの仕事に関しても確固たる音楽性を持ちえているのが彼の特徴だといえる。

1983年に東京で生まれた蓮沼は、大学へ進学して環境学を学ぶことになる。その時に、フィールドワークで環境音を録音しているうちに、その音源をもとに音楽を作ろうと思ったのが、本格的なミュージシャン活動のきっかけだという。そして、ほどなく米国のインディ・レーベル、Western Vinylからファースト・アルバム『Shuta Hasunuma』(2006年)を発表した。この当時は、環境音と電子音を組み合わせたエレクトロニカといった雰囲気ではあるが、すでにポップなメロディ・センスが見え隠れしている。翌2007年には国内のレーベル、PROGRESSIVE FOrMからの『HOORAY』、そして再びWestern Vinylで『OK Bamboo』を発表し、徐々にその名を広めていった。

2008年にHEADZからリリースされた『POP OOGA』は、タイトル通り彼のポップな面を強調し始めており、ここ数年の活動の起点ともいえるだろう。本作に続き、『wannapunch!』(2010年)や『CC OO』(2012年)といった傑作も話題となった。またこの頃から海外での評価も高まり、ツアーやフェスへの出演なども行っている。また、アート・シーンとの関わりを強めていき、美術館を舞台にしたコンサート企画や、音響空間を駆使したインスタレーションなど、これまでにない新たな道を進み始めた。

2014年にリリースした『時が奏でる』は、彼のキャリアにとって大きなエポックといえる。本作は蓮沼執太フィル名義で10数名のミュージシャンを集め、緻密なアレンジを施したアンサンブルに仕上がっている。ヴォーカリストの木下美紗都やラッパーの環ROYをフロントに立て、権藤知彦、大谷能生、イトケンといった強者ミュージシャンたちで脇を固めたサウンドは、宅録的な世界観から大きく飛躍し、これまでの蓮沼作品では控えめだった躍動感やダイナミズムが加わることで稀代の傑作となった。本作で音楽的な視野が広がっただけでなく、ファン層を広げたといっても過言ではないだろう。

そしてこの2月には新作アルバム『メロディーズ』を発表。昨年にビルボードライブ東京で行われたコンサートをベースにしたという本作は、「(フィル)ハーモニーの次はメロディー」と自ら語るだけあって、メロディーメイカーとしての蓮沼の才能が窺い知れる内容になっている。しかも、これまでのゲスト・ヴォーカルに頼るという手法を封印し、全編自身のヴォーカルでしっかりと歌っているのだ。前作をさらに掘り下げた美しいアレンジも秀逸で、彼の歌声を活き活きと演出している。まさに、蓮沼の声から生まれた音楽がここにある。

この『メロディーズ』を引っさげて、蓮沼は再びビルボードライブ東京に戻ってくる。彼が制作のヒントを得たこのステージで、また新たなインスピレーションを得るに違いない。そしてきっと、たくさんのメロディーに満ちたステージで、至福の時間を生み出してくれることだろう。

文/栗本斉

<蓮沼執太>
公演日:4月24日(日) 1stステージ〈開場15:30 開演16:30〉、2ndステージ〈開場18:30 開演19:30〉
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USENには、ビルボードライブTOKYOに出演が予定されているアーティストの作品などを放送するチャンネル「B-69 Billboard Live TOKYO」があります。

栗本 斉(くりもと ひとし)
文筆家/選曲家/ライヴ・プランナー
著書に『アルゼンチン音楽手帖』(DU BOOKS)、『ブエノスアイレス 雑貨と文化の旅手帖』(マイナビ)などがある。
⇒ ブログ「...旅とリズム...旅の日記」

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